表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者達のSURVIVE  作者: カナヘビ
3/3

第二章【動き出す影】

   第二章【動き出す影】


「博士、準備は完了したかい?」

「はい。何もかも、完璧に済ませてありますよ」

 月明かりだけが照らす研究室の中で行われる会話は、怪しげな雰囲気を醸し出していた。

「そうか・・・・・・なら予定より少し早いが、次の金曜日に決行しよう。早い分には、問題無いからね」

「わかりました。ではスケジュールを繰り上げます」

 どうやら、一組の男女が密会をしているようだ。

「最後にもう一度聞くが、君は血塗られた道を歩く覚悟があるのかい?」

「ふふ、何を今さら聞かれるのかと思えばそんなことですか。私がこの子達を作り出すと決めた時点で覚悟はできています。それに貴方となら・・・・・・」

 博士と呼ばれた女性は、男の問いにはっきりと答えるも、最後の方は濁していた。 

「どうしたんだい?最後の方が聞こえなかったけど、はっきりと言ってくれないかい?」

「だ、大丈夫です!覚悟はできています!」

「そうかい、なら良いんだ。君には苦労を掛ける」

「い、いえ、そんな」

 男は窓の近くに移動して、ドームの天井が外界の天気を完璧に再現して作り出した夜空に浮かぶ月を眺めて呟いた。

「全ては人類のために・・・・・・」

 

 幾度とも無く特別授業と呼ばれる実践的な対人戦が行われてきた。毎週金曜日に始まる特別授業、通称【特授】は、短ければ三日、長ければ二週間ほど続く事もある。そんな日々も半年が過ぎ、大和はこの生活にも慣れ始めていた。

 特授ルール【クラス】の際に大いに活躍した大和は新学期早々に相原との因縁によって孤立するという汚名を返上し、今では友人と呼べる存在もできていた。

 月曜日の座学を終え、火、水、木の三日間は自主研究日が与えらている。身体系能力者はトレーニングや戦闘技術の向上のため修練に当てるのが一般的だ。技術系能力者は当然、自分の研究に時間を当てる。

 その自主研究日の最終日である今日、大和は技術系能力者の研究室へ買出しに出かけていた。

 研究所のエントランスでモニターにターミナルをかざし、研究室の中へ入る。

「お、来たな!完成してるぞ!」

 研究室で出迎えたのは、クラス決めの際、機械馬ソレルを操っていた白衣の男、川崎 貴文だった。大和がソレルを返却したことで交友が始まり、今では一番の友人、いや親友と呼べる程の中になっていた。

「おぉ本当か、早く見せてくれ!」

「そう焦るなよ」

 大和は貴文と共に研究質の奥へと進む。そして布が被せてある何かの前で立ち止まった。

「さぁ、お披露目だ」

 貴文は布を取り払うと、そこには漆黒の機械馬が現れる。

「え?」

 イメージしていた物と、あまりの違いに、困惑の声を出す。

「どうした?不満か?」

「な、なぜ真っ黒に?」

「あぁ、怪しいお前の不審者ファッションにさらに箔が付くと思ってな。それに名前も黒丸で登録してある」

 貴文は清々しい笑顔でそう言い放った。

「ふざけるな!俺だって好きであんな格好してねえよ!」

「まぁ、いいじゃないか。ちゃんと大和が言ってたように、前の機械馬には付いていなかった消音性能を付けといたから許してくれよ・・・・・・な?」

 悪びれる様子もなく、誠意の籠もっていない謝罪が行われる。

「わかったよ・・・・・・で、いくらなんだ?」

「ソレルを返して貰った恩もあるからな、そんなに高く吹っかけたりしないから安心しな。そうだな、3000Pでいいよ」

《ちなみに(ポイント)とは、学園内で流通する通貨のような物で、そのPを使って物の売り買いを行うことができる。(例、1P=約100円。3000P=30万程度)である》

