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妖狩:第二部  作者: 定春
第二部:北編
4/10

EPISODE59「雪童」

第二の厄災“戦争のノブナガ”が突如始めた「ウォーゲーム」なる全世界の妖による殺し合い。それを止めるべくさらに強力な仲間たちを集めるために風雅は北の大地を踏みしてた。

        

     ー9月10日 ゲーム開始から約1週間ー


風雅たちは暦の作った道標通りに歩き、交通機関を使い、近づいていく。ホテル等で休息を取っていたが、風雅と円以外は疲労が溜まっていた。

「なー何故お主らそんな体力保つんじゃ?」

「なんでだろ?でも妖狩(エージェント)時代は犯人追って1週間くらいは動いてた時もあったからそれよりはまだマシってくらいかな。でも厄災を倒すために急ぐんじゃないんですか?暦さんよ。」

「自分で言った手前それは大事じゃが、時には休息も必要なことが今回で解ったわ…。」

暦はベッドに飛び込んで極楽の表情で溶けていく。

「花ちゃんも疲れた?」

「うん、ちょっとヘトヘトかなぁ。」

ここで疲れていない風雅は一人仲間集めをすることにした。残りのメンバーはホテルで休憩だ。

風雅が出ていった後の部屋は一瞬静寂であったが、花と暦は椅子のうえで目を瞑っている円をじっと見つめた。

円はその視線に気づき目を開けた。

「なんだ、なんか用か。」

「いやーお主のその長ーい髪の毛が気になってなー。」

「お手入れしようか切ろうか迷ってるのー。」

まるで洗脳されたかのような伸ばし棒まじりの話し方に若干の気まずさを覚えた。

「一緒に美容院行かない?円くん。」

「お前ら疲れて可笑しくなったのか…この髪は武士の誇り、そうやすやすと切っていいものではない!」

「武士の誇りならちょんまげにしなさいよ…。」

椛、ナユタまで花と同じ意見に染まってきた。

「なんてことだ…。」


         ー函館 市街地ー


 風雅は一人市街地を私服で探索していた。なにせ妖狩エージェントたちは警察、妖狩・律、財団HANDの三勢力から追われる身となっている。

財団HANDとは全国各地で暗躍する非合法組織。この世の真理を探求するため、日々怪しい実験を行っている。誘拐・人体実験まで被害を出しているのだ。

花たちのように過去に生きていた人たちを現代に蘇生させる人造人間ホムンクルス計画も財団HANDが行っていた。

風雅は人が多くいるところを避け、少ない所を散策する。

(レーダーならこの辺なんだよな…。)

路地裏に差し掛かった。そこで風雅はとある異変を感じた。

「蜘蛛の巣…?」

辺り一面に蜘蛛の巣が掛けられていた。一般的に考えれば掃除が行き届いていない箇所に蜘蛛の巣が湧くのは当然だと言えるが風雅の見た蜘蛛の巣はその常識を真っ向から覆すものだ。

大きすぎるのだ。人一人が絡め取られるほど大きな蜘蛛の巣が路地裏に点々とあるのだ。

「こりゃマダガスカル産じゃなさそうだぜ…。」

「御名答!」

パンパンと何者かが拍手をしながら暗い路地裏の向こうから歩いてくる。その姿は黒いスーツを来た紳士口調の男で、蜘蛛のフルフェイスマスクを顔に着けていた。

「あなたなら迷い込んでくれると思っていましたよ元妖狩エージェント・『神狼』。」

「そういうお前はりつのメンバーだな。クモ男。わざわざ俺のこと追っかけて来たのか?」

「いいえ、あなたは大変重大なミスリードをしている。律の本部はここ北海道。あなたは知らず知らずの内に追手の本拠地に乗り込んでいるネズミさんです。」

クモ男が風雅に掌を見せた直後、突如その掌から太い蜘蛛の糸が放出された。

間一髪で避けたが、その糸は見ただけでも凄まじい威力を秘めていることが分かり、一回でも捕まればアウトだ。

「私の術式はこの捕獲糸だけだとお思いですか?!」


          ー「“ストリング”」ー


掌からだけではなく指先から糸を出し、風雅を攻撃する。捕獲ではなく攻撃の手段としてその糸を使えば鋼以上の強度と切れ味を持った遠近両用の武器となる。


かすっただけでも建物の外壁に傷がつき、室外機は切断された。室外機が落ちた音で振り返ってしまった風雅は隙を作ってしまう。

クモ男は風雅を掴んで跳び上がった。

着いたのはビルの屋上、風雅は胸ぐらを捕まれ、屋上の外側ギリギリまで詰められてしまう。

「ほらほら抜け出さないと落ちますよ…!」

「このくそ…!俺虫大嫌いなんだよ!!」

風雅は持ち前のパワーでクモ男の腕を振りほどき、屋上ギリギリという所でパンチを繰り出し、クモ男を後退させた。

クモ男は頭を抱えてマスクの下で少し微笑んだ。

「さすがは10年も妖を狩っていただけありますね…なんと重く強いパンチ!並の妖ならば灰になっていたでしょう…。」

「教えろ、お前ら“律”ってなにもんだ。」

「あなたはどうせ私に殺される。冥土の土産に教えてあげましょう。我々“律”は財団HANDの支援で結成された組織。我々は財団のために、財団は我々のために動くのです。そのためには邪魔なあなた達を消す必要がある…だからこのウォーゲームに乗じて殺しに来たのです。」

