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第二十話 告白

 何か重大なことがある前は気持ちが落ち着かないものだ。

 授業中は全然集中できなかった。

 あたしが告白をしたらどんな結果になるんだろう、それだけをずっと考えていた。

 不思議とふられるっていう場面を考えても怖くはならなかった。不安にもならなかった。

 たぶん、あたしがふられても沙織がいるからだと思う。沙織だったら博斗さんの隣にいても安心できる。それに、あたしよりも沙織の方が博斗さんにはお似合いかもしれない。

 でも、告白しないっていうつもりはない。気持ち的には当たって砕けろ、って感じだ。

 もし、あたしと一緒に告白するのが沙織じゃない誰かだったりしたら、怖くなったり不安になってたかもしれない。

 まあ、でもそんなことは無いと思う。沙織以外の誰かだったら一緒に告白する前にその人に取られてると思う。沙織だからこそ一緒に告白、なんていう特殊なことが出来るんだと思う。

 そんなこんなで、いろいろと考えていたらいつの間にか放課後となっていた。

 博斗さんに告白するのは生徒会の仕事が終わった後、あたしと博斗さんと沙織以外が生徒会室を出たときだ。

 生徒会の仕事の間、あたしと沙織の気持ちは告白のことに飛んでいたようだ。

 もともとミスが多いあたしはいつもよりもミスをし、いっつもミスなんかしない沙織も今日は何回もミスをしていた。

 あたしと沙織が別のことに気が散っていてミスが多くなっているんだと知らない人たちはあたし達の体調が悪いんじゃないかと心配してくれた。その中には博斗さんも入ってる。

 博斗さんと会計の人には迷惑をかけちゃったかな、と思ってる。たぶん、沙織もおんなじように思っているはずだ。

 だから、そう思って次こそは失敗しないようにしようって思ったのにやっぱり失敗してしまった。

 それでも、やるべきことは片付けて今日の生徒会での活動は終わった。とくに用事のないらしい会計の人はさっさと帰ってしまった。

 そして、今生徒会室にはあたしと博斗さんと沙織の三人が残ってる。

 あたしはいつ博斗さんに話しかけて告白をすべきなのか迷っている状態。昨日、沙織と一緒に考えたはずなのにどうするんだったのか全然覚えてない。

 沙織もあたしと同じ状態なのか少しおろおろというかどうしようか迷っているような表情をしていた。

「二人ともどうしたの?帰らないの?」

 何も知らない博斗さんが椅子に座ったままのあたし達に声をかける。その声色にはあたし達のことを心配しているような響きがあった。

 博斗さんがあたしか沙織に気があるっていうことはわかってる。沙織の方に気がある可能性が高い、とあたしは思ってる。

 それでも、今はもうぶつかっていくしかない。もしあたしがふられた場合は沙織のことをしっかり応援しよう。

 そこまで考えてあたしは意を決する。

「あの、博斗さん、ちょっと、話があるんです」

 あたしは椅子から立ち上がって言った。

「ん?なにかな?」

 帰ろうとしていた博斗さんが話を聞く体勢に入る。

「あ、わ、わたしも博斗に、話があるのー」

 沙織が慌てたように椅子から立ちあがりこちらへと近づいてきた。

「え?沙織も話があるの?……それで、どっちから、話してくれるのかな?」

「両方同じ話だから一緒に話させてもらうわー」

「うん、わかった」

