仕合と本題
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メモ用紙を俺に突き出した女性、ひかりは闘気ならぬ魔力をメラメラと醸し出しながら俺と橘さんの返答を待っている。
「ひかり、よしてくれよ。
相手の実力はさっきのでわかったはずだよ。」
飯伏暁歌はひかりに手合わせの要求をやめるように促す。
ひかりは、表情を全く変えず、再度メモ用紙に書き始め、飯伏暁歌に見せる。
― 橘雪さんが死んだら、この魔人は自由になる。
そしたら、戦うことになるかもしれない。だったら、今死なないことが確実なうちに戦って、この魔人の情報を少しでも引き出して備える良い機会だと思わない? ―
彼女の言い分は正論であった。
もし万手殺が自由になれば、人間に牙を向けるのは必定。であるのならば、万手殺の戦法や弱点、戦いの癖などを知って、対策を練る必要がある。
「確かにね、雪ちゃん。ひかりが死なない程度に手合わせさせることはできるかい?」
― 私は殺す気で行く。橘雪さん、駒を失いたくなければ、本気で戦えと命じて ―
ひかりは飯伏暁歌の配慮など要らないという様子で書き述べる。
「………ひかりさんと戦いなさい。本気を出しても構いません。ただし!殺すのは禁止です。」
橘さんは俺に申し訳なさそうな目線を送り、指示する。大丈夫だ、橘さん。俺は殺人はしない。それに…
彼女は、とても強い。
多分、この場にいる魔法少女たちよりずっと。
「心得た。」
そのように俺が返答した瞬間、彼女がこちらに奇襲を仕掛けてきた。
予備動作を見る。彼女の左手は、貫手の構え。左手の指先に纏われた魔力は鋭利になっており、魔力コントロールが一流であることがわかる。彼女の左腕が1本の槍にまで見えるほど。当たれば、魔力を纏って防御した肉体でも貫通してしまうだろう。
左手は俺の首を狙っていたため、最小限の動きで回避して、反撃を狙う。が...
彼女は急に止まり、俺には届かないはずなのに貫手で空を突く。
俺の右肩に穴が空き、血飛沫が飛び出す。
痛みより驚愕。何故なら、彼女が出したのは魔力による飛ぶ刺突。飛ぶ斬撃と同様、魔纏式護身術の技術。
その情報が俺を混乱に陥れる。理由は2つ。
まず、魔纏式護身術の門下生は、6人、そして全員が男である。門下生ではない女性がその技術を会得していることに。
次に、魔力を身体から引き剥がして斬撃や刺突、打撃として飛ばす技術は、女性には不可能と言っていいほど難しいからである。師範が言うには、女性の体には魔力が染み込んでおり、体から切り離すことがとても難しいらしい。一方、男性の体には、ほとんど魔力が無いため、魔力が染み込んでいないため、魔力が体外に離れやすいらしい。
混乱しながらも、両腕を交差させ、クロス状に空を切って、斬撃を飛ばす。
クロス状に飛ぶ斬撃に対し、ひかりは近くにあった椅子を蹴り飛び上がることで回避する。そして、そのまま飛び膝蹴りの構えに移行した。
斬撃を避けたな。しかも、上に。
俺は地面を強く蹴り上げてサマーソルトキックを彼女の顎に当てる。
十字状の斬撃を避けることは悪手だ。上下左右に避けて反撃を入れることが簡単に予想できる。だから、次の行動に素早く切り替えることができる。斬撃自体は当たる箇所に魔力を集中させて防御すれば深いダメージは入らない。つまり、初見技である。
彼女は、白目を向き鼻血を出して床に落ちていくも、受け身を取って、すぐさま構えを取る。
(誠さん...。大丈夫かな...。右肩から血が止まっていない。迷惑かけちゃったな。
それに、あのひかりって人、万手殺を倒した誠さんと同じくらい強い...。)
血を流しながら戦う誠さんを私は不安そうに見ていた。それに気付いた飯伏さんは私に声を掛ける。
「すまないね。私の相方が無茶言って、キミの魔人を傷つけてしまって。
だが、どうか許してくれないかい?
