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第22話 死と予感

 ヴァンスは2週間家から出なかった。



 飯。ゲーム。読書。風呂。睡眠。それだけをし続ける毎日だった。しかし、それを苦痛とも思わない。



 殺しを行っている時だけが、俺に充足感を与えてくれる。ならば殺しを行っていない間は不足するのは当たり前だよな~



 とぼんやり考える。



 最近ゲームにも飽きてきた。優先度が本を読むことと同列になり、廃人から帰ってきた。別のゲームをやろうかなと考えるが、面倒さが勝ってしまい。本を読むことを優先する。結果ゲームセンターにも行っていない。



 家から一歩も出ない。



 あ~。こんなに退屈だったかなぁ。



 とボケーっとしていた。



 すると電話が鳴った。



「はい、バエルです。仕事?」



「ほう、珍しく意欲的だな。もちろん仕事だ、来い」










「…つまり?」



「魔人が出る」



 シュバイツァーは珍しく2つの依頼を提示した。1つは普通になんの問題もなかったが、もう1つが厄介だった。



「ふーん?俺に逃げるか選ばせてやるってことか?」



 少しの不快感を抱くが、実際戦いたくはない。



「お前がどれを選んでも変わらん。魔人の出る方をお前が受けないなら、取り消す。お前が受けるなら、もう1つの依頼にはパティエを向かわせる」



 シュバイツァーはそれだけだ。と言葉を切り、俺の選択を待っていた。



 正直、もう戦いたくはない。



「良いぜ、いっちょ魔人殺し狙うわ」



 前に、そう八つ当たりの頃だ。俺は妙に好戦的だった。それの理由が最近分かったんだ。



 ネルだ。ネルと分かれてから、それを俺は殺し屋なんだからと納得したかった。それで、殺し屋の最高峰である逸脱者を殺せれば、俺は最高の殺し屋として、ネルを諦められると勘違いしていたんだ。



 我ながら馬鹿馬鹿しい。アホの極みだ。だが、それでもいい、もう迷いはない。俺はフェルンを…魔人を殺す。



 そして今日もまた、ゾッとするほど月が綺麗に見える。



 その月を見て。



 あぁ、あの嘘つきは絶対に来るわね。



 確信があった。理由はないが、絶対に奴は私を殺しに来る。そう感じていた。



 そしてカツカツカツと、靴の音が聞こえる。



「やぁ。調子はどうだい?」



 長い金髪を後ろでまとめ、飄々とした態度を持ち、余裕が見える胡散臭いホスト然とした男が、友達のように挨拶してきた。



 フェルンはその姿を見て、ネルを幻視した。



「調子?最高ね。今度は逃げても追いかけて殺すわ」



 この男を殺せばネルはきっと悲しむだろう。



 だが、それを知らなければ、2度と会えなくなれば、ネルはコイツを乗り越えられる。



「私は貴方を、狂人バエルを殺すわ」



 己の巨剣を向けて、そう宣言した。






 初動は示し会わせたかのように、ほぼ同時に起こった。



 魔人ギーアは突進した。それにあわせて、バエルは爆弾を2つ投げながら後ろへバックステップをした。



 1つは低空、1つは上から山なりに飛んでくる。



 どちらが本物か、どちらも偽物か、考えても分からない。



 巨剣の腹を使って掬い上げるように2つを弾く。後ろの方で二回、爆発が起こった。



 そして距離を詰めることに成功した。しかし勝ちではない。前回はそれでも捌かれた。



 前回の反省を生かすなら、大振りを避けて、細かく、丁寧に!



 振り回すのは木の枝なんかじゃない。巨剣だ。車が走ったような風の音をたてながら、それをもしカスったりしても肉が抉れるほどの馬鹿力でコントロールする。



 持久戦なら私が勝てる。だから前回逃げたはず。武器の爆弾が切れたのもあるんだろうけれど、それはそもそも使わせない。隙は作らない。



 右左と交互に、切り上げ。袈裟斬り。と角度を変えて振る。



 正直、ギーアにはそんな剣術は出来ない。そもそも巨剣と呼べるような代物を細かく振るなど、普通は出来ない。だがそれを振り回さないように、強引に力でコントロールする。



 予想以上に体が疲れる。消耗が激しい。第一ここまで長引く戦いなんて今まで経験したことがない。



 どこまで持つか、根比べね。



 ギーアは堪えていた。





 チッ!クソが。



 バエルは死ぬほど焦っていた。



 魔人対策用に、フラッシュバンや爆弾それらの偽物も大量に持ってきている。そのために普段より体が少し重い。



 それでもそれを持ってきたのは、持久戦では勝ち目が無いからだ。偽物と本物を信じられないほど使い。視界や、相手の意識をコントロールして勝つつもりだった。



 くそ!この女!分かっててやってやがる!



