EPISODE70「玉兎」
北海道、並びに他の五カ国で開催されていた地獄の殺し合い“ウォーゲーム”の予選が終わり、五カ国の中でも勝ち残った代表とも言うべき妖たちが北海道に集結し、妖狩たちに宣戦布告を仕掛けたのだ。
無人のショッピングモールでは椛と琥珀の前にイギリス代表のクレアが現れ、両手の長い爪を駆使しモールを切裂きながら追い詰めていくが、椛の術式 ー「“反射”」ーで撹乱した。
二人は一階のバックヤードに隠れ、作戦を練ることに。
「どないしよ…椛ちゃん。」
「なんで関西弁になってんのよ。とにかくあーしの術式は一日で出来る回数は限られてる…もろに相手の攻撃くらうしすっごく痛いの。服破けてないだけマシよ?」
「えー服破けた椛ちゃんすっごく見たい!」
「あんたよくオッサンって言われない?」「?」
琥珀は性癖前回のトークをかまして場を凍らせるが、椛が使える術式は残り限られているのは事実であり、琥珀が主になって戦わなければ自分が先に落ちしまう。
「あんた今妖力どれくらいあんの?」
と椛が琥珀に聞くと、しばらく考えた後に琥珀は答えを絞り出した。
「え、よく分からないけどまだたくさんあるわ。」
「ならよし、二人で無重力状態にすれば翻弄できると思うけど…。」
「でもあの女の爪の攻撃はすごく早いからアタシの“無重力”だと動きが遅くなるから難しいかも。」
その一方でクレアは一階へと繋がるエスカレーターの前でため息をつく。
「あーもうメンドクセー…全部切るか。」
クレアは両手の爪を伸ばして一階全体を切り刻み始めた。
「ほらほら出てこいよ小娘ども。」
服屋、食品コーナーが原型を留めないほどに切り刻まれついにはバックヤードまで切られ始めたが、その前に二人は飛び出し、椛が琥珀の前に重なって術式を発動し、妖力の波動弾を生み出して攻撃。
クレアは糸も容易く回避する。しかし目の前には無重力状態で逆さまの琥珀が現れた。
(さっきの波動弾は囮!こいつが本命か!)
「弾け、“斥力”!!」
琥珀は弾く力を使ってクレアを二階奥の家電コーナーまで吹き飛ばす。
重なった洗濯機を払い除けて起き上がったクレアだがすでに追撃は始まっており、琥珀が腰から二本の苦無を抜いて襲い掛かる。
「天誅!」
「おっと危ない。何で無関係のあんたが私のこと殺そうとすんのさ。」
「決まってるじゃない、あんたは人を殺したんだ。命に国なんて関係ないの、あんたは殺された人たちの未来と笑顔を奪った…だから殺す。これでも妖狩なのよ!」
琥珀は様々な経験を僅か14年という期間で腐るほど味わった。覚悟は決まり切っている。
「あんた…なんてイカれた目してんの…子猫じゃなくて化け猫ね!」
クレアは琥珀の覚悟に驚きながらも爪での攻撃は止めない。しかしどんな攻撃が来ても苦無で受け止めクレアの顔を蹴り上げる。
「可愛くないガキだね!」
クレアは右手の五本の爪で洗濯機を連続で貫いて琥珀に投げつける。
「引っ張れ“引力”!!」
次は引力で洗濯機三台を空中で止めて、ハンマー投げのモーションでクレアに投げ返す。
しかしただでは負けないクレア。爪で返ってきた洗濯機を切り刻む。
「(このまま戦っても拉致があかない!ならば手数で押すのみ!!)『猫又』“武装”!!」
琥珀は自身の式神『猫又』を“武装”し、頬には猫のヒゲを模した痣が出現、紫の炎を手足に纏い猫の特徴をもった生体鎧にし、猫の耳も紫の炎で再現。
さらに重力の支配権を広げた琥珀は縦横無尽に跳び回り、クレアを翻弄する。
その様子を椛は二人の攻撃の余波が当たらない場所から密かに見ていた。
「すごい…一方的過ぎる。琥珀ちゃんってあんなに強かったんだ…変態だけど。でも可愛い…一華さんの推すのも分かるわぁ。それに比べてあーしは、ずっと“隠して”ばっかで。」
たしかに琥珀は一方的な戦闘で追い詰めているつもりだが、クレアは不敵な笑みを向ける。
「速さで翻弄する作戦ねぇ。大体狙い目なのは私の背後、頭上。そしてアナタのように一撃で仕留めたいなら背後ってとこね…。」
冷静に分析をしたクレアは突然振り向き、右手を突き出す。
「がぁ!」
「ふふっ、ビンゴ♡」
クレアの推理は的中し、琥珀は背後からの奇襲を仕掛けたが、爪による突き攻撃により腹を貫かれてしまう。
「琥珀ちゃん!」
「アナタは一つ勘違いをしていたわ子猫ちゃん。私元々ビリヤードが得意でね、だから切るより貫くのが私の超能力の真髄なの。アナタは切ることに特化した能力だと思っていたのが敗因よ。もっとお勉強することね…。」
右手で貫き、身動きが取れなくなった琥珀を左手で貫こうとロックオンするクレアの前に椛は出てきた。
