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月ノ、カケラ

作者: 皐栄

         ○


 言ってみれば、高瀬早紀は月だった。


         ○


 彼女とはずっと小さな頃からの友達、いわゆる幼馴染みだった。知り合った頃から身体が弱く、小学校で彼女の顔を見る日なんてほとんどなかった。どんな女の子よりも可愛らしい早紀は、まるで外の世界を知らないお姫様のようだった。

 ボク──佐崎幸太は学校が終わると家に帰らずに、真っ先に早紀に会いに行っていた。そしてその日学校であったいろんな話を彼女に話して聞かせては、一緒になって笑ったりふてくされたりしていた。

 彼女は大病を患っていた。病名は忘れてしまったけど、それがどれだけ大変なものなのかは、彼女の両親や訪問医師の態度や言葉で子供のボクにも理解できた。

 だけど当の本人はいたって気丈で、ボクが会いに行くと、彼女はいつも笑顔で迎えてくれたものだった。

 そんな彼女が泣いているのを、ボクは一度だけ見た。いや、盗み見てしまった。別れを告げて家に帰る途中、忘れ物に気付いてすぐに引き返した。彼女の家に着いてわけを話すと、おばさんは中に入れてくれた。驚かせてやろうと足音を忍ばせて目的地に近付くと、中から突然、聞いたこともないような大きな声が響いて、ボクの足を止めた。

「嫌よ! 死にたくない!」

 それは早紀の声だった。そっとドアをかすかに開けると、早紀が大声を上げて泣いていた。ボクの知らない早紀だった。彼女に泣きつかれて、医者のおじさんはなんとも苦しそうな顔をしていた。ボクは再訪した理由も忘れてその場から逃げ出した。

 その後もボクは知らん顔をして彼女の家に遊びに行った。彼女もいつもどおり笑顔で迎えてくれて、僕の話に一喜一憂していた。


 ある日、学校で天体の授業があった。太陽があって、水星、金星、地球と続いて……。そんなどうでもいい話を、先生が相変わらずの抑揚のない声で教科書を読み進める。隣の席の子は先生が赤いチョークで書いたところを、こまめに赤いボールペンで写していた。

 はっきり言って、つまらない。こんな退屈な時間を退屈に過ごすより、早紀と一緒にいたほうが何倍も楽しいのに。

 そんなことを思いながら、窓の外をぼんやりと眺めたり、教科書やノートの隅にわけの分からない落書きをしたり、後ろの席の友達と昼休みに何して遊ぶかメモを回しあってたり……。

 それでも退屈になって、暇つぶしのつもりで先生の声に耳を傾けた。

「……で、自ら光を発していない。つまり月は恒星じゃない。月の位置が肉眼で分かるのは、太陽の光が当たっているからなんだ。だから月の位置によって、光の角度が変わって満ち欠けして見え……」

 ボクはいきなり理解した。

 高瀬早紀は、月なんだ。


         ○


 月は光らない。自分の力で自分の居場所を伝えられない。「ここにいるよ」って言うことができない。太陽が照らすことで、やっとその存在を知ることができる。

 つまり、早紀は月なんだ。太陽が必要な存在。ボクを必要とする存在。


         ○


 それからというもの、ボクはそれまで以上に彼女の家に足しげく通った。ボクが早紀を照らしてあげなきゃいけない。それは彼女をよく知る自分の義務だと思った。

 ボクにとって、それは使命とも言えたし、意味もなく意気込んでみたり、自分にしかできないその任務を誇りに思ってみたりしていた。


 彼女の容態が急変したのは、それからしばらくしたある夜のことだった。

 早紀は救急車で病院に搬送されていった。

「すぐ手術をしないといけないらしいわよ」

 お母さんがボクにそう話してくれた。

「ほとんど寝たきりだったから体力的にも危ないわねぇ。かわいそうに、まだ子供なのにねぇ」


 ボクは言葉どおり三日三晩、眠ることもできなかった。ただひたすら、信じてもいない神様に祈っていた。早紀を連れて行かないで。

 ボクの命を半分、早紀に分けてあげて。

 どうか神様……。


 三日間眠らなかったからか、心労からか、四日目の朝、ボクは体調を崩して学校を欠席した。密かに狙っていた皆勤賞は逃してしまったけど、身体はまったく言うことを聞かず、一日半、ボクは眠り続けた。


