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第12話 炙りチーズのイチゴタルト

 ころしてやる!



 あぁ…聞いたことのある言葉だ。



 殺してやる…



 聞いたことある決意だ。



 殺して…



「あぁ…なんともまぁ…。飽きねぇもんだな」



 男、ヴァンス・プロトレッドは目を覚ます。



 久しぶりに見た。初めての殺し。



 初めて夢に出たときと変わらない対応で目を覚ます。



「命を奪ってようやく生きている。と実感できる悪党じゃあ、永遠に覚めることねぇんだろうな」



 不快感はない。ただ事実として、受け入れていた。



「チッ」



 その舌打ちは自然とでた。



 がらんどうの部屋。時間を知らせる時計。食事をするためのテーブル。



 毎朝見るのは、そんな風景だった。



 生活感のない部屋。殺しにしか生を見いだせない悪には、そんなもので充分であり、それ以上を求めてみても、ただ煩雑なだけだった。



「はぁ…勘弁してくれよ」



 この家にはなにも無かった。



 しかしなぜか、居ないと分かっているものを、もう居ない存在を目で追っている。



 この家には生活感はない。コレクションや趣味、好み。そういった人間である以上、生きている以上必ずでてくる人間としての性質。それらの存在を否定して出来ている空虚。



 だったはず。



 目の端に写る。フィギュア。



 ひどく目障りだ…。しかし捨てようと手を伸ばすことが出来ない。



 まぁ、それだけであれば意識して目線をそらし、視線をそらし、もし目に入れてもピントをずらせば問題はない。



 だが、目につく。



 服。男の自分が持つには異質な、女物の服。



 なぜか捨てれず、触れることさえ出来ない服。



 さらに目をそらす。今は使っていないベッド。



 彼女が出ていった時のまま、なにも変わらない風体で、尊大に家を占領している。



 さらに、さらに目をそらす。



 そこにはなにもない。なにもなかった。



 ペラ…。幻聴、錯覚。本をめくるような雰囲気。彼女がこちらへ気付く。



「ッ!」



 頭を振り、さらに逃避する。しかし、どこみても彼女がいた。痕跡はない。この家に生活感はない。この家に思い出はない。ーーーーー無かったはずだった……。





 ーーーーーそう、無いんだ。彼女はもう居ない。



 いつものように息を吸う。冷たい冬の気配を胸に吸い込む。頭が錯覚した温もりを凍らせる。



「ふぅ…」



 落ち着いた。彼女はもう居ない。と言うのに。



「あ。もう昼だったか…」



「冬は…起きにくいな…。」



 そう言い聞かせて誤魔化すのだった。







「傷…?いつ付いたものだ?」



 今日はやることがない。というか基本的にやることのない日の方が多い。



 ヴァンスは普段組織に置いている自分の銃器をわざわざ家に持ち帰った。



 手入れだ。使うたびに軽くは手入れしているが、最近やりたい放題暴れまくったせいで消耗が気になった。そのため本気で手入れをしている。



「ダメになってないが、この部品は取り替えた方が良いな」



 ヴァンスは弾詰まりを起こした際や弾切れを起こした際にリロードや調整をするのを嫌う。そのため予備の弾倉を持たずに4丁、同じ銃器を持っている。それに加え小型の爆弾2つにフラッシュバン。使ったことのないスモークグレード。



