異世界
取替神社は、何かを取り替えてくださいます。
たとえば今お祈りしているおまわりさんと、背広を着た男。
おもむろに、背広を着た男がおまわりさんに手錠をかけます。
「詐欺容疑で逮捕する」
おまわりさんと詐欺師の服を取り替えたのではありません。
ただおまわりさんの格好をした詐欺師を刑事が捕まえただけなんです。
だって二人ともお賽銭を入れなかったのですから。
取替神社、それは大きな神社の片隅にひっそりと祭られてあり、一人の男が一心不乱にお祈りをしていた。
「神様お願いです。この世界をVRMMORPGの異世界と取り替えてください。」
男は目の前の少年を村人から戦士にした。
「神様神官NPCになりたかったのではありません。赤ん坊に転生して虐げられても底辺から這い上がる世界にお願いします。」
男は赤ん坊になっていた。
円錐形に窪んだ穴の底にいる。
振り返ると巨大なあり地獄、男は必死になって這い上がる。
ただ虐待されて捨てられただけだった。
「神様違います、ドワーフがいっぱいでかわいい彼女に取り囲まれているハーレム世界でお願いします。」
男はドワーフになっていた。
かわいい女ドワーフの子達に取り囲まれている。
彼女達はみなドワーフだから、ずんぐりむっくりでヒゲが生えていた。
「神様違います、人間の若い美女達に囲まれた勇者になった世界でお願いします。」
その美少女はうやうやしく男に膳を差し出した。
おいしそうなタコの酢の物が乗っている。
男は喜んで食べた。
次の美少女はきれいに並べられた白身の魚の刺身を捧げ持ってきた。
これも、すごくおいしかった。
が、舌がしびれてくる。
遠くから女たちのざわめきが聞こえる。
「あのタコという生物はおいしいみたいですわ。」
「あのフグという魚はやっぱり毒があるみたいですわ。」
「神様俺は初めてタコを食べた勇者にも、初めてふぐを食べた勇者にもなりたくありません。剣と魔法のファンタジーの世界で最強の勇者にしてください。最強の剣を持つ勇者にしてください。」
男はきらびやかな鎧を着て仲間である美しい少女達に囲まれてたっていた。
「神様これです。ありがとうございました。」
そう言って男が剣を振ると世界が真っ二つになった。
「神様ちが…。」
男は1円玉5枚しかお賽銭を入れなかったし、もう取り替える世界はなかったのだ。