 目覚めたときは日付が変わっていてちょっとびっくりしたけど、それを吹き飛ばすくらいの朗報がボクをベッドから飛び起きさせた。

 早紀の手術は成功した。ボクが眠っている間に、危険な状態も乗り越えたらしい。

 起きたその足で病院に向かおうとするボクを、お母さんが止めた。ヤマを越えてもまだ安心しちゃ駄目だとか、自分も病み上がりなんだからとか。そんなことを並べ立てられて、彼女が退院して自宅療養になるまで、ボクは早紀に会うことができなかった。


 久しぶりに会った彼女は、ちょっと痩せていた。細い身体がもっと華奢になっていた。

「来月から学校に行っていいんだって! だから今、ママに学校に来ていく服をいっぱい買ってもらってるのよ」

 早紀は元気いっぱいの笑顔で、とても嬉しそうにボクにそう話してくれた。

「ホント? じゃあボクがいろんな遊び教えてあげるよ」

「うん。どんな遊びが流行ってるの?」

「今? 今はねぇ、ウォー・ナイツとか隠れ鬼ごっことか……」

「うーん、全然分かんないや。ねぇ、今日はその遊びのやり方を教えてよ」

「いいよ。まず、ウォー・ナイツっていうのはカードゲームでね……」

 彼女の嬉しさだとか幸せだとかがボクにも伝わってきた。その日はいつもより遅くまで、二人でいろんな話をした。


         ○


 それからしばらくして、早紀は学校に登校した。

「お、おはよう……」

 教室のドアを開けた早紀は、もにょもにょと消え入りそうな声で挨拶した。

 やっぱりこうなったか。ボクは密かに頷いた。いくら彼女が気丈で明るい子だとしても、何ヵ月も欠席していた学校に突然現れたのでは、クラスメートとの距離も取りづらいだろう。接し方とかも分からないだろうし、つまりはボクの出番が回ってきたということだ。

 ボクが彼女を照らして支えてあげなきゃいけないんだ。ボクは彼女の太陽なのだから。

 まずは彼女を席まで案内しなきゃ、と腰を浮かせた瞬間、予想外の出来事が起こった。

「あー! 高瀬さんだー!」

 一人の女の子が声を上げたのを皮切りに、教室中がわっと騒ぎ始めた。みんながみんな押し合い圧し合いして、これからは毎日見られるのに、早紀の顔を一目見ようとすごい人垣ができた。ボクはというと、その人だかりを離れた自分の席から見ているだけだった。


 早紀は一躍クラスの人気者になった。

 彼女の綺麗な容姿と明るい性格からすれば当然のことなんだけど、なんだかボクは面白くない。休み時間はずっと女子が取り巻いてるし、給食は班が違うから喋れない。昼休みもこんな感じで、この間夜まで二人で話し合った遊びも何一つできなかった。

 なんだよ。少しくらいボクに気を向けてくれたっていいじゃないか。なんでよく知りもしないそんな奴らと楽しそうに話してるんだよ。ボクと遊んだほうが絶対楽しいのに。

 そんな日が何日か続き、早紀はボクと話もしなくなった。


 ボクは早紀を無視するようになった。ボクがいないと何もできないくせに他の女子とばっかり遊んでるから、これはボクが早紀に与える罰のつもりだった。謝るまで絶対許してやらないんだから。