「うーん、安くも高くも無い微妙なラインだな」

「お前は、この間の特授の賞金あるから出せるだろ?」

 ニヤリと笑みを浮かべ、大和に問いかける。

「ちっ、知ってやがったのか。しかも賞金額まで」

「何のことだか。別にローンでも構わないよ。十日で金利十パーセントだがな」

「たった今、貴文先輩のターミナルに3000P振り込みました!」

「まいどあり。おまけに実弾をも弾く、強化ガラス製の盾をつけてやるよ」

 ターミナルから盾を転送してさせ、大和に手渡す。

「ありがと、だが在庫処分につき合わされている気がして釈然としねえ」

 大和はそうボヤキながらも、受け取った盾を登録して、ターミナルに収納した。

「にしても、本当に走るだけの機械馬だな。無駄な物が一切ついてない」

「まぁ注文が速い馬だったからなぁ」

 その馬をターミナルで登録して収納する。

「それじゃ俺はもう帰るけど、今度の特授のルールが【ペア】だったからさ、また俺と組まないか?」

「まぁ、お前と組めば色々と楽だから別に構わないが?」

「なら決まりだな。それじゃあ金曜日にフィールドで落ち合おうぜ。俺がターミナルでパーティー申請出しとくからさ」

「あぁ、わかった」

「そんじゃーな」

 大和は、そう言うとターミナルをモニターにかざして研究所を出て行った。


 金曜日になり、特授のため一年生から五年生、約一万五千人の全ての生徒は、二万人を収容できる第一体育館に集合していた。

「えー、本日もお日柄が良く・・・・・・て、今日雨じゃった。まぁ悪天候でも頑張ってちょ。そんじゃレッツスタートじゃ!」

 いつものテンションで学長に見送られ、約一万五千人の生徒達は、戦いが繰り広げられる戦場へと転送されて行った。一人を残して・・・・・・。

「ん?おぉ、大牙!転送装置の不具合が起きたようじゃな、すぐに復旧するから少し待ってなさい。すぐに転送してやるからのう」

 孫である大牙を溺愛している剛炎寺 龍一郎は、穏やかな声で諭した。

「いえ、これで正常ですよおじい様。博士、やってくれ」

『了解です』

 耳に装着している通信用のイヤホンから女性の声が流れる。それとほぼ同時に体育館の扉が勢い良く開かれる音が響き渡った。

「大変です学長!何者かが、学園の中枢システムにハッキングを―――」

『フォン―――』

 男は話の途中で、あの転送音と共に虚空へと消えた。そして体育館内にいた先生達も、いつの間にか姿を消している。

「やはり、おじい様はダークスーツをお召しになられていらっしゃいませんでしたか」

「ふむ・・・・・・大牙、貴様は何を企てておる?」

 龍一郎の声に先程までの優しさは微塵も無く、鬼の如き声で大牙へと問うた。

「そうですね、世界征服とでも言いましょうか」

 大牙はその声に臆する事無く、笑い混じりにそう答えた。

「戯けが!転送されていった先生方は何処じゃ?」

「外界へと飛んでいただきました。おじい様もすぐにお送りいたしますよ」

 大牙は笑顔で答え、腰に差していたカーボン製の刀を抜いた。龍一郎はゆっくりと歩きながら着物から腕を引き抜き、上半身を(あらわ)にする。

「遊びが過ぎるぞ、小童が!」

 先程まで骨と皮だけに見えたその老体は、一瞬にして筋肉が隆起し、曲がっていた腰も真っ直ぐに伸び、常人を超越した肉体を露にしていた。

「・・・・・・覚悟はよいな?」

「はい」

 大牙が返事をした瞬間、ステージの床板が爆ぜた。そして一瞬にして大牙に迫りその剛拳を振るう。

「くっ」

『バキッ』

 その拳をカーボン製の刀で止めるも、あっけなく圧し折られてしまい、その剛拳を身体でまともに受けてしまう。

 吹き飛ばされ体育館の壁にめり込み、床に倒れる大牙はなんとか意識を繋ぎ止めて立ち上がった。

「大牙さん!ご無事ですか?」

