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第18話 喜べない再開

 あ~平和って良いもんだなぁ…。



 そんなことを思いながら、ヴァンスはだらだらとゲームをして、バーガーを食べて、寝る。そんな自堕落な生活を送っていた。



 引っ越しから1ヶ月。ずっとこんな調子である。



「あ~ダメ人間の極み~」



 そう思うも、果たして昔の俺はどうだったか。対して変わらないな。



「読書がゲームになっただけじゃん。これ」



 読書が善でゲームは悪?誰が決めたんだよそんな価値観。どっちも人生を楽しむための道具に過ぎないってのになぁ。



 と、考えて最近読書をしていないことに思い至る。



 目の前のは読み終えた恋愛小説があった。漫画はとっくに読み終えて捨てた。



 さて、捨てるか捨てないか。一瞬手が止まったが、普通に掴んでゴミ袋へ投げ入れた。



「うーん。外気は良いもんだなぁ。」



 久しぶりに外に出ると冬は勢力を縮小させていたようで、ほのかに暖かい。



「春か…服の新調するかぁ」



 外に出るとやるべきことがポンポン出てくるなぁとボンヤリ考えつつ。今日のタスクを整理する。



 服、飯、本、ついでにゲーセンに寄るか。



 そんなことを考えていた時だった。



「うお!」



 強い力で後ろへ引っ張られる感覚を味わった。



「誰だ?」



 振り替えるとそこには



「貴方にとって明日、というのはいつなのかしら?」



 銀髪と赤い目を持った。会いたくないランキング1位の女がいた。



「オーマイガー。ナンデココニ?」



「ここが今の拠点だからよ」



「最悪」



「私は気分が良いわ」



「で?約束を破った落とし前はどうつけるの?」



「…俺は了承したか?」



「なにを勘違いしているの?貴方の了承なんて必要ないわよ。私がまた明日といったらまた明日なのよ」



「とんでも暴君。さすがにビビるな」



「で?今日はどこに行く予定?」



 ついてくる気満々の声だ。腕も組んできた。終わったな…。



「服、飯、本、帰宅」



「うそ、本当に読書するの?」



「最近サボってたがな」



「それ本当に趣味?」



「別に毎日やることは義務じゃないぞ」



 まぁ確かにそうね。と納得したらしく。それ以上は言わなかった。





「ふーん。貴方そんな服を好むの?」



「悪いか?」



「悪くはないけれど、今の服とセンスが違うわね」



 ズキりと心にトゲが刺さったような痛みを覚える。ただそれを悟られるのは不愉快だ。表情にでないように、意識して忘れる。



「服なんて対して変わらんだろ?」



「全裸?」



「お前なぁ…」



「ま、なんでも良いなら私に選ばせて」



「拒否権は?」



「特別に下賜してあげる」



「そうかよ。めずらし」



 で?どうするの?と目で俺の答えを促す。



「そうだな…3着ぐらい選んでくれよ」








「貴方、なにを着てもなんとかなるわね」



「だろ?そんな俺が嫌いじゃない」



「そのせいでこだわりがないのね」



「あー確かに。そうかもなぁ」



 高身長の美男美女カップル。



 彼らを知らぬものが見ればそう見えるだろう。










 ネル・フリードは探し回った。



 彼の家へ訪ねた時。彼はもうそこには居なかった。



 知っているところに顔を出して、ヴァンスを知らないかと聞いて回った。



 その道中で自分はヴァンスのことを名前と性格しか知らない。と気付いた。



 それでも必死に探した。太陽が落ちて、月が登っても、ずっと毎日探し続けた。



「ヴァンス…どこ行ったの?」



 泣きそうに震えている声を歯を食い縛って堪える。



 やがて、大学に行くために引っ越しが必要になった。



 結局ヴァンスには会えなかった。



 でも、これ以上頼るのは良くないと無理やり自分を納得させて諦めた。



 それなのに



「え、ヴァンス?」



 見つけてしまった。本当にたまたま、運命のイタズラとも言える。



 2度と会わないと忘れたヴァンスと2度目を求めたネル。運命はネルの味方をした。が、現実はネルを厳しく強打した。



 高い身長と長い金髪。多分…。いや絶対。間違いない。



 ヴァン…ス?



