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涙の夜のカフェテリア─王都に灯る優しい光─  作者: 石田空


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魔女との出会い

 あれからイヴェットさんは店長と茶飲み友達として、一緒にお菓子とコーヒーを楽しむ仲になった。

 相変わらずふたりは想い出のお菓子のシャルロットを楽し、それをコーヒーで楽しんでいる。私はそれをうっとりとした顔で眺めていた。

 呆れているのはレイモンさんだ。


「君はなにをそこまで喜んでいるんだ?」

「いやですねえ。私は夜カフェ開きたかった理由のひとつが、こういう和やかな空気を楽しみたかったというのがあります」

「ほう?」


 元々夜カフェって、お酒を出さないで甘いものとコーヒーだけを楽しんで欲しいというのがあった。


「仕事帰りとか、デート帰りとか、そんな一日の締めに利用してほしかったんですよね。たしかに利用してもらってますけど、あまりにお忙しい人たちが駆け込んできてお菓子を流し込んでいくので、世知辛かったと言いますか」

「まあ、たしかに。あれはいくらなんでもない」

「ですよねえ……」


 ドナさんみたいな忙しい文官さんが、楽しみがお菓子しかないけど、仕事上がりは既に店が閉まっているというのは可哀想なんだけれど、あれだけ切羽詰まった男性ばかりだと、女性は入りづらいよなあと思っていたから。

 だから女性客が少しずつ増えていって、店長とイヴェットさんみたいにお菓子を楽しむ壮年が増えてきたら、なんとなく客層も少しずつこちらの目指していた方向性に近付くと思ったんだ。

 それにレイモンさんは「そんなもんか」と言いながらコーヒーをすすった。

 今日はタルトシトロンをいただいているレイモンさんを見ながら、私は「コーヒーおかわり入りますか?」と尋ねたときだった。

 店の扉が開いた。


「いらっしゃいませー……」


 途端に店内の空気が凍り付いたように見えた。

 はて。私はお客さんの方向に視線を向けた。

 真っ黒な髪に金色の瞳。白いドレスは王都だと少し珍しい形をしている。そして顔をベールで覆っているのは、占い師かなんかだろうか。

 それにしても、周りが凍り付いてしまったのはなんだろう。

 彼女は周りが凍り付いているのも気にせず、「席は空いてらして?」と尋ねるので、私は頷いた。


「はい、そちらの席どうぞ」

「ありがとうございます」


 そう言いながら颯爽と歩いて行く。彼女が歩くたびに、どことなくスパイシーな匂いが漂う。この人香辛料を持ち歩いているのかなとぼんやりと考えていたら。

 レイモンさんが短く小声で「おい」と言った。


「なんですかあ……」

「……いいのか? 客層がまた変わるかもしれないぞ?」

「なにがですか?」

「彼女、どこからどう見ても魔女だが」

「えっ?」


 途端に声が上擦る。

 この国にはいるとは聞いていたし、実際にこの国には魔法が存在するらしいけれど、ちっとも見たことがなかった人。

 なるほど、あのドレスの形は魔女のローブみたいなものか。私がひとり感心していたものの、レイモンさんは浮かない顔をした。


「彼女、なんにもしないな?」

「ええっと……それはいくらなんでも失礼なのでは?」

「この国じゃ、魔女のことを皆怖がる」

「それなんでですか? なにもしてないじゃないですか」

「……なにもしてない。たしかにな。だが、彼女の存在は、いろんなものを揺るがしかねない。今日は会計を済ませて失礼する」

「あっ……」


 レイモンさんが黙って会計をはじめたのを皮切りに、店内で次から次へと会計を済ませて急いで出ていく人が増えた。

 それを静かに見ていたイヴェットさんと店長、そしてあの魔女らしきお客さんだけが残った。

 私にはなにがなんだかさっぱりわからず、「なんで?」という顔をしていた。

 店長は「あちゃあ」とでも言いたげに額に手を当てていた。イヴェットさんは「あらあら」とだけ言いながらシャルロットを食べている。

 そして魔女さんはのんびりと言う。


「昔ながらのドレスを着ていたせいで、皆さんを怖がらせてしまったようですね。大変申し訳ございませんでした」

「い、いえいえ。お気になさらず」

「あなたは全然怖がってないようですが……あなたは訪問者ですか?」

「はい……未だにこの国の常識には疎いんで、あなたが魔女らしいことくらいしかわからないんですけど……」

「あらあらあら。まあまあまあ」


 彼女はくすくすと笑った。


「昔話で多いんです。魔女はすぐに呪うって話。特にひとりの魔女は」

「そんな……お客さんなにもしてないですよね?」

「あなたは、人を見た目で判断しない人ですか?」


 そう金色の目でじっと見られながら問いかけられると、嘘を言うことができない錯覚に陥る。


「……私は、できる限り見た目で判断したくはありませんが、多分偏見ってものは抜けない気がします。私の国でもそういうのはいくらでもありましたから」

「そうですか。無知の知があるというのはいいことです」


 そう言いながら彼女は注文しはじめた。

 なんだか困ったことになったなと思いながら、私は注文されたクグロフを取りに出かけた。

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