「・・・・・・あぁ、大丈夫だ。まったく・・・・・・化物染みてるな。やはり鬼神の名は伊達じゃない・・・か・・・・・・」

 立ち上がったことを見るや再び床板を爆ぜさせながら迫り、再びその剛拳を振るう。だが、大牙は引く事も無くその剛拳に対し、自らの拳を渾身の力を持って振るい迎え撃つ。

 ―――爆ぜた―――

 舞い散る肉片と血しぶき。

「なん・・・じゃと・・・・・・」

 肉の先に見えたものは骨ではなく、鈍く銀色に光る金属だった。

「ターミナル、腕輪を」

『カシャン―――』 

 転送音と共に現れた腕輪を、動きが止まった龍一郎の右腕に素早く装着する。

「大牙よ・・・・・・何がをそこまでお主を突き動かした・・・・・・?」

「・・・・・・信念です」

「人を捨ててまで得ようとする物は何じゃ?」

「未来、とでも言っておきます」

「ふん、ならばわしは・・・・・・大牙、おぬしがやることを見届けるとしよう。その信念とやらをな・・・・・・」

「ありがとうございます、おじい様。この後のことは追ってお知らせします。博士、頼む・・・・・・」

『フォン―――』

 転送音と共に龍一郎は虚空へと消えていった。

「博士、第二段階へと移行する。スペアの右腕と替えの服を頼む」

『すぐに交換します』

 大牙は自らの右腕を外し、転送されてきた腕が装着される。血で汚れた顔を、血に塗れた白ランで拭い、役目を終えた布は投げ捨てられる。

「・・・・・・ふう」

 ため息をつき、転送されてきた新しい白ランに袖を通す。

「博士、彼らの様子は?」

『はい、たった今、機械兵ソルジャー達と交戦を始めました。現在の死亡者数は300名を越えた所ですね』

「そうか、体育館のマイクをあちら側と繋いでくれ」

『わかりました』

 大牙はステージへと上がり、壇上に立った。

『繋がりました。どうぞ』

 イヤホンからの声を聞き、大きく深呼吸をする。そして、マイクのスイッチを入れ、大牙は一声を放った。

「緊急事態だ―――」


 いつものように、テンションが高い学長の挨拶を聞き、フィールドへと転送された生徒達の中に、大和と貴文の二人の姿があった。

「何でこんな所に転送されたんだ?」

「さぁ?転送装置の不具合じゃないかな?他の人達も全員ここに飛ばされているようだし」

 辺りは一万五千もの人間が居るにもかかわらず、混雑しているといった様子もない。今、彼らが立っているの場所は、綺麗に土がならされ草一本も生えていないグラウンドだった。学園のグラウンドは面積も広大で、約一万五千人が一挙に入ろうとも、まだ面積の五分の四ほどの余裕を残している。

 今までこのような事態が起こったことも無く、辺りはざわつき始めたその時だった。

「「「「「うわあああああああああああああああああああああああ」」」」」

 響き渡る叫び声。

「な、何だ!」

 大和は叫び声のがした方向を見つめる。するとそこには、2mほどの大きさの黒い人型の物が、手に持っている巨大な剣で人を突き刺し、天に掲げていた。

「何なんだ・・・あれは・・・・・・」

 人々の喧騒の中、次々と転送音が発せられ、そのたびにそれは現れた。

「機械兵の暴走かっ?・・・・・・た、貴文、何かヤバくねぇか?」

「ヤバくねぇかじゃなくて、ヤバいんだよ!ターミナル、ソレル転送!」

 周りでは人々が次々と斬られ、貫かれては血を噴出して倒れていく。だが無情にも転送音は止むことは無い。それらは当然二人の下にも襲い掛かる。

「く、ソレル!マシンガン掃射!」

 放たれる貫通性能が皆無の弾丸は、迫り来る機械兵に命中する。だが、その鋼鉄製の装甲の前では何の役にも立たない。

「ターミナル!サーラ、メーヤを転送!奴を止めろ!」

 二匹の機械犬は、機械兵の足に噛み付き動きを止める。だが、機械兵は動けなくなった原因をそのコンピューターの演算能力で解析すると、その巨剣をサーラに突きしてショートさせ、機能を停止させる。

