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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
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調子に乗ってしまった

side.ぐすくはる


――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は待ち合わせ場所で、絶望に包まれたまま突っ立ていた。


 美術館近くのコンビニ。

 コンビニに待ち合わせている割には、服装が引くぐらい気合が入っているが、それが理由ではない。


 昨日のことを思い出す。


【変なあれじゃないよ?】

【いや本当だって】

【てか電話させろよ!】

【はよ起きろ!】

【ふざけんな!】


『え?だから3回だって!今4回目の途中!海斗と夢で別れるシーン!【貴女から生まれてくるのを楽しみにしてるね母さん】ってヤバいまた泣゛ぎぞう゛ッ!!』


『ファンじゃない!もう信者だよ!信者!朝からごめんね。私続き読まないといけないから!じゃ』


 ……やってしまった。私は完全にやらかしてしまいました。


 不木崎の借してくれた本を読んで感動した。そこまでは良かった。その感動を伝えたくて、すぐにでも不木崎に連絡したくなったのも、客観的にみて可愛らしいしセーフ。ただ、私は連絡が返ってこないので、あくる日の便り(4週目)を読み始めてしまったのだ。しかも夢で海斗に会うという、かなり泣けるシーンの直前まで。


 そして、私のボルテージが極限まで上がり切っているタイミングで、電話が鳴ったのだ。



 あれはもうクリーチャーだった。



 ガラガラの声で、自分の気持ちを叫び倒す。正直、何を話したかあまり覚えてないし、なんなら涎もまき散らしていた気がする。

 あれから、そんなこと起きなかったかのように、感情を消した文章で今日の待ち合わせを連絡したが…。


「これ…来るの……?」


 不安になる。クリスマスと誕生日を全て犠牲にして購入した、馬鹿高いスカートの裾をキュッと握りしめる。


 私だったらこない。女子が怖いとかそういう次元ではない。化け物との接敵を回避するためにいかない。


 調子に乗ってしまった罰なのだろうか。ずっと、遠目から不木崎を見ているだけにしておけばよかったのだろうか。


 不木崎に告白した人たちを本当に尊敬する。これ、本当に耐えられない。



 視界が少し歪む。



 女のくせに私は泣きそうになっている。この場所に立っているだけで、私は体を剣で突き刺され続けているような気持ちになる。

 ………もう帰ろう。…元に戻ろう。遠目から不木崎を観察する、普通の女子に。やっぱり私では不釣り合いだったのだ。私程度の陰キャが不木崎に近づいていいはずもなかったのだ。


 そう思い、顔をあげると、


「まだ、一時間前だよね?早すぎん?………てか、何?どうした?」


 心配そうな顔をしている不木崎が、こちらを覗き込んでいた。


「こ、来ないかと、思った」


 一気に安堵感に包まれて、心の奥がぶわっと熱くなる。

 決壊しかかっていた涙が溢れ、頬を伝う。

 不木崎は困ったような顔をして、そのあと微笑んだ。


「知り合いの女子は、よく泣くやつが多いな…」


 そう言いながら、不木崎は慣れた手つきでハンカチを私の顔に当ててくる。優しく、とんとんと、撫でるように。

 いつもは布越しといえど、触れられるだけで興奮してしまうのだろうが、今はなぜかただただ胸が苦しい。


「えっと、何でそう思ったの?」

「き、昨日、失礼な態度とったかなって……思って」

「昨日…?あー、声ガラガラだったやつか。あれ俺の借した本でああなってくれたんだろ?すげー嬉しかったよ。城は借しがいがあるな」


 ハンカチを抑えてる傍から涙が溢れている。嫌われていなかったという、安心の涙と、おそらく昨日から不木崎の前で頑張り続けてきた反動なのだろう。さらに言うなら、こんな私に気を使ってくれる不木崎の気持ちが嬉しかった。


「ほら、せっかく楽しみにしてた池田華展行くんだから、泣くのもう終わり。こうして俺は来たことだし、失礼とも思ってないから」


 声も出せず何度もうなずくが、涙は止まる気配はない。

 ただ、まだ止まって欲しくないとも思う。止まらなければ不木崎がこうしてハンカチを当ててくれるから。



―――――――――――――




 ようやく落ちついた私は、不木崎にお礼を言ってトイレへ行った。


 ちょっと恥ずかしくなった。あと落ちたかもしれない化粧を直したい。化粧が落ちて本物のクリーチャーになるのは避けたいと、理性が戻った。


 鏡を見ながら思う。


 それにしても不木崎はかっこよすぎだ。性格もそうだが、私服を見たか?なんだあれ。なんで5月に半袖で来てんだよ……。Tシャツ一枚とか無防備すぎないか?エロすぎだろ。


 彼は私をどうしたいのだろうか。短い間の絡みだが、もう身も心も不木崎なしでは生きられない体になってしまっている。


 告白したい。抱き着きたいし、頭を撫でられたい。叶うならベロチュ―したい。

ただ、できない。先ほども感じたが、もし振られたら、と考えると怖くて仕方ない。

 引きこもりになる自信がある。


 やはり、当初の目標は変わらない。不木崎から告白させるのだ。


 下だけでなく、上のほうもびちゃびちゃにされた私だが、まだ挽回の余地はある……あるはず!


 不木崎の私服に、思い出し鼻血が出そうだったが、こちらも考えてきている。


 そう、おっぱいの谷間が見える服にしたのだ。

 薄手のニットセーターからはひし形に胸元が開けられていて、無駄にでかい脂肪が見える。普通はこういう服は男性に好まれないし、私もあまり着ない。男性はゆったりとした、あまり凹凸の出ない服装が好みであり、今着ている服は女性が好きなファッションである。


 あまりやると下品なため、控えめではあるが、私のおっぱいは全く控えめではないため問題ないだろう。


 正直情けなく泣いてしまい、不木崎の視線までとらえ切れなかったが、ここからだ!

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