03 下校と子猫
下校シーンと奏の弱点が露呈する回です。
最後がカオスになってるのは・・・気にしない方向で。
「・・・やっと終わった・・・」
「かな君、お疲れ様です」
玄関にて、いつものメンバーが揃って靴を履き替えていた。
「・・・で、リーシャ?それにルティア?」
「なんですか?」
「な、なに?」
「・・・なぜ抱きついてる?」
「・・・だ、ダメ・・・?」
「ダメ・・・ですか・・・?」
上目遣いで聞いてくる二人に、さすがにダメと言えない奏。
「・・・なんつーか・・・その・・・あれだ、あ、当たってるから・・・」
「あ、当ててるんだもん・・・」
「当ててるんです!」
「・・・アンタら白昼堂々痴女発言ってどうなのよ・・・」
奏の後ろで呆れ果てたような発言をするロロット。さらにその後ろでは。
「雪姫には渡さないもん!」
「私だって負けない・・・!」
「・・・歩き辛いんだが・・・いい加減離れてくれねぇか?」
『や!!』
昴もまた、愛理と雪姫の取り合いの景品となっていた。鈴風はというと・・・
「・・・」
ちらりちらりと幸俚の方を見ていた。ちなみに左腕には美雪がいる。
「鈴風、お前もいい加減素直になって幸俚にダイブしちまえよ」
「そ、そんにゃ、そんにゃこと・・・できるわけ・・・ないよ・・・」
信也が見かねて鈴風に苦言を呈したが、当の鈴風は完全に恥ずかしがってしまっていた。
「・・・まったく・・・昔っからお前は幸俚関連で初心になっちまうんだから・・・っと!」
「ひゃん!?」
今までの鈴風を知る信也だからこそ、鈴風の背中を押してやる。いたずらとかそういう意味ではなく、「もっと積極的になれ」という信也からのメッセージだった。
「おっと・・・。鈴風?」
「そ、そにょ、あにょ、えと、あうあうあう・・・」
結局鈴風は頭から煙を噴きだしてオーバーヒートしてしまうのだった。
「後は究極ブラコンの沙霧だ(ヒュゥン!)ぁっ!?」
「おぐぅっ!?」
信也が沙霧の名を呟いたその瞬間、彼の目の前を何者かが信じられないスピードで通過し、直後に奏のくぐもった声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん会いたかった!!」
「・・・さ・・・先に帰っていてほしかった・・・」
沙霧の頭が奏の鳩尾に綺麗に刺さっており、奏がそれに悶絶していたのだ。無論沙霧は気付いていない。
「・・・二人にはお兄ちゃんは渡さないもん」
「さ、沙霧には負けないもん・・・!」
「私だってかな君のこと大好きですもん!」
「・・・」
そして沙霧が加わったことで起きた取り合い。それを見ていたロロットは・・・
「・・・」
ある一点を見た後、自分の悲しい部分をぺたぺたと触って・・・
「ふんっ!!」
「ぐおぉっ!?」
奏の急所を背後から思い切り蹴り上げた。
「・・・な、に・・・すんだ・・・いきなり・・・っ・・・!」
「ふんっ!アンタなんか胸に埋もれて窒息して死んでしまえばいいのよ!」
さっさと歩いてしまうロロット。その一部始終をきちんと見ていた信也は自分の急所を押さえていた・・・
「・・・奏・・・ご愁傷様・・・」
「・・・あんのやろぉ・・・覚えてろよ・・・!」
「か、奏君!?大丈夫!?」
「かな君しっかりしてぇっ!!」
「あ、あれは・・・」
「・・・痛いって思う・・・」
幸俚と美雪は苦笑、それ以外は呻いたり慌てたり手を合わせたりしていた。
「じゃあな奏、生きていたら明日会おうぜ」
「・・・生きていたら・・・な・・・」
「じゃ、じゃあね・・・」
それぞれの帰路についた後。奏、ルティア、リーシャ、沙霧は先に行ってしまったロロットを追うように歩いていた(なお奏は現在ロロットのせいでふらついていたため、背丈の近いルティアと沙霧の肩を借りて歩いていた)。
「か、奏君、ご、ごめんね・・・?」
「・・・理由が何なのかはさっぱり知らんけど・・・ルティアが悪いわけじゃねぇから・・・あつつ・・・」
まだフラフラする奏をどうにか支えながら歩いている3人。そこに・・・
「・・・猫?」
突然奏が呟いた。
「・・・ちょっとあそこ行ってくるわ」
「あ、ちょ、かな君、大丈夫ですか!?」
「・・・なんとか、な・・・」
まだ若干覚束ない足で歩きはじめる奏。数秒後には黒毛の子猫を見つけた。
「・・・お前、捨てられたのか?」
「・・・」
「左目の傷といい・・・相当酷い目に遭ったんだな」
奏がそう言って手を伸ばした時。
「みゃあっ!!」
「いてっ!」
子猫が突然引っ掻いた。当然出した手を引っ掻かれたため、奏が呻く。
「かな君!?」
「大丈夫だ、左目傷つけられて捨てられてでちょっと人間不信になってるだけだ」
「本当だ・・・左目に一筋・・・」
ルティアも気になって寄ってきた時、子猫はさらに声をあげて威嚇を始める。
「・・・とりあえず皆下がってくれ。敵意がないことを証明しないとお話にならねぇ」
駆け寄ってきた3人を片腕で制し、子猫に向き合う奏。
「俺達はお前に何か攻撃する目的で来たわけじゃない。可哀想だから、とお前の境遇を嘆きに来たわけでもない。ただお前を救ってやりたい。それだけなんだ」
