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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
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美術館にて


side.不木崎(ふきざき)拓人たくと


――――――――――――――――――――――――――――――――


 トイレから戻った城は見た感じいつも通りだった。


 ……にても危なかった。なんと約束の2時間前にきて、1時間待ったが来なく、不安になったため帰ろうとしていたらしい。


 最初は何を言ってるいるかわからなかった。それって結局約束の1時間前ですよね……?

 たまたま、たまたま、別に張り切ったわけじゃないが、1時間前に俺がついたため事なきを得たのだ。


『あ、あんまり友達を待たせちゃだめだよ』と母さんに言われたのも効いてる。

 ひょっとしたら、母さんの小説をあんだけ称賛した城を、ちょっぴり好きになっているのかもしれない。だとしたら、さすが母さん可愛い。


 さっきは泣いていたためしっかり見てなかったが、改めて見ると城の完成度は異次元に高い。


 特にあの胸。

 もはや凶器である。

 薄い布時にこれまた胸元に控えめな面積の隙間があり、そこから全く控えていないおっぱいが主張している。全身のコーデもそのまま読モできます!くらいに洗練されていて、何も考えずTシャツ1枚で来た自分が本当に恥ずかしい。前世で例えるなら、お金を払って付いてきてもらってる陰キャの図だ…。


 城が少し充血した目でこちらを睨むように見てくる。


「……泣いてないから」

「いや、泣いてただろ」


 顔ををキッ、とさせてプイっとそらす。

 言い返すと思ったが、まだこの間のキレは戻ってないのね。


 こっちの世界にきて、女性と言うのは強さの象徴だと感じた。まさに前世での男。ヒーローのような価値観を持っている。

 そのため、ドラマや映画を見ても、女性が泣く、という瞬間は非常に少なく、逆に男性はじゃんじゃん泣いているし、やたらツンデレが多い。なんというか、そういう文化、様式美みたいなものらしい。


 驚くべきことに、男性は勃たないため、エッチの作法として『ツンデレご奉仕』がある。


 おっぱいを舐めるときも「本当は舐めたくもなんともないから」と言い、顔を紅潮させながら舐めるという、第三者が見れば地獄のようなことをして女性を喜ばすのだ。最初大人の動画をネットで見たときは吐き気を催し1時間トイレに籠った。

 原則、男性優先だが、女性に養ってもらう以上、男性もこのくらいのことはするらしい。いわゆる性的ご奉仕である。

 実際エッチなビデオもこういう種類のものが多い。女性は、嫌がっているものの結局オス堕ちしている様にひどく興奮する。


 そういう前世で拗らせた男がこの世界の女性像のはずなのだが、俺の知り合いの女性は泣く子が多いし、妙に女らしくない。ま、母さんは事情が事情だけど。


 1時間も前に集まってしまったが、もう美術館も開館してることだしいっか、ということで目的地に到着する。


 美術館は比較的閑散としていた。まばらに人がいるくらい。


「人、全然いないね…」

「まぁ、学校の図書館の人口考えたらこんなもんだろ」


 本を読まない女の子、本当に多いもんな…。


「まぁ、ゆっくり見られるしいいじゃん」


 そう言うと、城はそだねーとはにかんで微笑んだ。天使か。


 割合的に、意外にも男性の比率が高い。

 普通イベント系に参加した場合、男性の割合は1割にも満たないが、この美術館にはすでに15人中7人とまぁまぁの比率だ。

 もちろんそれには理由がある。


 この池田華さんは、恋愛小説家なのだ。


 この世界、そもそも恋愛小説というジャンルの作品が圧倒的に少ない。なぜなら需要がないからだ。女性は恋だの愛だのにあまり興味がない。付き合う=ヤルだし、結婚=できる限り毎日ヤルである。お猿さんかな?


 なので基本結婚した男性は薬(勃起薬)漬けにされるリスクがある。おいおい法律どうなってんだー、と思うかもしれないが、本人が望まない性行為は、司法のメスが入るため(見掛け上は)安心設計だ。


