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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
第二章〈トラウマ克服に向けて〉
37/47

STR極振りの女の子

side.ぐすくはる

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ほへひゃーひっへひまーふ」


 パンを加えた妹が靴に踵を押し込みながら、こちらに手を振る。

 何を言っているかわからないがおそらく、それじゃー、行ってきます。だろう。


「待って」


 後ろに隠していた黒いきんちゃく袋を前に出す。


「はい。……お弁当」


 咥えていたパンが落ち、見事ショルダーバックの上に軟着陸する。

 パンの存在なぞ見えていないかのように、二つの黒い瞳はきんちゃく袋を見据えていた。


「え……私に?」

妹は自分自身を指差す。


 私が黙って頷くと、ゆっくりと喜色の表情を浮かべていく。


「ふぁああ!……ヤバいんだけど?え?お姉ちゃん、どこでそんな《《ワザ》》習ったの?私教えてないんだけど!ヤバぁあ!」


 意味がよくわからないが、馬鹿にしていることはわかる。

 せっかく(ついでに)作ってやったっていうのに…!


「もう!変なこと言うなら――」


 少し怒った表情をつくって、お弁当を後ろに隠す。


「――あげないからねっ!」


 ふふん、焦っただろう、と少し得意げに妹を見ると、


「……完璧だよ!可愛すぎるよ…お姉ちゃん……!」


 腕を目に押し当てて泣いていた。女泣きしている。

 そう思っていたら、目にも止まらぬ早さで私の背後へ周り、きんちゃく袋をかっさらっていく。


「お姉ちゃんだと思って美味しく食べるね!」

「止めて?」


 笑顔の妹に悪いが、普通に嫌だ。

 せっかく、慰めてくれたお礼としてお弁当を作ったのに、この妹はいつも私を茶化してくる。


 ウキウキな表情で、妹は玄関の扉に手をかける。

 いつの間にかパンは口に咥え直されていた。


「あ、ほうひへは、わはひ、ふっひーほへーほふるはらへ!いひお、いっほはないほへ!」

「え?何て?」


 笑顔でこちらに手を振り、玄関の扉は閉まる。

 あいつ、今なんて言ったのだろう…?



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ふっきー、コンビニ行ってないよね?」


 丁寧に板書をしていた不木崎は、少し遅れて教科書を机にしまっていた。今日は休み時間も移動教室が多く、あまり話せていない。

 それとなんかちょっぴり…ふっきー緊張してない…?


「あ、ああ。ぐすく――」

「春」

「――春か、行ってないぞ」


 瞬間、教室内が静まり返る。

 糸の切れた人形のようにゆらりと席を立ちあがる女子が数名いる。よく見ると、目は血走っていた。


「じゃあ、お弁当作ってきたから、一緒に食べよ」

「あ、昨日のはそういうことだったのか…。悪いな、弁当代払うよ」


 鞄をごそごそと漁り始める不木崎。

 もう!そういう無粋なことは止めて欲しい!ちゃんと、別の方法で支払ってもらうしお金はいらない!

 ただ、もう食べることが当たり前のように振舞ってくれるのは、すっごくポイント高いです。


「いいよいいよ。妹のお弁当のついでだし。変に食材余らせたくないから」


 本当は貴方の為のお弁当なんですけどね。


「そうか…」


 そこまで言うと、不木崎は少ししょんぼりした様子で財布を仕舞った。

 おそらくこういった好意に戸惑っているのだろう。


 まぁまぁ、可愛い反応。


 果たして耐えられるかな…?これからドシドシ私の天元突破した好意をぶつけるんだよ…?好感度ポイントは兆を超えたくらいから数えていない…。

 ふふふ、今まで何度も返り討ちにあった春と思うなよ…!小説やネットで培ったエッチなアプローチがこれから火を噴くのだ…!


「ほらほら、休み時間なくなっちゃうよー」


 立ち上がった不木崎の背中を押す。

 一瞬、不木崎の肩が震えたが、堪えるように歯を食いしばっていた。


 今では訓練と称してこーんなスキンシップまでできちゃう!

 ふふふ、(色んな意味で)ドキドキしてしまえ…!


