第23話 気分の悪いというお話。その2
大学が始まった。サークルとか色々あったけれど、肌に合いそうな物がない。
「遊びたい気持ちはあるけれど、なんか違うんだよね」
それがネルの感想だった。
ま、良いか。授業受けて、自分で考えて、自分のやりたいようにする。まずは簡単なゲームを作ってから、1つ1つ出来ることを増やそう。
そんな風にぼんやりと将来の道筋を考えながら、大学から帰る。
ネルは料理は出来る。でも、独り暮らしならたまに作る位で良いよね。と、とても偉い思考を持っていた。
「うーん。たまにはちょっと高めの外食しても良いよね」
そうしてレストランに顔を出す。電話で予約が取れてラッキーだったな。と思いながら席についてメニューを見る。名前が長いオムレツがあった。
「オムレツか…ヴァンスと初めての外食もそれだったな」
そう思いながら、卵の甘味とソースを味わう。
高い料理って、なんか味が上品に感じるな~。家で作れたりしないだろうか。
そんなことを考えて、食事を終える。
手持ちぶさたに夜の町をぶらつく。以前、絡まれた所からは距離を取って、賑やかな大通りをうろうろと歩いていた。
明日は講習がない。夜まで遊んだってバチは当たらないだろう。
そう思って、色んな店に入った。と言っても、危険そうだな~。と感じる所は避けて、無難な知っている店に入った。
本屋に入って、面白そうな本を一冊買った。スーパーに寄って、飲み物と夜に食べるお菓子を買った。リサイクルショップに入って、なぜか気に入った、安い小さな車の模型を買った。
「あはは、無駄遣いばっかして良くないな~」
空元気だ。あの日から忘れようとしてるのに、忘れられないのだ。
食事の時にチラッと考えちゃったし、良くないな~。
「はぁ~」
少し気分が落ち込む。そうすると、大通りからそれる横路の闇が目に映る。良くない、危ないと感じるが、スルスルと体はその闇に吸い込まれていった。
深い。暗闇が深くなる。
気づけば、周りは知らない所だった。いや、帰ろうと思えば帰れる。だから危険な夜遊びをしているのだ。
でも、さすがに怖いな。帰ろうと。
そう思ったときだった。すぐ近く、次の曲がり角を曲がった先。そこから、聞き慣れたような、聞きたいような?そんな訳の変わらない声が微かに聞こえた。
怖くはなかった。だからーーーーー興味が出た。
恐る恐る、音を立てないように、慎重に、曲がり角を覗く。
「え?ヴァンス?」
壁を背にして、地面に座るヴァンスがいた。呼吸が荒く、服はボロボロで、顔や手には切り傷のような、正面がザラザラしたもので削られたような傷があった。
「え?え?大丈夫??」
そう近寄ると、強い煙の匂いがした。タバコかな?と思ったが、ヴァンスはタバコなんて吸っていなかったし、それはタバコとは明確に違う。
詳しくは分からないけれども、煙の質が違うと感じた。
「どっかいけ!」
ヴァンスが寄ろうとする私を見てそう言った。初めて聞いた。余裕のない荒々しい声。
困惑。しばらく、ボーッとしてしまっていた。すると後ろから足音が聞こえた。
「チッ。最悪だ」
振り替えるとそこには
「お姉…さん?」
知った顔がいた。
「…バエル?」
「チッ。分かってるよ」
2人は私には分からない会話をしている。ついていけない。どんな言葉を言えば良いのか分からない。
「はーーーっ」
ヴァンスは乱暴に頭をガシガシと掻くと、なにかリモコンのような物を取り出し、フェルンに投げた。
「ほら、受け取れよ」
「お前の右後ろのゴミ箱の側面。そこの左上の街灯の上。んで、これ」
と、座ったまま、ゲシゲシと足を向けた先には、大きな爆弾があった。
「回収して捨てとけ。じゃな」
そう言って、足早に去っていった。
私はどうすれば良いのか…身の置き場がないとソワソワしていると。
「ネルちゃん、ついておいで?」
お姉さんは優しい声で私を呼んだ。
怖かった。大きな剣を持っているし、さっきのヴァンスと同じように、底知れない。
「ネル…本当のことを教えてあげる」
悲しい顔でそう言ったお姉さんの姿は急激に弱々しくなった。そんな気がした。
