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妖狩:第二部  作者: 定春
第二部:『光と闇、過去の因縁を覗け』
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EPISODE73「月光」

風雅たちが刺客に襲われていると同時刻、人造人間ホムンクルスの青年・円は記憶と能力を取り戻したかつての友・ヒカルと激突する。


 北都の遥か北の大地で光と闇の決闘が始まり佳境を迎えていた。

ヒカルの術式 ー「“天照アマテラス”」ー は光を操るが、その身に絶対的な正義を燃やす。


対して円の術式 ー「“月闇ツクヨミ”」ー は闇を操る力を持つが、次第に闇が心を染めていく。


ヒカル…お前は一体何がしたいんだ…?」

「私の目的はただ、厄災をこの手で全て倒し、この世の害獣であるお前たち妖を消し去ることだ。」

「それはお前の恩師である八雲 風雅も入っているのか…?」

風雅の名前を聞いた時、一瞬だけヒカルの指がピクりと動いた。動揺しているのだろうか。

「あの人は…私の器の恩師…関係ない。」

「その割には思い入れありそうじゃないか…。だいたいお前の言う正義とは、自分の力が一番強いと知らしめるための自己満に過ぎない!昔のお前はそんな人間では無かっただろう…。」

「黙れ!誰が何と言おうと私こそがこの世の正義なんだ!変わったのは君の方だろ!」


          遡ること戦国時代


とある村に二人の悪ガキがいた。よく二人でつるんでは野原で駆け回り、近所の老人にちょっかいを掛けては村長に毎日怒られていた。それでも悪ガキ二人は笑い、幸せと言える日々を過ごしていた。

ある春の日、悪ガキたちは互いに木刀を持って稽古をしていた。

「どうした、このままでは私がまた勝ってしまうぞ?」

「うるせー!今度こそお前に勝つ!そして日本一の剣豪になってやる!!」

「ははは、君が剣豪?夢のまた夢だな!」


ヒカルは元々武士の家系の生まれだが、戦で一族は殺害され、彼だけが取り残された。わずか5歳にの体力で死に物狂いでたどり着いたこの街で平和に暮らしている。彼は天才的な剣術でもう一人の悪ガキの足を掬って首元に木刀を向ける。

「また私の勝ちだな。」

「くぅぅ!まだだまだやれる、もう一本だ!!」

「もう今日だけで五本勝負してるじゃないか…しかも全て私の勝ちだ。君は本当に鬼子なのかい?力だけなら私を簡単にねじ伏せられるはずだが?」

「それじゃ簡単に勝っちまうから面白くねーだろ。」


もう一人の悪ガキはまどか

今の円とは違い、瞳は血のような紅色ではなく藤の花のように鮮やかな紫色の瞳を持っていた。

親や兄弟は誰も知らない。生まれてすぐに寺に放置されていたらしい。寺の住職が赤子だった円を拾い上げて顔を見た時、あまりの恐ろしさに気が狂ったようにお祓いを始めたらしい。

それもそのはず、拾われた円は生後一か月未満という状態ですでに鋭い二本の歯が生えていたらしい。

それゆえ“鬼子”と呼ばれ、村の大人たちから恐れられている。

しかしヒカルだけは自分のことを“鬼”ではなく“人”として扱ってくれるから毎日遊び、互いに鍛え合う間柄へと成長した。


ヒカルは円の手を取り立ち上がらせ、再び木刀を向ける

「四十五勝六敗、君は六勝四十五敗…これ以上勝てる確信はあるのかい?」

その自分の戦績を自慢するかのような発言にさすがの円も少しカチンと来た。

「お前はいつも俺と遊んでくれるけどよぉ、嫌いな所が一つだけある…妙に自分に自信があることだ!!」

円はいきなり突き攻撃をしてヒカルの度肝を突かせる。

「お前は偉いところの生まれだから自信と余裕があるんだろうなぁ!」

「君はいつも無計画なんだ。だからいつも良いところで悪戯がバレて村長殿からお叱りをくらうのだよ。」

「正っ論っを言うな!」

円は力のままに木刀を振るってヒカルに襲い掛かる。

「こんな単調な太刀筋すぐに…なっ、読めない…?この私が…がっ!?」

所詮光ヒカルが読み取れるのは先人たちの技術によって生み出された伝統の剣術のみ、円のように我流の太刀筋では対抗することは出来ず胴に木刀が直撃して円は七回目の勝利を掴んだ。

