第14話 人の終わりすべてよし
1ヶ月。ヴァンスは家からほとんど出ることはなかった。
「くわぁぁ」
いつも通り朝7時に目が覚める。殺し屋として培ってきた10年がそうやすやすと変わるものではない。
しかしヴァンスの1日はあの家出娘、ネル・フリードと別れてから大きく変化した。
まず、起きて早々、スマホを触る。そして入っているゲームを起動する。それをオートで出来るように設定してから、食事を始める。冷蔵庫に保存していた食べ物をレンジで温めて、だらだらと食べる。その間も視線はスマホに向けられている。
食事を終えると、本気でゲームに集中する。高難易度と呼ばれるクエストに挑むのだ。ゲームを遊ぶスタミナが無くなったら、お金の力でスタミナを即座に回復させて、無限にやり続ける。
ぶっちゃけると感覚が狂っている。
この1ヶ月でガチャの更新が3回あった。そしてその度にガチャを引いた。初めて引いたときは運も悪く、しんどい気持ちになったが、キャラパワーの闇に飲まれてからは、嬉々としてガチャを待ち望む狂人になった。
金を溶かす苦痛も彼には届かない。
「金なんてなぁ!道具なんだよぉ!今を楽しむためのなぁ!」
ヴァンスはソーシャルゲームの闇に飲まれていった。
考えてもみてくれ。
金を持っていて、金より今を重要視している。人生は自分が楽しむための道具と命すら軽んじている。そしてなにより、深く考えない。そんな奴が人を沼らせるために作られたゲームをやったらどうなるか。
結論。廃人!
「このキャラ良いなぁ…周年祭限定?へぇ…」
いくら金を出しても手に入れる。そう決めたキャラを使うことを考えて笑っていると、電話が鳴った。
いい気分を邪魔された。
「チッ」
「はいはい、バエルです。なんの用だよシュバイツァー?」
イラついた声を聞いたからか、電話越しの声は不機嫌だった。
「さっさとソロモンに顔を出せ。仕事だ」
そう言って通話は切られた。
「まぁ1ヶ月だもんなぁ…。さすがにボスもキレるか」
カカカと喉を鳴らす。そして弛んだ意識を切り替える。
「行くか」
狂人バエル。依頼達成率100%の殺し屋がそこにいた。
「やぁボス」
機嫌はどうだい?とニコニコしながら話しかける。すると、予想外の答えが帰ってきた。
「はぁ…ゲームは気に入ったのか?」
驚く。普段仕事、仕事、仕事だ。とうるさいのに。
だから少し真面目に答えることにした。
「まぁ面白い。食わず嫌いしてたのが馬鹿馬鹿しいと思うよ。もっと早くに知りたかったかな」
「ふっ…。そうか、ハマりすぎるなよ」
子供に諭す親みたいな、そんな雰囲気をシュバイツァーは放っていた。
「やだね。俺は俺がやりたいだけ、満足するまでやる」
指図は受けたくないね。と虫を追い払うように手を振るが、シュバイツァーの調子は変わらない。
負けた気分になるのは嫌だ。だから。
「で?今回俺呼んだのってなに?」
本題。仕事の話を振る。
するとシュバイツァーは組織の長として、ボスとしての風格を纏う。
「先月、貴様が暴れ散らかしたせいで、敵対組織が殺気だっていてな」
「狂人バエルは本当に依頼の質を下げたのか、雑魚を掃討することが目的なのか、ソロモンとして方針なのか、とな」
「その上、1ヶ月も出てこなかった。それがより混乱を深めているんだろう」
「え、もしかして説教?」
「たわけ、そんな意味のないことをするわけ無かろうが!」
貴様に説教なぞ無意味だ。とめんどくさそうに手を振る。
「えぇ…じゃあなんだよ」
「依頼の質を戻す」
「ふーん。それ俺に言う必要ある?」
やれって言えば良くね?と軽い調子で言うと、シュバイツァーは信じられないというような目で俺を見る。
「はぁ…いや異論がないなら良い」
見慣れた疲れた顔をする。かわいそ
「んで?まさか終わりじゃないよな?」
「あぁ、仕事だ。殺してこい」
政敵、ね。その言葉を口のなかで転がす。
ヴァンスには政治が分からぬ。しかし目の前にいる邪智暴虐の王は殺すべきらしい。
「ま、金が払われるなら誰でも殺すべきなんだろうがな」
だいたい金払ってでも殺す。なんて言われる方が悪いんだろうよ。払う奴はもっと悪いが。と考えて。
「まぁそんな悪人同士の背比べなんて意味ねぇし。ちゃっちゃと殺るか」
自分の考えを捨てる。そう、彼は深く考えない。
「はぁぁい。どうも~」
ざわつく。そして即座に警戒される。いつものことだ。…ただ。
へぇ、今回は全員撃ってくるか。
と、先の展開を予測した。
いいね!楽しくなってきた!
