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第二十一話 真実を告げるとき

 少しして沙織が口を開いた。

「そういえば、あなた達はいつの間に仲がよくなったのかしらー?一昨日までは全然そんな感じしなかったわよねー」

 沙織はいきなりあたしと博斗さんが仲良くなっていたのに疑問を持っているらしい。

 確かに、一昨日までは生徒会の仕事以外のことで博斗さんがあたしに話しかけてくることはなかった。だから当然驚くと思う。それに、沙織みたいに博斗さんの近くにいる人ならなおさら。

 沙織にはどうして仲良くなったのか教えてあげたい。でも、その為にはあのことを話さないといけない。でも、その前に二つ問題がある。

 一つは、信じてもらえないかもしれない、ということだ。でも、これはどうにかなりそうな気がする。実際に沙織の前で猫に姿を変えればいいんだし、沙織ならすぐに順応してくれると思う。

 もう一つの問題は、博斗さんも話していいかって思ってるか、っていうこと。あたし自身は話してしまってもいいって思ってる。たぶんだけど、博斗さんも話していいって思ってると思う。

 でも、もしかしたら、秘密にしておきたいって思ってるかもしれない。だから、あたしは確認するために博斗さんに聞いてみる。

「博斗さん、沙織にあのことを話してもいいですか?」

「え?あのこと?……あ、ああ、あれのことだね。うん、いいんじゃない?沙織なら」

 博斗さんは一瞬あのことが何のことだかわかっていなかったようだ。でも、あたしも博斗さんと同じ立場だったらわからなかったかもしれない。

 そんなことよりも、博斗さんの同意も得られたからあたしは沙織に博斗さんと仲良くなれた、きっかけ、を話すことにした。

「実はあたしたち、姿を猫に変えることができるんだ」

「は?」

 思ったとおり沙織はすごく驚いている、というよりも何を言っているのかわけがわからない、といった感じの表情を浮かべている。

「確かに、いきなり言われて信じられるわけがないよね。だから、実際にやってみるよ。博斗さん」

「うん、わかってる」

 博斗さんが頷く。あたしも、頷き返す。そして、

「それじゃあ、せーの」

 あたしの合図と同時にあたしと博斗さんはその場で一回転した。猫になりたい、って思いながら。

 一瞬視界が暗転する。そして、あたしの視界は低くなった。

 それを確認してから横を確認した。そこには綺麗な毛並みをした白猫がいた。それが、博斗さんだ。

 それから、沙織の方を見てみる。

 相当、驚いているらしく目を何度もぱちぱちさせたり目をこすったりしている。なんとなく今までの沙織からは想像がつかないような行動だ。

「どう、信じてくれた?」

 あたしはそう言ったのだが口から出たのは「にゃー」という猫の鳴き声だけ。そこであたしはこのままだと沙織に話が出来ないっていうことに気がつく。

 博斗さんはとっくにもとの姿に戻ってるみたいだ。あたしは慌ててその場で一回転する。

「どう、信じてくれた?」

 さっき言ったことをもう一度言う、というのは少し間抜けなような気がしたけど、あたしが同じことを二回言った、ってわかってるのはあたしと博斗さんだけだ。沙織は普通の人間だから猫の言葉がわかるはずが無い。

「ええ、信じたわー」

 沙織はそう言いながら頷く。最初の驚きはもうとっくに消えているような感じだった。

 あたしの思ったとおり沙織は順応性が高かったみたい。

 あたしはそんなことを思いながら、一昨日のことを話した。

 早朝に初めて猫の姿になったときに不安になったときに偶然博斗さんにであったこと、そのときは自分の正体を隠していたこと、その日の夕方にまた博斗さんに出会ったときに自分の正体を明かしたこととか、色々話した。

「そんなのことがあったのねー。というか不思議な出会いもあるものなのねー」

 沙織は感慨深げにそう言う。

 今、あたし達は立ったままだと疲れるだろう、ということで椅子に座っている。ついでに、今の時間は六時半。いつもならとっくに家についてる時間だけど誰も帰ろうとする気配は無い。それはあたしも例外じゃなくてまだ、話をしていたいな、って思ってる。