 逆に、こういう恋愛は男性の領分である。


 白馬のお姫様が迎えに来てくれることを祈って、今日もツンデレご奉仕に精を出す悲しき生き物なのだ。


 さらに言うなら、池田華は恋人から婚約解消されたため自殺している。こういう愛に生きるところも男性の琴線に触れる。

 小説に関しても、彼女の恋愛事情によって作品の質が変わるため、ファンとしては彼女の人生含めて彼女の小説だ、という人も多い。この展示会に男性が多いのも納得である。


 城が手をこまねいて、説明のパネルを指さす。


「ふっきー、この代表作書いてるとき、彼女婚約してたらしいよ」

「確かにその本めっちゃハッピーエンドだもんな」


 そして、すぐ横にあるパネルを指さす。


「そのあとに出したこの本、婚約解消されたときのやつ…」

「あぁ、その本最後登場人物全員死んだな」


 確か心中ものだったか。何ともわかりやすい作者である。

説明のパネルを読みながら進んでいく。お互い活字は好きなため口数少なくとも心地よい時間だ。

 チラホラいる女性客も熱心にパネルを読み込んでいるところを見ると、意外と女性人気もあるんだな……。

 あ、あの人とかスゲーおっぱいでかい。しかも城の3倍の面積が肌色である。これが美術館か……。


「ねぇ、ふっきー」


 パネルを読み終わったのか、城がこちらを見つめていた。


「なんだ」


 とても真剣な表情だった。唇を一文字に閉じて、大きな瞳は見開かれている。エメラルドグリーンの瞳はキラキラと輝いてる。


「恋ってどんな感じなの?」


 ……恋か。


 ぶっちゃけ前世も含めて恋なんてしたことがない。


 誰かと付き合ったこともない。恋人を見て羨ましい、と感じることはあったが、ではがむしゃらに頑張って彼女欲しいかと言われるとそうでもなかった。

 おそらく城は俺が男性だから恋を知っていると思っているのだろう。仕方ない。小説で培ってきた恋愛とやらを伝えるとしようかね。……恋愛レベルクソ雑魚ナメクジだと思われたくないし。


「よくわからんが、一緒にいて幸せに感じるとか、自分よりも大切な存在だとか、いつもその人のことを考えてしまうとか、そんな感じじゃないの?よくわからんが」

「よくわからんがって、2回言ってるからあんま説得力ない」

「よくわからんが」

「3回目!?」


 慄いている城を見て笑う。いや、本当によくわからんのよ。



 それからしばらく見て回っていると、大きな声が館内に響いた。


「いった!」


 その方向を見ると、小柄な女の子が尻もちをついている姿が目に付いた。


 改造セーラー服を着用しており、シルエットだけで美少女だとわかる。


 女の子の先には別の女性客がいて、パネルを見ていたらぶつかってしまった、というような図であった。

 ぶつかった相手は謝罪しながら手を差し伸べている。女性客はさっきパネル見てたスゲーおっぱい大きいお姉さんであった。


「触んな!」


 あろうことか、女の子はお姉さんの手を払いのけ、尻もちをついた姿のまま女性を睨みつける。は?嫌ならその位置変われや。


「警備員さん!助けてください!強姦ですッ!」

女の子は立ち上がりながら叫び、近くにいた警備員にすり寄る。


 ……え、女の子同士でも強姦とかあるの?そういう系のエッチな動画があまり検索に引っかからなかったからないかと思ってた。


 女の子は困惑する警備員に何かを見せながら更に叫ぶ。


「この人は男の子であるボクを襲おうとしたんです!捕まえてください!これ、男性証明書です!」


 警備員はその何かを見て驚愕し、女の子と何かを見比べたあと、焦った様子でぶつかったお姉さんに近寄る。


 お姉さんは『男の子』と聞いた途端顔が青ざめ、その場でペタンと腰が抜けたように倒れた。水色のパンツが見えているのも気にしていない様子だ。美術館毎日通おうかな…。


「え、これヤバいよね」

城が少し怯えた表情で俺の裾を掴む。


 パンツを見ていた側から近づくのやめて欲しい。視覚的エロにプラスして、城のいい匂いがするせいで少し息苦しいし、ここ一ヶ月想像力のみを使って自家発電をしてきた自分からしたら、体が反応しそうで困る。


 どうやらあの女の子は男の子らしい。自分で男の子とか言っちゃう当たり本当に男の子なのだろう。


 こういう痴漢行為は処罰が重い。男は簡単に病んでしまうため、そうなった結果貴重な種が減るからだ。確か強姦で死刑判決が出たというのをニュースサイトで見た。


 ……にしても、あの男の子とお姉さんは偶然ぶつかったのでは?何せ、そもそもお姉さんの方は倒れた子を男の子だと認識していなかったようだし。おそらく、どちらも池田華が好きな読者家だから熱心にパネルを読んでいたのが災いしたのだろう。


「もう出よっか」

掴んでいる裾を少し引っ張られ促されるが、俺はそれを優しく振り払う。


「え、ふっきーどこ行くの?」

「読書家減るのはちょっと嫌だし」


 あと、あのお姉さん、おっぱいとパンツ見せてくれたし。

 誤解が生んだことなのだから話せば何とかなるやろ。俺、男の子だしぃ?


 警備員さんとお姉さんに近づく。


 あの、と声をかけると、このタイミングで別の男に声をかけられると思っていなかったらしく、二人そろってビクッと肩を震わせた。俺の顔を見て少し顔を赤くする。そしてすぐさま股間を見られる。やっぱ助けるの止めようかな。


「さっきその人見てたんですけど、すごく真剣にパネル見てましたよ。たぶん周り見えなくなってぶつかったんだと思います」


 安心させるように、お姉さんに笑いかける。


「好きなんですよね?池田華」

「……はぃ。あなたと結婚します」


 顔を赤らめ、何か決意の表情をしている巨乳のお姉さん。……やっぱり助けなければよかったかも。


「ちょっと!」

男の子が怒気を孕んだ様子で、こちらへずんずん歩いてくる。


「なに!横から入ってきてかって…な………こと……タクトくん?」

「ん?おお、冬凪先輩じゃないですか」


 男の子は知り合いだった。名前は冬凪忍。改造セーラー服を着た身長145cmの彼は、まごうことなき男の子だ。

 ただ、容姿に関して言えば美少女なため、遠くから見る限りじゃわからなかった。

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