 ブンブンと体の横をスレスレで電車が通ったような音を感じる。それもずっと。



 次は右!次は左下!次は突き!その次は足払い!

 


 予測は出来ている。ただ、バエルは疲労により体が重くなっていくのを感じる。



 この距離で爆弾を使って仕切り直すか?と考えるも、この距離で爆弾を使えば、自分の方がダメージが大きく。下手をすればそのまま死ぬ。だから必死になんとか、なんとか、隙を探していた。



 強速。早いではなく重い。そんな音を聞く。生きた心地がしない。



 瞬間、見えた。



 次の左からの切り上げは甘い!



 勝負に出る。体を右に屈みながら避ける。そしてギーアの左足を狙って足払いをする。体勢が崩れるのを確認して、爆弾を起、死線が見える。



 剣による上からのぶった切りを見てしまう。



 嘘だろ!コイツ!



 屈んだ状態から即座に後ろへ転がる。



 ギーアは体が倒れるのを利用し、そのまま右から切り上げた剣を左にいるバエルへ振り下ろした。



 地面が抉れる。地面が割れる。そして深々と刺さった剣をなんでもないように引っこ抜く。まさにバケモノ。



 信じられねぇ!しんど!だが、やっとーーーーーー距離が出来た。



 開幕から話に付き合わず突っ込んで来るせいで、計画がパーになったが、ここからが俺のターンだ。



 体は疲労困憊だが、闘志はまだ燃えている。



 ギーアも同じだった。体は疲労している。頭も疲労している。そのせいでさっきはミスをした。



 だけど、アイツの方が限界は近いはず。



 そう考えて、心にカツを入れる。



 しかし右足に鈍い痛みが走る。先ほど崩れた体勢を、無理やり右足を軸にして、剣と体を振ったせいだろう。だが、そんなことは決して悟らせない。



 ふーーーーーー。しんどいわね。



 今までの攻撃は、アイツの話を無視したから成立した不意打ちだ。今は距離も出来てしまった。ギーアからすれば2秒もかからず詰めれる距離だが、爆弾を扱うには充分すぎる距離。



 見合っていると、奴の体力を回復させるだけだ。即断即決即行動。



 私には詰めるしか選択肢はない!



 ーーー走る!



 バエルの行動に反撃を取れるように、剣をいつでも振れるように剣を構えながら、普段より遅い。しかし普段より集中して走る!



 時間が遅くなったように感じる。バエルの動きも遅く見える。しかし案の定、爆弾は起動しているようで、偽物か、本物か、判断のつかない爆弾が、バエルの体から空へ飛び、落ちるように回りに散るのを見た。



 無秩序に見えるそれは、きっと奴の計算が張り巡らされた、クモの巣なのだ。



ーーーーーー怖い。



「ッ!」



 心に生まれた。感覚。本能が叫ぶ。逃げようと。



 止まるべきか進むべきか、迷ったのは一瞬だ。



 より早く、奴の計算を狂わせるように、より強く!地面を踏み締める。



 火事場の馬鹿力とは、死中にて、生きるために自らの限界以上の力を体が発揮すること。体が壊れぬようにと、頭が、本能が、止めているセーフティを外すことだ。






ーーーーーー開放的だった。



 世界が、音が、光が、時の流れが、全て分かる。



 全てが遅く、私は早い。世界すら置いてけぼりにした。



 一瞬だ。



 出来た距離で展開しようとした爆弾が散る前に。落とした爆弾が、地面と接触するより早く。



 それは瞬間移動だった。バエルの体に巨剣の影が乗る。



 死線は出なかった。つまり予想できなかった。





ーーーーーあ。死んだ。






 月光を受けた巨剣の中に、幻を見た。



 笑えた記憶。どうでもいい記憶。そして、たった1ヶ月もない、



 共同生活ーーーーーーーー。



 ッ!!!!!!!!



「うおぉおぉぉおぉぉ!」



 念のため、そう念のためだ。これを持ち出すってことはほとんど負け。勝ちすじなし。でも、持っとくか、使えるかも知れねぇし。



 手元からナイフを取り出す。と同時に、死線が見える。



 振り下ろされる絶死の剣。それに比べると、なんとも頼りなく小さな刃であろうか。



 世界が遅い。巨剣が遅い。しかし俺はそれより遅い。しかし、見える。未来が見える。剣筋が見える。



 剣と剣がぶつかる。上から振ってくるその巨大な死を反らす。



 爆発的エネルギーの咆哮。



 バラまいた爆弾が爆ぜる。それは二者を巻き込んだ。



 轟音と、轟風に吹っ飛ばされる。



「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」



 俺!今!死んだ!でも、生きてる!



 死を間近に感じた体が、恐怖から汗を吹き出す。体から力が抜ける。



 駄目だ。なにをしている?手持ちはない。逃げなくては!



 弱った体を、強い心で引きずって歩き出す。



 ギーアを信じて逃げる。




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