「ねぇ、幸太。今井さん達が私の家に遊びに行きたいって言ってるんだけど、どうすればいいのかな?」

 数日後、早紀が久しぶりにボクに話しかけてきた言葉がそれだった。どうしようもない怒りが沸々と湧き上がる。

「……好きにすれば?」

 そう言い捨てて席を立とうとするボクの腕を早紀が掴んだ。

「……何?」

「それは私のセリフ。何? どうしたの?」

「別に。行きたがってるなら呼べばいいじゃん。じゃあね」

 鬱陶しそうに振り払おうとする腕を、彼女は離さなかった。

「待ってよ。なんで急にそんなに冷たくするの?」

 聞いた途端、ボクの怒りは頂点に達した。


 ボクが無視していたことにすら気付いてなかったなんて!


「うるさい! 早紀なんて大っ嫌いだ!」

 怒鳴って力任せに彼女の手を払い、ボクは走って教室を後にした。最後に見た早紀は、今にも泣きそうな顔をしていた。

 だけど許さない。

 あいつはボクを侮辱したんだ。

 絶対に許さない。


         ○


 早紀は月のはずだった。

 自分で光を発することのできない月。「私はここだよ」って言えない月。太陽が照らしてあげないと、存在すら消えてしまう月。

 だけど今、月は自ら輝きだしている。輝こうと努力している。そしてそれは決して無駄なことではなく、確実に実を結ぼうとしていて、ちょっとずつ、その光は輝きを増している。

 太陽でさえ、まぶしいと思うほどに。

 やがて月の優しくて強い光は、太陽を凌駕することだろう。太陽を侵食して、新たな太陽となるのだろう。月が輝くほど、太陽の影は大きく濃く伸びて広がっていく。

 ボクの心のように。


         ○


 月は光を失った。太陽の光さえ届かなくなって、真っ暗な闇の中、ぽろぽろと崩れていく。拾い集める者もなく、月の欠片は宇宙をさまよう。誰かに頼ることもできずに。

 ぽろぽろ、ぽろぽろ……。


         ○


 そして、月は消えてなくなった。

 病気が再発して、今度は県内の病院では治療が困難なほどひどい状態まで悪化したらしい。

 早紀は遠くに引っ越さなくてはならなくなった。


         ○


「佐崎。高瀬さん、何か言ってた?」

 早紀の転校の話が先生からあった後、ボクの机の周りに女子の輪ができた。ところどころに男子の姿も見える。

「なんだかんだ言って、高瀬さんのこと好きだったんでしょ?」

 みんなを代表して今井良子が訊いてきた。ボクの前の席に座ると、ずいっと身を乗り出して顔を近付けてくる。正直言って、ウザいことこの上ない。でも一人にしといてくれとは言いづらい状況であることも確かだ。ボクは諦めて質問に答えることにした。

「……嫌いだよ。こないだも、みんなの前であいつにそう怒鳴っただろ?」

「えぇっ? それってすごく勿体なくない? 高瀬さんは佐崎のこと好きだって言ってたのに!」

 今井良子は大げさに驚いて見せたが、彼女よりびっくりしたのは他でもない、このボクだった。

「そんなわけないだろ? あいつずっとボクのこと無視してたじゃん」

 内心の動揺を悟られないように、あくまで冷静を装って返すと、今井良子はまたもや大げさに驚いた。仰け反りすぎて椅子から落ちそうになって、慌ててボクの机にしがみつく。

「何言ってんの! 高瀬さん、ずっと佐崎の話ばっかりしてたのよ」

「そ、そのわりにはボクと話そうとしなかったし……」

「それはウチらが止めてたの。まぁ今だから言うけど……」

 今井良子の話は長々と続いた。

 早紀がボクに友達以上の好意を寄せていたこと。女子の間でボクと早紀をくっつけようという話が出ていたこと。その話をボクに知られないために、早紀がボクに近付くのを止めていたこと。女子が告白の舞台を整えていたこと。

