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旦那様は○○がお好き  作者: mtr
回想
1/6

夜会1

 旦那様は、はっきり言って何かの呪いにかかっているとしか思えない。


 とんとん拍子に婚約が決まり、旦那様のもとへ嫁いで来てしまってから数ヶ月。出会った時から疑問しかわかなかったし、今だに解せぬのだけれども、“呪われている”そう考えれば私の心も多少は納得する。呪いなんてものが本当にあるのかという点においては、不明なので、存在すると仮定した上での納得だが。


 そんな呪われているらしい旦那様との出会いは、社交シーズンに行われていた、とある夜会だった。


 私は貴族の末席に名を連ねる子爵家の生まれで、美しい母親似の美しい兄と母親似のこれまた美しーい姉を持つ、凡庸な父親似の末娘だ。母親似と父親似で家庭内顔面格差が存在していたが、両親は現在に至っても仲睦まじく、兄と姉とも育ち分け隔てなく育てられたので兄弟仲は悪くない。むしろ良い方かもしれない。


 この夜会も、仲の良い兄と姉に連れられて出席していた。


 仲は良くても顔面格差。家族以外との付き合いがあれば否応無く立場を実感せざるを得ない。

 あの美しい兄姉の妹であるというハードルの高さは私には到底乗り越えられるものではなく、この日もなかなか酷い有様だった。


「お姉様、離してください」


 美しい姉が嬉しそうに腕を組んでいるのは、お世辞にも美しいとは言えない妹である私。

 姉に誘われて参加した夜会はいつもいつもこのように腕を組んでダンスもせずに、姉は私にばかり構うのだ。

 人々を虜にする姉に集まる視線が、横にいる私にまで及んで嘲笑を含んで突き刺さり痛い。

 しかし姉は一切気にならないのか意識は私のみに向いている。


「どうして?可愛い妹を可愛がって何が悪いのよ」

「悪い悪くないの問題ではありません。前にも言いましたが、お姉様はそろそろお嫁に行く年頃でしょう!それなのに私にばかりかまけて…私は大丈夫ですから良い出会いを見つけてください」

「嫌よ!シーラを任せられる人が見つかるまで私はお嫁になんて行かないわ」

「順番的にはお姉様が先でしょう…」


 私がため息交じりにそういうと、姉は子供のように頬を膨らませた。そんな表情になっても可愛らしい印象が強まるだけの姉が羨ましかったりする。


 そもそも私の嫁入りなんてほぼあり得ない。

 平々凡々どころか平均より下ぐらいの容姿だし、家柄もそれほど高いわけでもない。選べる立場でないのは周知の事実。

 それならばと、今のうちにマナーや教養を外に出ても恥ずかしく無いレベルにまで身につけておいて、そのうち何処ぞの公爵伯爵家にメイドとして働きに出るつもり満々だった。

 あの平均よりも下の部類の容姿である父が、美しい母と結婚出来たのが奇跡なのだ。

 父と母は幼馴染だったそうで、父の猛アタックの末に結ばれたと聞いている。

 私はと言えば幼馴染は女の子ばかり、恋心を向ける人さえ居ない。

 いやまぁ、恋したとして、話に聞く父のような猛アタックは流石に真似出来ないな、と思うけれども。

 そんな行動力が欠如した父似の私にまで、結婚という奇跡が起こるなんて到底思えなかった。


 ダンスも踊らず率先して壁の花になろうとする姉に、もったいないなぁという気持ちを抱きつつ、テーブルに用意してある食事を軽くつまみながら、姉と二人でまったり過ごしていると、何やら入口の方が騒がしいことに気がついた。

 どうやら少し遅れていた招待客が到着したようだった。

 人だかりの中には主催の姿も見え、ざわりと浮き足立つ空気を感じる。


「あら、グラーティア侯爵だわ」


 人だかりが気になりずっとそちらを向いていると、姉もつられてそちらを向いた。どうやら姉の知る人物らしく、興味無さげに教えてくれた。


 「クレイヴェル=グラーティア侯爵。この間まで小競り合いしていた国境付近に駐在している騎士団の副団長。見目が良いのもあって年頃の淑女の憧れの的のひとり。関わると面倒なことになるから、あんまり凝視するのはやめなさい」


 そう言うと、姉は近くの皿にあったお菓子をつまんで、私の口に放り込んだ。さっくりした食感を噛みしめると中から果物の香りと甘い汁がジュワッと溢れて広がる。私の大好きなアップルパイだ。

 至福の美味しさに、先ほどの話は私の頭から早々に追い出された。

 社交界での憧れの的になるような人物が私の人生に関わることなんてそうそう無いだろうしね。


 人だかりへの興味はすっかり無くなり、姉に勧められるままお菓子の寸評を楽しむ。夜会の楽しみ方としては間違っているのは重々承知の上だが、用意されている軽食を楽しまないというのも勿体無い。軽食とはいえ、今をときめく貴族が主催している夜会なのだ。美味しい料理で無いわけが無い。


 すっかり意識は料理へと移り、姉と楽しく舌鼓を打つ。

 あれが美味しいこれが美味しいと、ダンスの誘いもそっちのけである。素敵な殿方が姉にダンスの誘いを何度もしているが、本当につれない。罪な姉だ。

 私だって邪魔がしたいわけじゃない。せっかく綺麗で美しい姉なのだ。いいひとに巡り会っていい結婚をして欲しい。人の良さそうな人が話かけてくれば、釣れない姉のかわりに話を振ってはなんとか姉の意識を男性へと向けようと、さりげない努力はしているのだ。鉄壁の姉にそこらへんの気遣いは一切伝わっていないようだけど。


 だから先ほど、会話に出て来ていたグラーティア侯爵が姉へはなしかけて来た時も、私は姉への繋ぎ役を率先して受け持とうとしたのだ。



書き溜めもしていません。素人作品な上、遅筆ですが、気軽に変態を書いていけたらと思います。よろしくお願いします。

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