第6話(上) 冒険者達と
馬車に乗せてもらってゲルド村に、戻ることになりました。
商隊のリーダーはカーネリアさんと言って、猫の獣人なんだって。そのせいなのか、商隊の中には獣人がもう2人いた。あまり長く立ち止まってると、モンスターに襲われるって話で、残りの人達の自己紹介は村に付いてからするって言ってた。
初めは乗り心地のいい、御者台の方に誘われたんだけど。
護衛の人達に色々と聞きたいことが出来たから、そういう人達が座るための、荷台の後ろに付けてある、簡易座席の方に一緒に座ることにした。
馬車は幌馬車って言えば判りやすいかな? その荷台の後ろにオマケみたいに板が飛び出してる。それが簡易座席で、護衛の人達がいつでも戦闘態勢を取れるように、すぐに降りる為にそうなってるって話だ。一応は1台に3人が座れる余裕がある。
今回の護衛の人達は、4人分の騎獣がいるから、かなり余裕を持って座れる。
それなのに、私の両脇には、まだ少年っぽさの残る若い(10代くらいかな?獣人の)男の子とローブの男が座ってる。狭いんじゃっ!
獣人の子はアカンサスって名前で狼の獣人らしい。短剣の二刀流で戦ってたけど、結構ひどい傷を負ってわたしが直してあげたのに感動して、引っ付いてるみたい。神人を見るのも初めてで目ずらしいんだろう。
ローブのおと……ファサードっておっさん(見た目は一番年寄りなんだよっ!)は、エリアエンチャントのやり方を教えろと、結構うざい。 わたしはスキルを選んで決定してるだけだから、知らないんだってばっ!
仕方ないから、「感覚だから説明できない」と言って誤魔化してるけど、こいつ信用しないんだよっ!
あんまりしつこいから、無視してアカンサスくんの方を向いて色々と質問してる。
「エンチャントって、出来る人はどれくらい居るの?」
「えっと・・・」
「そうだな、1属性が出来るので5百人に1人くらいか」
おっさんには聞いて無いんだよっ!
「2個以上の属性がエンチャント出来るのって凄いの?」
「それは・・・」
「もちろんだっ!2種出来る者は2千人に1人いるかどうかだぞ、しかも、わしの様に光の補助魔法まで使えるような者は、それこそ天才と言えるだろうっ!」
こいつっ! わたしはアカンサスくんと話してるんだよっ! そのうち耳とか尻尾のモフモフを堪能させてもらうために、親しくなりたいんだよっ!
このおっさん、いいかげんどっか逝けっ! 行け、じゃなくて逝けっ!
「そう言えば、護衛の仲間にはナイトっていないの?」
「え? 騎士は王に仕えるものだよ。冒険者になったら、それはもう騎士じゃないよ」
む? 職業の認識が違うのか? ナイトと言えばまあ、アカンサスくんの言ってる意味の方が正しい。
私の考えたナイトは、MEOでの壁役、物理攻撃に強くて、エンチャンターがいれば属性攻撃にも強い職業の事だ。ゲームの枠の中での職業とは色々と違うって事かな?
それなら、ナイトのスキルで……マジックフラッシュとかエレメントウォールが使える人の事をなんていうか聞いたほうがいいのかな?
マジックフラッシュは魔力か付与された属性を収束させて、一気に放出してモンスターの目くらましをするスキルで。エレメントウォールは盾を中心に付与された属性の壁を作る防御スキルのことね。
でも、エリアエンチャントが知られてないって事は、下手にスキルの事を話題にするのは、問題があるかもしれない。「エレメントウォールってなに?」とか聞かれても、自分じゃ出来ないし、どうやるのかなんて判らないし、「じゃあ何でそのスキルしってるの?」とか聞かれても困る。
「エンチャントは判るんだけど、武器を持ってる人達もなにか技を使ってたでしょ? あれって何なのかな?」
おっさんはエンチャントのスキル以外に妙味が無いのか、珍しく黙ってるね。
「ああ、スキルの事だね。神人はエンチャントのスキルが出来るのに、ほかのスキルの事はしらないの?」
うわ、聞き方を失敗した? えーと、どうしよう?