 教室を出るタイミングで、私は後ろを振り返る。

 能面のように表情を無くしてしまった悲しい親友たちに私はウインクする。


「(しゃしん)」


 口パクでそう伝えると、パァァっと親友たちに笑顔が戻り、親指を立てて私を見送ってくれた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 いつもの場所でお弁当を広げる。

 昨日の雨は嘘のように止んだが、少しじめじめした空気が流れている。

 お弁当を広げた不木崎は、前回と同じように嬉しそうに食べ始めた。


「そういえば、私今日タイツ履いてきてないんだ」

「ブフッ」

不木崎がご飯粒を飛ばす。


 不幸なことにこちらには飛んでこなかった。


 今日の朝からチラチラ見てるのを気づいていないとでも…?

 私の膝裏をよく見ていたが、同じくらい膝小僧も好きらしい。

 この足の何がそんなにいいのかわからないが、不木崎からの視線をもらえるならタイツを脱ぐ選択肢以外ありえない。

 そんなにタイツにこだわりもないし。


 私は不木崎の顔を覗きこむ。


「見てたでしょ?ずっと」


 少し顔を赤くさせ、反論する為に急いでご飯を咀嚼していた。

 ああ、慌てちゃって……。


「そういう感じか!そういう感じで来るのか!」

「え~?どうしたのふっきー。『そういう感じ』って何のことぉ?」


 笑いを堪えるように、手で口元を抑える。

 対照的に不木崎はお弁当と私を見て、悔しそうに唸っていた。


 そうだよね?『タダ』でお弁当もらってるのに、変なこと…言えないよね?


 すると、不木崎は恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「……見てたよ、悪いか」


 少し耳が赤い。


 あ、忘れてた。


 今攻撃に全振りしてしまっていた分、防御に意識を向けるのを忘れていた。

そういえば、こいつは『そういう感じ』だった。

 早速懸念点が浮き彫りになる。これ、攻撃よりも防御の方が最重要課題なんじゃないの…?こいつのカウンターはいつも私の一番弱い部分に当ててくるから、まずそこを防がなきゃいけないんじゃないの…?


「……ううん…悪くない」


 お互いそのまま黙ってしまい、静かな時間が流れる。



 そろそろ汁物が欲しい頃合いかと思い、私が飲み切った水筒のカップにお味噌汁を補充して不木崎へ手渡す。

 お味噌汁に気づいた不木崎は、お礼を言いながら受け取り、何故かじっとカップを見つめていた。


 そして、ニヤリ、と意地悪そうな顔をする。


「そういえば、これ、俺が飲んじゃったら、春との『間接キス』になっちゃうな~」


 私の箸が止まる。


「もしかしてだけど……いや、小学生でもこんなことしないからあり得ないとは思うんだけど―――」


 不木崎は口を三日月の形にさせて、こちらを覗き込む。


「『間接キス』……狙ってないよね?」


 仕掛けてきた……!


 お互いの性格はこの1か月で分かってきた。そう!どっちも超が付くほどの負けず嫌い!やられたら、やり返す精神である。

 私と不木崎は人から馬鹿にされることをすごく嫌う。そのくせ、人を馬鹿にすることは好きなのだ!

 今までは不木崎の無意識カウンターブローで、仕掛けた私が強制的に敗北していたが、今回の攻撃は彼も多少効いたらしい。

 反撃として、意識的な攻撃を仕掛けてきている。


 しかし……ここでそんなつもりなかった、と言ってしまえば、今後はカップを二つ持ってくることになり、もう二度と不木崎との間接キスは味わえない。


 それは駄目!絶対にヤダ!


 かといって、認めようものなら、これからネチネチと意地悪をされるだろう…!卑劣な…!


「私は――」


 座っている体制で不木崎の方に体を向ける。顔を前に突き出し、おっぱいを腕で挟み、股の間に両手置き、そこを支点にして腰を少し前に出す。

 手で抑えてたスカートから、腰を動かすことにより自然と白い太ももが少しずつ露出されていく。


「――ふっきーとの間接キス……全然嫌じゃないけど…」


 仕上げに目を潤ませ、首を少し傾けさせた。


「…ふっきーは、嫌?」


 見たか!昨日の夜、ふっきーのことを考えすぎて何回かエキサイトしてしまった後の賢者モード時に編み出した、この『三点バースト』!

