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第20話 魔神は下手くそ

 相も変わらず、狂人と呼ばれる男は死体の上で生を実感していた。しかし、満たされない。心に少しの引っ掛かりを覚える。



 だからこそ、普段とは違うことをした。



「おい、お前」



 目の前で取り乱す男に言葉をかける。



「な、なんだ。金か!」



 男はどうでも良いことを矢継ぎ早に捲し立てる。



 だから銃を撃った。男に当たらないように威嚇として。



「黙れ。俺が質問する。それ以外を口にすれば殺す」



 男は静かになった。しかし目には怯えが見える。



 ヴァンスは話を聞く準備が整ったと思い。シンプルな疑問を聞く。



「お前はなんで魔人に依頼しなかった?」



 目の前の男はどうやら大物らしい。いちいちターゲットの立場なんぞ覚えないため、よくは知らないが、少なくとも金は持っている。魔人に連絡を取れるだけの力はあるはずだ。



 そう聞いたから魔人対策の装備と戦術。そして心の高揚。それらを持って万全な状態で挑んだ。



 しかし魔人は現れなかった。



 そして男は困惑を顔に浮かべている。こんなよく分からない質問の意図を必死に考えているのか、それとも生きるためにどうするべきか、を考えているのだろう。



 嘘を付かれても困る。



 そう考えてもう一度、当てぬように射撃をした。男は尻餅を付いているため、狙うのは簡単だ。



 男の目線で顔の横を銃弾が通る。



「うけなかった!受けてくれなかったんだ!!」



 効果は劇的だった。男は必死に知っていることを話した。魔人とコンタクトを取ることは出来たこと。依頼をしたこと。それから音信不通なこと。それらを必死に真実だと口にしていた。



 しかし、ヴァンスの頭にはまた疑問が浮かんだ。



 アイツが仕事をバックレる?アイツは俺を殺そうとしてると思ったんだが、自意識過剰か?そもそもそんなことをする奴か?



 ヴァンスはあの女。フェルンの言葉を思い出す。「次仕事であったら殺すわ」「楽しみにしててね」



 うーん。考えても分からない。



 取り敢えず、用済みになったターゲットに背を向ける。



 男は自分を殺そうとしている存在が、無言で立ち去る姿に困惑しながらもホットしていた。



 ヴァンスは撃った。振り返らず。腕だけ向けて。



 男はなぜ?と言う顔を浮かべていた。



「せめて苦痛なく。と思ったが、これなら普通に撃った方がマシだったな」



 質問に答えてくれた礼として、せめて恐怖を感じないように。と配慮しようとした結果。希望を与えてから殺すと言う最悪な形になってしまった。



「難しいモンだな」



 さてと、アイツは元気だろうか。そうたまに考える。



 始めはただの娯楽だった。刺激的な遊びをしようとした。しかし次第に、いつの間にか、ヴァンスは彼女の幸せを願っている。



 ま、こんなロクでもない嘘つきなんて、忘れてると嬉しいね。



 殺風景な家を眺めながら。そう思った。












 ネル・フリードは目を覚ます。



 寝ぼけているが、少なくともここが自分の家ではない事を知っている。当然このベッドも自分の物ではないことも知っている。



 しかし、疲れた心からか、起き上がりたくない。と感じてしまう。頭では起きなくてはならないと分かっている。けれど、酷く疲れているらしく、力がでない。



「あ、起きた?」



 この家とベッドの持ち主に気付かれたようだ。礼を言わなくては。



「はい。その、ベッドお借りしてすみませんでした」



「謝らなくて良いのよ」



 優しく聞いてくるが少し疲れているように見える。昨日から寝ていないのだろう。申し訳ないな。



 そしてヴァンスは全く疲れた素振りを見せなかった事を思い出す。



 あれも演技だったのかな…?