「神人と言う種族は、魔力以外は低いと聞いたことがある。そのせいで、他のスキルに詳しくないのかも知れんな」
おっさん、珍しくナイスフォロー!! ちょっとだけ許してあげる。
「そうなんだ。じゃあ、150年前に魔族が現れ始めた頃に、そんな奴らと戦う為の力として、スキルを創世神様から授かった事は知ってるよね」
そうなのか。
「う、うん、もちろん」
「きみが使ってるエンチャント、そして、魔力が少なくてそんなスキルが使えない武器で戦う人達に、魔力の消費が少ない武器を使ったスキルを授けてくださったんだ」
ふ~む、スキルって呼び方でいいのか。
「どんなスキルがあるのかな?」
「ラッシュって言う連撃や、ヘビィブロウって言う強打、ボクだと二刀流のダブルラッシュってスキルを使ってるよ」
「ふ~ん」
ナイトの話の時から思ってたけど、ここだとスキルの使用に職業の制限が無いのかもしれない。
「ああっ、弓だとダブルショットって言うのもあるよ」
騎乗して護衛をしてたエルフのお姉さんが、いつの間にか近づいて来て睨むと、弓スキルの説明を慌てて追加してきた。
お姉さんは弓を背負ってるもんね。
「スキルは直接戦いと関係ない物もあるの。隊長の乗っているランナーバードも、ライディングのスキルで乗る事が出来るようになってね。その他にも、まだ発見されていない物も有るって言われているわ。神の授かり物の全てを、正確に受け取れた者が居なかったからって話ね」
お姉さんが追加で説明してくれた。そうか、あの鳥はやっぱりランナーバードだったのか。ゲームだとライディングってスキルで、熟練度が上がると馬・ランナーバード(見た目チョ○ボ)・シムルグ(大きな鳥)・ワイバーン(前足が翼になった、でっかいトカゲ)、の順番で乗れるのが増えてくんだよね。
う~ん。じゃあエリアエンチャントも、そんな受け取り損ねた物と同じなのかな?
この辺りは、よく判んないなぁ。
スキルと職業については、これ以上の事はなさそうかな。
ちょっと気になってた事もあるから、冒険者ギルドの事でも聞いてみよっか?
「護衛のみんなは、冒険者ギルドのメンバーなんだよね?」
「ああ、う……」
「勿論だともっ! 特にわれわれチーム黒狼は、この辺りでは知らぬ者のない、有力チームなのだっ!」
いや、わたし知らないし。てか、またお前かっ!
「チームって?」
「チー……」
「チームと言うのはな、冒険者ギルドの依頼によっては、大きな仕事を複数人で行うことがある、しかし急造の組み合わせでは上手く行かない事の方が多い。そのような依頼を専門で請け負うのがチームだ!」
意味はわかったけど、アカンサスくんに話をさせてあげなよっ! わたしだって、おっさんのダミ声より、声変わりしてないんじゃないかって言うくらい、高くて可愛い声のアカンサスくんの声をもっと聞きたいんだからっ!
さあ、アカンサスく~ん。
「そもそも、冒険者ってどうして冒険者っていうの?」
「うん、それ……」
「それはだなっ、偉大な新大陸の発見者! 冒険者クラン・クラウンがギルド創設者だからなのだっ。そのそも冒険者とは、国の纏まらぬ頃に用兵としてして戦っていた者、滅ぼされた国の兵士が、戦の無くなったこの世界で、戦うことしか知らぬ者達の相互援助組合の様なものから始まった。だがその頃はまだまだ地域内での集まりに過ぎなかった! それを偉大なクラン・クラウンが国に縛られぬギルドとして纏めたのだ! 傭兵ギルドでは昔の戦いを思い出させるとして、自身もそうであった冒険者の名を取り『冒険者ギルド』としたのだっ!」
ながっ! しかも妙に、熱い語りだったぞっ!
「まあ冒険者と言っても商隊の護衛とか、最近活発になってきた魔物の退治とかが中心なんだよ。まあ初心者は大きなチームに入って、修行することが多いけどね。ボクもそうなんだよ」
おっさんが、長話で息を切らした隙に、モフモフのアカンサスくんが説明してくれた。
「修行が多いって、それ以外は?」
「だいた……」
「それ以外の才能の無い者はチームに属さず、一般人が行くには危険な地域の薬草採取や鉱石の採掘等を行うやつが多いな」
うっさい、お前は空気を読む才能が無いんじゃ!
このおっさんは疲れる。今さら1人で先に行くのも変だし、どうしたもんか。
「そうやって始まったギルドなんだけど、まだ傭兵の集まりだって思っている人達も多いのよ。でも最近は、ソアラ国王が魔王を倒す勇者を募るために、ギルドに資金援助をしているって言う話もあってね。そのうち全ての村に冒険者ギルドの施設が出来れば、そんな考えもなくなってくると思うの」
このエルフのお姉さんできるっ!
多分、まだ駆け出しで詳しくないアカンサスくんや熱くなって言いたい事しか言わないおっさんの、足りない説明をちゃんと追加で教えてくれる。
姐さんと心の中で言わせて貰います!
知りたいことも大体聞けたし、黙ってるとおっさんの話がうるさいから、寝た振りでもするか。もちろんアカンサスくんの方に寄りかかってなっ!
「ん……なんだか疲れちゃって……」
うつらうつらと、眠たくなってきた振りっ!
そして、アカンサスくんの方へ!
コテ。
「えっ、あの、だいじょ……」
「村まで寝かせてやりなさいよ。恩人の枕代わりくらい黙ってやるっ」
さすが姐さん! 一生付いて行きやすぜっ!!
なんて考えてたら、本当に眠くなってきちゃったよ。
ふあ~ぁ。村に着いたら起こしてね~。
ちょっと短いですが、この流れだと、ここで切るしかないと思ってしまいました。
4/27:話数の追加と共に、こちらの題名を変更して、次話と上下構成にしました。