第17話 三者三様
「はぁ~」
ヴァンスは目の前の女。フェルンを見る。
「お前はなぜこんな仕事をしている?」
「向いているから」
だし巻き玉子を食べながら、簡潔にそう答える。
「この仕事が向いてる。か…ハッ。お互い、とんでもないロクデナシらしいな」
「へぇ、貴方も?」
「あぁ、そうだ」
「貴方は仕事以外で人を殺したことはある?」
なんでもないようにそう聞いた。
「あぁ1度だけある。最高で最悪な気分だったよ」
独特な距離感だ。友だち以下、他人以上の敵。
「お前は?」
「私はないわ」
即答。コイツはただの殺人鬼ではないようだ。
「は。言動と行動がブレブレだな。俺を殺すつもりで殴りに来やがって」
ヴァンスはさっきあった出来事の恨みを言う。
「まぁその程度で死ぬなら、昨日の時点で貴方はこの世にいないわよ」
「…絶対仕事以外で殺ったことあるだろ」
「ないわ」
本当かよ。と思うも口には出さない。さすがにまた殴られたくはない。
「さて、食事も済ませたし、次はどこへ連れていってくれる?」
「は?嘘だろ?なんで俺が」
「貴方ここらに住んでいるのよね?」
「生憎、仕事人間でね。ご期待に添えるとは思えませんので辞退させて」
「ダメよ。許さないわ」
逃がさないぞ。仮に逃げても良いが、ぶん殴ってやる。と言う意思を目が放っていた。
美人だ。近寄りがたいような。身長が高く。鋭い目線。ニヤリと人を馬鹿にしたような笑顔。近寄りがたい美人だ。裏社会の女傑。そんな雰囲気を持っていた。いや実際そうなのだから困ったものだが。
そんな美人と腕を組んで町を歩く。ドキドキするね。命の危機的な意味で。
「で、貴方の趣味は?」
お見合いのテンプレみたいな質問を投げてくる。下手くそか!
「読書」
「嘘」
「読書」
「ダメ。私も楽しめるものにしなさい」
は?コイツはなにを考えている?趣味を聞いて、気にくわないから変えろってか?
「お前友だちいないだろ」
「貴方だって同じでしょう?」
友達か…頭に浮かんだのは、あの家出娘だった。
「居るね1人だけだが」
「仕事仲間は含まないわよ」
「含んでねーよ」
「…それ本気で言ってるの?」
声の質が変わった。俺を咎めるように。
「あぁいたよ。もうどこにいるか知らないが」
「興味が出たわ。話しなさい」
「やだね」
「話しなさい」
組まれた腕がメキメキと音を立てる錯覚をした。
「痛て、いてててて。分かった。分かった。」
面白くねぇ…。そう思いながらも、家出娘、ネル・フリードとの変な共同生活を簡潔に説明した。
「貴方、手を出してないわよね?」
「出してないね」
「はぁ…貴方が予想以上にダメ人間ってのは分かったわ」
「そうかよ。ほらダメ人間なんて捕まえる価値ないから離せよ」
「俺は帰ってのんびりだらだらゲームすンだよ!」
「ゲーム!良いね。行きましょうか」
「は?どこに?」
「ゲームセンターよ」
「え。お前その怪力で?怒って筐体をぶっ壊すぞ!?」
「その前に貴方をぶっ壊しましょうか?」
ギチギチと腕が締め上げられる。
「痛で!いででで!悪かった。悪かった!」
「俺の腕、折れてねぇよな」
夕食を食べながら、腕の調子を確認する。
「まったく…ひでぇ目にあった」
あの町での最後の思い出がアレとは笑えねぇ。
と思いながら新居を見回す。
「はぁ…。ここは冷たいな」
殺風景な見知らぬ家。なにもない、がらんどうな家。ただ1つを除いて。
「結局捨てられねぇのな。本当に…」
フィギュアだけは捨てられなかった。
「あぁもういい。別のことを考えろよ」
自分の思考に文句をいい、考えを振り払う。すると出てきたのは、今日出会った嫌な奴の去り際の言葉。
「また明日会いましょ?」
はは、あの町から遠くにいる俺を見つけられまい。そう、引っ越したのだ、自分を見つけることなんて不可能。
今日のあった出来事で唯一の良い思い出。そう言える別れ際の出来事。
カカカとひとしきり笑った後、殺し屋としての自分が顔を覗かせる。
「魔人があそこにいるなら、仕事でかち合うことはないな」
そう言いつつも、勝てる手段を考えておく。
「本当に2度とゴメンだ」
危険だが近接も必要か、爆弾類ももっと頼るか。そう考えつつ目はゲームに吸い寄せられていく。
魔人と呼ばれる女は、今までないほどの満足感で満たされていた。
狂人バエル。ヴァンス。戦った感覚は、反応が遅れれば殺される。そういう戦いだった。しかし彼はいつだって余裕の笑みを崩さない。そんな不気味な男だった。
今日の遭遇はたまたまだ、本当にたまたま。幸運だった。彼という人間を知れる機会を手に入れることができた。
結論から言うと、妙に卑屈だった。私に怯えていた。本物かどうか疑わしくて、色々と話をした。すると似た者同士なんだと、親近感がわいた。
家出娘の話も聞いた。自分をロクデナシと判断し、悪の道へ落ちないようにしつつも、将来を案じて悪行を行うなど。器用な奴だと思った。
ただ、全てを嘘にする。なんて非効率的なことをするなど、不器用な所があるなとも思った。
甘えの目立つ。プロ失格。プロなら友人なんて作らない。ましてや家出娘なんぞ拾ったりしない。しかしそれらを食い物にする下道でもない。
殺し屋としての意識に欠けた奴だった。
嫌いじゃない。
フェルンは明日会う約束があるから早めに寝ることにした。
ネル・フリードは大学に受かった。
「合格おめでとう」
「ありがとう母さん」
前にも同じ会話した。あの時はふわふわとしていて、自分が正しいことをしているんだ?と言う感覚だった。
でも今は違う。素直に言葉を受け取れる。やりたいことが見つかったんだ。
あの間違いだらけの日常が、私を奮い立たせる。私はやりたいことをやるだけ。ヴァンスが教えてくれなきゃ、誘ってくれなきゃ、こんな気持ちにはならなかったな。そう思う。
さて、受かったのがゴールじゃない。ここからが本番なんだ、大手のゲーム会社に入るためには、もっと頑張らないといけない。
ゲームがこんなに楽しいと思えたのは間違いなくヴァンスのおかげだ。
ヴァンスはゲームが好きだったな。
「ヴァンスが好みそうなゲームが作りたいな。派手さより頭を使うようなゲームを作りたい」
昔はふわふわとしていた。でも今はしっかりと地面を踏みしめている。
自分が満足いくように進めている。
「明日、会いに行くね」
期待と感謝を伝えにヴァンスに会いに行こう。そう思いながら。スマホゲームをしている。
眠れないんだから仕方ないよね。と自分を納得させて。




