表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

第14話 人の終わりすべてよし

 1ヶ月。ヴァンスは家からほとんど出ることはなかった。



「くわぁぁ」



 いつも通り朝7時に目が覚める。殺し屋として培ってきた10年がそうやすやすと変わるものではない。



 しかしヴァンスの1日はあの家出娘、ネル・フリードと別れてから大きく変化した。



 まず、起きて早々、スマホを触る。そして入っているゲームを起動する。それをオートで出来るように設定してから、食事を始める。冷蔵庫に保存していた食べ物をレンジで温めて、だらだらと食べる。その間も視線はスマホに向けられている。



 食事を終えると、本気でゲームに集中する。高難易度と呼ばれるクエストに挑むのだ。ゲームを遊ぶスタミナが無くなったら、お金の力でスタミナを即座に回復させて、無限にやり続ける。



 ぶっちゃけると感覚が狂っている。



 この1ヶ月でガチャの更新が3回あった。そしてその度にガチャを引いた。初めて引いたときは運も悪く、しんどい気持ちになったが、キャラパワーの闇に飲まれてからは、嬉々としてガチャを待ち望む狂人になった。



 金を溶かす苦痛も彼には届かない。



「金なんてなぁ!道具なんだよぉ!今を楽しむためのなぁ!」



 ヴァンスはソーシャルゲームの闇に飲まれていった。



 考えてもみてくれ。



 金を持っていて、金より今を重要視している。人生は自分が楽しむための道具と命すら軽んじている。そしてなにより、深く考えない。そんな奴が人を沼らせるために作られたゲームをやったらどうなるか。



 結論。廃人!



「このキャラ良いなぁ…周年祭限定?へぇ…」



 いくら金を出しても手に入れる。そう決めたキャラを使うことを考えて笑っていると、電話が鳴った。



 いい気分を邪魔された。



「チッ」



「はいはい、バエルです。なんの用だよシュバイツァー?」



 イラついた声を聞いたからか、電話越しの声は不機嫌だった。



「さっさとソロモンに顔を出せ。仕事だ」



 そう言って通話は切られた。



「まぁ1ヶ月だもんなぁ…。さすがにボスもキレるか」



 カカカと喉を鳴らす。そして弛んだ意識を切り替える。



「行くか」



 狂人バエル。依頼達成率100%の殺し屋がそこにいた。



 


「やぁボス」



 機嫌はどうだい?とニコニコしながら話しかける。すると、予想外の答えが帰ってきた。



「はぁ…ゲームは気に入ったのか?」



 驚く。普段仕事、仕事、仕事だ。とうるさいのに。



 だから少し真面目に答えることにした。



「まぁ面白い。食わず嫌いしてたのが馬鹿馬鹿しいと思うよ。もっと早くに知りたかったかな」



「ふっ…。そうか、ハマりすぎるなよ」



 子供に諭す親みたいな、そんな雰囲気をシュバイツァーは放っていた。



「やだね。俺は俺がやりたいだけ、満足するまでやる」



 指図は受けたくないね。と虫を追い払うように手を振るが、シュバイツァーの調子は変わらない。



 負けた気分になるのは嫌だ。だから。



「で?今回俺呼んだのってなに?」



 本題。仕事の話を振る。



 するとシュバイツァーは組織の長として、ボスとしての風格を纏う。



「先月、貴様が暴れ散らかしたせいで、敵対組織が殺気だっていてな」



「狂人バエルは本当に依頼の質を下げたのか、雑魚を掃討することが目的なのか、ソロモンとして方針なのか、とな」



「その上、1ヶ月も出てこなかった。それがより混乱を深めているんだろう」



「え、もしかして説教?」



「たわけ、そんな意味のないことをするわけ無かろうが!」



 貴様に説教なぞ無意味だ。とめんどくさそうに手を振る。



「えぇ…じゃあなんだよ」



「依頼の質を戻す」



「ふーん。それ俺に言う必要ある?」



 やれって言えば良くね?と軽い調子で言うと、シュバイツァーは信じられないというような目で俺を見る。



「はぁ…いや異論がないなら良い」



 見慣れた疲れた顔をする。かわいそ



「んで?まさか終わりじゃないよな?」



「あぁ、仕事だ。殺してこい」










 政敵、ね。その言葉を口のなかで転がす。



 ヴァンスには政治が分からぬ。しかし目の前にいる邪智暴虐の王は殺すべきらしい。



「ま、金が払われるなら誰でも殺すべきなんだろうがな」



 だいたい金払ってでも殺す。なんて言われる方が悪いんだろうよ。払う奴はもっと悪いが。と考えて。



「まぁそんな悪人同士の背比べなんて意味ねぇし。ちゃっちゃと殺るか」



 自分の考えを捨てる。そう、彼は深く考えない。





「はぁぁい。どうも~」



 ざわつく。そして即座に警戒される。いつものことだ。…ただ。



 へぇ、今回は全員撃ってくるか。



 と、先の展開を予測した。



 いいね!楽しくなってきた!