「サーラ!」

 機械兵はサーラからロングソード抜き去り、その剣を天に掲げるとメーヤの胴体を真っ二つに切り裂く。 

「速く逃げろ貴文!お前じゃ分が悪い!」

 機械兵の猛攻を抑えつつ、大和は叫ぶ。

「無理だ、この状況下でソレルは走れない!」

 その間も機械兵は迫り続ける。

「ソレル!前面ブレードを展開し、奴に突進しろ!」

 機械馬は胸、頭からブレードをせり出すと、機械兵に向かって突進する。

「馬鹿!止めろ!」

 大和の叫びも空しく、機械馬は高速で突進していく。それに対し機械兵はロングソードを構え、獲物を待ち構える。

 一突きだった。貫通される胸部装甲、機械馬の体内からは電気回路がショートする音が聞こえる。

「うわああぁぁぁあ」

 倒れる機械馬の背から振り落とされ、貴文は地面に叩きつけられる。機械兵は動かない馬の亡骸から剣を引き抜くと、その切っ先を対象へと向けた。

「逃げろ貴文!」

『ズシャッ』

 剣が肉を切り裂き、骨を貫く音が大和の鼓膜を震わした。

「たかふみぃぃぃぃぃぃ!」

 悲鳴、断末魔そして血の匂い。それらによって辺りは深い絶望に包まれた。

 その時だった。

『緊急事態だ。現在、謎の勢力によるテレポーターシステム(対人用遠距離転送システム)のハッキングを受け、襲撃を受けている。数はおよそ一万を超え―――』

 機械兵による攻撃を回避しながら、スピーカーから流れる僅かな希望に耳を傾ける。

『今、君達が使用している非殺傷武器では機械兵に太刀打ち出来ない。そのため非常時のみ使用が許される殺傷用武器を会長権限によって君達のターミナルに転送した。速やかに殺傷用武器へと移行し、機械兵を殲滅してくれ』

 希望の光、皆がそれに手を伸ばした。無論、大和もターミナルからそれを引き出し、持ち変える。

 機械兵はその巨大な剣を振り上げ、容赦なく対象へと振り下した。

 切り裂かれる大地、その斬撃を交わした大和は転送されてきた黒い刀身の真剣を握り、機械兵の腕へと斬撃を放った。

「一天二流、《剛破斬》!」

 関節へと正確に振り下ろされる黒き刃、それは高い金属音と共に対象を切り裂く。

 涙が頬を伝い視界を曇らせる。腕を切った機械兵を蹴り倒し、友の仇が背後から放つ斬撃を、身を翻して受け止める。

 飛び散る火花と金属が擦れ合う音。上から押さえつけられる形での鍔迫り合い、このままではジリ貧になることが目に見えていた。そのため、大和は大きくバックステップを入れ距離を取る。

 反発力を失ったロングソードは運動場の砂の大地を切り裂き、それを見計らった大和は機械兵の下へと走り出した。

 剣を構え直し、タイミングを合わせて横一文字に薙ぎ払う機械兵。

「一天二流、避術(さじゅつ)《空蝉》」

 全速力で走っていた足に急激なブレーキとバックステップを掛けて緩急を生み出し、迫り来る剣を紙一重で避け、まるで斬撃をすり抜けたかのように相手の懐に潜り込んだ。

「一天二流、奥義《残光》」

 大和は黒き太刀を振り、そのまま機械兵を抜き去る。機械兵はその少年を逃すまいと、追いかけるよう、ボディに信号を送るが、自らの体は目の前で膝を突き地に倒れる。目が放つ紅い光はその状況を判断できぬまま、ゆっくりと光を失った。

 首から二つになった機械兵を一瞥し、大和は貴文の下へ駆け寄る。

「貴文!」

 大和は友の名を叫びながらその体を抱きかかえる。しかし、貫かれた腹部からの出血と臓器の損傷によってすでに事切れていた。薄く開いたその目蓋を撫でるようにして閉じさせ、腕の中で眠る友の亡骸をそっと降ろすと、大和はその紅い眼で機械兵達を睨み付け、血生臭い戦場へと駆けていった。


 その後、防戦一方だった生徒達は形成逆転し、多くの犠牲を払いつつ機械兵を殲滅した。

「終わったか博士?」

『はい、たった今、全ての機械兵が撃破されました』

「そうか、死亡者数は?」

『集計では二千八百三十四人です。手遅れの重症者も期待値予測で加えると恐らく三千人を超えるかと思われます』

「十分だ。目的の草薙の剣を入手した。やはり学長室にあったよ。では、計画の第三段階へと移る。何も知らない生徒会の役員達に生き残った生徒達の指揮を執るよう伝達してくれ」

『了解です』

 大牙は、手に握る両刃の剣をターミナルに入れ、学長室の椅子に深く腰掛けた。

「これを早く打ち直さなくてはな・・・・・・」

 静かにそう呟く大牙の口元は、僅かに歪んでいた。


「皆さん、今から負傷者の手当てを行います!医術系技術者は直ちに医療技術系ラボへ向かい、負傷者の治療を行ってください!身体系能力者はトリアージ・レッドの負傷者を急いで運んでくれ!死傷者は後だ!急げ!」