ひかりは、魔人に大切な人を危険な身に合わされた過去があったらしい。その影響なのか魔人に不信感を持っているのかもしれないな。
現に、ひかりは、ストレスで失声症という声が出せない病に罹っている。」
無言で頷き、また誠さんの方へ視線を戻す。
ひかりは、深く深呼吸をした後、両手を貫手の形にして、凄まじい速度で何度も誠を突く。
魔纏式護身術 千手羅貫
魔力で強化された肉体で音速を超えた貫手を、相手が息絶えるまで何百回、何千回、何万回と繰り返す速さと手数による御業。
誠は肉体を魔力で強化し、さらにその上に魔力を纏うことで防御姿勢に入る。また、左腕で急所を庇い、右腕で猛攻をいなしている。
誠はこの技を知っている。だから、相手の魔力切れを防御して待つ前にこちらが重症になってしまうことを分かっている。既に顔を守っている両腕はひかりの猛攻により突き、斬られ、血で真っ赤に染まっている。他の箇所も裂傷していた。
誠は素早く右脚を上げ、強く地面を踏み込む。震脚である。元の衝撃は魔力が加えられ、突風のような衝撃波となる。
魔纏式護身術 漢踏衝波
ひかりは猛攻していた両腕が弾かれ、身体は衝撃で浮く。大広間の窓も全てパリィッと音を立てて割れていく。
誠は魔力を練り上げ正拳突きの構えを取る。
それに気付いたひかりは、空中にいながらも防御姿勢を取ろうとする。が、魔力が纏えないことに気づく。先程の衝撃波で身体に纏われていた魔力が無理矢理飛ばされた。まるで蝋燭に灯された火に息を吹きかけて一瞬火が消えたように。
魔力が消えたのは一瞬、だが、猛者たちにとって、その一瞬が命取りになる。
誠の正拳四連突きが顔面を防御していた両腕と腹、左太腿、右太腿にクリーンヒットする。
ひかりは大広間の奥、今は居ない魔法少女首位の座席まで吹っ飛ばされる。
お互い、受けたダメージが多い。実力は拮抗。
誠は、膝を床に着き、ひかりの方向を見ている。
ひかりは、両脚を産まれたての小鹿のようにぷるぷると震わせながら無理矢理起き上がる。
両者、構えを取る。
橘雪は誠の構えを見て、飯伏暁歌はひかりの構えを見て、顔を青ざめる。
気付いたのだ。両者とも大技を出すことに。そんな大技がぶつかり合えば、この建物、ここにいる者たちは塵芥と化すだろう。
誠は両腕に魔力を集中させ、螺旋状に魔力が蠢く。
それは、魔纏式護身術、羅漢衝蹄の構え。
ひかりは右手を貫手に構え、右腕に魔力を集中させる。それは、魔纏式護身術、羅漢砲槍の構え。
両者、ぶつかり合う ――――――
瞬間、両者の身体が硬直し、身体に集中させていた魔力が霧散する。
「びっくりしたねぇ。お姉さん、ここで魔人と魔法少女の戦争が始まったかと思っちゃったよォ。
あ、2人とも、動かないでねぇ。動いたら、細切れにしちゃうよォ。」
そう述べる女性、焦げ茶でウルフカットの髪型、たれ目で気怠げな目をしている。両手の指の先々からは、ピアノ線よりも細く頑丈な糸が出ており、その糸が誠たちを拘束していた。
「ボクの席、無い.........。」
彼らの激闘に目もくれず、自身の席が先の戦闘で壊れて座れないことに憂いている少女がいた。
小柄で金髪で床に着くほどの長い編み込みダウンスタイルが特徴的である。
大広間に入室した魔法少女2人を見た他の魔法少女たちは、安堵する。
彼女らは、2位と首席。魔法少女の頂点であるからだ。
「これは、何の騒ぎか説明してくれるかい?」
ウルフカットの魔法少女は、誠たちを拘束したまま、説明を求める。
飯伏暁歌は、この戦闘に至るまでの経緯を丁寧に説明する。ウルフカットの魔法少女は、納得したのか誠たちの拘束を解く。
