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第十二話 二人きりでお話

「さあ、これで二人で話が出来るわねー」

 寺塚先輩があたしのほうへと歩み寄ってくる。寺塚先輩の微笑みが少し、怖い。

「博斗はねー、ちゃんと伝えないとわかってくれないわよー。でも、大西さんにならチャンスがあるかもしれないわねー」

 寺塚先輩はあたしの耳元に口を近づけてそう囁いてくる。

「な、なんのですか?」

「ふふー、とぼけたって無駄よー。大西さん博斗のことが好きなんでしょー。友達とかそういうんじゃなくてー、恋愛の相手としてー」

 寺塚先輩の直球な物言いにあたしはわたわたとする。どうやら寺塚先輩は瀬条先輩のことに関して話したいみたいだ。

 外の瀬条先輩に聞こえてたりしないよね。

「な、なな、何言ってるんですか。そ、そんなことないですよ?」

 何故かあたしは半疑問系で答えてしまう。

「大西さんの行動って面白いわねー。それだけ素直な反応してるからすぐ気づかれるのよー。よく友達とかに考えてることがわかりやすいとかいわれてるんじゃないかしらー?」

 そう言えば真由美ちゃんと亜美ちゃんに感情が顔にでやすいとか言われたことがある。自分ではそんなふうに思ってないんだけどな。

 でも、自分で気がついてないことが他人が気がついてるってこともよくあるような気がする。

「そんな大西さんだからー、博斗の前ではすっごく緊張しててまともに話が出来なかったんじゃないかしらー?」

「い、いえ、ちゃんと話せたと、思いますよ」

「へえーそうなのー。……それでー、なんで緊張なんかする必要があったのかしらー?理由もなく緊張なんてするはずないでしょー?」

 なんかあたしの周りの人はみんなさり気なくあたしの思ってることを引き出そうとしてくるような気がする。それとも、あたしの受け答えが単純なだけなのかな?

 でも、今の寺塚先輩の問いに対してはどうにか誤魔化せそうな気がした。

「あ、あたし、年上の人と話をすると緊張する性格なんです」

「それは、嘘ねー。だって、普段のあなたはーわたしと話してても全然緊張してるように見えないものー」

 やっぱり寺塚先輩のほうが一枚上手だった。

「好きだから緊張してたのよねー」

「……」

 もう何を言っても墓穴を掘りそうなので何も言わないことにした。何をしても言っても同じ結果にしかならないような気もするし。

「黙ってるってことはー、図星だったのねー」

「そ、そうですよ!あ、あたしは瀬条先輩のことがす、好きなんですよ!」

 半ばやけくそ気味にあたしはそう叫ぶ。

「そんな大きい声出すと外にいる博斗に聞こえるわよー」

 はっとしてあたしは口を押さえる。

「今更押さえたって遅いんじゃないかしらー?それにー、聞こえてたら告白する手間が省けていいんじゃないかしらー?」

「よ、よくないですよ。……い、今のが瀬条先輩に聞かれてたらどうしよう」

 恥ずかしさで顔が熱くなる。今は先輩にあたしの言葉が聞こえていなかったことを祈るばかりだ。聞こえてたなんてわかったら恥ずかしすぎて瀬条先輩の前には絶対に立てない。

「あらあらー、顔、真っ赤にしちゃってー。純情で可愛いわねー、大西さんってー」

 言いながら寺塚先輩はあたしの頭を撫でる。

「あ、あの、寺塚、先輩?」

「なんかねー。こういう妹がいたらよかったなー、って思うのよー。そうたら、毎日からかってあげれるじゃないー?」

 その発言から寺塚先輩って一人っ子なんだ、とわかった。それと同時にこの人に妹がいたらその妹、いや、弟でもかわいそうなことになってただろうな、とも思った。

「それにねー。恋愛相談にも、のってあげれるわー」

 寺塚先輩は何を考えて何を思ってこんなことを言ってるんだろうか。今までの会話からは少し突拍子もないことだ。だから、あたしなんかじゃどういう意図があってこんなことを言っているのかがわからない。