「やるな…円。」

「だろー!?ん?どうした、胴が痛いのか?」

円が手を差し伸べようとした時、悔しさを噛みしめるように円の手を払いのけて道場から出ていってしまった。

「んだよアイツ…。」

「兄様…。」「お、鶴!」

彼女の名は“鶴”。この村の小さな道場の師範の娘であり、円と遊ぶ内になぜか自然と兄と慕うようになってしまったのだ。

「兄様、汗をお拭きください。」

「いや、いいよ滝で流してくる。」「承りました。」

いつものことで慣れているのだろう。鶴はただ笑顔を見せて円を見送った。


 その夜村を災厄が襲った。冬眠から目覚めた熊が村に入ってきたのだ。しかしその熊普通ではなかった。目は血走り、他の熊よりも二回りも大きかった。

村の男たちは竹やりや刀を持って熊を討伐しようと向かっていくがほとんどが返り討ちに遭い、女子供が無惨にも殺されていく。

「待て獣よ、ここは私が相手だ!」

ヒカルは11歳という若手で真剣を握って熊に立ち向かう。勇猛果敢に立ち向かうが所詮は子供。刀で爪を受け止めるがその圧倒的な力に負け、民家の中まで吹き飛ばされてしまう。

だが諦めずに再度立ち向かう。


騒ぎを聞きつけた円は道場の主であり育ての親である師範に何かを求めており、居ても立ってもおられず道場内を駆け巡っていた。

「じじいここ刀ねーのかよ!?」

師範は円にとある妖しげな気を放つ黒刀を見せる。

「あるにはあるがこの刀は危険すぎる。妖しく光るこの黒い刀身を見れば最後…刀に魅了され、持ち主は血を求める妖怪になってしまう妖刀じゃ!」

「あるじゃねぇか借りるぞ!」「あっ、ちょっ!!」


円はスッと黒刀を師範の手から盗み出し、村へと降りていく。

「どけどけどけどけーー!!」

円は村に到着し、熊の真正面に立つ。そして鞘から妖刀を引き抜いた。

(ガキの俺でも分かるぜ…なんて美しい刀身だ…!そりゃ魅了されるのも納得だな。)

黒刀から放たれた妖しい紅色の気は円の右腕に纏わりつく。筋肉はきしみ、骨は砕ける。本来ならば腕を上げれる体の状態ではないはずだ。

「ぐっ、いってぇ!!」

「円逃げろ、そいつは私が切る!君では足手まといだ!」

「足手まといかどうかは戦ってから決めやがれ!!…」

円は痛みに耐えながらも何とか正気を保っている。


「おい刀、てめぇは俺に使われる側なんだよ!刀は刀らしく大人しく使われやがれぇぇぇぇぇ!!!!」


その時妖しい気は消え失せ、円は気合いだけで妖刀を制御してしまった。

「刀の名が聞こえた…“月闇ツクヨミ”だってよ…こいつであの熊ぁ斬り落としたらどんな味がするんだろうなぁ“月闇”…?」

子供らしからぬ妖艶な顔をした円はまるで雲のようにゆったり動くが、いつの間にか巨大熊の首をはねていた。

「よっしゃ!いいぞ“月闇”!」

しかしこの熊は化物だ。簡単に倒れることはなく、残りの力を振り絞って巨大な爪で円の胸を引っ掻き、円を吹き飛ばした直後にようやく絶命した。


事態は収束し、ヒカルたち村の住民は円に近寄る。胸の真ん中にできた三日月型の傷が痛々しい。

「円…!起きろ円!」

「兄様!」

村を救った英雄を皆讃えた。ヒカルたちはすでに亡くなったと偲ぶ意を示そうとした瞬間だった。


       「あれ…皆…何で泣いてんの?」


          1582年 円 覚醒

                EPISODE73「月光」完 


           次回「月闇」

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