「あのね。朝ごはん…食べれる?」



 その質問で自分のお腹が空いていることを思い出したようだ。



「はい。食べれます」



「そう、分かった。少し待ってて」



 そう言うと家主。フェルンさんはキッチンに向かった。しばらくすると何かの焼ける音といい匂いが食欲を刺激する。



 私はそれを聞きながら、ゆっくりと体を起こした。



「はい、簡単な物だけど」



 ベーコンと卵焼きにソーセージと白米。それらを2人分机に並べる。



 机はそんなに大きくないローテーブルだったので、それだけでもう限界だった。



「いただきます」



 私の言葉を聞いてから、遅れてフェルンさんも手を合わせた。



 無言だった。けれども重苦しくない。



 食器の音。外から聞こえる車の音。カーテンの隙間から溢れる暖かい光。それは久しぶりの暖かい朝だった。



「ごちそうさまでした」



 そうお互いに言ったあと、フェルンさんは食器を片付けた。



 水の音とガチャガチャとした音を聞きながら、私はこの部屋を見渡した。



 ヴァンスと同じ殺風景な部屋だった。ただ、当たり前だが、ごみ袋は見当たらずちゃんとゴミ箱があったり、少ないが食器や調理器具があったり。違いはあった。



 中でも特に目立つ物が1つ。やたら大きいギターケースの様なもの。ネルはそれを見たことがないため、想像でしかないがそれでも、異常だと思うほど大きい。



 あれはなんなのだろうか。



 ぼんやり考えていたら。洗い物を終えたらしくフェルンさんが隣にすり寄ってきた。



 この家には椅子がない。だからベッドを背もたれに足を伸ばして座っていた。が、寄ってきたフェルンさんがベッドから離れるように。と手を動かす。



 なんだろう。ベッドの側面を背もたれにしているから、まだスペースはある。同じように座れるはずだが。しかし逆らう理由はない。



 素直に背中とベッドを離す。するとフェルンさんは私とベッドの間に出来た隙間に体をスルリと割り込ませた。



 邪魔かな。そう考えて向かいの壁まで移動しようとすると、フェルンさんは移動しようとする私のお腹を後ろから抱き締めた。



「なにをしているんです?」



「ハグよ」



「どうしてそんなことを?」



「暖かいでしょ?」



「はぁ…」



 私はフェルンさんに背中側からバグされている。



 意味が分からない。なにを考えているのだろう。そう考えていると。



 ハグする力が少し強くなる。苦しくないが少し窮屈なハグだった。だが、初日の優しく抱き締めた時と同じくらい安心した。



 しばらくそうしていると、頭の上からスースーと寝息が聞こえてきた。



 やっぱり寝ていなかったんだ。と、罪悪感が芽生えた。



 しかしそれを忘れさせるぐらいに、この体温と朝の気配が優しくて気付けば私も眠りに落ちていた。





 あ。寝てた。



 フェルンはそう思って目を覚ます。腕の中にはスースーと寝息をたてるネルがいる。それに少し安心した。



 さて、この子をどうするかな。



 昨日ネルが寝たあとで、少々悪いと思うがネルが持っていた袋の中身を確認した。すると簡単に食べれる栄養食ばかり買っているようだった。



 ちゃんとした生活を送れていない。その上酷い精神状態だ。どうするべきかはすぐに思い付いた。



 ま、夜中に飛び起きることもなかったし、朝ごはんも食べれたし、このままちゃんとした生活を送ればすぐ回復してくれるはずね。



 そう考えながら、問題の核心を知ることも重要だと理解している。



 問題はいつ聞くか、よね。



 突然。ポケットの電話が鳴った。



 仕事の電話だと確信する。すぐに出るべきだ。しかし腕の中の寝息を止めないことは、仕事よりも重要だった。そうして端末の電源を落とした。



 あ~あ、本当にプロ失格だわ。



 そう思いながら、腕の中にいる、小さな女の子の綺麗な黒髪を、サラサラと手で遊ぶ。





「ん…」



 腕の中で、すこし動いた。どうやら目を覚ましたようだ。



「おはよう」



「あ、うん」



 寝ぼけているようだ。可愛くて素直な子だ。



 だからこそ原因を突き止めて、出来ることなら解決しなくてはならないと思った。



 原因を知りたい。だが、それには仲良くならなくては。



 よし、お話をしましょうか。



 そう思っていると。



「あ、おはようございます」



 小さな声でそう言った。ちゃんと目を覚ましたようだ。



「ネルは可愛いわね」



「え?」



「ネルはどんなことが好き?」



「え、えっと…?」



 仲良くなるために会話をしよう。素晴らしい作戦だった。が、致命的な欠陥が存在した。



 …フェルンはプロとして、友達を作ったことがない。その上、特定の仕事仲間もいない。



 つまりーーーーーー会話が下手くそだった。



 酷いキャッチボールだ。投げ方も、タイミングも下手くそ。ボールだってたまにサッカーボールを蹴ってくる。そんな酷いキャッチボール。



 ぎこちないことこの上ない。しかしそれでも、打ち解けることが出来たのは、ネルと仲良くなりたいという思いが強すぎたフェルンの会話を、ネルがなんとかコントロールしていたからだ。


 

 そしてネルは気づいた。このお姉さん、思ったよりポンコツだ。



 そんな思いとは裏腹にフェルンは確かな手応えと満足感を感じていた。



 私、会話できてる!



 話が飛んだり。話を唐突に切り替えたり。そんな会話でもなんとかなっているのは、1つ1つ、ネルがゆっくり丁寧に対応したからだ。という事に興奮しているフェルンは気付いていない。



「猫と犬ならどっちが好き?」



「えぇと、さっきの答えは冬が好きです。犬と猫は、どっちも可愛くて決められません。お姉さんは犬と猫ならどっちが好きですか?」



「断然猫ね。自由気ままなのが良い。なににも縛られてくれないのが好きよ」



 言葉は丁寧。話し方は雑。ネルが気を利かせる始末だ。それでもお互いに笑顔だった。



「あれ?もう夜だ。時間が過ぎるのは早くて困るわね」



「ふふ…そうですね」



「それじゃ夕食を作るわ」



「あ、私も手伝えます」



「じゃあ一緒に作りましょ」




 しっかり打ち解けていた。



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