 生徒会のメンバーが、負傷者達の命を繋げるために声を張り上げて走り回る。そして事態も収束し始めた頃、生徒会の役員達は死体が転がる中、生徒達を整列させ座らせる。


『大牙さん、生徒会の方々が生徒を整列させました』

「そうか、なら僕を生徒達の前へ転送してくれ」

『はい、ただちに』


 辺りの喧騒は一行に納まる気配は無い。

「先生方はまだ来ないのか!」

「はい!どこにも見当たりません!会長も同じくです!」

 生徒会の役員達も何やら揉めているようだった。

「副会長、代理をお願いします!」

「あ、あぁ」

 副会長と呼ばれた男がマイクを受け取った瞬間・・・・・・あの音が響き渡り、皆を凍りつかせた。

『フォンッ―――』

 ―――転送音。皆がその音の聞こえた方向を凝視する。

「遅くなってすまない」

 聞こえてはならない音と共にその男は現れた。

「マイクを貸してくれませんか、相沢副会長?」

 相沢と呼ばれた男の手が小刻みに震え始める。ここに整列する皆がすでに悟っていた。相沢は震える手を押さえ大牙にマイクを渡す。

「ど、どうぞ・・・・・・」

「ありがとう」

 大牙はお礼を言いつつ笑顔でマイクを受け取ると、静まり返った生徒達の方を向く。

「皆、私がここに転送されてきた時点で気が付いていると思うが、一応宣言しておく。私が一連の事件の首謀者だ」

 その宣言と同時に響き渡る悲鳴と轟く怒号。生徒達は立ち上がり、その手には武器が握られている。

『パチン―――』

 轟く怒号の中、大牙は天に向けて指を弾いた。

 けたたましく鳴り響く転送音。そしてあっという間に暴徒を取り囲む機械兵達。その肩にはガトリングガンが掛けられ、その無骨な銃口は生徒達へと向けられている。

「武器を下げたまえ。何も、今すぐに君達を殺すと言っているのではない」

 その時だった、高い金属音と共に崩れ去る機械兵を超え、黒い影が高速で大牙へと飛び込んでいった。

 黒い影は斬撃を喉下へ放つも、寸での所でその黒き刃を止める。

「久しぶりだね。君は確か根蔵 大和君だったかな?」

「・・・・・・フー、フー」

「分かっていると思うが、その刃を引いた方が身の為だ」

 大和はすでに、新しく転送されてきた別タイプの機械兵達によって、白き刃を喉下に当てられていた。

「くっ・・・・・・」

 大人しく太刀を引く大和。機械兵は大和の腕を掴み組み伏せる。

「私は別に、殺戮がしたいわけではないんだ。ただ、ゲームがしたいだけなんだよ。この世界を賭けたゲームをね」

「何がゲームだ!人が死んでいるんだぞ!」

 足下で組み伏せられている大和は、強固たる機械兵の腕を振り払おうと抗いながら大牙に食いかかる。

「人の死など私の目的の前では知ったことじゃないよ。僕がゲームと言えばそれはゲームだ」

「会長・・・・・・いや剛炎寺 大牙、お前がそのゲームとやらを行う目的は何なんだ?」

 副会長と呼ばれていた男性が大牙に問いかける。

「理由かい?・・・・・・そうだな、世界制服とでも言っておこう」

「世界征服・・・・・・だと?そんなことのために・・・・・・なんで大勢を殺す必要があったんだ!」

「邪魔だからさ。僕の計画を邪魔できるのは君達、超能力者だけだからね」

 大牙は眼光を鋭くしながら続けて語りはじめた。

「あぁそうだった、ゲームで負けた場合には罰ゲームが必要だね。そうだな、君達が勝った場合、私は罪を認めて引き下がり、殺されるなり、警察でも何処へでも行くとしよう。だが、私が勝った場合は日本国民の男女、満四十五歳以上の人民の強制的排除。そして、日本国籍を持つ全ての能力者達を抹殺する」