「どうも~」
その言葉と共にバエルが持つ銃が火を噴く。
ははは!どいつもこいつ協力って言葉がないのか?狙っている地点がほぼ同じじゃないか。
攻撃される場所まで予測がたつと、まぁ呆気ない。
それをゆっくり歩きながら避ける。もちろん射撃は続けながら。
しかしさすがに歩くだけでは避けられなくなる。
射撃が下手な奴や、やけくそ射撃する奴がいないのは、これはこれでチョロいもんだな。
向けられる銃器の光と自らが放つ銃器の光。それらが狂人を舞台に上げる。
射撃の音をベースに踊る。くるくる回る。跳ねる。屈んで転がる。自然とーーーー笑う。
「ハハハハハハ!もっと良く考えろ!間抜け!下手くそ!」
一流と呼ばれる存在を手玉にとって笑う。
「あぁ!それはいいね!賢い!だからダメ、卑怯だ」
そう言って、出現するオート機関砲を撃つ。展開すれば生半可な射撃では壊されないはずの砲台は、展開する瞬間を数発の弾丸に襲われ沈黙した。その火力を見せることなく。役目を果たせぬどころか、満足に展開することさえ許されない。
動揺と驚愕か、まぁあんだけ嬉しそうに砲台を見ていたんだ。勝てると踏んだんだろう。
「脆い脆いあまりに脆い希望だな」
「下手くそなお前たちにピッタリだ」
おやおや、また射撃が単調になってきたな。怒りか。自棄か。
クルクルと楽しく遊んでいるが。まぁさすがに疲れる。
「もう踊るのは飽きた。次はお前らが踊れ」
ピン
その音ともに、爆弾が敵陣に放り込まれる。
ただ、まぁ、さすがに一流だ。空中に浮かぶ手榴弾を撃ち抜けるようだ。
読んだ先の展開。だからこそ。
「お前たちにはがっかりした」
空中に浮かぶ手榴弾を数発の銃弾が撃ち抜く。
瞬間。ーーーーーー爆発ーーーーーーーーしなかった。
それは中身のないただの偽物。
爆薬の詰まった本物は、今地面スレスレで相手に投げ込まれた。
偽物に視線を誘導し本物を隠す。彼の弾除けの踊りと言葉は、本命を隠すには充分すぎた。
「ふぅ…久しぶりに少しだけ楽しめたな」
狂人バエルは不意打ちを好まない。
正々堂々と、虚飾をもって打ち倒す。
さて、後は最後に残った生き残りを撃ち殺す。それで仕事は終わりだ。
一流の死体の山、一流の血液、それらが栄光へのレッドカーペットのように感じる。
それらを踏み潰す。一歩一歩踏み潰す。
あぁ、俺って今、誰よりも。
「最高に生きている」
そして最後の人間をみる。怯え。それだけだ。
「つまらないな」
善人だ悪人だ、と考えるのはやめた。金を払ってでも殺すと言われる奴がまともな訳がない。
目の前で三流以下が騒いでいる。
助けてくれ、金なら払う。
あー…何度も何度も聞いた。もう少し笑える言葉を選べよ。
じーっとゴミを見る。その命を値踏みするように。
死線が見えた。
…下手くそな射撃だ。避けるものもめんどくさい。
なにか喋ってる所悪いが、問答無用で撃った。
はぁ…言葉と行動で相手を油断させたいらしいが、相手が悪かったな。
そしてヴァンスは仕事を終えた後、いつもの連絡する。
「もしもし?こちらバエル。仕事終わった」
さて、終わった終わった。帰るときにまた血の川を、死の山を踏み潰す。
先程、殺したばかりの時よりもツンと鼻に付く異臭。
より濃く漂う命の終わり。
最高だった。