 博斗さんが頷く。あたしと沙織は深呼吸をする。告白直前、だということもあってか心臓がすごい速度でドクドクいってる。深呼吸程度ではおさまりそうにはなかった。

 それでも、あたし達はもう一回深呼吸をする。そして、合図も無くほとんど同時に言った。

「あたしは、」

「わたしは、」

 あたしと沙織の声が重なる。でも、あたしと沙織だと呼び方が少し違うから少しずれる。

「博斗さん、あなたのことが、」

「博斗、あなたのことが、」

 二人分の想い。博斗さんに向けた想い。


「「大好き、です」」


 その、想いが最後の最後に重なった。あたしは、恥ずかしくて顔を俯かせそうになる。でも、無理やり博斗さんのほうを向く。

 どんな返事が返ってこようともちゃんと博斗さんの顔は見ていたかった。それに、顔が赤くなっているのを見られるのだって全然かまわない。

 だから、あたしは博斗さんの顔をじっと見つめていた。

「えっと……」

 博斗さんはあたしと沙織の告白に驚いているようだ。博斗さんの視線は落ち着かず一点に定まらない。

 あたしの方を見たかと思うと沙織の方を見て、そして、全然関係のないところにまでも視線が行く。

 けど、次の瞬間に博斗さんは目をつむった。

「……」

 静寂が部屋の中を支配する。だけど、この部屋の雰囲気は全然落ち着いていない。

 博斗さんが何を考えてるのかっていうのはわからない。だけど、ああやって目をつむるのは気持ちを落ち着かせるためなんだっていうことはわかった。

 だから、たぶん、博斗さんが目を開けたそのときに答えを聞けるんだ。

 そんなことを思っていると博斗さんがゆっくりと目を開けた。

「二人の、気持ちはちゃんとわかったよ」

 いつにもまして落ち着いた感じのする博斗さんの声が静かな教室の中に響く。

「本当は二人ともの気持ちを受け取ってあげたいんだけどそれじゃあ、二人とも納得しないよね。それに、僕も好きな人がいるからね。その人の気持ちだけを僕は受け取ってあげたいんだ」

「それって、誰のこと、ですか?」

 知らずの間にあたしの口がそう動いていた。でも、これはあたしが本当に聞きたいことなんだって思うからそのまま博斗さんが答えてくれるのを待つ。

 正直にいって博斗さんが次に言う言葉を待つのがすごく怖い。今すぐこの場から逃げ出したくなるくらいに怖い。

 でも、ちゃんと聞かないといけない。自分の気持ちを伝えるだけ伝えて逃げるなんていうのは卑怯だからだ。

 だから、あたしは頑張ってこの場にとどまる。

「僕が好きなのは……」

 博斗さんは恥ずかしいのか、そこで言葉を切った。博斗さんの落ち着きがじょじょに無くなっていっているような気がする。

 数拍を置いた後、意を決したように博斗さんは再び口を開いた。

「僕が好きなのは、ゆかりちゃん、君だよ」

 博斗さんは少し照れたような笑みを浮かべてそう、言った。その言葉を聞いた途端にあたしの思考は停止したように感じた。

 え、だって、そんなこと、でも、うそ、じゃないよね、本当なんだよね。あ、でも本当は夢なのかも。そうなら、ずっと続いててほしいな。

 そんな感じにあたしの思考回路が少しおかしくなるくらいに博斗さんの言葉はあたしに響いた。

 思考はぐちゃぐちゃで混乱してて、体中は恥ずかしさで火照って熱い。こんなことを感じたことはいままで一度だって無かった。

 それに、すっごく嬉しい、って気持ちが溢れるくらいにある。その気持ちが抑えきれなくて溢れてしまいそうで、それがあたしをおかしくさせてるんじゃないんだろうかって思ってしまう。

