壁
学校内の食堂、友人が壁に頭をなんども打ち付けている。
周りに人がたくさんいたが、誰も気に留めなかった。一度目を向けるだけで、通り過ぎていく。
ボクは、アイスコーヒーと椅子をもってきて、壁に頭を打ち付ける友人の近くへ座る。
近くだが、関係者とは思われない適度な位置だ。
外が見たいなら横にあるガラスをあければいいのに。
それともなにか違う目的があるのだろうか。
友人を眺めながら、アイスコーヒーでクチを軽く潤した。
見ている限り一定間隔で頭を打ち付けていると思われる。
携帯電話を向けて10秒ほど撮影した。
見返してスローでじっくりと見返すと、二秒に一回のペースで打ち付けているとわかった。
次は、どのくらいのチカラで打ち付けているのかを調べる。
それには小学校の図工などで使われる油粘土を使う。
ボクはかばんから油粘土をとりだした。
すこしだけ捏ねまわし、縦十五センチ、横十五センチ、厚さ五センチの四角に整形する。
粘土の片面にオイルを塗る。友人のヒタイがあたる予定の部分だ。
これで頭を打ち付けてもヒタイに粘土がくつかないだろう。
そして、友人が頭を後ろに引いたタイミングを見計らい、打ち付けるヒタイの位置に設置した。
低い音を立てて、友人はみごとに油粘土の中心に頭を打ち付けた。
油粘土は鉢型にへこんだ。
あとで、これと同じ形にするにはどれだけのチカラを加えればよいか、を調べることでだいたいの威力がわかる、と思う。
油粘土を壁からはがしてテーブルの上に置いた。
さて次はバネ秤を使って――
ミシッ。
重い音が響く、打ち付けている壁にひびがはいったのだ。
気にすることなく友人は打ち付ける音を響かせ続ける。
気が付くと、周りには多くの人間が集まり、全員が固唾を呑んで見守っていた。
突然、友人のこめかみあたりまで一気に壁に沈み込む。
友人が頭を引いた時、かべにこぶし大の大きな穴が開いていた。
穴からは外がよく見える。
囲んでいた人間は、大きな感嘆の声をあげ大きく喝采した。
その中心である友人は周りを見渡した。
近くに座っているボクと目が合う。
友人は、こちらへきて向かい合うように座った。
ヒタイがオイルまみれですこし赤い。
ボクの手からアイスコーヒーを奪い友人は一気に飲み干した。
なにしてたのかを問うと、
「……ちょっとな」
はき捨てるように言うと、はれぼったそうな目で重いマバタキをして大きなあくびをする。
友人は気だるげにテーブルの一点を見続けていた。
穴の周りには 覗き込んだり写真を撮ったりしている手を通したりしている
穴の外からも、通りすがりの人間がこちらをのぞきこんでいる。
穴から吹きこむ秋風はほどよい心地よさがあった。




