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妖狩:第二部  作者: 定春
第二部:『光と闇、過去の因縁を覗け』
19/30

EPISODE74「月闇」

風雅たちが刺客に襲われていると同時刻、人造人間ホムンクルスの青年・円は記憶と能力を取り戻したかつての友・ヒカルと激突する。


 二人はかつての栄光に満ちあふれ、そして地獄のような過去を回想する。


円は村を襲った巨大熊に立ち向かい、妖刀・“月闇ツクヨミ”で一刀両断したが、その際に死に際の反撃を食らい死亡。そして妖として覚醒してしまったのだ。

そこから七年の歳月が流れ、円、ヒカルは18歳になった。

ヒカルは長い茶髪を一つに束ね、男女両方から惚れられる程の美しさを持ち、彼もまた七年の内に妖として覚醒した。


やがて二人は都にたびたび現れる妖を討伐してほしいと京都のお偉方から依頼されるようになり、風雅よりも先に活躍した最初の妖狩りとして日々戦いに身を投じていた。

ヒカルは光の術式を使い、刀に光を纏わせた後、無数の光の刃を作り出し、敵を葬り去る。

一方の円は敵との極限の戦いを楽しみ、楽しんでいた。

当時の妖たちは今の妖と違って術式の自由度は低く、自然に関する物が多かった。

その中でも円は別格の強さを誇り、最凶の式神を召喚する。


        「斬り裂け『鬼神』!!」


赤い稲妻を放ちながら円の影から巨大な黒鬼が姿を現した。その黒鬼の張り手だけで、盗賊の妖を粉砕し、残すは頭領のみとなった。

「“武装ぶそう”!!」

そして『鬼神』をその身に武装する。今の『鬼神・零式』のような左腕強化の武装ではなく、この時の武装は“月闇”に『鬼神』を纏わせて変化させた巨大な鎌である。黒き鎌を担ぎながらゆっくりと頭領に近づく。

