古き言葉のコスモスは
朝、目が覚めて食堂へと向かう。
窓の外はいつもの景色だ。
いつもの席、いつもの食事。ただ一つ、常と違っていたそれに目が留まる。
「なーに見てんだ? 花?」
食事を片づけ、気になったそれに近づいて見ていたところで話しかけられる。
「ああ。花、だろうな」
「ふーん。つくりもの……か?」
人工物にあふれた現代では、自然を目にする機会は極端に少ない。
自然の花なんてものを飾るのは金持ちの道楽くらいだ。
だから、つくりものを疑う言葉が出てくるのは仕方がない。
だが、手で触れてみたところで、精巧につくられたものか、そうじゃないかを判断する術は、俺たちにはない。
何のために飾られているのか、つくりものかどうか、何もわからないまま、ただそれはそこにあった。
* * *
そんなことがあったことも忘れたころ、廊下を歩いていると、後ろから追いついてきたそいつに話しかけられる。
「なあ、あの花の名前、わかったぞ! 古き言葉で『コスモス』って言うらしい。あ、けど、これは古き言葉でも――」
結局つくりものかどうかもわからないままだったあの花が気になったのか、わざわざ古き言葉での名前を調べてきたらしい。
そうして話し始めた古き言葉についての説明を聞き流す。
何種類もある古き言葉についてのこいつの話を真面目に聞いていたら、時間がいくらあっても足りない。
適当な相槌を打ちながら、窓の外に目を向ける。
暗闇の中にぽつりぽつりと光るものが見えた。
随分と昔――古き言葉が使われていた時代――に、自分たちの祖先が生きていたはずの場所は、この窓から見える景色のどこかにはあるらしい。
「そういえば、俺たちのいるここ、古き言葉で何て言うか、知ってるか?」
「さあ」
「――『宇宙』なんだってさ」