 鋭い眼光が一転し、大牙は怪しい笑みを浮かべながら口を動かす。

「ふざけるな!お前は間違っている!人の死の上で成り立つ野望に、意味があるとでも思っているのか!」

 話を聞いた大和はもがきながら大牙に食いかかる。

「あぁそうさ、私は間違っている。だが、この他に選択肢は無いんだ」

「お前も、俺達も、両親や家族が死ぬことになるんだぞ!」

「そんなことは承知の上だ。さぁ、説明の続きと行こう。ルールは簡単、君達は西の果てであるこの学園から、私が居る東の果てまで踏破し、私を倒すだけだ」

 大牙は淡々と説明していく。

「ここから目的地までの距離は約百五十キロメートル。そう、君達が良く知る戦場だ。そして、その百五十キロメートルの間に機械兵達が守る十個の要塞都市を建設した。それらを攻略しながら進み、私の下へ来い。期間は二年間。それを過ぎるとゲームオーバー、君達の負けだ。これで説明は以上だ。君達が壊した鉄屑達は餞別に受け取っておくと良い。それじゃあ、健闘を祈るよ」

 そう言い終えると同時に、転送音を残して大牙と機械兵達は虚空へと消え去った。

 絶望感が辺りを包んだ。ほんの四時間前までは、いつも通りの日常を送っていた。だが、今の状況は一変し、非日常へと変わってしまった。

 誰もその場を動こうとしない中、相沢と呼ばれていた男が地面に落ちているマイクを拾った。

「皆、大変な事態になった。元生徒会会長、剛炎寺 大牙の手によって我々および、外界の家族の命が脅かされている。それを阻止するためにしばらくの間、全ての指揮は生徒会が取る。異論があるものは立ってくれ」

 すると、大和はよろりと立ち上がり、相沢副会長の胸ぐらを掴んだ。

「何故、お前は落ち着いていられるんだ!お前も共謀者じゃないのか?」

 相沢は掴まれたことでズレてしまった眼鏡を、中指で直す。

「じゃあ聞くが、発狂してこの状況が解決するのか?泣き喚いて我々も、家族も死なずに済むのか?それに・・・・・・僕がここで発狂したら、誰がこの事態を収める?」

「・・・・・・悪い」

 大和は手を離し、謝罪する。

「構わないよ。後輩の面倒を見るのが我々先輩の役目だからね」

 副会長は襟元を直しながらそう答えた。

「感染症が発生する前に、遺体を処理する。皆、身元が分かる物から焼却場へと運んでくれ!」

 副会長が指示を出すと、徐々に生徒達が動き出した。

 全ての処理が終わったのは、三日ほど過ぎた頃だった。火葬された遺骨はグラウンドに掘られた穴に埋められて簡単な墓標が立てられた。その数三千十二。

 グラウンドに並ぶ墓標の前では多くの人々が涙を流した。この時、生存者数一万二千百六十六人。


 それから三ヶ月が過ぎ、生徒達は機械兵達が守る《ビギニング》という名の要塞都市を制圧することに成功した。今では、《Soldier-001》通称ソルジャー(凡庸人型兵器)と名付けられた機械兵達が闊歩していた鋼鉄製の壁に囲われる直径一キロ四方の小さな都市を《防衛組》、《進攻組》、《技術組》の三つに分かれた生徒達が機械兵の変わりに闊歩している。 

 この三ヶ月で、様々な役割が生まれた。

 校舎周辺および、新しく手に入れた要塞都市の周辺に転送されてくる機械兵を撃破、または撃退することを一通り受け持つのが《防衛組》。

 校舎、要塞都市周辺に転送されてくる機械兵の大半は、交戦経験が多い個体が多く、データ量も多いため危険も少ない。また、大抵の場合、戦場になる範囲が回収可能範囲内であるため、大きなダメージを受けた際、即死でなければ即座に転送装置によって回収され、治療を受けられる。ただし、血圧、心拍数などの急激な低下といったバイタルに異常が見られた場合にのみと、限定されていた。

 転送装置は、妨害電波により対象の回収は半径1kmの範囲を超えると不可能になる。だが戦地への転送は半径十数キロの範囲で可能だった。

 3Dマップおよびマップの全てのデータが大牙の手によって破壊されたため、マッピングと呼ばれる地形データの収集作業と同時に、新たな都市の捜索を、転送装置という片道切符を使って行うのが進攻組である。