お姉さんの車の助手席に乗って揺られている。どうやらお姉さんの家に向かっているようだ。
後部座には、大きなギターケースもどきがあった。あれにさっきの分厚い大剣が入っているんだと思うと少し怖い。
車の中は無言だった。
どちらも言葉を伺っているような、そんな感じだった。
「さて、着いたわね。鍵持っててくれる?」
そう言ってお姉さんは後部座席にある大きなギターケースと、ヴァンスが置いていった爆弾を隠した布を抱えた。
「ネルちゃん、扉開けて」
「あ、はい」
そう言って、鍵を開けて扉を開く。お姉さんはそこに荷物を持って入って行った。私もそれに着いていく。
部屋の隅に物を置いて。お姉さんは風呂に入った。
爆弾に対して少しだけ興味が沸いたが、お姉さんから触らないようにと、釘を刺されたので、距離を取った。
しばらくして、シャワーを浴び終えたのかお姉さんがやってきた。
「ネルちゃんもお風呂に入る?」
そう聞かれたが、とてもそんな気分じゃないので、断った。
「まぁ、そう。それじゃあ座るね」
そう言ってお姉さんは私の向かいに距離を取って座った。スキンシップの激しいお姉さんにしてはあり得ない行動だった。
「どこから話そうかな…。えーっと。驚かないで欲しいのだけど、私とヴァンスは…殺し屋なの」
お姉さんは驚くなと言われる方が無理な話を始めた。
「つまりヴァンスは私に裏社会に関わらないで欲しくて、嘘を言っていたんですか?」
お姉さんが静かに頷く。
「お姉さんは…そのヴァンスの敵ですか?」
「仕事で敵対したら敵ね」
「お姉さんはヴァンスと恋人…なんですよね?」
「嘘よ。ごめんなさい」
強くて優しくて大きいお姉さんが小さく見えた。
「どうして嘘を?」
「ヴァンスが貴方に嘘をついたのは、裏社会のことがバレたくなかった。バレてしまったら、殺さないといけないから。だから私も嘘をついたの。ヴァンスから距離を取って欲しくて」
「じゃあ、お姉さんとヴァンスは私を殺すつもり…ですか?」
とても怖い質問だった。そうよって言われたら逃げきれる自信がない。でも、それでも聞きたかった。
「無理よ。私も、多分ヴァンスも貴方を殺せない。ヴァンスが殺すつもりだったら、あの爆弾で私もろとも殺していたはずよ」
「そ、そんなに強い爆弾なんですか?」
「えぇ、設置された区画に居る奴に、生きる可能性は皆無よ」
怖くなった。ヴァンスが、怖い。
「あのね、ネルちゃん。貴方はそれでも…ヴァンスが好き?」
なぜそんな質問をするのだろう。まったく意図が掴めない。
……私はどうなんだろう。
「分かりません。一緒にいた時のヴァンスしか、嘘を吐いていた時のヴァンスしか知らないので」
「話してみたい?本当の彼と」
「……はい」
少しだけ迷った。けれども今、逃げたら二度と会えないような、そんな気がした。
「ヴァンスの家を教えてあげるわ。明日1人で行ける?怖かったら一緒に行っても良いよ」
「大丈夫です。嘘つきなんて怖くないです」
「強いのね。…分かったわ。明日は1人で行って」
ただの強がりだ。でも、自分でなんとかしなくちゃいけない。そう思った。
ヴァンスはベッドに倒れる。体の至るところが悲鳴をあげているが、そんな事よりも優先して考えることが出来た。
「バレちまったよ…」
どうしよう。俺はあの子を殺すべきなのに。
「殺せなかった。最悪だ。」
最悪だ。こんだけ無茶苦茶やって、最後にしくじった。
「運命のいたずらって奴ね。死ねよ」
そうぼやいた後、疲れた体でシャワーを浴びて、適当に食事を済ませた。
「あー。……あーーーーーー」
そんなうめき声と共にベッドに飲み込まれた。
朝、いつも時間にいつものように目が覚める。
「だっりぃぃぃ…」
体が未だに休養を欲している。
今日は本当に死ぬかと思うことばかりだったしな~
とぼんやり考える。なぜ?とか深く考えると、浮かんだのはネルの顔だった。
「あーーー、酒、酒、酒ーーー!」
ロクデナシらしい言葉を発して、気分が悪くなる。
ピンポーン
酷く気分が悪い能天気な音がなった。