「・・・」
子猫は奏をじっと見つめていたが、やがて奏に近寄って来た。
「あ・・・」
「子猫が・・・お兄ちゃんに近づいてきた・・」
それに感心するような目で見るリーシャ達。
「分かってくれてなによりだ。家に来るか?絶対にとは言えないがお前を守ってやれるのは確実な話だ」
「・・・みゃー」
「っと。急に飛び込んでくるから転びそうになったじゃねぇか、このっ」
「み、みー・・・」
そんな時間もかけてないのに子猫とじゃれあっている奏を見て。
「・・・かな君、本当に猫好きですよね・・・」
「動物にあそこまで優しくなれるのって・・・普通はできないことだから・・・」
「そう、ですね。それがかな君だってことですからね」
ルティアとリーシャは、ふふっと笑って奏を見つめていた。
それから数分後。
「つーことでこの子猫を連れ帰ることにした」
「お母さんも文句言わないと思うから大丈夫だと思うよ」
と、どさくさ紛れに奏に抱きつこうとした沙霧だったが・・・
「ふかーっ!!」
「・・・あれ?」
奏の腕に抱かれた子猫が沙霧に向かって威嚇声をあげたのだ。声そのものは可愛らしいものだったが。
「・・・あ、そういや兄弟とかいるか?いたらそいつも一緒に連れ帰ってやりたいんだが・・・」
子猫にそういうと、みーと一鳴きした。奏が降ろしてやるとついてきてと言わんばかりに歩きはじめる子猫。
「悪い、先帰っててくれ」
「う、うん・・・」
ルティアらに先に帰ってろといい、奏は子猫の後を追った。
「・・・ここ、既に潰れた神社じゃねえか・・・。お前、ここを住処にして・・・」
「みゃー」
子猫が一鳴きした時、どこからかみゃーと声が聞こえた。
「・・・驚いた、もう1匹いたのか」
奏の近くまでひょこひょこ来たのは、若干くすんだ銀毛の子猫。黒毛の子猫とは違い、人懐っこい印象を受けた。なぜなら、その子猫は奏を初めて見たにもかかわらず彼の足元まで歩み寄ってきたのだから。
「・・・お前はお前で豪胆なのかはたまたお気楽なのか・・・普通ならこいつみたいに人には警戒心持つもんだぞ・・・?」
「みゃ?」
銀毛の子猫は首を傾げた。そしてしゃがみこんでいた奏の胸へと飛び込んだ。同時に黒毛の子猫も。
「っとと・・・。お前ら急に飛び込んでくるなよな?後ろに倒れたらどうするんだ?」
『みゃー・・・』
奏が優しくしかると、2匹はしょぼんとした。
「まあいいや、帰るか」
そう言って奏は2匹の子猫を抱えながら再び帰路についた。
「・・・そういや名前考えとかねぇとな・・・」
おまけ
〈ぴゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・〉
『っ!?』
奏に言われ、先に自宅付近まで来ていたルティア達の耳に、突如として聞こえたロロットのあまりにも高い悲鳴。
「ろ、ロロット!?」
「ろ、ロロちゃんらしくない凄い悲鳴でしたね・・・」
「・・・なにかあったのかも」
沙霧の一声で3人はセストナ家へ向かった(二崎家・セストナ家・メルティア家はそれぞれ歩いて10分もいらない圏内の超ご近所なのだ)。
「ロロット!?」
玄関を開け、ルティアが第一声にロロットを呼ぶ。
「お、おね、おねえちゃ、で、でた、でたぁ~っ!!」
玄関にまでどたどたと走ってきたロロット。顔は涙に濡れ、言葉も上手く話せないほど動揺していた。
「ろ、ロロット、落ち着いて!な、何が出たの!?泥棒!?」
「ち、ちが、うえぇぇぇぇ・・・」
ロロットがここまで取り乱すとは思えず、ルティアとリーシャは互いの顔を見合うしかなかった。
「ロロちゃん、まず落ち着いてください。そして何が出たかを教えてください」
「・・・ご、ゴキブリが・・・」
刹那、ルティアとリーシャは硬直した。
「・・・ひょっとしたらもう何十匹といるかも・・・」
「ひぃっ!?」
沙霧が漏らした一言に、ロロットはさらに上ずった声の悲鳴を上げた。
「・・・多分、冷蔵庫とか食器棚の下、その辺に巣ができてると思う。これ以上増やしたくないって言うなら殺虫剤とかホイホイ買って来た方が無難」
「つ、潰しちゃ・・・ダメなの・・・?」
冷静に対処砲を呟く沙霧に、涙ぐんだ声で聞くルティア。
「潰すと周りに卵や内臓とかが飛び散るからお勧めしない」
刹那、ロロットの姿が消えていた。お気に入りのサンダルもないことから、ホームセンターへ行ったことが窺えた。
「・・・ロロットのゴキブリ嫌い、早く治ればいいのに・・・」
「そ、それとこれとじゃ話は別なのぉっ!!」
「そ、そうですぅっ!!ご、ゴキブリは人類にとって忌避すべき存在で天敵で消滅しなければならない存在なんですぅっ!!」
「・・・極端すぎる意見だと思う・・・」
自分に抱きついてあうあう言っている二人に呆れの溜息を吐く沙霧だった。
次回、あの果てしなく面倒な「奴」が出ます・・・。知っている人は知っている、「アイツ」です・・・!
そして子猫に緊急事態が・・・!?
そしてセストナ家に現れたゴキブリの運命はいかに!?(そこは要らないという突っ込みは締め切らせて頂きました)
お楽しみに!