「手荒な真似をしてしまい、すまないね。
私は、芥川 凛子。Aランクで一応2位に居座らせてもらっている。よろしくね〜。」
芥川凛子と名乗る女性は、昇格した橘雪と魔人に扮した前田誠に自己紹介をする。
「私と一緒に来た今2位の席に勝手に座っている少女は、Aランク首席の鍛冶谷 覇だ。」
芥川凛子が紹介する少女は、先程自身の席が無いことを憂いていた少女であった。
「よろしく、頼りになりそうな新人たち。ボクの分も働きたまえ〜。」
鍛冶谷覇は、机に顎を乗せ、気怠げに挨拶をする。
その後、残りのAランクの魔法少女が大広間に入室し、Aランクメンバー7名が揃う。それを確認した女性はマイクのスイッチをONにして話し始める。
「Aランク魔法少女の皆様、お忙しい中お集まりいただき、誠に感謝しております。Aランク魔法少女チーム主担当の田中です。
今回の集会は、新しくAランクに昇格した魔法少女、橘雪さんの紹介の他に、2点あります。」
「まず1点目は、魔物や魔人の認知件数、損害件数ともに毎月上昇していること。魔人、万手殺のバルカンのように、魔法少女を数名死傷させているレベルの魔人が増加しています。
増加している魔物や魔人、そして危険度の高い魔人の殲滅には、首席〈十徳ナイフ〉の鍛冶谷 覇さんと4位〈戦う偶像〉美王 甘夏さん、5位〈見えざる手〉暗影 命さんの3名で対応お願いいたします。」
「2点目は、魔法少女狩りについてです。南第2地区、東第3地区、西第2、3地区を担当するB~Dランク魔法少女計13名と前Aランク7位の魔法少女が何者かに殺害されました。現在、魔法少女は魔物、魔人との戦闘による殉職よりも魔法少女狩りとの戦闘による殉職の方が多いです。彼女らに亡くなる前に情報収集した結果、人間の男が魔力を使用して危害を加えたとのこと。また、その男は人間と魔人が共生する国を独立させると宣っていたとのこと。甚だ信じられないとは思いますが、亡くなった魔法少女数名が同様のことを述べているので、真実である可能性の方が高いと考えられます。
この魔法少女狩りについて、情報収集及び魔法少女狩りの捕獲・制圧には、2位〈女王蜘蛛〉芥川 凛子さんと3位〈暁の戦姫〉飯伏 暁歌さん、6位〈銀蝿の王女〉浅霧 洋子さん、7位〈支配者〉橘 雪さんの4名で対応をお願いいたします。」
「魔法少女庁からの指令は以上でございます。皆様のご健闘をお祈り申し上げます。」
田中が話し終えると、Aランク魔法少女たちは各々大広間から退席し始める。
橘雪が前田誠とともに帰ろうとすると、飯伏暁歌とひかりが橘らのもとに来て、声を掛ける。
「私たちは、魔法少女狩りの作戦チームに配属されたようだね。互いに次の集会でも五体満足で会えるように頑張ろう。」
飯伏暁歌はにこりと微笑み、橘雪の肩をぽんと叩く。
ひかりは、誠の方に視線を向け、書き殴ったメモ用紙を提示する。
― 万手殺殿と話がある。少し借りるぞ。 ―
ひかりは橘雪と飯伏暁歌がメモ用紙の内容を見たことを確認したと同時に、誠の手首を掴み、建物の外に出た。
ひかりが誠を連れた場所は、集会所から離れた裏路地だった。
「人気の無い所に連れてきて、何の用だ?先程の戦いの続きか?」
俺は警戒しつつひかりさんの行動の意図を尋ねる。
「オレはお前に気付いたんだが、お前はオレに気付いていないようだな、誠。」
先程までメモ用紙でコミュニケーションを取っていた女性は口を開いた。俺が何より驚いたのは、彼女が話せることでは無い。
その話し声が聞き慣れたある男の声だったからだ。