 だけど、寺塚先輩のあたしの頭を撫でる手の感触が優しい、ということだけはわかった。

「あなたならー、博斗に好きになってもらえる気がするわー」

 そう言う寺塚先輩の顔は少しだけ寂しそうに見えた。

「あの、寺塚先輩ってもしかして瀬条先輩のことが……」

 好きなんですか?、とその後に続けようとした。けど、なんだかそれを言葉に出して言うのが怖かった。瀬条先輩が寺塚先輩に、大西さんのことが好きか、って聞かれて焦っていたのは寺塚先輩に言われたからなんじゃないかって思ってしまったから。瀬条先輩はあたしじゃなくて、寺塚先輩に気があるんじゃないかって思って怖かった。

 寺塚先輩はそれを気配で感じ取ったのかどことなく優しい声音で、

「大西さん、何を怖がっているのかしらー?」

 と、言った。あたしは、寺塚先輩の言葉に答えを返すことが出来ない。

「大西さんはー、わたしが博斗のことを好きだからー、博斗もわたしのことが好きだと思ったのかしらー?」

 あたしはその言葉を聞いてゆっくりと首を縦に振る。何故だか口が動いてくれなかった。

 寺塚先輩にあたしが思っていたことを言い当てられて驚いたせいかもしれないし、瀬条先輩が寺塚先輩に気があると思って怖がっているせいかもしれないし、それ以外の何かかもしれない。

「大丈夫よー。博斗がわたしのことを恋愛感情として好きになってくれることなんてないと思うわー。たぶん、わたしはどんなに頑張ってもー、ずっと単なる幼馴染としてしか見られないはずよー」

 あたしは、その言葉を聞いても素直に安堵できなかった。別に、寺塚先輩の言葉が嘘だと思ったからじゃない。寺塚先輩の言っていることは本当だって思う。

 じゃあ、なんであたしが素直に安堵できなかったかっていうかと、寺塚先輩の声色が悲しそうだったから。

「博斗はねー、昔から人との関係が変わりにくい人だったのよー」

「どういうことですか?」

「つまりー。博斗はー、一度友達だって強く思えばずっと友達だと思うしー、嫌い、とまではいかないけど気の合わないと強く思った人とはずっと気の合わないままなのよー」

 瀬条先輩はただ単に人に対する好き嫌いが激しくて気に入った人以外とはあんまり関わろうとしない人というわけじゃなかった。瀬条先輩は一度相手との位置関係が確定するとそのまま固定してしまうんだ。

 今まではゆっくりやっていけば大丈夫だと思ってた。けど、寺塚先輩の言ったとおりなら急がなければいけないような気がする。瀬条先輩が今あたしのことをどう思ってるのかは知らないけれど、友達だって思われたらもうだめだ。あたしの望む関係になれない。

「大西さん、不安そうねー」

 不安?うん、そうだ。あたしは不安に思ってるんだ。もし瀬条先輩に友達以上に思われなくなってしまったらどうしようかって。

「そんなに不安がる必要はないわよー。わたし、あんなに焦ってる博斗、はじめて見たわよー」

「なんのことですか?」

 本当に何のことかわからなくてあたしは首を傾げる。

「正直に話すのとー、歪曲した話を話すのとー、あえて黙っておくのとー、どれが一番楽しいかしらねー?」

「な、何を楽しもうとしてるんですか?」

 何かを企むような笑みを浮かべる寺塚先輩の顔を見てあたしは少し不安に思いながらそう聞き返した。

「あなたの反応に決まってるでしょー。……そうねー、正直に話したほうが面白いかしらー。でもー、このくらいのことなら気づいてもよさそうな気もするのよねー」

 後半から少し俯きながらそんなことをぶつぶつと呟いている寺塚先輩。

「あ、あの寺塚先輩?」

「大西さんにいいことを教えてあげるわー」

 あたしに呼ばれたからなのか、それともこのタイミングで自分でするつもりだったのかわからないが寺塚先輩は顔を上げてそう言った。

「いいこと、ですか?」

 寺塚先輩の意図していることがいまいち掴むことができず、あたしはオウム返にそう聞いた。

「そうよー、とってもいいことだからちゃんと聞くのよー」

 なんだろう、と思いながらも寺塚先輩の言おうとしていることを聞こうと耳を傾ける。

「これはわたしの憶測だけどー、博斗はあなたのことが好きなんだと思うわー。それも友達としてじゃなくてー、恋愛感情としてねー」

「えっと……?」

 寺塚先輩の言っていることが理解できなかった。難しいことは言っていないはずなのに何故かあたしの頭の中でちゃんと処理されてない。

 嫌だからとか、そんなんじゃない。すっごく嬉しくてあたしが望んでたこと。大きすぎてあたしの頭で中々、処理が進まないだけ。

 だから、時間が経つにつれて寺塚先輩の言葉が徐々に頭の中に浸透してきた。

「な、なんで!と、というか全然、そんな感じなかったですよ。て、寺塚先輩、あたしが瀬条先輩が、好きだってことを、利用してからかってるんじゃ、ないですか?だって、瀬条先輩が、そんなこと……」