「あら何かようかしら?」
「あーしの友達を離しなさいよオバさん!」
「オバっ…!どいつもこいつも…ニッポンの女は可愛くない!いい、防御特化のアナタが出てきた所でこの子猫ちゃんを私から引き剥がせないし、アンタはチームのお荷物なのよ!」
「あんたこそ勘違いしてるわね…あーしの本当の能力は、“反射”じゃないわよ!」
「跳ね回れ『玉兎』!」
ここで椛の式神が初公開。現れたのは白い小兎で足元で愉快に跳ね回っている。
「あーしの式神『玉兎』ちゃん。一昨日やっと出せるようになったのよ!そしてあーしの本当の力はこの子がいなけりゃ発動できない!!“武装”!!」
椛は式神『玉兎』を自らの足に“武装”する。緑色のアンクレットに変化し、足はまるで兎のようにもふもふで可愛い。
「あら、可愛いイースターバニーこと。その足頂戴な、お土産にして持ち帰ってあげる♡」
「可愛いからって油断しないことね。あーしの本当の力を!」
椛はクラウチングスタートのポーズをとってから、ガンダッシュを決める。
「馬鹿正直に真正面から突っ込んできやがった!楽な作業で助かるわ!」
左手の爪を伸ばして椛を貫いた。
「椛ちゃん!」
「これで小兎ちゃんは片付い…ん?」
貫かれた椛は黒く変色し、どろどろになって溶けてしまった。
「一体これは…。」
「こっちよオバさん!」
椛はすでに背後におり、もふもふの足でクレアの顔面に蹴りを決め込む。威力はその見た目に反して強く、常人が受ければ粉々になるであろうパワーである。
クレアが態勢を崩した瞬間に琥珀を引き剥がして安全な場所に移動させる。
「椛ちゃん…どういうこと?」
「これがあーしの本当の術式…。」
ー「“幻想”」ー
式神『玉兎』顕現中にだけ発動できる本来の能力。敵味方問わずに幻覚を見せ、不思議なことを起こすアリス由来の術式である。さらに隠された能力もある。
「琥珀ちゃん、あーしが隙を作るからトドメさして。動ける?」
「大丈夫よ…血が止まらないだけ、でもトドメは任せて!」
椛は心配になりながらも再びクレアに向き合う。“武装”発動時間残り40秒。
「よくもやってくれたわね!」
「あんたは地獄行きよ!」
再び椛は真正面に向かって走り出す。
「馬鹿正直に真正面から突っ込んできやがった!楽な作業で助かるわ!…あれ、このセリフどこかで…。」
能力①幻覚による“反復”。
そしてそのまま椛はもふもふキュートな足からキックを繰り出す。
「“脱兎の烙印”!!」
「ぐっ!この小娘めぇ〜〜〜(おかしい…体が重い、思ったように動かない…それに何もかも視界に映るものも、私の声も遅…い?)。」
能力②椛の“脱兎の烙印”を直接受けたものは2秒フリーズしてしまう。受けた当人は体が鉛のように重く、亀のように遅くなるという状態を脳が誤認してしまう。実際は本当に止まっているだけなのだ。
椛は琥珀にトドメを譲るために彼女よりも後ろに下がる。
「本当はもっと幻想を魅せてあげるんだけど、今回はデモンストレーションで済ませて上げるわ。琥珀ちゃん今よ!」
「うん、吸い込め“超重力”!!」
琥珀は黒い玉を作ってクレアよりも後ろに投げるとブラックホールが誕生し、その場の物を全てを飲み込んでいく。
「!、何ですって!」
クレアは5秒のフリーズが解けてしまい、急いで両手の爪で床に突き立てて耐え抜くつもりだ。
「させるか、“脱兎の蹴撃”!!」
クラウチングスタートで必殺技を放ち、その衝撃で床に突き立てた爪が折れ、周りの家電と共にクレアは断末魔を上げながらブラックホールに吸い込まれていった。
“超重力”に耐えていた家電はしばらく浮いていたが、クレアが吸い込まれたことによりブラックホールは消滅し、元の重力に戻り、琥珀たちも家電も皆落ちた。
椛は“武装”を解除して負傷した琥珀を抱えて急いでモールを飛び出した。
近くの公園のベンチで琥珀を寝かせて一段落した。
「この傷ならあと数分で治りそう…ありがとね椛ちゃん!」
琥珀は満面の笑みでサムズアップをした。
「何それ…。」
「風雅がいつもやってるのよ。嬉しいことや成功した時に相手に贈るエールみたいなものよ。」
「ふーん…。」
椛はそれが気になり、琥珀に見えないようにベンチの下で親指を立ててみた。少し自己肯定感が上がったような気がした。
「ねぇ、やっぱ傷痛いからヨシヨシして椛ちゃん!」
「あんたが女で良かったわね。もろ下心ある話し方で要求しないでよ!」
仕方なく椛は琥珀の腹をヨシヨシと優しく擦った。
「ヒヒッ、さすがツンデレ花魁。」
「お黙り!」
世界からの刺客は倒され、残るは“律”のみ。
EPISODE70「玉兎」完
次回「射手」