 地形データの収集はまだしも、都市の捜索は上空から行えば早いのだが、それを行えない理由があった。二ヶ月前、大まかな地形データを収集するプロジェクトが技術組によって始動し、上空300mにあるドームの天井に張り付く設計のカメラを、ロケットに内蔵して打ち上げた。

 打ち上げは成功。だが、上空八十メートルに達したその時、空に眩い閃光が走り、ロケットの反応がロストした。

 また、学園で研究されていた植物の成長促進剤を、戦場に立つ木々に注入されたことによって、竹の子の数倍のスピードで木々は成長し、平均八十メートル以上の大木へと姿を変えたことで、地形が変わり、見晴らしも悪くなった。

 マッピングの際は、機械兵および機械獣(ビースト)との接触が多く、数によっては交戦は非常にリスクが高くなる。よって必然的に進攻組の数は少なるため、その数は五百人弱である。また、防衛班との割合で現すと十二対一で非常に少ない数となっている。

 生徒会が定めたこの世界では資本主義経済が成り立っている。あの事件が起きる前まで流通していたポイント制度を流用し、機械兵の撃破報酬、任務成功報酬、素材の売買などでポイントが支払われ、そのポイントで食料との交換、兵装などは研究室や技術屋(技術者などが研究室から独立して作った商店)などからポイントで購入できるようになっている。

 そして、これらの派閥の中で大和は進攻組に属していた。

 防衛組、進攻組が任務を遂行する場合は、必ずパーティを組むことが必須条件となっている。

 そのパーティが組み合わさり、ギルドという組織が次々と生まれた。ギルドという組織の中で、能力や敵との相性を考えてパーティーを組むことができるようなり、生存率・撃破率は共に大きく上昇した。

 防衛組は複数のパーティが協力し合い任務を遂行することが多いが、進攻組は必要以上に敵の目を引き付けないよう目立たなく行動するため、基本的に一つのパーティで任務を遂行する。

 当然、大和もギルドに所属し、パーティーを組み、仲間と共に拠点から数キロ離れた回収不可の場所へと転送され、拠点に戻るというマッピング作業や、その際に接触した機械兵、機械獣との交戦を行ってきた。

 だが今では、たった一人で地形データが未収集の未開地へと赴き、接触した機械兵を薙ぎ払っては、常にギリギリの状況の中で任務を遂行し続けた。

 なぜ、大和が単独で任務を行うようになったのかは、その二つ名にあった。以前は特別授業で颯爽と機械馬に跨り、戦場を駆け抜けていた頃を知る者から《黒騎士》という二つ名で一目置かれる存在であった大和は、今では《死神》と呼ばれ、忌み嫌われている。

 もちろん、その名前で呼ばれるように大きな理由がある。それはギルドの壊滅。大和が組んでいたパーティーのメンバーは、ことごとく彼のみを残して全滅していったのだ。

 それ自体はよくある話だった。だが、これは一度、二度話では無かった。今までに組んだパーティーのほぼ全てが全滅し、ついに一つのギルドが壊滅したのだった。

 最初は、高い戦闘能力を持つ大和は他のギルドから誘われ続けた。しかし、相次ぐパーティーの全滅とその度に生還する大和の姿を見た人々は、いつしか彼を遠ざけ死神という不名誉な名前を与えた。

 一人での任務は過酷を極めた。ソルジャーの上位個体である《Warrior-001》ウォーリア(近接戦闘人型兵器)、《Valkyrie-001》ヴァルキリー(重銃兵装人型兵器)などを一度に複数を相手にしたことなど数えていたらきりが無かった。

 死神と呼ぶ周りの人間も、大和自身も、パーティーを組んだ人間が軒並み倒れていく理由は十分に理解していた。

 それは、大和の類稀なる戦闘能力によってもたらされる余裕と、油断だった。窮地に陥ったパーティーのメンバーを救うのは大和にとって日常茶飯事だった。

 大和がパーティーに加わったことによって生まれた余裕が、自分は助けてもらえるという油断へと変わり、ことごとく死んでいった。

 皆、誰もが死ぬのは怖い。決して自分は油断などしないと心に誓っていても、大和の強さを前にすると無意識的に自分は死なないという過信へと変わってしまうのだ。

 だからこそ、誰も大和とパーティーを組もうとする者は居ないし、彼自身も誰かとパーティーを組む気は無かった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