 あたしはもうわけがわからず思いついたことから適当に言っていった。そのおかげで自分自身でも理解しにくいことを言ってしまった。

 体全体が熱いような気がする。あたしの感情は嬉しすぎるを通り越してよくわからなくなってる。今まで経験したことのないようなものだった。

「大西さんはー、博斗があなたのことを好きだって知ってー、嬉しくないのかしらー?」

「そ、そんなこと、ない、ですけど……。で、でも、あたしと一緒にいるときは、そんな素振り、全然なかったですよ」

「そうなのー?それって大西さんが緊張してて気がつかなかっただけじゃないのかしらー?」

「え?……そう、かもしれません」

 寺塚先輩の質問に答えているうちに気持ちが落ち着いてくるのがわかる。寺塚先輩と話していると安心できるような気がする。

「そうでしょー。それにねー、わたしが博斗に大西さんのことが好きなのか、って聞いたらすごく慌ててたわよねー」

「は、はい、そう、でしたね」

「それにはちゃんと気がついてたのねー。だったらなんで博斗がわたしのことを好きだなんて思ったのかしらー?」

「寺塚先輩が瀬条先輩のことを好きだってわかってから、瀬条先輩は寺塚先輩のことが好きなんじゃないかって思ったんです。それで、好きな人にそういうことを聞かれたから焦ってたと思ったんですよ」

 最初はあたしが好きだから寺塚先輩は焦ってたんだと思ってた。でも、それはないと思い直していたような気がする。それから、寺塚先輩が瀬条先輩のことを好きだってことに気がついたときにさっきあたしが言ったように思った。

「そうだったのー。でも、博斗のあの焦り方はー、あたしに聞かれたからじゃないと思うのよー。博斗のことだから好きじゃないなら素直に答えてたはずよー」

「え、えと、そ、それが……」

「そうー、それが大西さんを博斗が好きだと思った理由なのよー。でもー、本当かどうかは本人に聞かないとわからないわよー」

「確かに、そうですよね」

 あたしは、どうにか乱れないようにしながら寺塚先輩にそう返す。まだ、瀬条先輩があたしのことを好きだと決まったわけではないから。

「だからー、あなたが博斗に大西さんのことが好きかどうか聞けばいいのよー。それか、大西さんが博斗に好きだって言えばいいんじゃないかしらー?」

「あ、あの、そ、それってどっちも同じような気がするんですけど」

 好きかどうかを聞くのは言外にあたしはあなたのことが好きです、って言ってるのと同じだ。だから、前者を選ぼうと後者を選ぼうと同じだとあたしは思う。

「同じじゃないわよー。博斗はけっこう鈍いからー、好きかどうかを聞かれただけだと相手に好きになられてるって思わないわよー」

「そ、そうなんですか?」

「そうなのよー。だから、後者のほうが手っ取り早いわよー。今すぐにでも告白して聞いてみたらどうかしらー?」

 寺塚先輩はにやり、とした笑みを浮かべながらそう言う。ふと、寺塚先輩の顔がどこか未練を持っているような、そんな顔に見えた。

「あの、寺塚先輩」

「なにかしらー?」

 にやり、とした笑みは引っ込められ優しげな微笑を浮かべる。

「寺塚先輩は、瀬条先輩に、その……告白は、ちゃんとしたんですか?」

 何故だかわからないけど、寺塚先輩は瀬条先輩にちゃんと自分の想いを伝えていないような気がした。本当に理由はわからないんだけど。

 そんな漠然な理由ながらも寺塚先輩にあたしはそう聞いていた。

 もし寺塚先輩が告白していないままだったらもったいないような気がする。せっかく好きになった気持ちを相手に伝えないまま終わらすのは悲しい気がする。

 そう思って聞いた問いだった。


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