顔、胸、太もも、全部ふっきーの大好物だよね…?興奮したって、本人から聞いてるもんね…?知ってるんだよぉ?


 さらに言えば、間接キスを狙ったか狙っていないか、の話から、私と間接キスするのは嫌かどうか、の話にすり替えた!

 優しい不木崎のことだ…。お前との間接キスは嫌だ、なんて口が裂けても言えまい…!


 さあ、かかってこい!





side.不木崎ふきざき拓人たくと

――――――――――――――――――――――――――――――――


 ……なんだ!このドスケベ三点バーストは!!

 俺の眼前に目を潤ませた城の顔、そこから下へ奥行を持たせて、惑星を彷彿とさせる巨大な胸!そして、まだ終わっていないぞと言わんばかりに、雪原のような太もも!が俺の目に飛び込んでくる。


 距離感もムカつく…!

 俺が不快にならない程度の距離をわざと保ち、胸や太ももといった女性を意識させる部分は少し遠くに見せるという…親切設計…!!

 あと少しでも近づいたら不快な気持ちが生まれてこのムラムラが軽減されるというのに!


 しかも絶妙な切り返し…!

 あれだけ嫌いじゃない、とか気持ち悪いと思ってない、とか叫んでいたくせに、間接キスは嫌、とか流石に言えない…!しかも、俺は実際嫌じゃない…!

 人の気持ちを見透かすような、なんと卑劣な言い回し…!


 今のこいつは危険だ。

 さっきから妙に俺のツボを押さえて、俺をおちょくってくる。

 これで少しでも俺が意地を張ったような言動をすると、


『え、ちょっと女の子に責められただけで、反応しちゃうんだ~?』


 許されない…!

 なぜ、あべこべ世界に来て、精神年齢が年下の小娘に翻弄されなければならないのか…!なぜ、城のような頭パッパラパーな奴に…!


 平静を装い、近くにある城の瞳を見据える。


「言ったろ、小学生みたいなことって。そもそも気にしてない。……ただ、まぁそうだな。嫌かどうかで言うと全然嫌じゃないな」


 少しピクッと口元を動かした城を見逃さない。嫌じゃないという言葉が嬉しいらしい。まだまだお子様だ…!


「……昨日も言ったけど、春……可愛いし」


 止めを刺す。ちゃんと目を見て言い放った。

 ニヤけまい、と必死に口元を下げているのが微笑ましい。

 それよりも顔の赤さをどうにかしたらいかがかなぁ?体制もキツいのかなぁ…震えてるぞぉ?

 俺に色仕掛けするなんて100年早いんだよ…!

 わきまえろよ…爆乳女子校生風情が…!


 ニヤニヤと城の様子を見ていると、俺のスマホにラインの通知音が鳴る。

 城の妹からだった。メッセージには画像ファイルがあるみたいだ。

 開くと、お弁当を持った城の妹らしい写真が届いていた。次に『ふっきーのおかげ!』という文章も来ていた。俺のおかげ…?どういうこと…?


 妹は城と同じ美少女であることには変わらないが、系統はかなり違った。黒髪のロングヘアをポニーテールに纏めている。八重歯を見せて笑う顔は、お転婆な大和撫子のようだ。

 ……にしても城の妹の割に胸は小さいな。


「ふっきー、友達?」

城が気になった様子で俺のスマホを眺めている。


「友達って言うか、春の妹……椿ちゃんだっけ?…今弁当の写真送られてきた」


 送られてきた写真を見せる。

 写真に写る弁当が今日の弁当のラインナップと同じところを見ると、

 やはり城の妹で間違いないのだろう。


「え?」


 その瞬間、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴る。


「やばい!早く飯食わねえと!次も移動教室だぞ!」

「あ、え?」


 急いで片づけをし、立ち上がる。

 少し小走りしてから、後ろを振り返ると、城が箸をまだ持ったまま驚愕の表情をしていた。


「えぇえええええ!?」

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