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第13話 憎まれっ子世にはばかる

「あぁ…頭いてぇ…。今何時だ?」



 答えるものは居ない。仕方なくスマホに手を伸ばす。



「昼か」



 ヴァンスは今日も暇だ。



「にしても昨日の炙りチーズのイチゴタルト?あれはヤバかったなぁ」



 思い出して最悪な気分になれる食い物だった。



「二度と食わねぇ」



 そう言いながらダルい体と頭を起こし、水と薬を飲む。元々飲み潰れるまでやる予定だったのだから、当然昨日買っておいた。



「あ~」



 思考がまとまらない。そんな頭でしばらくぼーっとしていたが。



「ゲームしよ」



 気付けばハマっている。ゲーセンを見て食わず嫌いしていただけで、いざやってみると面白い。



「チッ。ミスったか?」



 いや、まだ挽回できる範囲だ。と思い必死に抵抗を続けるがしかし。



「だぁぁぁ。なにがいけなかった?…多分あそこのミスだよな…」



 失敗と画面に表示される。



 ゲンナリするが、全く意欲は衰えない。即座に2回目の挑戦をする。



「さすがに勝っただろ」



 先ほどのミスを調整し、ミスをなくした。しばらくして画面には完全勝利の演出が入った。



「はは、おもれぇ…」



 真面目な奴は極端になりやすい。好きなものはとことん好きになるヴァンスがどっぷりハマるのも、彼が生きることに真面目な人間だからだろう。



 ぐぅぅぅ。腹が鳴る。仕方ないとゲーム落とし、宅配を呼ぶ。そしてまたゲームにのめり込む。その姿はまさにクソニート?



「物理的に勝てねぇ…」



 四苦八苦。ピザを食べながら挑むこと一時間。どうやってもキャラのレベルやレアリティ、性能的に勝てなくなった。



「今は無理かぁ…」



 ホーム画面で書かれている悪魔の文字を読む。



 ガチャ…か。手っ取り早く強くなりたければ、引け!と本能が囁く。



 しかしなぜか彼の心は。



 嫌がってる?なんで?



 金を入れることに抵抗があることに驚く。



 ゲーセンなら金必要だろ?なぜ金を入れずに済まそうとしている?



