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第四話 師弟愛

 気まずい空気の中に取り残された二人だったが、その空気は意外と早く終了した。


「それにしても、師匠はあんなに昔のことを覚えてたんですね」


「ええ。唯一とった弟子との思い出ですから」


「…唯一? 師匠は弟子を何人も送り出したって…」


「そんなことも言いましたねぇ。あれは嘘です」


「……ええぇぇぇえええええええええ!?」


 静かな紅魔館に美鈴の絶叫が響き渡った。

 

「だ、だって昔自慢げに『僕は何人もの弟子を格闘技界に排出したんだよ』って…」


「だからあれは嘘ですよ。ただ単に美鈴をからかっただけです」


「嘘ぉ!? そう言ってくれたから安心して修行に励んだのにぃ!」


 美鈴は力が一気に抜けたのかへなへなと脱力していく。

 その様子を見てもナナシはいつもの様ににっこりと微笑んだままだ。


「僕が生涯で全力をかけて育て上げた弟子は美鈴、あなただけなんですよ。

 そのことは事実です。是非とも誇りに思ってほしい」


「え…? あ、はい」


 美鈴はあっけにとられたようにキョトンとした顔になる。

 その顔を見たナナシは不振な目で美鈴を見る。


「美鈴、どうかしたのですか?」


「いや、師匠がそんな思いで私を見てくれてたんだなぁって思いまして。

 最後が最後だったので私のことは見当違いだとでも思ってたんじゃないかって…」


「見当違いで何十年も修行させませんよ。

 美鈴のセンスは本物です。ですから教えきったと思ったので、僕は姿を消したんですよ」


「し、ししょお……」


「な、なんですか美鈴…? 涙と鼻水が垂れてますよ?」


 今まで見たこと無い美鈴の表情に驚きを隠せないナナシ。

 そして美鈴は一度涙と鼻水をぬぐうと、雨崎に向けて飛び掛った。


「ししょおぉぉおおおおおおおおお!!」


「うわわっ!?」


 雨崎は飛びついてきた美鈴をそのまま受け止め、慣性に従い床に押し倒された。

 何事かと柄にも無くうろたえるナナシに対し、美鈴は構わずナナシに抱きつく。


「嬉しいです! 師匠がそんなに私を思ってくれてたなんて…!」


「い、いいから離しなさい! こんなところ誰かに見られたら…」


 雨崎がそう言った瞬間、なんと美鈴の部屋のドアは開かれた。

 そしてそこに立っていたのはピンクのドレスに身を包んだ女の子だった。


 その女の子の名前はレミリア・スカーレット。この館の主だった。


「うるさいわよ美鈴! 人がせっかくゆっくりして…た、のに…」


 レミリアの口の動きは段々とゆっくりとなり、やがてこの状況を見たまま固まってしまった。

 これは拙いと雨崎は急いで弁解を図る。


「…ええっと、これには少し事情がありまして「…なにを」…はい?」


「何をしてるのよ中国!! 見ず知らずの男をこの館に連れ込んで!!

 それだけには飽き足らず…え、えっちなことまで!!」


 レミリアの顔は先ほどの咲夜に負けず劣らず赤く染まり、わなわなと震えながら二人に向けて怒鳴り散らす。


「お、お嬢様…? 別にこれはえっちなことじゃなくて…

 むしろ私の愛情表現と言いますか…」


「そんな大胆な愛情表現は見たことがないわよ!!

 さっきから咲夜もなんだか調子が悪いし…全部アンタのせいね!?」


「そんなメチャクチャな…」


「うるさーい!! 大体アンタは何者よ!!」


 レミリアはビシッと効果音がつきそうなほど指をナナシに突きつける。

 対してナナシは落ち着きを取り戻したのか、いつもの調子で自己紹介を始める。


「僕はナナシといいます。昔、美鈴の師匠をさせていただいてました」


「中国の…師匠? ……なぁんだ。なら別に騒ぐことは無いわね」


「おや、それはどうしてです?」


「これがいわゆる『禁断の師弟愛』ってヤツでしょ?

 前にパチェに貸して貰った本に書いてあったわ!」


 そう言って自慢げに胸を張るレミリア。

 だが美鈴の顔は赤く染まり、ナナシは頭にはてなを浮かべている。


「あわわ…禁断って、私と師匠がアレしてこうするってこと…!?」


「禁断…? 師弟愛のどこが禁断なんでしょう?」


 一人は自慢げに胸を張り、もう一人は真っ赤な顔を両手で押さえ、残る一人は禁断の内容について考える。

 いつの間にやら混沌とした空間が出来上がっていた。

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