「ま、待て!金ならいくらでもやる!だから…命だけは…。」

「戦士が命乞いしてんじゃねぇ…すぐにあの世へ送ってやるからじっとしてろよぉ。」

頭領はその忠告を聞かずに円の前から逃げ出した。

「じっとしてろと言ったのに…そんなに死にたいのか…」

「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!」


           「“斬月”!!」


鎌から鮮やかな紫の斬撃波を放ち、頭領の首を吹き飛ばす。

「これにて一件落着!」

「はぁ…君はもう少し上品にできないのか?武士らしく…。」

「相手を殺すのに品なんて求めてんじゃねぇよ。これは狩るか狩られるかの命のやりとりだ!」

「君の話はもう耳に蛸が出来る程聞いたよ。早く帰ろう鶴が待ってる君の妻だろ?あまり心配かけるなよ。」

「わーってるよ!」

円は赤面しながら武装を解き、“月闇”を鞘に納める。


 その帰り道、二人はそれぞれのことについて話し合っていた。

「もうかれこれ七年ほどになるが、君の刀、つく…よみだったか?その、妖刀を使ってて君の体は大丈夫なのか…?」

「んあ?あーもう全然平気よ。すっかり体にこいつの妖力が染み付いちまってよぉ逆に俺が離れらなくなっちまってよぉ…。」

「それ、大丈夫なやつなのか?」

「それよりお前も妖になったけどよぉ、自分の術式に ー「“天照アマテラス”」ー なんて大層な名前付けちゃって大丈夫なのかよ? 」

「何を言う、私こそがこの世の正義であり光そのものなのだ。悪しき者は全て罰するこれが私の信条だ!」

と自信満々に胸を叩く。光の術式を身に着けた者は強大な力を得るがその心に絶対的な正義を刻み込む。

元々正義感と自尊心の塊であったヒカルには相性が良すぎた術式だった。


夜になって村に到着、二人はそれぞれの家へと帰っていく。円は道場師範の娘・鶴と結婚し、幸せに暮らしていた。

「お帰りなさいませ兄様。」

鶴は小さい頃から悪ガキ二人と遊ぶ内に何故か円を兄様と呼ぶようになった。

笑顔で振る舞ってはいるが、円にはとある秘密があった。


「ぐ、ぐぁ!あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙……!!」

その晩円は自室で藻掻き苦しみ、鶴を起こさぬように大きな声は出さずに胸を抑えつける。畳が剥げるほど足をバタつかせあと、静かに外まで出てそのまま山の中へと走った。

「ふぅ…ふぅ…!がぁぁぁぁ!!!」

しかし途中で痛みに耐えかねて倒れてしまい、仰向けになり、悶絶する。

(何だこの痛みは…!妖になってからというもの、日に日に痛みは増してく!!)

そして円の身体からは黒いモヤが溢れ出し、そのモヤは夜の山を包み込んでしまう。


巨大な妖力を感じ取ったヒカルは飛び起きて急いで山へと向かう。

「この力はまさか…、円!」

「うぐ、ぐ、あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!」

徐々に円は闇に蝕まれ、このままでは体全体が闇に包まれてしまう。

「円ぁぁ!」

ヒカルは抜刀と同時に光を刀身に纏わせた黒いモヤまるで生きているかのようにその光を避け続けた。そして逃げる避ける黒いモヤを問答無用で刀で突き刺した。

モヤはうめき声のような音を上げながら手を作ってヒカルに襲い掛かる。

「“閃光”!!」

刀から放つ光の一閃が闇の触手を斬り裂く。そしてモヤの中を刀で祓いながら進むと、もうすぐ闇に包まれようとしている円の姿が見えた。

「円…!少し痛いが我慢しろよ!!“彗星ほうきぼし”!!」

光を纏った拳を円の体に直接打ち込むと、モヤは断末魔のような音を出しながら消え去った。


「ごほっ、ごほっ!……ヒカル…?」

「気がついたようだな…良かった。」

円は正気を取り戻し、すぐに起き上がった。そして胸の痛みは消えていた。円はヒカルに感謝しようと彼の顔を見ようとした瞬間、ヒカルは円の喉元に刃を向ける。

「今すぐその術式を私に渡しなさい。」

「…ヒカル…?」

「やはりこうなると思っていたんだ…最近戦うたびに黒いモヤが君を包んでいた!危険な物だとずっと見張っていた…君の力は危険だ!今すぐその術式と刀を私に譲りなさい!!」


いつものヒカルではなかった、いや今までも正義感の塊であったが、最近のヒカルは村の名物爺さんにちょっかいを掛けた子供たちに手を出し、浮気をしてしまった友人を躊躇なく切り捨てた。昔ならば一緒に円と馬鹿なことやって怒られて、それでも懲りずに悪戯三昧。昔は円が村で嫌われていたが、現在村で嫌われているのはヒカルの方なのだ。

「おい…最近のお前おかしいぞ…。」

「おかしいのは君の方だ。声を掛けても返事はせず虚ろな目で空を見て、鶴の声にも反応しない…私に術式を渡した方が苦痛は無くなるのではないかな?」


さらに刃を深く向け、渡さないと命を奪うと言わんばかりと迫る。

「嫌だね!第一術式の譲渡なんて聞いたことねぇよ!」

「ならば君をこの場で殺して奪うのみ…そうすれば村の人たちも鶴も君の死因を知らずに平和に過ごせる。許せこれも私の正義のため!!」

とうとうヒカルは刀を友に向け、強硬手段に打って出た。ぎりぎりで避けることに成功し、“月闇”と叫び、手を掲げると黒刀が円に呼応し、道場から飛んできてくれた。

「やっぱりお前おかしいぜ!くっ!」

円は刀を振るって意図的に黒いモヤを作り出し、姿を消した。

「待て、どこへ行った“鬼子”!!」


 徹底的に自己満の正義を実行しようするヒカル、次第に何かに染まっていく円、二人の袂はこの時完全に別れた。そして村には地獄がやってくる…

                EPISODE74「月闇」完

 

           次回「信長」

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