ヒーロー
今さらながら、主人公の名前は、前田誠です。
魔人が無数の触手を1本に束ねて誠へ駆け寄る。誠は、魔人ではなく、触手へと正拳突きを叩き込む。
「グヌゥ……!!」
拳を叩き込んだ触手が魔人へと変わり、魔人が触手へと戻った。
我の擬態が見破られた!?こやつ、既に対処方法を見つけたというのか!?
「同じ手は2度は喰らわない。魔力探知でお前の擬態は見破った。本体が擬態していた触手の方が魔力量が多かったからな。」
成程、魔力探知か。だがしかし、貴様は、自らの手を晒してしまったのだ。次は、擬態させた触手の方に多くの魔力を集中させる。そして、再び攻撃を仕掛ける。
「っっんがぁっ!?」
「擬態させた触手に本体よりも多くの魔力を込めたな。しかし、不自然な揺らぎだった。いつも身体中に纏っている魔力には、一定のリズムで揺らいでいる。意図的に纏った魔力には、独特の揺らぎが発生する。それがわかれば見抜くのは簡単だ。」
なんだ?なんなのだ、貴様は。先程の震えていたときとは比べ物にならない程強くなっている。
迷いが無い。覚悟が決まっている。恐れが無い。
人間は、気持ちひとつでここまで変わるものなのか!?
魔人は口角を有り得ないほど上げて、狂気の笑みを浮かべる。
面白いではないか!
たとえ、四肢がちぎれようと、五感が効かなくなっても、闘いあおうではないか。死ぬまで。
無数の触手で誠を広範囲から攻撃を仕掛ける。対して、誠は、魔力を込めた手刀を横に振って、斬撃を飛ばし触手の攻撃を無力化する。
その隙に、魔人は誠の顔に魔力を込めた裏拳を叩き込む。誠は怯むも、自身の足で魔人の足を強く踏みつけ、回避のできない状態で魔人の顎に掌底を打ち込む。
そこからは、両者の非防御姿勢による打ち合いが始まった。
グヌッ。ミチィッ。ガッ。
肉を打つ鈍い音だけが響く。
ドチッ。グチャッ。バチィッ。
互いの拳には、相手か自分のものかもわからない血がべっとりと着いている。
ゴッ。ドチャッ。ベギィッ。
そして、両者とも限界が近づく。肩で呼吸をしている。息がとても荒い。
両者とも気付いていた。次が、最後の一撃になるであろうと。
魔人は、自身の右腕から拳にかけて、すべての触手を巻き付ける。そして、巨大になった右腕を大きく振りかぶる。
前田誠は、自身の右腕にありったけの魔力を集中させる。そして、正拳突きを打ち込む。
拳と拳が合わさり、拮抗する。が、すぐに魔人の拳が崩れていく。
あぁ。我の敗北か。こんなに面白い闘いは初めてだったな。
そして、やつの右腕。とても眩しいな。聞いたことがある。魔力を1箇所に極限まで密集させてると、眩しく光ると。
魔人の身体は、拳、腕、胴体と順に崩れていき、塵と化していった。
「………………ぁ……」
手の震えが収まらない。怖いわけではない。興奮が収まらないんだ。
お、俺が……
魔人に勝てた。恐怖に勝てた。過去の自分に勝てた。
たくさん傷ついた。なのに、興奮しすぎて痛くねぇ。
「あああぁぁあぁあぁああぁあ!!!」
満月の夜だった。そこで収まらない興奮を落ち着かせるために、満月の夜空に叫んだ。とても、気持ち良かった。
……
…………
………………あっ。
ふと魔法少女が居たことに気付き、赤面しながらあの子の居る方向を見る。
あの子は、俺を見て驚いている様子だった。そりゃそうだ、大の男が突然叫んだんだ。恥ずい。
「………………すごい。
あの魔人を男の人が倒しちゃうなんて……。」
良かった。彼女の驚きは、俺の雄叫びではなく、魔人を倒したことだった。
「えと、怪我の具合はどうだい?救急車を読んだ方がいいか?えーと、魔法少女、さん?」
なんか若い女性と話すの久しぶりな気がするなぁ。専門学校の頃以来か。なんか緊張しちゃうな。
「重症ではあるけど、魔法少女専門の医療機関ですぐに治せるから大丈夫です。ありがと。
あと、私の名前は、橘雪っていいます。よろしくお願いします!」
へぇ、雪っていうんだ。髪色も白銀だから、めっちゃイメージ通りだ。
「俺の名前は、前田誠。社会人だ。よろしく。」
「誠さんっていうんですね。今回は、助けてくれてありがとうございます。魔人と戦ってる時もテンション高くなっちゃって喋っちゃったんですけど、助けられるのが初めてで、とっても嬉しくて。その、えと、あの、私にとって、ヒーローでした!!」
改めて、俺自身の前で話すのが恥ずかしいのか耳を真っ赤にして俯きながら感謝を述べられた。
それに、私にとってのヒーロー、私のヒーロー……。なんかこっちも彼女のことを意識して恥ずかしくなってきた。顔赤くなってないよな…?
「あ、ありがとう。俺も、その、君に背中を押されたから魔人を倒せたというか……。君の言葉が無ければ、俺は震えたままだったと、思う、よ。こちらこそ、ありがとう。」
顔熱っつい。なんか変にしどろもどろな対応しちゃったな。彼女もモジモジしてるし。どうしよう、次の会話が思いつかない。それじゃあ、じゃあねっていうのも違うしな。
………………!
「ヤバいっ。他の魔法少女がものすごい勢いでこっちに来てる!!」
俺の魔力探知に2名の魔法少女が確認された。俺に戦えるほどの魔力があって、魔力を扱えることを公にされるのはとてもマズイ。師範との約束だからだ。
「すまない、橘さん。俺が魔力を使って戦えるってことを秘密にしてくれないか?バレるとマズイんだよ。」
「うーん。倒した魔人は、とっても強いから、私が倒したってことにすると怪しまれるかもしれないです。」
「お願い!マジでお願いします!なんでもするからっ!」
「ん……?今、なんでもって言いました?確かに、私の命の恩人ですしね。分かりました。では、まず、私と連絡先を交換しましょ?積もる話もありますしね。」
救援に来た魔法少女2名から、俺と橘さんは事情聴取を受けた。あの、まんじゅさつ?の魔人、バルカンは、橘さんが討伐したことになった。橘さんは、俺に間一髪のところを助けられ、そこから、無力ながらも俺が魔人のヘイトを稼ぎ、その間に特大級の魔法でなんとか倒せたと伝えていた。2名の魔法少女は、「やるじゃん」「君みたいな男性がもっと増えてくれればいいのに」等の橘さん並の好評価をいただいた。俺が魔力を使えることはバレずにすんでホッとした。
そして、魔人討伐から3日後、俺の部屋に橘さんが訪問してきた。
前田 誠
本作の主人公。24歳。福祉施設で働く社会人。
幼少期に読んだ「南斗の剣」に憧れ、己の意思を貫くために戦う男、女性を守る男というものを目指し、魔纏式護身術という怪しい道場に通っていた。完璧主義な所があり、失敗を極端に恐れている。
・好きなもの: 南斗の剣、筋肉、前時代的な男の価値観
・嫌いなもの: 失敗、現代の男の思想




