第二十二話 少し違う帰宅
「じゃあ、また明日ね。ゆかりちゃん」
「はい、また明日。博斗さん、と沙織」
あたしがそう言うと博斗さんはあたしの家の前であたしの手を離す。少し名残惜しかったけど、仕方がない。
実は教室を出てから暗い校舎を歩いていると怖くなってきてしまった。そして、気がついたら博斗さんの手を握っていた。
気がついたときに慌てて放そうと思ったんだけど昨日の先輩の言葉を思い出して、小さい声ながらも、「手、握っててください」と言った。
そしたら、博斗さんはあたしの手をぎゅっ、と握ってくれた。あたしはそれで安心した。そして、少し博斗さんに寄り添ってしまった。
今、思い出してみればかなり恥ずかしい。
学校を出てから少し離れてたんだけど手は握ったまんまだった。だからか、沙織に何度もからかわれてしまった。それと、リボンのことも言われてしまった。今日、告白をするためだけにそれをつけてきたんじゃないのかって。
お母さんに無理やりつけられたとはいえ事実といえば事実なのであたしは言い返すことも出来なかった。
「わかれる間際に見つめ合ってるなんて早速恋人らしさ全開ねー、二人とも」
にやにやした笑みを浮かべながら沙織はそんなことを言ってきた。学校から家に帰るまでの間に沙織は完全にあたし達をからかうような立場になっていた。
「そ、そんなことないよ」
「う、うん、そうだよ。沙織」
あたしと博斗さんはとてつもなく弱く沙織の言葉を否定する。少なくともあたしが強く否定できないのはそのことに関して意識しているからで、否定をするのはそれを認めるのがすごく恥ずかしいからだ。
博斗さんはどうだかわからないけど、たぶんあたしと同じなんだと思う。さっきは博斗さんとあたしの考え方が同じだったんだから、という単純な理由でそう思った。
「見てると妬けてくるわねー。あなたたちのやりとりを見ているとー」
半分以上は本気なんだろうな、と思ってあたしは沙織の言葉を受け取る。
どうせなら、博斗さんと沙織が一緒になれる時間を作ってあげよう、とあたしは思った。沙織も博斗さんと二人きりで話したいことがあるだろうから。だから、あたしは、
「あの、博斗さん、あたし、帰りますね。あと、沙織は言いたいことは言っといた方がいいよ」
と、言った。沙織にはアドバイスというか後押しをするような言葉を送っといた。
「うん、それじゃあね」
「ええ、ゆかり、さよならー」
二人はあたしに別れの挨拶を返しながら去っていった。さてと、あたしは家に帰らないと。
あたしは、扉の横についてるチャイムを鳴らす。お母さんはすぐに扉を開けてくれた。
「おかえり、ゆかり」
「うん、ただいま」
あたしはお母さんが開けてくれた扉から家の中に入る。
見えるのは見慣れた光景のはずなのになんだかいつもと違うような気がする。それはたぶん博斗さんへの告白が成功して気持ちが高ぶっているからかもしれない。
「ゆかり、どうやら告白をして成功したみたいね」
お母さんはなんだか嬉しそうな、楽しそうな声でそんなことを言った。
「な、なな、なんでわかった、の?」
あたしは顔を真っ赤にしながら言う。
「外であなたと博斗君が話してたのを聞いてたのよ。そういえば、もう一人誰か女の子がいたみたいだけどあれは誰かしら?」
なぜだかお母さんは沙織に興味津々みたいだ。って、ちょっと待ってお母さん、あの会話を聞いてたの?あ、あんまり聞かれたくなかったんだけど。
でも、お母さんはあたしがそんなことを考えてるだろうとなんて微塵も思っていないようであたしが質問に答えるのを待っている。だから、あたしはしかたなくお母さんの質問に答える。
「あの人は博斗さんの幼馴染の寺塚沙織だよ」
「へえ、幼馴染ね。もしかして、ゆかりの恋の邪魔をしていたりするのかしら?」
「そ、そんなことないよ」
むしろ応援されてるような感じだ。あえてそれは、お母さんには言わないけど。
「あら、そうなの。おもしろくないわね」
そう言ってお母さんはたぶん台所の方へと戻っていった。
それを見ながらあたしは靴を脱いで家に上がった。
部屋に入るとあたしは鞄を置いた。それから、リボンをほどいて机の上においておく。明日はどうしようかな、って考えようと思ったけど明日考えよう、と思い考えるのはやめた。
夕食まで少しだけ時間がある。それまで何をしてようかな、と思ったら三日前に土手からとってきたねこじゃらしが目に入った。
あたしはそれを手元に持ってきてそれを眺める。
ぼーっとそれを眺めているとあたしはあることに気がついた。
このねこじゃらしを家に置くようになってからあたしは猫に姿を変えられるようになったのかもしれない、ということにだ。本当のことはわからない。だって、確かめる手段がないから。
でも、このねこじゃらしが関係しているような気がする。
あたしはねこじゃらしに答えを求めるように何回かつついて見たけど答えてくれるはずなんてなかった。
ただ、いえるのはそのねこじゃらしは持って帰ってきた日から全然姿が変わってなかったってことだけだ。
でも、それだってあたしがちゃんと世話をしてあげてるからなのかもしれないし、もともと生命力が強いからなのかもしれない。
あたしはじっとねこじゃらしを見つめてたんだけどやっぱり、答えが出るはずなんてなかった。
だから、あたしは現状を受け入れよう、といつか出した結論と同じ結論を出した。
それに、猫になれるようになったからあたしは博人さんと話をするきっかけができて結果的に恋人になれたんだ。
だから、幸せな結果に終わったこのことについて考える必要なんてないんだ。
あたしはこれで満足なんだから。