「どこまでいっても財団、財団…むかつくぜ!」

だがそのクモ男の自白は後悔することになるだろう。クモ男は風雅の実力を完全に見誤った。


風雅はクモ男に掴まれ跳ばされた時、体に充分な風を受けた。つまり全力に近い力が出せる。

風雅の体の中からギュイインという風の音が響く。

「情報ありがとよ。このまま俺から逃げねぇと落ちるぜ?」「何!」

風雅は持ち前のスピードで一瞬で間合いを詰め連続攻撃を繰り出す。そして蹴りなどを駆使して追い詰めるものの、クモ男は風雅の首めがけて糸を放って首を絞めた。

「くっ…!」

「私がそう簡単にやられるわけないでしょう!ここで負けたのなら“律”の恥、私は切り捨てられる!!」

「お前みたいな殺人とプライドしか頭にねぇやつが…人間みてぇに悩んでじゃねぇよ……!」


風雅の冷酷な視線がクモ男に突き刺さる。そして体の中に風を起こし、身体強化で首の糸を吹き飛ばした。

「“旋風・V3”!!」

“旋風”は“疾風弾”とは違い、威力は重く力強さに全振りした技であり、一点集中を更に極めている。それをV3にまでギアを上げて、ついにクモ男をビルから落とした。

「覚えてろぉぉぉぉ!!!」

そう言いながら落下し、ドンッ!という音が聞こえた。

「ごめんなさい、誰だっけ…。」

風雅は体を引きずりながら他のビルを伝って徐々に下へと降りていく。


 「あそこの公園で休憩しよう…。」

風雅は怪しまれぬように特殊防護服を解除し、目の前には小さな公園が見え、青色のベンチに座ろうとした時隣に同じタイミングで座った青年がいた。

「あっ、すみません…。」

「いえいえ僕こそ…」

       

            『あっ』


風雅の隣に座ったのは片手に棒付きアイスを持った白髪の青年。そして顔見知りの人物であった。

「お前、“真白ましろ”!」

「風雅くん!?」


二人はベンチに座って話すことになった。

「何年ぶりだ…?」

「戦争が終わって、ざっと60年ぶりくらいかな…。」

「ところでさ、」

「“ウォーゲームに参加するために協力してくれ”でしょ?」

「!、何故それを…。」

「君の思いつくことなんて分かってるからね。でもね、僕はもう戦わないよ。」

真白は風雅のことを見ずともキッパリと断った。だが風雅は諦めずに勧誘し続ける。

「でもこのまま戦わなきゃ、世界が滅びるんだぞ!」

「別に良いよ、皆消えちゃうならそれも受け入れるしかない。それに僕にはもう家族がいる。僕の事はもう放っといてくれないかい?」

真白は最初優しく儚げな顔をしていたが、徐々に笑顔が消えていき真面目で冷徹な視線を風雅に向ける。

「それでも僕らに関わろうものなら、いくら君でも容赦しない…。」

真白から冷たい妖力が放出され、手に持ったアイスに霜が付き始めた。

このまま行けば何かが始まるかも知れないと思った風雅は何も話さなかったがその場の空気が一気に凍り付く。

その時だった場の空気が解凍されたのは。


「あっ、真白さんいた!」

「!?、げ、“雪ちゃん”!」

二人の前に現れたのは買い物袋を両手にぶら下げた少女であった。

「また場の空気凍りついてましたよ、私にはわかるんですからね!」

「雪ちゃん怖い怖い!ほら、スマイルスマイル〜!」

真白はゆきと呼ばれる少女に詰められるも、両頬に指を差して「スマイル、スマイル」と呼びかけた。

若干呆れかけたいたが雪は左腕の買い物袋を真白につきだした。

「これ、持ってください。」「へ?」

先程まで風雅に冷たい視線を向けていた真白がここまで尻に敷かれているとは風雅も思わなかった。

「あの、うちの真白さんが迷惑をかけたようですみませんでした…」

「(お母さん!?)いやいやそんな迷惑だなんてかかってないよ。」

きっと真白の言う家族とはこの子の事なんだろうと風雅は雪に優しい笑顔を見せた。

(そうだそうだ僕は迷惑をかけてない、迷惑なのは君の方さ。さっさと東京に帰ってくれ!)

「あっ、風雅さん私たちのお家に寄っていきますか?最近肌寒いようなので真白さんの御友人をこんな外に放ってはいけませんし。」

「なっ!」

真白は雪の言葉に衝撃を受け、ショックの電流が走った。

                EPISODE59「雪童」完


           次回「蜘蛛」

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