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憑雪学園  作者: 紗玖凪羅
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第一話 日常

 辺り一面は雪景色だ。今日も雪が深々と降り積もっていく。今年の雪はあまり多くなく、休日の除雪も楽だった。いつもの様に、俺は家の前の雪を除けてから出かけた。図書館で本を返して、借りて、読書して帰る。それだけの事だ。これが習慣。日常だ。変わらない日々を、痛くも苦しくも無い自殺方法が見つかるまで静かに暮らす。それが目標だ。

 ジャンバーを着て、マフラーを巻いて、手袋をつけて俺は外に出た。家の脇にある雪掻きを手にして玄関前の雪を除けた。

「……いつもより、雪の量多いかもな」

なんて独り言を言ったり、ため息をついたりして…。友達が増えたらいいなぁとか、俺に好きな人居たらとかの絶対に無い事を妄想もしてた。他には楽な自殺方法を考えてみたり…。

 雪掻きを元の場所に戻して、俺は図書館へゆっくり向かった。どうせ友達もいないし、会っても認識されないだろう。だから、俺はゆっくりと向かう事が出来る。まぁ、残念ながら学校の前を通らないと図書館にはいけない。他の道は遠回りになってしまう。学校の前だけは絶対に嫌なんだ。俺が一人なのを知っていて近づく奴とか先生が暇だろって仕事手伝わせたりするからほんと嫌。たまにはゆっくりしたい。だから俺は久しぶりにスカートをはいた。動きにくくて気持ち悪い。

 幸い、服装のお陰で今日はそんな事なかった。寒いからそんな事は置いておき、図書館に入った。バックから本を出し、カウンターの人に小さく会釈をして渡す。勿論会話なんてしない。そんなスキルなんてないしな。本を受け取り、元の場所に戻したあと、小説を探し始めた。数分後には十数冊の分厚い本を一回机に置き、ジャンバーをバックにしまい、2階へ向かい始める。体力がないので勿論階段を使った。

「あ……」

 十数冊もあったせいか、前も足元も見えにくかった。そのせいで階段を一歩踏み外してしまったのだ。あぁ、痛いのや苦しいのは絶対に嫌なのに。や懐かしく月宮雫としてじゃない女らしい元の声だしたなとか思いつつ瞬間に目を開けていたという絵図等はどうしても格好がつかないと思い、ゆっくりと目を瞑った。頭に階段の角とかが当たったら即死だろうな。本も重くてやっぱり後ろに倒れてる。終わるのかなぁなんて事も考えていた。

 すると、肩には人の手の温い感触がした。自分の手元に本は無い。痛いといえば階段を踏み外したときに足を捻ったくらいだ。恐る恐る目を開けてみると階段には本が散らばっていた。床ではなく、階段の手すりの近くに居る。いや、正しくは『抱き寄せられている』。あまり迷惑をかけるのもあれだと判断した。

「あの…まぁ、助けてくれて、ありがとうございます……」

声が裏返ってしまい、月宮雫としてを完全に演じる事が出来ず、素の自分に近い声になってしまっている。

「大丈夫だよ~。それより雫君。怪我ない?」

名前…?何で知ってるんだ。俺の事を知ってる人はいても、認識しない人が殆どだ。噂にもなる筈がない。

「…はい。大丈夫です。なので…あの、出来れば離してくれると嬉しいです。」

 月宮雫を演じれないならば素の自分を改造した状態を演じればいい話。俺は出来るだけ自然になる様に話をした。私の名前を知ってるといえば先生かクラスの人くらい。他の人には苗字しか知られていない。声は先生とかの様な大人びた声でもない。親や親戚でもない。となったら誰だ…。

「あ、ごめんねっ」

 そういい、その人は体勢を直してから私を離した。私は小さく会釈してから本を拾い始めた。その人も一緒に本を拾ってくれた。十冊分を先にその人が拾っていたので私は数冊しか持っていない。

「俺も持つよ。二階でしょ?」

「あ…はい……」

今日は不運と幸運が混ざっているようだ。階段から踏み外した事、人と関わってしまった事は不運だが、痛いとかとういうのは無いようだからな。それにしても、見覚えのある容姿だ。同じクラスなのは思い出せる。誰だっけ……。

「あ、俺の事わかるかな?同じクラスの兎々夢幸葉だよ~。」

どうやら、初めましてではないらしい。まぁ、俺には関係の無い事だ。

 無言で階段を上がっていく。いつもの使われないで空いている席に本の山を置き、鞄を椅子に置いた。

「あの、運んでくれて、助けてくれてありがとうございます。」

「いえいえ。じゃあ、俺はそろそろ帰るね~。じゃっ」

そう兎々夢が言ったので俺は小さくまた会釈をした。まぁどうせ関わる事なんて早々ない。そう思って俺は読書を始めた。

 今日は不運な事があったが、それがなければいつも通りの日常だった。人の温もりなんて、感じたのはいつぶりだろう。ずっと、人間関係を遮断して、触れる事すらなかった。まだ、服には暖かさが残っている。兎々夢は優しい奴だった。そういう優しい人で、俺の呪いなんか気にしない様な人なら、最高なのに。まぁ、居るわけないか。そもそも、この呪いの事は誰にも話していない。知られている訳、無い……。まず誰が教えるかっての。

 俺は時間の三十分前まで読書をした。誰にも聞こえない様に、知られない様に…『助けて』なんて思ったり、少し『死にたい』とか呟いた。まぁ、そんなの意味の無い事だが。

 四時三十分…そろそろ出たら丁度に着けるだろう。本を借りてジャケットを着てバックのスペースを空けていれ、家に向かった。

「寒…雪、多くなってるな」

綺麗にゆったりと雪が積もっていく。本読んでると時間すぐ過ぎるよなぁ…。そろそろ学校か。まぁ、流石にこの時間にもなると人に会わないだろう。そう思っていた刹那、その考えは覆された。

「あれ月宮君じゃない?」

「いやいや、月宮君はあんな服着ないでしょ~」

「でも顔立ちからして月宮君っぽいよ?」

「せやな。声聞いたら分かるんとちゃう?

「じゃあ話しかけよ~」

 この格好で絶対に会いたくない奴等に会った。話を聞く限り、俺に話しかけようとしているらしい。こうなったらいつもと持ち物とか違うし兎々夢と話した時の様に接しよう。

「ねぇねぇ、月宮君でしょ?」

案の定話しかけてきた。でも、俺にだって策はある。理屈慣れしてる俺を甘く見るな。まぁ、面倒事にならない程度に。

「あの…月宮って、誰ですか?人違いじゃないでしょうか。」

「えー。でも顔立ちからしてそうじゃない?」

「似ている顔の人が居たとして、何かあるのでしょうか。」

「いや、ないけど……」

よっしゃ、論破成功。楽勝だな。さて、早く帰ろう。まぁ、学校で言われても絶対に負けない自信があるし大丈夫だ。

「では、私は帰りたいので…」

そう言って俺はその場から早足で去った。スカートがひらひらして動き難い気持ち悪い…。

 奴等は追いかけて来ないで、すぐに家につけた。風呂入って飯食って寝るか…。明日は家で勉強でもしよう。

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