「ゆかりちゃん、だ、大丈夫?」

 博斗さんの声が聞こえる。あたしはそれで我に返る。

「あ、は、はい。だ、大丈夫、です、よ?」

 何故か口調が半疑問系になった。最近気がついたことなんだけど、どうやらあたしは極度に混乱したりすると口調が半疑問系になってしまうらしい。

「うん、なら、いいんだけど」

 と、博斗さんは少し心配そうな声音で言った。

 あたし、そんなに人を心配させるくらいに自分の世界に入ってたのかな?自分では全然、そんなふうに思ったりしてないのに。

 あたしがそんなことを思っていると博斗さんはいつの間にか沙織のほうを向いていた。

「沙織、ごめん。沙織の気持ち、受け取ってあげれなくって」

 すまなさそうに博斗さんは沙織に謝っている。対して沙織はすっきりしたような、そんな笑みを浮かべている。

「いいのよー。そんなことは気にしなくてー。わたしとしては十分よー。博斗がゆかりの気持ちにちゃんと応えてあげたんだからー」

「で、でも、沙織、大丈夫なの?」

 あたしは、沙織が無理をして笑ってるんじゃないんだろうかって心配になって声をかける。

「ゆかりは何を心配してるのかしらー?たしかに、博斗がわたしじゃなくてゆかりを選んだってことは少し悲しいけれど、そんなものなんてことないのよー」

 少しだけ、沙織の笑みが崩れかけたような気がした。

 沙織は今いろんなものをこらえてるんだと思う。それらをあたしや博斗さんに見せたくなくて。

 だから、あたしはこれ以上このことについては触れないほうがいいのかもしれない。

「うん、わかった。沙織は大丈夫なんだよね」

「そうよー。わたしのことは心配しなくてもいいのよー」

 沙織の崩れかけた笑みが元に戻る。でも、その笑みは作り物だっていうことがわかった。

「博斗は、ちゃんとゆかりのことを護ってあげるのよー。ゆかりはあなたのことを信頼しているんだからー」

「うん、わかってるよ。……でも、沙織も誰か沙織を護ってくれる人が現れるまで僕が護ってあげるよ」

 博斗さんがそんなことを言った。あたしはそれに反対する気はない。

 たぶん、沙織は今まで博斗さんに護ってもらっていたんだからこれからも他に護ってくれる人が現れるまで護ってもらって当然だ。まあ、その分あたしがしっかりしないといけないんだけどね。博斗さんにはあまり負担をかけさせたくないから。

「い、いいわよー。わたしのことなんか護ったりしなくてー。博斗はわたしのことなんか気にせずにゆかりのことだけを護ってあげればいいのよー」

 でも、沙織は護ってもらうことを拒んだ。たぶん、あたしのことを気遣って拒んだんだと思う。

 だから、あたしが沙織に言ってあげないと。沙織が博斗さんに護られててもあたしは全然いいんだよ、って。

「沙織は、あたしのことを気にしなくてもいいんだよ。あたしは今まで護ってくれるような人がいなかったからいいけど、沙織はそうじゃないんでしょ?だから、沙織は博斗さんに護られているべきだよ。あたしは、他に沙織を護ってあげる人が出てくるまで自分で頑張るから」

「ゆかりちゃんも、そう言ってるから沙織は遠慮しなくていいんだよ」

「生まれたばかりだけれど、あなた達は不思議なカップルねー。なんで、そこまでしてわたしを護ろうとするのかしらー?」

 沙織の作り物の笑顔は消えていて呆れたような表情を浮かべていた。その表情は自然に出た表情なんだと思う。

 そう思いながら、あたしは沙織の質問に答えた。

「あたしのお姉さんみたいな存在だからだよ」

「僕のただ一人だけの幼馴染だからだよ」

 見事にあたしと博斗さんは同じタイミングで答えていた。しかも、字数が同じだったから言い終わるタイミングまでもが一緒だった。

「二人とも、見方は違うけれどわたしのことを大切に思ってくれてるのねー。それにしても、二人とも息が合うのねー。合図もなしに声が重なるなんて滅多にないことよー」

 そう言ってから沙織は少しあたし達から顔をそらす。恥ずかしがっているようなそんな気がする。

「ま、まあ、二人があたしのことを護ってくれるって言ってくれてるんだから、甘えさせてもらうわー。いつまでになるかはわからないけどよろしくねー」

 あたしは、恥ずかしながらもそう言う沙織のことが可愛いと思ってしまった。沙織って、こういう一面も持ってるんだな。

 だから、それを知ってあたしは更に沙織を護ってあげたいような気がした。年齢的にいえばあたしの方が護られる立場なんだろうけどそんなこと関係ない。

「うん、わかった。困ったらいつでもあたし、に相談してね」

 あたしは、あたしたち、って言おうとしたんだけど恥ずかしくって言えなかった。いつかは慣れなくちゃいけないんだろうけど今はまだ無理だ。

「うん、そうだね。僕たちがいるから沙織は安心していいんだよ」

 博斗さんは何の抵抗も無く、僕たち、って言った。博斗さん、恥ずかしくないのかな。それとも、あたしが意識しすぎなのかな?

