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第8話 おかしくなる

 いつもの日常だった。



 本を読み終えたから本を買うついでに、ちょっとした悪いことをしようと思い、花火をすることを決めた。どうせ悪いことをするなら、立ち入り禁止とあるところで警備員がいるところが良いな。と、ロクでもない悪巧みをした結果。



 警備員から逃げるために荷物を少なくしないといけないため、服を買うことを諦めた。



 普通に寒い。だが寒さには慣れている。このまえ雪が降ったときと服の厚さは同じだ、今日は雪が降らないから耐えられる。



 適当に寒い寒いと言って彼女、ネルに罪悪感でも感じさせて悪い子にさせようと画作したが、普通にキレられた。思ったよりネルはわがままになってきているようだ。



 いやもしかしたらこれが素なのかも知れない。となると今まで自分を押さえてきたのだろう。



 まったく…周りにまともな大人しか居なかったのだろうな、ネルの人生を案ずるあまり、ネル本人の気質を潰していたようだ。



 そんなことを考えながら、好きでもないゲームセンターで遊んだ。



 子供ってゲームセンター好きだろ。と思って初日に遊びに連れていったが、好きじゃない雰囲気を持っていた。



 しかし、今では音ゲーでキレている。



 下らない娯楽で笑えるならこの子はまだ大丈夫だな。と思った。



 その後本屋へ寄った。本を読むことは好きだ。乱読家というのは真実だが基本的に人が死んでくれる本が好きだ。



 さて今回はどんな本を読もうと思ってうろうろしていたが、ふと恋愛小説が目に止まった。普段絶対に読まない種類だが、なぜか心引かれた。



 ネルにぼこぼこに叩かれた。そしてなぜだが悪くないと思った。



 そして、カイロと言う天才の閃きをしたネルのお陰様でかなり暖かい。手袋ぐらい買っとけば良かったな。と後悔した。それと同時にネルにも手袋を買うべきだ。そう考えて、明日も出掛けなくては、と思った。



 花火っていつでもあるんだな。普通に感謝した。これが無かったら今回の計画が全て水の泡と化す。頼んだぞバカの考えたやけくそ花火共。



 花火を持って海岸に向かう。ネルは凄く嫌そうだが、渋々付いてきてくれている。立ち入り禁止の看板を見て少し立ち止まった時は、まだ時期が早かったか?と思ったがこちらの不安を越えてきてくれて助かった。



 花火を始めると案の定、ネルは寂しげな悲しいようなそんな顔をしていた。



 なにも考えず楽しめば良いんだよって言うだけなのに、なぜか無駄に言葉を尽くした。



 吹っ切れたネルの笑顔は花火と月に照らされて、とても綺麗に見えた。



 初めて会った時、女としての魅力の足りない奴だなぁと考えていたのに、今では彼女の姿が目に焼き付いている。



 しばらく遊んでいたら。案の定、計画通りと言って差し支えないことが起こった。



 そう、警備員がやってきたのだ。



 すぐにネルを抱きしめ走る。



 警備員が追ってこないであろう場所まで逃げてからネルを降ろすと、彼女は普通に怒ってきたが、楽しかっただろ?と言う悪魔の言葉で黙らせた。



 悪いことでも楽しかった。これは彼女には効く。



 ネルはふてくされると思ったが、帰り道で彼女はとても楽しそうだった。



 ちゃんと不真面目になってきていて良いなと思った。









「なんだこれは?どういうことだ?どうなってる?」



 ヴァンスは困惑した。言葉から分かるほど狼狽えている。



「おはよう。今日は早起きだね」



 そう時刻は朝の7時だ、ヴァンスが起きるのはおかしい時刻。しかしそれを差し置いてでも言うべきことがあった。



「なんでお前ここにいる?」



「…なんとなく」



 そうネルはヴァンスと同じベッドに入っている。より正確に言うなら腕に抱きついている。



「………」



 絶句。



「…怒った?」



「…困惑した。」



「そう…」



 ネルは退く様子がない。なんだこいつ!?



 なにを言うべきだろうか?本当の寝起きであるためいつもより頭が働かない。



 いったい何時からコイツは隣に居たんだ?いやそんなことはどうでも良い。俺はヴァンスとしてどう言うのが正解なんだ?



「…暑いから退いてくれないか?」



「…二度寝すれば良いじゃない」



「暑くて寝れない」



 そう言うとネルはしぶしぶと言う雰囲気で離れた。



 今からでも二度寝するべきか?それとも起きるべきか?くそ…なんだこの行動は今まで無かったぞ。



 寝起きの頭でヴァンスとしての正解を考える。



 結果、ヴァンスは眠らず、ベッドの上で体を横にしてネルを見ることにした。



 ネルは本を読んでいたが、落ち着かない様子でスマホを触りだした。



「なに?」



 そう聞いてきた。



「そう聞きたいのは私だよ。」



「…なんでこんなことを?」



「…なんとなく」



 …オーマイガー。彼女クレイジー過ぎるよ。少し悪い子になったら良いなと思って行動してきたが、まだ出会って間もない男のベッドに入るってどういう考えしてるんだ?????



 あ~変な答えを出した?そんなバカな。彼女は賢いよ?本当かよ!嘘吐け!と頭のなかで声が暴れ回る。うるせぇ!



