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第十一話 好きな人の幼馴染

 あたしが真由美ちゃんと亜美ちゃんに問い詰められたあとにお弁当を食べ始めた。そのときにはもう昼休みも半ばに差し掛かっていてゆっくり食べる時間がなかった。なので、食後にゆっくりする時間もなく、そのまま午後の授業へと入った。

 授業中は真由美ちゃんと亜美ちゃんが言った、勢いで告白をする、というのが頭から離れずずっとそのことに関して考えていた。

 あたしが猫の姿をして始めて先輩と出会った神社であたしが告白する場面。ねこじゃらしを見つけた夕方の土手で告白をする場面。そういうことばかりがあたしの頭の中を巡っていた。

 そのせいであたしの顔は赤くなりっぱなしだったと思う。他の人に顔を見られないように隠してたから本当のところはよくわかんないんだけどね。

 そして、気がつくと授業も終わり放課後になっていた。

 あたしは荷物を鞄の中に入れると生徒会室へ向かうために教室から出ようとした。そのときに、真由美ちゃんと亜美ちゃんが声をかけてきた。

「ゆかり、頑張るのよ。なんとしても今日、告白しなさい」

 真由美ちゃんが大きな声でそんなことを言う。お、大きい声でそんなこと言わないでよ。

「ゆかりさん、頑張ってくださいね。真由美さんのように告白しろ、とは言いませんが瀬条先輩との心の距離はつめてくださいね」

 対して亜美ちゃんはあたしの近くまで近づいてきて小さくそう囁いた。

「う、うん。がんばる、ね」

 真由美ちゃんまでは距離が遠いので亜美ちゃんにだけそう返す。先輩のことでいっぱいになっていたあたしは恥ずかしさが残っていて小声になっちゃったけど。あと、緊張していたのも原因かもしれない。

「大丈夫ですか?すごく緊張しているようですけど」

 亜美ちゃんはすぐにあたしが緊張していることに気がついたようだった。

「たぶん、大丈夫、じゃないと、思う……」

 緊張のしすぎで先輩とまともに話せるような気がしなかった。

「大丈夫よ。そんなに無理だと思ってるように思わないもの」

 いつの間にか真由美ちゃんがあたしの傍まで寄ってきていた。

 あたしはそのことに驚きつつも真由美ちゃんが言っていることは本当のような気がした。だって不安で喋らないだろうなって思ってる一方で話せるかもって思ってる自分もいる。

 たぶん、昨日先輩とまともに話をすることが出来たからかもしれない。そのおかげで今日もきっと話をすることが出来かもるって思ってるんだと思う。

「告白が無理だったらいつもどおりのゆかりでいけばいいわよ。それとも、最後の手段で色仕掛けとか使ってみる?」

「い、色仕掛けって……。あ、あたしには無理だよ」

 先輩の前では恥ずかしくて出来ない以前に、あたしに色仕掛けなんて言葉は似合わないような気がする。

「そうよね。ゆかりに色仕掛けなんて無理よね。色々足りてないから……。ま、あんたは可愛いんだから、色仕掛けなんか必要ないっか」

 あたしは、真由美ちゃんに可愛いって言われて少し照れる。自分ではいまいち認められていないことを他人に認められると少し気恥ずかしい。

「ゆかりさん、そろそろ行ったほうがよろしいんじゃないでしょうか」

 真由美ちゃんが加わってから見ているだけだった亜美ちゃんがそう言う。あたしは、時計を確認する。そろそろ、生徒会室に行かなければいけない時間だ。

「あ、ほんとだ。亜美ちゃん、ありがとう。それじゃあ、二人ともあたし、行ってくるね」

「あしたの結果報告楽しみにしてるわよー」

「面白い結果になることを楽しみにしています」

「た、楽しみになんかしてなくていいよ」

 そんな言葉を交わしながらあたしは生徒会室へと向かった。


 今日の生徒会は昨日とおんなじで文化祭に関する準備をしていた。あたしの書記、という役職は名ばかりで基本的に会長、副会長の補佐的な役目をしている。だから、瀬条先輩と一緒にいられる時間は結構長い。

 けど、仕事をしなければいけないので話をすることはできない。いつもはそのことをすごく残念に思いながら仕事をしているんだけど、今日はそんなことなかった。

 今日は先輩と一緒に帰ることが出来るからだと思う。いつもとは違う思いを抱きながらの仕事はいつもよりも速いペースで進めることが出来たように思う。

 そして、日が沈んで薄暗くなり始めたとき全ての生徒が下校しなければいけない時間になった。

 会長である寺塚沙織先輩が今日の生徒会の終わりの合図を告げた。これで、やっと帰ることができる。瀬条先輩と一緒に。

「大西さん、約束どおり、一緒に帰ろうか」

 いきなり声をかけられてあたしはびっくりして声を上げそうになった。とりあえず、どうにかそれは飲み込めたけど。

 我ながら最近は驚くことが多くなったような気がする。考え事に集中してるせいかな?