 そんなことを思いながらあたしは博斗さんの横顔を眺めていた。

 と、博斗さんはあたしの視線に気がついたのかこちらを向いてきた。「なにか用?」と、聞いてきたのであたしは「な、なんでもないです」と、言って顔をそらした。

 告白をしてお互いが好きだっていうことがわかっても反応は何一つ、変わってない。

「なんか、ゆかりを見てるとまだ片想いなような気がするわねー。ゆかり、その恥ずかしがりすぎるのはどうにかした方がいいんじゃないかしらー?」

「わ、わかってるよ。だ、だけど、直そうとして直せるものじゃないよ」

 自分でもそうかな、って思ってたから強い反論が出来ない。だから、弱い反論になってしまう。

「まあ、たしかにそれもそうねー」

 意外にも沙織はあたしの弱い反論に同意してくれた。

「でも、直らない、なんて思ってたらだめよー。直そうって強く思っていないと直らないものよー」

 そして、ついでにアドバイスまでくれた。

 たしかにそうかもしれない。絶対に直らないって思ってそのままにしてたら直らないまんまだ。直る、って信じていればどこかで行動を起こして性格を直すことが出来るのかもしれない。

 だけど、博斗さんに対して恥ずかしがりすぎるっていうのは直せないような気がする。なんとなく、そう思ってるだけで確証は全然ないんだけどね。

「そうだわー。博斗はゆかりに恥ずかしがられすぎてどう思ってるかしらー?」

 沙織はいきなり博斗さんに質問をふった。

「え?僕?……うーん、そうだね。僕は別にそれでも、いいよ。それだけ、ゆかりちゃんが僕のことを好きだっていうことだろうから」

「ひ、博斗さん、そ、そんなふうに思ってるんですか」

「うん」

 博斗さんは小さく微笑みながら頷いた。

 あたしは博斗さんの素直な想いを聞いたような気がして恥ずかしくなる。そして、博斗さんの顔を見ていられなくなって顔を少しだけ俯かせる。

「バカップルというか、初々しいというかー。こっちも恥ずかしくて見てられないわよー」

 呆れ半分、からかい半分といった感じの声音で沙織は言う。

 対してあたし達はそんな沙織の言動に恥ずかしがるだけ。

「ふふ、からかいがいがありそうねー。今日からはあなた達をからかって楽しむことにするわー」

 意地悪で楽しそうな、けどどこか親しみを感じさせるような笑みを浮かべながら沙織は言った。その笑みは作り物のようには見えなかった。

「どうしたのかしらー?わたしの顔を見つめて」

「あ、えっと……」

 あたしは沙織にいきなり声をかけられて焦ってしまう。とういうか、あたしはいつの間にか沙織の顔を見つめてたんだ。

 そんなことよりも、不思議そうにあたしのことを見ている沙織の問いに答えないと。

「沙織が自然に笑ってるから、よかったな、って思ってるんだ」

「ゆかりにはわたしがさっきまで自然に笑ってなかったように見えたのかしらー?」

「うん、博斗さんにふられてから無理に笑ってるように見えたんだ」

 あたしに同意するように博斗さんが続ける。

「それは、僕も気がついてたよ。本当にごめんね、沙織。僕にはこうするしかできなかったからさ」

「だから、なんで、博斗が謝るのよー。恋愛なんてもともとは自分勝手なものなんだから、ふられてもふっても仕方ないものなのよー。それに、あなた達二人を見てると、その間に入ろうとすること自体が馬鹿馬鹿しく思えるわー。……それくらい、あなた達はお似合いなのよー」

 少し、沈黙が流れる。沙織は何かを考えているようだ。あたしは、沙織が口を開くまで待とう、と思った。博斗さんも同じように思ったのか口を開かなかった。


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