「どうも~」



 その言葉と共にバエルが持つ銃が火を噴く。



 ははは!どいつもこいつ協力って言葉がないのか?狙っている地点がほぼ同じじゃないか。



 攻撃される場所まで予測がたつと、まぁ呆気ない。



 それをゆっくり歩きながら避ける。もちろん射撃は続けながら。



 しかしさすがに歩くだけでは避けられなくなる。



 射撃が下手な奴や、やけくそ射撃する奴がいないのは、これはこれでチョロいもんだな。



 向けられる銃器の光と自らが放つ銃器の光。それらが狂人を舞台に上げる。



 射撃の音をベースに踊る。くるくる回る。跳ねる。屈んで転がる。自然とーーーー笑う。



「ハハハハハハ!もっと良く考えろ!間抜け!下手くそ!」



 一流と呼ばれる存在を手玉にとって笑う。



「あぁ!それはいいね!賢い!だからダメ、卑怯だ」



 そう言って、出現するオート機関砲を撃つ。展開すれば生半可な射撃では壊されないはずの砲台は、展開する瞬間を数発の弾丸に襲われ沈黙した。その火力を見せることなく。役目を果たせぬどころか、満足に展開することさえ許されない。



 動揺と驚愕か、まぁあんだけ嬉しそうに砲台を見ていたんだ。勝てると踏んだんだろう。



「脆い脆いあまりに脆い希望だな」



「下手くそなお前たちにピッタリだ」



 おやおや、また射撃が単調になってきたな。怒りか。自棄か。



 クルクルと楽しく遊んでいるが。まぁさすがに疲れる。



「もう踊るのは飽きた。次はお前らが踊れ」



 ピン



 その音ともに、爆弾が敵陣に放り込まれる。



 ただ、まぁ、さすがに一流だ。空中に浮かぶ手榴弾を撃ち抜けるようだ。



 読んだ先の展開。だからこそ。



「お前たちにはがっかりした」



 空中に浮かぶ手榴弾を数発の銃弾が撃ち抜く。



 瞬間。ーーーーーー爆発ーーーーーーーーしなかった。



 それは中身のないただの偽物。



 爆薬の詰まった本物は、今地面スレスレで相手に投げ込まれた。



 偽物に視線を誘導し本物を隠す。彼の弾除けの踊りと言葉は、本命を隠すには充分すぎた。



「ふぅ…久しぶりに少しだけ楽しめたな」



 狂人バエルは不意打ちを好まない。



 正々堂々と、虚飾をもって打ち倒す。



 さて、後は最後に残った生き残りを撃ち殺す。それで仕事は終わりだ。



 一流の死体の山、一流の血液、それらが栄光へのレッドカーペットのように感じる。



 それらを踏み潰す。一歩一歩踏み潰す。



 あぁ、俺って今、誰よりも。



「最高に生きている」



 そして最後の人間をみる。怯え。それだけだ。



「つまらないな」



 善人だ悪人だ、と考えるのはやめた。金を払ってでも殺すと言われる奴がまともな訳がない。



 目の前で三流以下が騒いでいる。



 助けてくれ、金なら払う。



 あー…何度も何度も聞いた。もう少し笑える言葉を選べよ。



 じーっとゴミを見る。その命を値踏みするように。



 死線が見えた。



 …下手くそな射撃だ。避けるものもめんどくさい。



 なにか喋ってる所悪いが、問答無用で撃った。



 はぁ…言葉と行動で相手を油断させたいらしいが、相手が悪かったな。



 そしてヴァンスは仕事を終えた後、いつもの連絡する。



「もしもし?こちらバエル。仕事終わった」



 さて、終わった終わった。帰るときにまた血の川を、死の山を踏み潰す。



 先程、殺したばかりの時よりもツンと鼻に付く異臭。



 より濃く漂う命の終わり。



 最高だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