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コメディー短編(ファンタジー)

勇者です。旅立ちの日を迎えたのですが……。

作者: 多田 笑
掲載日:2026/05/01

少しでも笑っていただけたら嬉しいです。

 その日、オルフェスは十六歳になった。


「いよいよね……」


 母は、いつになく神妙な顔で言う。


「今日、あなたは勇者として旅立つのよ。その前に、まずは王様にお会いしなさい」


「分かってるよ、母さん」


 生まれたときから、オルフェスは言われてきた。「あなたは勇者よ」と。


 理由は分からないが、とにかく彼は勇者らしい。


「魔王を倒してくるよ」


「ええ……頑張って」


 母は頷く。


 そして、オルフェスは王城へ向かうのだった。



 王城に着く。


 門番はオルフェスの姿を見るなり、何も聞かずに通した。


「ご苦労。謁見の間は真っ直ぐだ」


(さすが勇者……扱いが違うな)


 やがて彼は、巨大な扉の前に辿り着いた。


「勇者オルフェス、参りました!」


 思い切って名乗ると、重厚な扉がゆっくりと開く。


 中は、荘厳な謁見の間だった。


 赤い絨毯、並ぶ兵士たち、左右に控える貴族らしき人々。すべてが厳かな空気に包まれている。


(すごい……)


 オルフェスは緊張しながら、中央へ進んだ。


 玉座には、王様が座っている。


「よく来た、勇者よ」


 低く、よく通る声。


 オルフェスは跪いた。


「はっ!」


「そなたが選ばれし者であること、既に聞いておる」


(やっぱり俺、特別なんだな……)


 少し誇らしくなる。


 王様はゆっくりと語り始めた。


「この世界には、再び魔の気配が満ちつつある。遠き地にて、闇が蠢いておるのだ」


 オルフェスは真剣な顔で頷く。


「人々は不安に怯え、助けを求めておる。そこで──」


 王様は、まっすぐにオルフェスを見据えた。


「そなたに、その使命を託したい」


「はっ……!」


 胸が熱くなる。


「困難な道となろう。だが、そなたならば乗り越えられると信じておる」


「必ずや、成し遂げてみせます!」


 思わず声が大きくなる。


 王様は満足げに頷いた。


 そして──


「さあ、旅立つのじゃ、勇者よ」


 その言葉が響いた瞬間。


「はっ!」


 背後から、力強い返事が聞こえた。


 オルフェスは思わず振り返る。


 そこには、鎧を着た一人の兵士がいた。


 彼はきびきびと敬礼すると、そのまま踵を返し、堂々と謁見の間を出ていく。


 扉が閉まる。


「……え?」


 オルフェスはぽかんとした。


 今のは、どう見ても兵士。


 なのに、まるで自分に命令されたかのように──いや、完全に命令を受けていた。


「王様、今のは……?」


 恐る恐る尋ねる。


 王様は当然のように答えた。


「あれは、西の勇者だ」


「西の勇者!?」


 さらっと言われたが、聞き流せない。


「え、えっと……勇者って……」


「うむ?」


 王様は首を傾げる。


「どうした」


「いえ……なんでもありません……」


(え……どういうこと!?)


 混乱するオルフェスをよそに、王様は再び口を開いた。


「では、続けるぞ」


 先ほどとまったく同じ調子で。


「さあ、旅立つのじゃ、勇者よ」


「かしこまりましたわ」


 今度は、右手の列から優雅な声が響いた。

 そこには、豪華なドレスを纏った貴婦人が立っていた。彼女は優雅に一礼すると、スカートを翻しながら歩き去っていく。


 カツ、カツ、とヒールの音が遠ざかる。


 扉が閉まる。


「……え?」


「南の勇者だ」


「いやいやいや、ちょっと待ってください! 勇者って、え、ふく……?」


「うむ?」


 王様はやはり不思議そうな顔をする。


「……続けるぞ。さあ、旅立つのじゃ、勇者よ」


「押忍!」


 今度は左側。筋骨隆々の男が勢いよく立ち上がった。なぜか道着姿だ。


 彼は拳を握りしめ、気合を入れると、そのまま走って出ていった。


「東の勇者だ」


(方角で管理してる!? ということは、俺が北の勇者……? 勇者は四人ってこと……?)


 しかし、オルフェスの考えは甘かった。



 子どもの勇者が「ほっほーい! オラ、勇者だゾ」と旅立つ。


「南南西の勇者だ」


(十六方位!?)



 黄色のスーツの男性が「ゲッツ!」と言って、扉に向かう。


「赤の勇者だ」


(色!? “白って二百色あんねん”って、言われてるのに……? しかも、なぜ黄色じゃなく“赤の勇者”なの!)



 明らかに忍者という風貌の男性が「拙者が、魔王を倒すでござる」と呟いて去る。


「忍びの勇者だ」


(“忍びの勇者”……。忍者でよくない……?)



 邪悪なオーラを放つ悪魔が「フハハハ……我が闇の力で、この世界を恐怖のどん底に陥れてやる!!」と叫び、扉を破壊して出ていく。


「魔王だ」


(魔王!? アイツが魔王!! 勇者ですらないし、悪の権化がなぜここに……)



 気がつけば、いろんな「勇者」が、王様の「さあ、旅立つのじゃ、勇者よ」に応じて出ていった。


 数十人、いや、百人はいただろう……。


(多い多い多い多い多い!!)


 ツッコミが追いつかないまま、時間だけが過ぎていく。


 やがて、静寂が訪れた。


 謁見の間に残っているのは──


 玉座の王様と、オルフェスだけだった。


 広い空間が、やけに寒々しく感じる。


 そして、オルフェスは、ようやく疑問を王様にぶつける。


「……あの」


「なんだ」


「勇者って……一人じゃないんですか?」


 王様は、穏やかに微笑む。


「何を言う」


 ゆっくりと立ち上がる。

 マントの下から、年季の入った剣が覗く。


「勇者とは、勇気ある者すべてのことよ」


 王様は剣の柄に手をかけた。


「そして──」


 にやり、と笑う。


「余もまた、勇者である」


「やっぱりかーい!!」


 謁見の間に、オルフェスの叫びが響いた。


 こうして、多くの勇者が旅立つのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
あれ?この勇者達は魔王を倒す旅にでるんじゃないの? 肝心の魔王がいたけど別の魔王なのかな? それとも「光と闇の力を持った勇者」だから魔王と呼んでいたとかかな? そこのツッコミは追加して欲しかったな〜
勇者がこれだけいれば、王国は安泰ですね。 魔王ぼっこぼこだろうなあ……
単調な感じがクセになります。会話運びがとても楽しかったです! (*^▽^*) 正直、シリアスな"勇者"だって誰が勇者にしているのかなぁという気さえしてきました。ホント、勇気ある者なら誰でも勇者に٩(…
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