 そして──早紀がとても嬉しそうに、楽しみにしていたこと。

 身振り手振りを交えながら語る今井良子の話を聞きながら、ボクは自分がとんでもない過ちを犯してしまった事実に気付き、涙した。

 みんなが心配そうな顔でボクを見たり、何か話しかけたりしていたけど、そんなことはどうでもよかった。


ボクは真っ黒な独占欲に支配されていたんだ。月を照らせるのは、太陽である自分しかいないと思っていた。月だって輝こうと必死に努力していたのに、ボクがそれを台無しにしてしまっていたんだ。ボクに向けられた光を、ボク自らが殺してしまっていたんだ。


         ○


 謝らなきゃいけない。

 そう、謝るのはボクのほうだった。ずっと罪を犯してきたのはボク自身だったんだ。

 学校が終わると同時に、ボクは早紀の家へと全速力で走った。ちょっと前までは毎日通っていた道。楽しくて仕方がなかったこの道を、今ボクは泣きそうになりながら走っている。気持ちだけがどんどん先へ行って、何度も転びそうになる。実際、二回転んだ。だけどすぐに立ち上がって、また全力で走り出す。擦りむいた肘やら膝小僧やらから、じわじわと血が滲み出る。アスファルトに打ち付けた肩がじんじんする。

 だけど気にしない。早紀の痛みはこんなものじゃないのだから。


 早紀の家に着くと、ちょうど引越し会社のトラックが出ようとしているところだった。ボクは考えるより先に、トラックの前に両手を広げて飛び出した。

 トラックが急停止して、いかにも腕っ節に自信がありそうな怖い顔のおじさんが、窓を開けて怒鳴ってきた。

「ごめんなさい! 早紀は……ここの家の人はいませんか」

「どうしたんですか?」

 トラックのおじさんの怒鳴り声か、ボクの叫び声が聞こえたんだろう。家の中から早紀のお母さんが慌てて出てきて、ボクに気付くと、トラックのおじさんに簡単に説明してくれた。トラックのおじさんは「危ないからそんな真似はもうするなよ、坊主」と言い残して改めてトラックを発進させた。

 ボクはそれを見送らず、早紀のお母さんに詰め寄った。

「早紀はいませんか。謝りたいんです」

「あの子は病院よ。そろそろ救急車で別の病院に移る頃じゃないかしら」

「そ、そうですか……」

「伝えることがあるなら、おばさんから言ってあげるわよ?」

 項垂れるボクに、おばさんは優しくそう言ってくれた。でもボクは、

「いえ……いいです。ボクから直接言わなくちゃいけないことだから……」

 今度は病院に向かって走り出した。


         ○


 病院に着くと、受付のお姉さんに早紀の病室を聞いた。

「……号室にまだいると思うけど、彼女は今面会しゃぜ……あ、キミ、ちょっと待ちなさい!」

 エレベーターを待たずに階段を駆け上って、病室の番号を早足で確認して回る。ほどなく早紀の病室は見つかったけど、ドアの前には『面会謝絶』と赤く書かれたプレートが貼り付けられていた。ボクは急に不安になった。

 急にこんなところまで押しかけてきて、一体何て謝ればいいのだろう?

 無視してごめん?

 押しかけてごめん?

 傷つけてごめん?

 いや、きっとそんなことじゃない。そんな薄っぺらな謝罪じゃない。ボクが本当に言わなくちゃいけない言葉は──

「……幸太?」

 突然。

 ドアの向こうから声がした。

 聞きなれた、でも苦しそうな、早紀の声だった。

「幸太……そこにいるの?」

 早紀は問いかける。

「……ねぇ、返事して」

 あんなにひどいことを言ってしまったのに。あんなに早紀を傷つけたのに。

 それでも早紀はいつもと同じように、ボクに語りかける。

「……いるよ。ここにいるよ……」

 搾り出した声が震えている。水彩画に水を垂らしたように、視界が滲む。ボクは泣いていた。

「ここにいるよ、早紀。ボクはここにいるよ……」

「よかった」

 ドア越しでも分かる。早紀は笑ってる。

「ごめん、早紀。ごめん……」

「幸太? 泣いてるの?」

 ボクが本当に謝らなくちゃいけないのは、きっと月を照らしたことなんだ。月は本当はずっと前から自分の力で輝いていたのに、ボクが力任せな──独りよがりな光を放ってしまったから、月の精一杯の光に気付いてあげられなかったんだ。

