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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
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母親はゆうめいじん?①

side.不木崎ふきざき拓人たくと


――――――――――――――――――――――――――――――



「ただいまー」

「お、おかえり。拓人」

玄関を開けると母親である不木崎栞奈が不安そうな顔で出迎える。


 にっこり、とはしてないな。絶妙に顔が引きつっている母さん。やっぱまだ慣れないよなー。


 こっちの世界に来た当初の母さんは悲惨だった。


 世界的に希少な男の子どもを引きこもりにした毒親と、親戚の目は冷たく、人工授精のため旦那などいるはずもなく、挙句の果てには当の子供から拒絶される毎日。病まない方がおかしい。


 引きこもっていた部屋から出てきたとき声も出さずに涙を流している母さんの姿は正直ホラーだったが、この家で過ごして一週間くらいして理由を知った俺はもっと親孝行しようと誓った。にしても涙腺がゆるゆるなのが困り者だが。


「と、友達とごはん楽しかった?」

「うん。母さんはご飯食べた?」


 キッチンで水を飲みながら他愛のない雑談をする。


 事前にLINEをしていたから大丈夫だとは思うが、1秒で既読がついて2秒後には気を付けてね、と帰ってきたのは少し怖かった。


 1か月まではこういうこともできないくらい母さんはやつれていたが、今は会話できるくらいには回復している。


「た、食べたよ。えっと、その…」


 あー、たぶんよくない思考になってるなこれ。

 母さんが何かを言いにくそうに引きつった笑みを浮かべる。


「どしたの?」

「……なんでもない」

「だーめ。ちゃんと言うまでキッチンからだしません」


 そういうと今度はおろおろしだす。やっぱり家族なんだから我慢しすぎるのはよくない。

 俺の目を見て本気だと悟ったのか、観念したように俯いた。



「わ、私の作ったご飯……その、た、食べたくなかったのかなって」

言いながら涙腺が崩壊している。


 相も変わらず卑屈さが天元突破している。

 この母さん、息子の為にとわざわざ調理師の免許を取るほどの猛者である。不味いわけがない。


 しかも拓人くんが幼いころにご飯を食べている表情や感想をノートに書き連ね分析している。辞書みたいなノート見つけたときはヒエッと少し声が出るくらい引いた。


 ただ、ちょっと放課後の外食は母さんには早かったかもしれない、と反省する。


「そんなことないよ。母さんの作る飯は何よりも上手い。俺が保証する」

「う、うそ…」

「ホントだって。ほら、アイス買ってきたからさ、一緒食べよ。話したい事いっぱいあるし」


 母さんの背中を押しながらリビングの椅子に座らせる。


 コンビニで買ってきた色んな味のアイスを並べ、好きなの選びな、とニヒルな感じで言うと、おずおず小さい指はいちご味を指さした。


「お目が高いねぇ奥さん」

スプーンを渡し、にっこり微笑む。


 目元は赤いがもう泣き止んでいるようだ。

 こうして母さんと家に帰ってきた後会話をするのがここ一か月の日課だ。


 母さんは現在30歳ととんでもなく若い。なんと拓人くんは15歳の頃の子供だそうだ。ばあちゃんに聞いた話だと、周りの反対を押し切り、高校にもいかず、中学3年時に突然人工授精へ手を出したらしい。


 なんでも夢で拓人くんと会ったとか、この母さん、存外不思議ちゃんなのだ。


 見た目を若く、身長も多分150cmくらい。ちょうど城と同じくらいだ。


 それもあってか子どものような雰囲気もあり、余計傷ついてる様子が胸にくる。ほんと前世の拓人くん何してんだ。


 母さんが小さい口にアイスを運ぶのを見て、俺もチョコ味のアイスを食べる。うまい。


「おいしい?」

「……うん」

うますぎてしまったのかまたさめざめと泣いてしまった。


 話題を切り替えて、今日のハイライトを話すことにしよう。


「そういえば今日さ、初めて女友達できたんだ」

「……えっ?」

涙が止み、目をまん丸と大きくさせる。


「な、何かされなかった?」

いつもより大きい声を出して椅子から立ち上がる。椅子がガタっと音を立ててひっくり返った。


「いやいや、大丈夫だよ。その子身長が母さんくらいだし片手で制圧できる」

「せいあつ…?」


 以前の拓人くんでは出ないワードだったのだろう。理解が追い付いていない様子。

 まぁ拓人くん女の子前にしたら本物のでくの坊だったらしいからな。ヒィヒィ言ってたってばあちゃんから聞いた。


「えっと、母さんみたいな人だったから安心だったってこと、かな」

「……そう」

呆然と椅子を直して座る母さん。


 座った瞬間「私みたい…?」と意味が理解できたのか、ほんのり桜色に染まっていた。

 なんで拓人くんはこんなリス見たいな愛くるしい母さんを追い詰めていたのだろうか。


「あ、そうそう。その子読書好きみたいでさ。母さんの本布教しといた」

「エ゛ッ?」

スプーンを机に落として、カランと音がなる。


 ほんのり桜色の顔がトマトのように真っ赤になり、わたわたと慌て始める。

 凄い声でたな。


「な、ど、どの本?」

「あくる日の便り」

「な、なな、なんで処女作なの?あれ恥ずかしいって言ったよね?言った!しかも3日前!」


 大分興奮していらっしゃる。もうイチゴのアイスなんて目じゃないくらい赤い顔だ。


 そう、何を隠そうこの母さんは仮の姿。(バン!)真の姿は水国千冬という名の小説家なのである!(ババン!)


 さらに言うなら【あくる日の便り】は、先ほど言った中学時代の時に拓人くんと夢であった話を書いた、母さんからしたら大分恥ずかしい黒歴史本なのである!(バババン!)


「ああ聞いたよ母さん!ただ俺はそれでも読むのを止めない!って言ったよね?」

「言った!言ったけど!布教は違うじゃん!もう拓人だけの話じゃないじゃん!」


 あ゛ぁぁ、と顔を手で覆う母さん。可愛い。


 俺が生暖かい目でニヨニヨしているのを気づいて恥ずかしくなったのか、ただでさえ小さい体を丸めている。


「大丈夫だって。母さんの本だって言ってないから」

「…そういう問題じゃない」

少し唇を尖らせながらスプーンを持ち直す。


 もともとこういう表情豊かな人だったのだろう。そうでなければあの【あくる日の便り】は書けない。


 色彩豊かで、嬉しさ、悲しさ、色んな感情がキラキラと光輝いている作品だ。そして泣ける。


 少しずつでいいから母さんの色んな表情を引き出していきたい。


「よし、こうしよう。もしも次、母さんが泣いたら、本借した子から感想聞いてここで母さんにお話しします」

「な、なんで!」


 必至だ。なんならもう泣きそうである。よほどあの本(黒歴史)のことを触れられたくないらしい。


「まぁ、俺が悪いんだけどさ、やっぱり母さんが泣いてる姿見たくなくて。ごめんね意地悪して」


 そういうと、母さんはまたも何も言わずに涙を流した。瞬きすらしない。ちょっぴり怖い。


「よし、感想戦は明日でいいかな?」

「……な、なし!今のは、なし!泣いてない!」

「いやぁ、実は俺も感想言いたかったからさ、一緒に言うね」

「それ!聞いてない!増えてる!」

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