 沙織に伝えれることは全部伝えておきたいって思ってるから。

「あたしもそう思ってるよ。こんな不思議なきっかけで博斗さんと話せるようになるとは思いもしなかったよ。ね、博斗さん」

 あ、今あたし自然に博斗さんに話をふれれた。

「うん、そうだね。そういえば、ゆかりちゃん、あのとき結構不安がってたみたいだけど、少しだけ僕も不安だったんだよ。何で僕だけがこんなことができるんだろう、ってね」

「え、でも、あのときは全然そんな感じしてませんでしたよ」

 言ってから思い返してみるけど、やっぱりあのときの博斗さんは不安そうな雰囲気を微塵も出してなかった。

「僕の不安が出てくるのは一人でいるときだけだよ。だから、あの時、ゆかりちゃんがいたときも不安が表に出なかったんだ」

 そうなんだ。博斗さん、自分だけが姿を変えれるってことを不安に思ってたんだ。あたしは、確か元に戻れないかもしれないって思って不安になってた気がする。

 あたしと博斗さん、不安になる場所が違うんだな。でも、もしかしたらあたしも博斗さんと会ってなかったら同じ不安を抱えてたかもしれない。

 もし、自力で元の姿に戻る方法を見つけていて博斗さんに会うことがなかったらどうなっていたか。たぶん、最初の数日間くらいはとくに何かを思うことはないかもしれない。

 けど、少しずつ時間が経つにつれてだんだん不安になってくると思う。さっき、博斗さんが言ったように一人でいるとその不安が出てきてしまうかもしれない。

 そう思うと、博斗さんに出会ったからあたしはこのことに関して不安に思わずにすんだのかもしれない。

「それで、僕が猫の姿のゆかりちゃんと初めて会って、少し話をして僕とおんなじ人がいるんだな、って思ったらもう不安はなくなってたんだ」

「それが、博斗がゆかりを好きになった理由かしらー?」

「い、いや、そうじゃないよ」

 沙織の質問に少し照れたように返す博斗さん。あたしはそれを見ていてなんだか嬉しくなる。

 博斗さんがあたしのことに関して聞かれて照れるってことは博斗さんがあたしのことが好きだっていう証明になるから。

「じゃあ、いつなのよー。もしかして、その日の夕方に会ったときかしらー?」

「そのときでもないよ」

 あたしはいつ、博斗さんがあたしのことを好きになったんだろうって気になって二人の話をよく聞こうと耳を傾ける。

 あたしに優しくしてくれる理由は教えてくれた。だけど、いつ好きになったのかって言うことは聞いてない。

 それに、優しくしてくれるようになったイコール好きになったっていうわけでもないと思うからいつ好きになったかっていうことを予想することが出来ない。

 あ、そうだ。あたしが聞いたら教えてくれるかも。

 そんなことを思ったんだけど恥ずかしくって聞けそうにない。いや、こういうのを直さないといけないんだよね。

 今日は告白しちゃったんだからこの程度なら簡単に聞けるはず。そう、強く意気込んで口を開いた。

「あ、あの、あ、あたしも知りたいです。博斗さんがいつあたしのことをす、好きになったのかを……」

 や、やっぱり思ったとおりに言えないよ。で、でも一応言えただけでもよかったかな?

「うん、ゆかりちゃんならいいよ。二人っきりになれたときに話してあげる」

「あ、は、はい!楽しみにしてます!」

 意識していないのに、いや、意識していないからこそかとっても弾んだ声が出た。博斗さんの微笑んでいる顔につい、見惚れてしまう。

「二人の世界に入ってるんじゃないわよー」

 あたしは沙織の少しじとっとした声に我に返る。博斗さんも慌てたように沙織の方に向く。

「まあ、教えてくれないのはもう別にいいわー。いつか、また問いただしてあげるからー。それよりも、早く帰りましょー」

 沙織のその言葉に反応してあたしは時計を見てみる。時計は先ほど見たときよりも進んでいて六時四十五分を指していた。

「あ、うん、そうだね。早く帰ろうか」

 博斗さんはそう言いながら立ち上がる。あたしもそれに続いて椅子から立ち上がる。沙織は最初に帰ろう、と提案していた時点で立ち上がっていた。

「じゃあ、わたしは一人で帰るわねー」

 沙織は一人で教室を出て行こうとした。

「え、沙織、一緒に帰ろうよ」

 あたしは沙織を引き止めて一緒に帰ろう、と提案した。沙織があたしたちを二人っきりにしようとする心配りだっていうのは簡単に考え付いた。

 それは、嬉しいんだけどこの時間に一人で帰るっていうのは危ないと思う。それに、一人で帰るのは少し寂しいような気がする。

「いいわよー。わたしは一人で帰るわよー。ゆかりは博斗と二人っきりの方がいいでしょー」

 ほら、やっぱりあたしに気を使ってたんだ。

「いいよ、別に。これから、二人っきりになれる時間なんていっぱいあると思うから」

 今のはちょっとのろけぽかったかな、と言ってから気がつく。

「なによー、その自信たっぷりな発言はー。……そこまで言うなら一緒に帰らせてもらうわー。博斗、いいわよねー」

「うん、いいよ。というか、一緒に帰らないなんて言ったら無理やり一緒に帰らせるつもりだったよ」

博斗さんに話をふった沙織に博斗さんはそう言った。沙織は何故か少し驚いたような表情をする。

「なんというか、あなたたちは出来るだけ長く二人っきりでいようとは思わないのかしらー?」

 沙織が驚いているのはそのことだったんだ。

「あたしは二人っきりで出来るだけ長い間二人っきりになりたいと思ってるよ。でも――」

「今まで関係のあった人とその関係を切りたくない、とも思ってるんだ。ちょっと、強欲だと思うよね。この考え方は」

 あたしは驚いて博斗さんの顔を見る。博斗さんは少し悪戯っぽい微笑みを浮かべていた。

「ごめんね、ゆかりちゃん。でも、こうした方がそれっぽい感じがするでしょ?」

 あたしが驚いてるのは途中で割り込まれたことじゃない。博斗さんが沙織に伝えたことがあたしと伝えたいこととおんなじことにあたしは驚いているんだ。

「それで、ゆかりちゃんはどう思ってるのかな?」

「あたし、博斗さんと同じように思ってましたよ」

「あれ?そうなんだ」

 博斗さんは少し意外そうな顔をする。もしかしたら、博斗さんはあたしがちがうように思っているかもしれない、と思っていたのかもしれない。

「二人がどう思っているのかはよくわかったわー。だから早く帰りましょー」

 その言葉にあたしと博斗さんは同時に頷いてあたし達は教室から出た。

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