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第2話:感情の荒野に咲く花

「コード・ハンター…!」


 ハルカがその言葉を呟いた瞬間、頭の中で警報が鳴り響いた。


 まるで誰かが頭蓋骨の中でシンバルを叩いているかのような激しい頭痛。


 視界が歪み、立っているのもやっとの状態。



 その時、彼女の前に現れたのは、漆黒のジャケットを纏った長身の青年。


 まるで映画のヒーローのような登場シーンだが、彼の第一声は予想外のものだった。



「大丈夫か? って、そんなことより君のその前髪、すごく芸術的だ!」



 青年は涼やかな銀色の瞳で、ハルカのくるくるに巻かれた前髪をまじまじと見つめていた。


「レンジ・カイ。君と同じ、シグナル・コードの持ち主だ!」


 レンジは静かに名乗り、ハルカに手を差し伸べた。



 彼の瞳は、まるで全てを見透かしているかのように、ハルカの心の奥底まで見据えていた。


 ハルカは、震える手を伸ばし、レンジの差し伸べられた手を握った。


 彼の冷たい手が、ハルカの凍りついた心を溶かすように、温かい光を灯した。



「君も…シグナル・コード?」



 ハルカはまだ混乱していたが、レンジの瞳に宿る冷静さに引き寄せられるように、彼の言葉を信じようとしていた。


 ただ力に振り回されるのではなく、ハルカは精神的に成長し、最終的には自分の力を受け入れるための旅を始めるのだ。



「君の力は覚醒したばかりで、まだコントロールできていない。


 それを狙って、コード・ハンターが動き出した。


 彼らに捕まる前に、力を制御する方法を学ぶ必要がある!」


 レンジの声は、まるで氷の彫刻のように冷たく硬質だったが、その言葉にはハルカを導く確かな意志が感じられた。



 彼の大きな手は、少し冷たかったけれど、しっかりとハルカの手を包み込んでくれた。


 その頼もしさに、ハルカは思わず顔を上げた。


 彼の瞳は、初めて会ったとは思えないほど、ハルカの心を深く見透かしているようだった。



 彼はハルカの手を握ったまま、コード・ハンターたちを一瞥した。


 男たちは、レンジの存在に一瞬ひるんだが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。



「レンジ・カイか。また貴様と戦うことになるとはな...」



 ヴィクターが低い声で呟いた。


 彼の機械的な義眼が、不気味な光を放つ。



「お前たちに、ハルカを渡すわけにはいかない!」


 レンジは短く言い放つと、ハルカの手を引き、走り出した。



 ヴィクターたちもすぐさま追跡を開始し、異世界のような空間を、ハンターと逃亡者の緊迫した追走劇が駆け抜けた。


 ハルカは、レンジの強さに驚きながらも、彼の手の温かさに安堵していた。



「レンジ…もし私がこの力を抑えられなかったら、どうなるの?」


 ハルカの声は、恐怖で震えていた。



「心配しないで、ハルカ。君は一人じゃない。僕たちはいつでも君を支えるよ」


 レンジは優しい声でそう言いながら、ハルカの肩をそっと抱き寄せた。


 彼の温もりに、ハルカは再び涙がこぼれそうになった。


「まずは、シグナル・コードの本質を理解しよう。


 それができれば、きっと力をコントロールする方法が見つかるはずだ!」


 レンジの言葉に、ハルカは小さく頷いた。


 彼の言葉を信じて、一歩ずつ前に進む決意を固めたのだった。


「ありがとう、レンジ。あなたがいてくれて、本当に良かった」


 ハルカは涙を拭い、少しずつではあるが、前を向こうとする自分を感じた。



 未来がどうなるかはわからないが、彼女には仲間がいる。


 その事実が、彼女に大きな勇気を与えてくれたのだった。


 しかし、彼らの逃避行は長くは続かなかった。



 ヴィクターは冷徹な笑みを浮かべ、まるでその場のすべてを計算し尽くしているかのように懐中時計を取り出し、それをカチリと鳴らした。


 その瞬間、彼の顔にかすかな影が差した。


 計画の微かな狂いか、あるいは過去に抱えた後悔の色か。



