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第10話 崩れ落ちる悪

「はぁ…」



 年相応にシワのある顔をして、黒い髪を短く切り揃えた老人は疲れたようにため息を吐いた。



 それもこれも全部、目の前に立つ男。狂人バエルのせいだ。



「ほら、さっさと仕事を寄越せ」



 そう言われる老人。シュバイツァーはめんどくさそうに自分の考えていることを返す。



「それより、お前。あの一般人はどうした?」



 ちゃんと始末したのか?と問う。



 なぜなら、この前拾ったときに楽しそうに笑っていた奴が、こんなに不機嫌になってやってきたからだ。



 シュバイツァーは今朝突然、電話が掛かってきたときに嫌な予感がしていた。



 バレたから殺したけど、片付けがめんどくさい。とか言うつもりなんだろうな。といつものわがままを予測して顔をしかめていたが、帰ってきた言葉はよりめんどくさい言葉だった。



「今から行く。仕事を寄越せ」



 そうして目の前に不機嫌な男がやってきた。



 シュバイツァーはため息を吐きながら、目の前の男を見る。長い金髪を後ろでまとめ、海のように深い青色の目をした、性格の悪そうなホスト然とした男。



「仕事を寄越せ」



 機嫌が悪いことを隠さずに自分の要求を押し付ける様は、まさにワガママ小僧であり、実にめんどくさいが、こちらも確認しなくてはならないことがある。



「それより、お前。あの一般人はどうした?」



「帰った。なにも知らずにな」



 それだけでここまで不機嫌になるのか?言ってしまえばただの一般人。奴にとって嘘吐いて生活する遊びをするため玩具。そういう風に見えていた。



 …情でもわいたか?



 バレてしまったが情がわき、殺せずに見逃した。その自分の行動に腹が立つ。コイツらしいが、推測の息をでない。



「本当にバレていないんだな」



 注意深くヴァンスの顔を見る。



 シュバイツァーとヴァンスの付き合いは10年にも及ぶ。そのため奴が嘘を吐くときの変化を知っている。それを見逃すまいと顔を見ると。



「あぁ…あいつはなにも知らない。勝手に家に帰ったよ」



 変化はない。嘘を吐いている訳でもない。ならなぜ?こんなに不機嫌になっている?



「良いから仕事を寄越せ。俺が遊んでいるから気を遣って仕事を振らなかったんだろう?」



 俺宛の仕事を寄越せとヴァンスは騒ぐ。



「悪いがお前宛の仕事はない」



「なら、フリーの仕事を寄越せ」



 そう。ソロモンには受ける奴は誰でも良いので、対象を殺してくれと言うフリーの仕事がある。しかしそれらは他に所属している殺し屋に腕と難度のバランスを見て割り振っている。



「ダメだ。お前にやらせる気はない」



「うるせぇな。ならそこらで殺してくるぞ」



 なにがそこまで奴を駆り立てているのか。さっぱり分からないが、少なくとも本気で殺しをしたいらしい。普段言わない、誰でも良い。と言うほど追い詰められている。



 憂さ晴らしだな。なににキレているのか知らないが、八つ当たりをしたいのだろう。



「なにに腹を立てている?もしやあの一般人か?殺したいなら殺しに行け」



 瞬間。この世界から音が消える。



「おい、シュバイツァー。俺がいつ、殺したいって言った?」



 めんどくさいな、振られた男みたいだ。そう考えてそれが妙にしっくり来て、つい笑いが漏れる。



「なにが…おかしい?シュバイツァー?」



「いやなに。お前、つい笑ってしまうほど滑稽だぞ」









 怒髪天を貫く。


 頭が沸騰する。


 殺意が漲る。


 シュバイツァーは恩人であり、ビジネスパートナーだ。


 しかしそれでも殺すべきだと頭がいう。


 銃を抜き。撃つ。ただそれだけのことだ。


 普段なら意識の隙間を縫って、回避不可能なタイミングで放つそれを、なんの計算も勝算も無しに取り出す。




 ガチャ。



 と、手に握った鉄の重さを振り抜き、トリガーを引こうと指を動かす。



 なんの抵抗もなかった。音も、鉄の感触も、引き金の重みも、自分の指は感じることが出来なかった。いや、指だけではない。握っていた銃器が手の中から忽然と姿を消している。





「気は晴れたか?」



「あぁ…悪かった」



 ボス。シュバイツァーの言葉で自分が信じられないほど冷静じゃなかったことを知る。冷や水を浴びさせられた気分になった。



「悪かった」



 二度目の謝罪。本心からそう思ったため自然と出た言葉だった。



 シュバイツァーは手に握る「俺の銃を」俺に返す。



 そして深いため息を吐いて。



「はぁ…仕方ないな。仕事を増やす。質には文句をいうな」



 シュバイツァーは話は終わりだと、帰れと手で追い払う仕草をする。



「ありがとう。あと悪かった」



 そう言って帰る。心は少し落ち着いた。













 朝目覚めると、ネルの姿はどこにもなかった。



 ただ手紙が一つ残されていた。



 そこには、感謝と共に、家に帰ることが書かれていた。



 鋭い冷気が体に突き刺さる。



 体温が奪われる。



 俺はネルと共にいて、暖かいと感じていたのだと知った。



 ふと、周りを見ると、なんと寂しい部屋だと思った。いや、元々こうだったんだ。なにを勘違いしていたんだ。



 そう…いったいなにを勘違いしているんだ。



 俺は殺し屋で嘘つきだ。ネルを巻き込むことは出来ない。彼女とは共にいられない。いるべきじゃない。



 ならこれは良いことだ。彼女はどうやらやりたいことを見つけたらしいし、少し悪い子にもなった。これからの人生を楽しめるだろうよ。



 ネルと初めて行ったゲームセンターで、初めて取ったフィギュアが俺を攻め立てるように見つめていた。



「ッ!!」



 衝動のままに投げ捨てようと、掴もうとしてーーーーやめた。




 気だるい。





 ただ、気だるい。





 食事も取らず。本も読まず。ただ、ベッドの上で無益に時間が過ぎるのを感じていた。







 1日が経過した。自分はなにもせずに、世界が回った。




 無視してきたからか、空腹と腹が立つ。




 なにもしたくねぇ…。





 2日が経過した。また自分だけそのままに世界が回った。




 空腹でさすがに死にそうになった。腹を満たすために宅配をした。



 ピザを四枚、ハンバーガーを四つ、コーラにポテト。



 ただ、ひたすらに食べた。脇目も振らず。なにも感じず。



 健康に悪そうな味が喉を過ぎて、腹に収まる。



 食いすぎ。とは感じなかった。





 気分が悪い。






 3日が経った。



 昨日貪ったと言うのに腹は空腹を訴える。



 また、宅配を頼み。食べる。前日のような暴食はしなかった。



 しばらくすると、ふつふつとなにかが沸き上がってくる。






 そう。俺は殺し屋なんだ。




 死の中でしか生を実感できない下道だ。




 彼女との別れに理由をつけるために、自分を納得させるために、そしてくそったれな気分を払拭するために。




「もしもし?俺だ、今から行く。仕事を寄越せ」





 殺しを味わう気持ちはなかった。ただ理由が欲しかった。



 そんな悪党を、フィギュアはただただ見ていた。



 攻めるように、哀れむように。



 気のせいだ。



 そう、気のせい。




 気持ちのせい。





 気持ちが悪い。





 気分が悪い。





 「俺は間違ってなんかいない」




 自分に言い聞かせるように呟いた。

ここまで一気に書いたので、誤字脱字があるかと思われますが、許してください。

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