 それらが彼の基本装備である。



 工具を使い、解体し、一つ一つ磨く、そして確認し、少しでも問題があれば取り替えて、組み立てる。



 4丁もあるため終わる頃には、外は夜が近づいていた。



「せっかくだ、外で食うか」



 元々俺は独り言の多い。ただ最近それに拍車がかかったようだ。



 そんなことを考えて、出かけるためにシャワーを浴びる。



「朝、シャワーを浴びて無かったな…」



 目覚めるために、ネルに目覚めたと理解して貰うためにしていた朝風呂。それが思ったより自分に根付いていることに驚く。



「はぁぁぁぁぁ……」



 めんどくせぇぇ。ウジウジ無駄に考える自分に辟易する。



「いい加減にしろって」



 そう言って適当に壁を蹴る。ただの八つ当たりだ。



「なにが考えるだけ無駄だよ!チッ。うっぜぇな!」



 イライラする。自分が変わることにイライラする。どれだけ自分が変わろうとも、彼女との距離は詰めれないというのに。



 本当にイライラする。



「あーーー!やめだやめだ。とっとと飯を食おう」



 出掛ける準備を終えて、乱暴にドアを開く。



 手袋はしていなかった。





 冷てぇ町だな。



 ただの八つ当たりだ。



 町はなにも変わっていない。



「はぁ…」



 何度目になるか分からないため息を吐く。



 ゲンナリする。



 ネルとよく行った質素な店へ入る。彼女が居ようが居まいが、自分にとって最も落ち着く、居心地の良い食事処であることには違いない。



「なににするかな」



 米類、麺類、色々あるメニューに目を走らせる。やがて一つに思考がまとまる。



「ご注文をお伺いします」



 オムレツが良いな。フラッシュバックする。



「あぁ…カルボナーラをお願いします」



 つい、オムレツを頼むところだった。しかしその呪縛をなんとか振り払うことが出来た。 



 やがて、頼んだ料理が目の前に並ぶ。



 基本食べない野菜が多く目立つ。



 こういうところで摂らないと自分から食べに行かないからなぁ。とぼんやり考える。



 目の前に人が居ない。その光景の方が長く見ていたはずなのに。



 なんだか寂しいな…。



 気付けば、自分に対する苛立ちよりも、アイツは元気でやっているだろうか。そんな考えが頭を支配していた。




 読み終えた本や読む前の本、ゲームやプラモに置き変えても良い。それらを後からやると、積んだことはあるだろうか?



「積んだことねぇや」



 そう、ヴァンスにとって本とは、読み終えたら価値を失くす物だ。だからこそ一つ一つ丁寧に読む。読み終える前に積むことはしない。が。



「やっぱ恋愛小説は読む気にならねぇな」



 詰まらないとは言わないが、趣味じゃないというだけ。新しい本に買い換えるべきだと思い、捨てようとした。



 しかしネルが残していた本と共に置かれていた本を捨てることが出来なかった。



「アイツは読み終えたのか?」



 読み終える前に捨てると、中途半端に読んだ知識が先の話を寄越せと、暴動を起こす。



 後ろ髪を引かれるってのゴメンだな。そう思いながらも、読む気にならない。



 趣味の読書さえも自分を苛む。



「今度は、派手に人がくたばる奴が良いな」



 手に取ったのは漫画。



 流行っているらしい。



 流行に疎いジジイで悪かったな。似た言葉を彼女に言った記憶が甦る。



「ふぅ…。せっかくだ、ゲーセンに寄るか」



 ゲームは好きじゃない。射撃の重みも、レースの迫力も、自分が作り出す。求めているものに大きく劣る。



「さて、ペーパードライバーは俺も同じだったな」



 センスでなんとか勝てたが、彼女の集中力や適応能力には目を見張るものがあった。



「負けるわけにはいかんな」



 集中ーーーーー。



「まぁ、だいたい満足したな」



 さらに彼女と遊んだことをなぞる。



「なんだ、一人でも楽しいもんじゃん」



 帰り際に店の出口にある写真機が目に入る。



 写真は本当に嫌いなんだがな。あの時の自分を叱りたい気分だ。



 帰り道でそこらのコンビニに寄って、酒とツマミを買う。ネルが居たから飲むことを辞めていたが、今は辞める理由が居ない。



「なんだこれ?」



 炙りチーズのイチゴタルト。そんな終わっているような名前の食い物があった。



「へぇ、頭悪そ」



 笑いながら手に取った。



 家につく、気分が良いから適当に鼻唄を歌う。止める理由はもう居ない。



「風呂、洗濯、晩酌だな」



 自分の行動順を確認して、それに従った。



 ジャーキー、焼き鳥、唐揚げ、チーズ類。そして酒。



 久しぶりに目の前に並んだ奴らを見て、懐かしい気持ちが込み上げてくる。



 スマホでニュースを調べながら酒を飲む。



 政治批判ってのは酒を飲まないとやっちゃいけないらしいからな。と、ぼんやり考える。



「ゲームか…」



 気付けばスマホにゲームをダウンロードしていた。



「今を楽しめ。ね」



 自分の言葉に振り回される。最近そんなことばかりだ。



「へぇ、こいつ良いキャラしてるな」



 ストーリーは悪くない。ゲーム性も悪くない。決して派手ではないが、頭を使う。



「ゲーセンとは雰囲気が違うな」



 のんびりポチポチしていたが、次第にゆっくり丁寧に、一手一手考えながら集中していた。



「あっと。忘れるところだった」



 炙りチーズのイチゴタルト。



「このイカれた食い物はどんな味か、試してみようじゃないか」





 二度と食わないと、決意を固めた。


タイトルとあらすじを変えました。


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