 ヴァンスは予想を斜め上に突き抜けてきたネルにただひたすらに困惑した。









 ネルは驚いた。この時間にヴァンスが目覚めることはないと思っていたためだ。



 今日はいつもより少し早く朝起きた。



 そしてボーッとヴァンスを見ると、なぜだか魔が差した。



 彼の布団に入り込み腕を掴んだ。



 瞬間。目が覚めて、なんでこんなことをしたんだ???と自分に驚いた。



 すぐに出なくてはと思ったが、布団の中の温もりとヴァンスの腕を掴んだ体が動くのを拒否していた。



 まぁヴァンスはまだ起きないし、少しぐらいぬくぬくしても良いかな。なんて考えていたら。



「なんだこれは?どういうことだ?どうなってる?」



 とヴァンスが目を覚ました。



 信じれないぐらいドキドキする。悪いことをして怒られる時みたいにびくびくした。そしてヴァンスは怒っていないか。不安になった。



 怒っているか聞いてみたら、彼はただただ困惑しているみたいだ。



 ならもうちょっとぐらい堪能しても良いじゃないか。と謎の豪胆さが頭を支配したため。居座ろうとしたが、どうやらヴァンスが居心地が悪そうにしていた。



 それを見て、悪いことをした気分になったので離れることにした。実際悪いことをした。でも起きるとは思わなかった。と言い訳も頭によぎる。



 ヴァンスは二度寝するのだろうか。そう考えていると、彼は体を横にして私を見た。



 恥ずかしいことをしている自覚はあった。



 だから本を読んで知らんぷりをしようとしたが、彼の視線が気になって気になって仕方ない。無理やり集中してみたが、恋愛小説はそれに適さないようで無理だった。



 諦めてスマホをポチポチ触るが、それでも彼の視線は外れない。



「なに?」



 そう言ってしまった。そして、



「なんでこんなことを?」



 と、返された。



 恥ずかしかったから「なんとなく」とぶっきらぼうに答えてしまった。



 彼の顔は困惑していた。







 いつも通りにシャワーの音が聞こえる。



 しかしいつもと違うところが多い。まずは時間、いつもより4時間ほど早い。次に私の気持ちだ。



 なんでこんなことしたのぉぉ!と叫びたくなる気持ちを押さえて、ちゃんと考える。そうすると一つの結論にたどり着く。それは私が恋愛小説を好むせいだろうか?いや違うだろう。そんなことはない。と思いたい。




 私……ヴァンスが…好き?







 風呂から上がると、ネルがどこか余所余所しい。



 まぁ気にするだけ無駄かなと考えをやめる。



 ヴァンスは風呂に入りながらネルについて考えていた。しかし答えは出てこなかった。分からないことは蓋をしようと言う。自分のスタンスに従い考えることをやめることにした。



 のんびりページをめくる。恋愛小説か…誰も死ななさそうで味気ないな。と思うも、読む前からそれはどうなんだと思い、気乗りしない心に活を入れる。



 そうやってパラパラを本を読み進めていく。するとネルがのそのそと隣に寄ってきた。



 今日の彼女はどこかおかしい。少し警戒していると。



「ヴァンスは嘘って悪いことだと思う?」



 !?!?コイツ!!



 驚きで本を落とす錯覚をしたが、気取られないように冷静に考える。自分の嘘がバレたのか?いやそんなはずはない。この嘘は真実だ。となるとこの質問は違うこと違う意味を持っているはず。



「そうだね。嘘ってのは建前みたいなものだ、生きていくために必要なことだから善悪とかそう言ったもので括れないと思うよ。」



「嘘は生きていく上で必要なことなの?」



 頭がヒリつく。バレたのなら殺すしかない。そう冷静な部分が言うが、必死に落ち着け!落ち着け!!という部分もある。訳が分からないが、とにかく今はバレないように確認しなくてはならない。



「そうだね…嘘と真実を分ける違いってなんだと思う?」



「事実か虚言か…?」



「良く分かっているね。そう事実としてそこにあるかどうかが大事なんだ。」



 なんとか落ち着く。どうやら深い意味はなさそうだ。



「例えば…そうだね。私はレモンが嫌いだ」



「真実か、嘘か。分かるかい?」



「分からない」



「そうだね、君の前ではレモンなんて食べてないから分からない」



「事実として、私はレモンが嫌いじゃない。普通に食べれる。けれど君の前で、レモンが嫌いだと言ったとする。君はそれを信じるかい?」



「うーん…。信じると思う」



「そう。確認する手段がないなら嘘は真実になるんだよ。」



「逆に言うと本当のことをいっても信じて貰えなければ嘘になる。」



「確認できる手段があれば良いのだけれど無いのなら真実と嘘に差はない。」



「それなのに嘘は悪いことだと思うかい?」



「詐欺とかは悪いと思う」



「確かに詐欺は悪だね。でも人を騙す嘘は全て悪いと言いきれないんだ。」



「優しい嘘って奴だよ。寒いのに、寒くないよ。とか嬉しくなくても、ありがとう嬉しいよ。とかそう言う嘘。それらは決して悪くない。むしろ誉められて、讃えられるべきことだ。賞賛されるべき美徳だよ。」



「どうして?」



「真実は時に残酷だ。良かれと思ってしたことが、裏目に出て害になることがある。それを隠すことのなにがいけないのか。」



「そして真実は事実としてそこにある。だから優しさにも厳しさにも上限がある。事実を越えることは出来ない。でも嘘は所詮虚言だ。虚言。偽り。それらには上限がない。悪意も善意もね。」



「そして虚言は真実に成り代わることができる。」



「事実を確認できなければ?」



「そう。事実を隠してしまえば、その虚言しか信ずることが出来ない。」



「その虚言が優しさで満ちていたなら、それは褒め称えられるべきことだろう?」



「嘘とは所詮道具に過ぎない。人を喜ばせるも、人を傷つけるも、使い方次第だ。そこに善悪はないよ。」



「それに、嘘と分かっていても。そう言うこととして受け入れれば、その嘘に騙されたことにすれば、それは真実になるからね。」



「優しい嘘はバレたとしても受け入れてしまえば良い。」



 ネルは黙ってしまった。今の話を聞いて満足したのだろうか。



 まったく分からない。

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