「終わりだ、レンジ・カイ。


 そして、シグナル・コードの覚醒者よ。


 貴様らは余の大義に利用されるのだ!」



 その言葉と共に、ハルカの周囲の世界がぐにゃりと歪んだ。


 まるで時が逆戻りするかのように、鳥たちの鳴き声が巻き戻され、風に舞っていた落ち葉が地面へと戻っていく。


 遠くの滝の水すら、重力に逆らい空へと舞い上がり、自然法則が次々に覆されていく不気味な光景が展開される。



 ハルカの体は急速に重くなり、まるで時間そのものが彼女を押し潰すかのような感覚に包まれた。


 呼吸もままならず、一歩踏み出すことすら不可能。


 視界の隅では、レンジも同様に動きを封じられ、焦りの色が浮かんでいた。



「これが…時間の支配…」


 恐怖に打ち震えるハルカは、ヴィクターの能力が自然の摂理を超越したものであることを理解した。


 絶対的な力。


 ハルカはその前に屈しそうになった。



 ヴィクターのシルバーヘアが、歪んだ空間の中で冷たく光り、その瞳は無慈悲な勝利を確信している。


「無駄な抵抗はやめろ。この時間をも支配する余に、貴様らが敵うわけがない」



 絶望感が、ハルカの胸を覆い尽くした。


 レンジも、自分も、このままでは捕らわれ、利用されてしまうのか。


 ハルカは自らの運命に抗う力を失いかけた。


 だが、その時、レンジの声が微かに響いた。



「ハルカ、諦めるな! チャンスはまだある!」



 その言葉は遠くに聞こえたが、レンジの揺るぎない決意がハルカの心に希望を灯した。


 絶望に沈む意識の中、彼女は胸の奥で何かが熱く脈打つのを感じた。


 それは、彼女の内に眠っていた「共鳴」の力だった。



 恐怖が決意へと変わる瞬間、ハルカは光に包まれた。


 彼女の感情が渦巻き、強大なエネルギーが彼女の中で目覚めたのだ。


 今こそ、運命を自らの手で切り開く時が来た。



「私は…もう、誰にも支配されない!」



 ハルカの叫びが、歪んだ時空を切り裂くように響き渡った。


 彼女の中から溢れ出す青い光は、まるで怒涛のようにヴィクターの作り出した時間の歪みを打ち砕き、世界を優しく包み込んでいく。



 時が再びその本来の歩みを取り戻す。


 鳥たちのさえずりが戻り、風のそよぎが頬を撫で、遠くの滝が再び轟轟と流れ落ちる。


 それは、まるでモノクロの世界に色が戻っていくかのような、感動的な光景だった。



 光が静かに消え去ると、ハルカは再びネクサスシティの冷たいアスファルトの上に立っていた。


 しかし、何かが決定的に違っていた。


 街は、まるで深い眠りから覚めたかのように、色彩を取り戻していた。


 行き交う人々の顔には、感情の機微が生まれ、彼らの瞳には、驚きと、そして微かな希望の光が宿っていた。



 ハルカは、自分がコード・ハンターを退けただけでなく、街の人々の凍りついた感情を溶かし始めたことに気づいた。


 心臓が高鳴る。


 それは、恐怖でも不安でもない、喜びと、そしてこの世界を変えることができるかもしれないという、希望に満ちた鼓動だった。



「私の力…世界を変えた…?」



 ハルカは、その事実に驚きながらも、自分の中に眠っていた力をゆっくりと受け入れていく。


 そして、彼女の小さな胸の中に、大きな決意が芽生えた。



「私は、この力で世界を救ってみせる!


 もう誰も、孤独や絶望で苦しむことはない。


 この街を、この世界を、私が変えてみせる!」



 ハルカの言葉は、力強く、そして希望に満ちていた。


 それは、かつて親友を失い、深い孤独に沈んでいた少女の言葉とは思えないほど、力強く、そして希望に満ちていた。


 彼女の瞳には、まるで夜空に瞬く星々のように、力強い輝きが宿っていた。



 だが、その戦いは、彼女一人だけの戦いではなかった。



 レンジは、まるで最初からそこにいなかったかのように、忽然と姿を消していた。


 彼の口にした「重大な秘密」とは何だったのか?


 そして、ネクサスシティの住民から感情が失われた原因は何なのか?

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