「大西さん?どうしたの?具合でも悪い?」

「え?あ、だ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけですから」

 考えるのに集中していたせいで先輩に返事を返すのを忘れてた。せめて先輩の前では考え事をし過ぎないようにしないと。いらない心配をかけそうだから。

「そう?ならいいんだけど」

 まだ少し心配するようにあたしのことを見ている。そのことがあたしにとって少し嬉しい。

「それじゃあ、帰ろっか?」

「はい!」

 嬉しさのせいで思った以上に声が弾んでしまった。そのせいで、まだ生徒会室に残っていた寺塚先輩にあたしの声が聞こえてしまったようだった。

「二人ともー。熱いわねー。特に大西さんのほうがー」

 妙に間延びした声でそんなふうに言う。生徒会の仕事をしているときはこんな喋り方絶対にしないが、個人的な話をするときはいつもこんなふうに間延びした感じに喋っている。

 私的な時はゆったりした人で、公的なときは真面目ではきはきした人という少し変わった人だった。

 まあ、そんなことよりも寺塚先輩はあたしと瀬条先輩が一緒に帰ろうとしていることに興味を持っているようだった。なんか寺塚先輩がこういうことに関して興味を持つのは珍しいな、とか思う。

 それよりも、寺塚先輩は何かを言いたそうだ。けど、向こうから何かを言ってくるような気配はない。とりあえず、あたしは寺塚先輩に適当な言葉を返した。

「あ、あの、寺塚先輩。い、いきなりどうしたんですか?」

「いきなりどうした、はわたしの台詞よー。いつの間に二人は一緒に帰るような仲になってたのー?」

 寺塚先輩は不思議そうに首を傾げながら聞いてきた。

「昨日だよ。散歩をしてたら偶然出会って話をしてみたら結構気が合ったから一緒に帰ってもいいかなって思ったんだ」

「そうなのー?でも、あなたから気が合うなんて言葉を聞くのは久しぶりねー。まあー、気に入っているってことは一緒にいることがすぐにわかるのだけれどねー」

 亜美ちゃんが言ってたこと本当だったんだ。瀬条先輩は人の好き嫌いが激しくて気に入った人以外とは関わろうとしないってこと。

「もしかしてー、博斗は大西さんのことが好き、なのかしらー?」

 寺塚先輩が瀬条先輩にした質問であたしが顔を赤くしてしまった。瀬条先輩に今の顔を見せたくないと思い顔を俯かせる。けど、瀬条先輩がどんな返答をするのか気になるからちゃんと瀬条先輩の言葉はちゃんと聞こうと耳を傾ける。

 そういえば、寺塚先輩、どうして瀬条先輩のことを名前で呼んでるんだろう。どういう関係なのかな?

「い、いや、そ、そんなことは思ってないよ。ほんと、ただ単に気が合うな、って思ってるだけだよ」

 あれ?瀬条先輩、焦ってるの、かな?もしかして、瀬条先輩あたしのこと……。って、そ、そんなことないよね。瀬条先輩はあたしと気が合うって思ってるだけであたしが瀬条先輩に好きになってもらうためにはあたしが頑張らないといけないんだ。うん、そうだ。

 あたしはあえてそう思って自分を落ち着かせることにした。瀬条先輩があたしのことを好きだなんて思っているとおかしくなりそうだった。

「ほんとー?だったらなんで、目をそらせようとしてるのかしらー?」

 寺塚先輩があたし達に近づいていることが気配でわかった。

「目をそらしたんじゃなくて今の時刻を時計で確認しようとしただけだよ」

「それを目をそらした、っていうんじゃないかしらー?怪しいわねー。幼馴染であるわたしに隠し事をするなんて許さないわよー」

「え?瀬条先輩と寺塚先輩って幼馴染だったんですか?」

 あたしは驚いて顔を上げてそんなことを聞いていた。

「ええ、そうよー。知らなかったかしらー?」

 寺塚先輩は瀬条先輩の顔を下から覗き込むようにしていたらしく姿勢を元に戻しながら答えてくれた。

 そっか幼馴染だから、寺塚先輩は瀬条先輩のことを名前で呼んでたんだ。なんだかそんなことを知って安心しているあたしがいる。

「大西さん、安心したかしらー?単なる幼馴染だって知ってー」

 も、もしかして心読まれてる?あたしにそう動揺させるほど的確な言葉にあたしは返す言葉も見つからない。

「そうだわー。わたし少し大西さんと二人っきりで話したいことがあるのー。博斗、外に出てもらっててもいいかしらー?」

「うん、いいけど、何の話をするの?」

「それは、秘密よー。さあ、早く出て出てー」

 寺塚先輩はそう言いながら瀬条先輩の背中を押して生徒会室から押し出していく。そして、扉を閉めた。これであたしは寺塚先輩と二人っきりになった。寺塚先輩、あたしと何の話をするんだろう。

 あたしはそんなことを思ってた。


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