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次の芝居の話

 夜カフェは、だんだんとカオスなことになってきた。

 右を向けば仕事上がりの文官たちが血走った顔でお菓子を食べ、左を向けば神経質な劇作家がコーヒーを飲みながらすごい勢いでタイプライターを打ち込んでいる。

 私はしょんぼりとしてしまった。

 たしかに夜にお酒を飲めない人たちが集まれる場所にはなったけど……これじゃあ絶対に女のお客さん入ってこられないよ。

 私がしょんぼりしている中、「ほら、次のテーブル。メレンゲパイ」と店長にどやされる。


「はあい……」


 まあ、喜んでくれているからいいよね。

 ドナさんたち文官さんたちが去ったあと、お客様もだいぶいなくなった中、私はレイモンさんのテーブルに着いた。

 この人は定期的に私から元の国の話を聞き出して、興味深そうにしていた。


「空の上に人がいるのか?」

「はい、この話ではそうなっていますね。一応私の国にも空を飛ぶ乗り物はあるんですけど、一般人が手軽にって訳にはいかないんですよ」

「ほほう……」


 世界最古の物語である『竹取物語』の話をしてみたら、それを私たちの国ではお約束としていたところがいちいち気になるらしく、レイモンさんにいちいち突っ込まれてはしどろもどろになって答えていた。

 かぐや姫が月からやってきたお姫様とか、彼女の話を聞いてやってきた貴公子たちを無理難題言って追い返したとかは、かなり面白かったらしく、その都度話を突っ込まれたので、私もうろ覚え知識を駆使してどうにか返す。

 全部話し終えたときにはぐったりとしていた。


「ふむ……やはり君の国の話は面白いね。それを元に次の舞台の話ができそうだよ」

「ああ、この間からずっとなにか書いてましたよね」

「あちこちで依頼を受けて書いていたが、今回は女優主演というお題だったから、困っていたところだったのさ。戦う女性ばかりは受けがよくないが、恋愛ばかりでも客は飽きる。その点空からやってきた姫が元の国に帰るまでの話というのは新しい。たしかに訪問者を主題に使った芝居は男が主演のものは多いが女のものはなかなかないからね」


 あらま。私は聞いてみた。


「女の訪問者って珍しいんですか?」

「そうだね、昔はもっと訪問者が持ってきた知識でこの国が発展したという逸話は多かったけれど、今はそこまで訪問者が珍しい技術を持ち込むことはなかったからね。なによりも男は旅に出てなにかをしようとするから、珍しがられて逸話が残るが、女はだいだいどこかで働きはじめるから、そこまで珍しい話が残らないんだよ」

「ああ、そういうことですか……」


 これはたしかに行動の差かもなあ。異世界にいきなりやってきたら、普通に怖いから、とりあえず安全そうな場所で働けないかと模索するだろうし、この国の人からしてみたら当たり前のことをやっている異世界の人間なんて面白みがないからいちいち語らないだろう。


「私も休日でしたら、そのお芝居見に行きたいです」

「ああ、来たまえよ。そういえば。この脚本を依頼してきた劇団の女優が、夜カフェに興味を持っていたな」

「えっ!」


 それにドキリとする。

 そもそも女の人のために開こうと思っていたのが夜カフェなんだから、女のお客さんはいい加減欲しかった。まさかレイモンさんの取引先の人が興味持ってくれるとは思わなかった、しかも女優さん!

 せっかく王都にあちこちで芝居が見られるんだから、私も見に行きたいなあという欲がぐんぐんと膨らむ。


「わかりました。その方がいつ来てもいいようにお菓子用意しておきますから」

「そうしてくれたまえよ。どうせ稽古のせいで燃料切れを起こしているんだから、ここに来たら喜ぶ」

「ああ……稽古明けでしたら、お菓子だけでなく軽食も用意しておいたほうがいいんでしょうか?」


 私の国だったら、女優さんの体重管理は一般人だと理解及ばないレベルだったと思うけど、この国だとどうなんだろうな。私がおろおろしている中、レイモンさんは涼しい顔だ。


「そこは気にしなくてもいい。彼女、芝居でだいたい空っぽになるまで体力使っているから、食べるときはかなり食べるんだ。夜カフェにまで足を運ぶとなったら、夕飯食べ終えた後だろうから気にしなくていい。それに昼に来るかもしれないだろ」

「え……それは大丈夫なんですかね」


 うちのカフェテリア形式の昼間の客層なんて、完全に舞台の感想戦をはじめている舞台好きの豪商のお嬢さんたちだ。その人たちだったら、女優さんの顔なんて見分けられるだろうに。しかしレイモンさんは動じない。


「大丈夫だろうさ。君は普通に仕事していればいい。彼女は勝手に楽しんでいくだろうから」

「なんだか妖精みたいですね……?」


 この国でも妖精はいきなりやってきてはフラッといなくなるものらしい。

 いったいどんな女優さんなんだろう。オーラが出ているんだろうか、それとも私たちだと気付かないほど変装の達人とか。

 全然想像つかない中、レイモンさんはコーヒーをすすり終えた。そろそろ帰るのだろうと、会計の準備に取りかかった。

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