 迷いは正論で消し飛ばされる。



「ついでに、ボスに連絡して仕事を普通に戻して貰うか」



 酒を飲んで、遊んでいたら、気がはれた。八つ当たりしていた自分が馬鹿馬鹿しく思える。



 連絡を済ませた後、コンビニに寄る。



 取り敢えず五万あれば余裕だろ。



 ヴァンスは殺し屋である。しかも趣味は読書だ。金ならありあまる。



 たかが金。だからな。俺にとって今の方が金より大事だ。



 そう考えていた時、瞬間。「炙りチーズのイチゴタルト」が目に入る。



 食わねぇよ!と心の中で咆哮をあげる。





「あぁぁやっと出た…しんど」



 帰宅後、課金するのに時間がかかり疲れた。しかしまぁガチャは楽しいから良いだろう。とたかをくくっていたが。



 ヴァンスはガチャを引くのがこんなにも辛いとは思わなかった。



「俺が悪運すぎるだけか?」



「まぁどっちにしろピックアップは当てたし、もう引く必要はないな」



 さっそく手に入れたキャラを育ててゲームを再開する。



 そしてヴァンスは溺れた。キャラパワーの闇に。



「早く、早く!次のガチャを、新キャラをくれ!」













 ボスこと、シュバイツァーはまたタメ息を吐いた。



「どうしたの?ボス?またバエル?」



 シュバイツァーはやってきた部下にあぁそうだと肯定を示す。



「ははは、最近よく暴れてたね。なのにもう一週間顔出してない。今度はなにしでかしたの?」



 シュバイツァーの右腕と呼ばれる女、パティエはクスクスと笑う。



「いやアイツはなにもやってない。なにもやる気がないんだと」



「なら問題ないじゃないですか?」



「あいつは自分宛以外受けたくないし、期間もスレスレまで温めておいてくれと、言い出した」



 理由分かるか?とシュバイツァーは問う。しかしパティエは首をかしげるだけで考える気がないようだ。



「はぁ…。アイツは今、スマホゲームにハマっている」



 なんともまぁ、ひどい理由だ。タメ息だって吐きたくなる。



「ははは、ひどいね。それで?私を呼んだのはなぜ?」



 パティエは本題を聞く。



「あぁ、アイツのせいで増やした依頼を片付けてくれ」



 部外者だから笑えたのに、いきなりとんだ貧乏クジを引いたと絶望する。



「うそ、最悪。バエルに押し付けてよ」



「ならお前が連絡してみろ」



 そう言われ、端末を取り出す。バエルの連絡先は知っているため、その場で直ぐに通話を始めた。



「もしもし?バエル?あなたに仕事よ」



「俺宛?」



「違うわ」



「あ、そう。んじゃ」



「あ、ちょっと!」



 ブツン。



「彼、あんなに愛想悪かった?」



「大方、ゲームに集中したいんだろう」



 シュバイツァーとパティエはここに居ないワガママ小僧にタメ息を吐くのだった。














 ネルと別れて2ヶ月がたった。



 バエルは始めの1ヶ月は凄まじくやりたいほうだい暴れまわっていた。



 ただの八つ当たりだったのだが、そのせいで狂人バエル対策の護衛が知らないあいだに出来上がっていた。




「良いか!奴の言葉に耳を傾けるな!奴は必ず正々堂々、馬鹿のように現れる!ここに居る諸君なら、敵が現れれば即座に攻撃出来るだろうが、奴かどうかの判断が遅れれば、餌食にされるぞ!3秒だ、3秒で判断を下せ!そして緊張や不安を奴は煽る!攻撃が単調にならないように気をしっかり持て!」



 隊長ディスクが自分の部下にそう言葉を発する。



 敵なら即座に攻撃が出来ると言ったが、ここにいる奴らはまだ新米と言って差し支えない。



 そんな彼らが攻撃できるか怪しいが、生き残る可能性を少しでも、出来るなら、かの狂人を討てる希望を持ちたくて対策を広めている。



 だが、そんなこと皆分かっているのだ。分かっていてなお、飲まれる。



 奴と戦う土俵にすら立てない。



 胃の辺りがキリキリと音を立てるようだ。



「クソ!これも奴のせいだ!なぜこんな意欲的になった?なぜランクの低い依頼にまで顔を出す?」



 自室で怒りとも愚痴とも取れる言葉を放つ。



「はぁ…考えても無駄だな」



 どうしたらあの忌々しい狂人を殺せるのか。



 いや、殺す手段はある。しかしそれは多額の金がかかる上、自分達が討ち取ったと宣伝できない手段である。



 そう、奴を殺すだけで、自分達の組織の益に成ることは殆どない。そのため自分の上司が納得するとは思えなかった。



 はぁ。と頭をかきむしる。



 講習に訓練、そして狂人の出現しそうな依頼の回避。



 新人部隊の隊長たるディスクは、普段の4倍以上働く羽目になった。



 それでもなんとか彼の頭から髪の毛が死滅しなかったのは、自分が手を抜けば、目の前に居る新米を殺してしまうという恐れと、自分の所属する護衛組織以外の同業者も、同じ苦労をしているだろう。という推測があったからだ。



「頼む誰でも良いあの狂人を殺してくれ!」





 その後、バエルはゲームにハマり。奴の出現はパタリと止まった。



「糞が!」



 隊長ディスク。不憫なディスク。彼は誓った。



「必ずだ。必ずお前を殺してやる!」



 自分の力では殺せないことを理解していながらも、そう怒鳴らなくてはやっていられなかった。




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