 彼の元へ駆け出そうとした。しかしその足は途中で止まる。



 周りの音全てが煩わしい。



 …あの銀髪の人は誰?



 チラリと見えた顔はとても綺麗だった。



 ヴァンスの声が小さく聞こえてくる。



「……俺…嫌い……ない」



 俺?初めて聞いた一人称。彼は私と言っていたはず…。



 それよりも、嫌いじゃない?誰が?腕を組んでいる人が?



 それはヴァンスと正反対の色。金と銀。青い目と赤い目。正反対なのに、いやだからこそ。



 ーーーーーーーーー釣り合っていた。





 気付けば駆け出していた。ヴァンスとは正反対の方向へ。辛い現実を否定するように。




 そして、引っ越したばかりの新居へ帰った。



 まだ物が少ない殺風景な部屋。そこにあるベッドに潜り込んだ。



 情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない。




 いったいなにが情けないのか、分からないまま泣いた。




 自分はヴァンスにとってなんだったのか…。




 「君は子供で私は大人だ」そんな言葉がフラッシュバックして、また泣いた。





ーーーーなんだーーーーー私はーーーーーーーーただの子供だったんだ。






 保存食をゾンビのように貪る。味なんて感じない。私は心が腐ったゾンビだ。





 お菓子を食べた。空腹のなか、それが目についたから。そして思い出すのだ、彼がクレーンゲームで嬉しそうにお菓子を落とす様子を。



「もっと遊べば良かったのかな?」



 答える者のいない無意味な問いだ。



 そうして思い出すのは、あの銀髪の人。



 あの人はなんなのだろうか。彼女なのか。ヴァンスがあの人に向ける笑みは私には向けたことのないものだった。嫌そうな顔でも嬉しそうだった。



 そう思うだけで苦しくて苦しくて、涙が止まらない。



「ぐっ…うぅぅぅ………」



 ベッドに潜り声を殺す。もし大声で泣いてしまえば、止められなくなる。



 助けてほしい。この痛みから助けてほしい。






 気付けばまた気絶するように眠っていた。



 目を覚ますと新居らしい、殺風景な部屋が目の前にあった。



 荷物の開封もしていないため、がらんどうだ。人の温もりを感じない冷たい部屋。



 それが酷く寂しくて痛い。冷たくて痛い。



 あぁそう言えば、ヴァンスの部屋もこんなだったな。



「ぅ……ぅ………」



 静かに布団に悲鳴を埋める。



「私は…なんなの…」



 答えのでない問いにまた、頭が支配される。心が支配される。



 バラバラだ。体がバラバラになった錯覚をする。しかし体は繋がっている。だが、心がバラバラで、それにつられるように体も動かない。



 自分の体が自分の物じゃなくなる。バラバラに散った心が1つ、また1つと腐っていく。それにつられてまた、体も腐っていく。





 ーーーーーそんな気がするーーーーー






 なにも変わらないまま、なにも知らないまま、世界が回る。



 自分の不甲斐なさに吐いてしまう。そんな妄想をする。



 ふと、髪の毛がベタついていて不快になる。



 それから徐々に風呂に入らない日が増えた。



 保存食の空になった箱。お菓子の袋。朝食として買ってあったパンの袋。それらが散乱する。部屋がゴミで汚れていく。



 普段なら絶対に耐えられないことも耐えられる。その事実が自分も同じくゴミになったんだ。そう突きつけてくるようで、酷く苦しい。



 なにも出来ない。なにも見たくない。



 ふと、目の前にあったエアコンのリモコンを怒りのままにぶん投げる。



 壁にぶつかって、中から電池が飛び出していく。



「あ。あぁあぁぁ」



 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。



 投げ捨てたリモコンの元へ向かおうとして、ベッドからずり落ちる。



 落ちてるゴミの袋が体に張り付く。



 それを気にも止めず、リモコンの元へ這って進む。



 電池が出ただけで、壊れてなんてない。それを焦りながら元に戻して、ひたすらに謝った。



 優しい教え。物は大切にしましょう。



 当たり前に出来ていたことが出来なくなる。



 当たり前が徐々に壊れていく。



 私が徐々に壊れていく



 そして昼夜の区別がなくなった。

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