「ごめん……」

「……私はね、楽しかったんだ」

 早紀は言った。

「久しぶりの学校で……仲良くしてくれるクラスのみんな……幸太……。自分の病気のことなんてすっかり忘れちゃってた」

「だって、治ったんだろ?」

 手術して治ったから、早紀は学校に来られたんだ。病気なんて忘れていいのに。そう思った。でも、早紀は言った。

「治ってないよ」

 途端、目の前が真っ暗になる。

 え? 何を言って……

「学校はね、最後の思い出を作りたかったんだ。幸太との楽しい思い出が欲しかったんだよ」

「…………」

「今まで本当にありがとう。幸太と友達で、私は幸せだったよ。幸太は私のこと嫌いかもしれないけど……」

 違う。違うよ。僕は──

「でも私は、幸太のことが大好きだよ」

「早紀っ!」

 ドアを開けようとしたけど、鍵がかかっていてびくともしない。自分の情けなさに腹が立った。

「早紀っ! ボクは早紀のこと嫌いなんかじゃない! ボクは……本当は……っ」

 それ以上は声にならなかった。とめどなく溢れ出るこの涙こそ、月の欠片なのかもしれない。そう思った。

 本当はボクのほうこそ月だったのかもしれない。早紀という太陽が必要な、月。

 でも、そう気付いたときにはもう、早紀の声は届かなかった。きっとボクの声も彼女に届かないのだろう。最後に、

「ありがとう」

 彼女の幸せそうな声が聞こえたような気がした。


        ○


「佐崎先輩」

 呼ばれて目覚めるとそこは中学校の教室で、部活の後輩の宮田がボクの顔を覗き込んでいた。

「おはよー」

「おはよーじゃないっスよ。ほら、もう部活の時間なんですから早く行きましょうよ。てか、聞いてます?」

「……なつかしい夢を見てたんだ」

「き、聞いてねぇ……」

「変だな。いい夢かもしれないし、悪い夢かもしれない。ちゃんと覚えているのに、その区別もつかないんだ」

「ほらほら、語ってないで行きますよ」

 宮田がボクをずるずると引きずって、教室の外へと連行する。

「そういや今日から転校生が女子マネとして入部するんスよ。知ってました?」

「あぁ、知ってるよ」

 楽しそうな宮田を横目で見やりながら、ボクは事もなく答える。

「可愛いっスかね? 友達になれるかなぁ」

「そうだな、じゃあとりあえず遊びに誘ってみたらどうだ?」

「遊びって……ゲーセンとかカラオケとかっスか?」

「いや」

 楽しそうに、ボクは提案する。

「とりあえず、ウォー・ナイツと隠れ鬼ごっこだな」

「はぁ? そんなの小学生の遊びじゃないっスか」

 ボクは声を上げて笑って、

「いいんだよ、それで」

 そう断言した。


         ○


 部室で着替えてグラウンドに行くと、そこにはもう人だかりができていた。もちろんその中心には、件の女子マネがいるわけで。

 ボクは人の壁を押しのけながら、中心へと歩を進める。すると、相手もこちらに気付いたようで、ボクに手を振ってきた。

 あの頃と変わらない笑顔で。

「おかえり」

 ボクがそう言うと、

「ただいま」

 彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。


 月は再び、温かい光を放ち始めた。

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