蛇足:調子に乗った男の子
side.不木崎拓人
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暗い部屋の中、俺はベッドで頭を抱えていた。
「あぁあ…?あぁあああああ!」
なぜ―――!
『お前が可愛くて!エッチでだから!こうなってるんだよ!これが!お前のせいで勃った、薬剤ナシのフル勃起なんだよ馬鹿野郎!」』
どうして―――!
『お前が嫌いなわけねえだろ!そうだったら、こちとらこんな元気になってないんだわ!』
俺は―――!
『クソが…勝手に近づいてきて、勝手にどっかいくんじゃねえよ…!』
自分で自分が恐ろしい……!
なんで…こんなクソキモムーブをしてしまったんだ…?
これをちんちん握らせて、おっぱい揉みながら言ってるんだよ?すごくない?
「うわぁあああああ!!」
頭をかきむしる。脳裏にはあの、妙に張り切っている自分の台詞が何度もリフレインしてくる。しかもキメ顔もしていた気がする。
すっごく、キモくない?え?客観的に見てヤバいよね?この人?
これで、明日も学校…?噓でしょ?隕石とか振らないの?
どんな顔して城に会えばいいの……?おはよう、昨日はしっかり眠れた?、とか何もなかったような顔で言うの?怖!
あの公園での出来事の後、やはり俺の体調が元に戻らない(正確には城のおっぱい当てが止めを刺した)ため、そのまま家に帰り風呂に入って寝た。途中で起きて、記憶がというか、正しい理性が戻ってきたのだ。
これを、数時間前に、俺はしていたのか…?
確かに状況は切迫していた。城のメンタルが心配だったし、俺の重大な秘密を打ち明けるという特大ストレスがのしかかっていたし、おっぱい触った時なんかは、もう気絶しそうでそれどころじゃなかったし…。俺目線で状況を辿っていけば、理解できる部分もある。
ただ、あの一部分だけ……正確には城の目線だけで考えたらどうだ…?
もう来んな、って言ってるのに追いかけてきて、かと思ったら急にちんちん握らせて得意げに講釈を垂れる……え、この人病気なの?
明日……会うの?それ、絶対会わないといけないの?もうこのまま転校とかしちゃ駄目?
え、無理なんだけど?
これ家に帰って妹とかに話のネタにされたりしてるんじゃないの?
ちんちん握らせないと本音も話せない腰抜けド変態野郎だったわ、とか笑われてるんじゃないの?
え……無理なんだけど?
羞恥でまた叫びそうになった瞬間、ベッドに投げてあったスマホが鳴る。ラインの通知音だ。
俺のスマホには母さんとばあちゃんと城と城の妹の4人しかいない。つまり50%の確率で城姉妹である。
……だが、ばあちゃんとはラインしないし、母さんはリビングにいるだろうし……あれ、今100%になったんだが?
……姉妹のどっちだ?確か、妹の方はデート云々でラインすると言っていた。つまり妹の確率が濃厚だ。デートの話ならまだいい。全然大丈夫。
後は、城が俺の話を妹にしていないかにかかっている…。
スマホを手に取る。
ええい、ままよ…!
『明日はコンビニに寄ったらいけません。寄ったら不幸になります。』
なんか占いみたいなのきたんだけど…?
城(姉)からであった。
え、どういうこと…?この文章の中にちんちんのメタファー隠されてたりする?
解読したら俺の事罵倒してる文章になったりしない?
『もう!無視すんな!』
また、震えてメッセージが届く。既読つけてないんだけど……何でわかるの?てか10秒も経ってないよね?
すぐに着信が鳴る。咄嗟にスピーカー部分を指で覆って、音の拡散を防止する。
出ろって?いやー無理無理!無理だって!
今だって恥死しそうなのに、ここに城の罵倒エッセンス入ったら俺、涅槃逝っちゃうって!本当に城は冗談が上手いなぁ!
3コールくらいで、着信が止む。そしてすぐにメッセージが届いた。
『おっぱい触った』
すぐに電話を掛けた。良くない!良くないね!
そういうの親に見られたらまずいから、ちょっと自分の都合が悪いからっておっぱいって送るの止めようねって言わなければならない…!
ワンコールも経たず、城は応答した。
「あ、やっと無視やめた」
「……無視してないよ?というか、わかってなさそうだから言うんだけど、あんまり『今日の事』は他の人にしちゃいけないんだよ?わかってる?これってすごくデリケートな話で、バレたら結構大問題になるんだよ…?主に……俺が…!」
「もう、わかってるって!ふっきーの『アレの話』はしないっ!私のおっぱい触った話は今後もするけど」
「全く、全然わかってないね!そっちの話も含んでるんだよ…!?」
俺の答えにスピーカー越しから城のため息が返ってくる。
「じゃ、次も自分から私のおっぱい直で触れたら、話すの止める」
「……あれ?意味がわからないんだが?おっぱいの話を阻止するためにおっぱいを触るって罪重ねてない?…………ん?ちょっと待って今、直って言った?」
「はいはい、ふっきーが私のおっぱい好きなのはよくわかったから、この話は終わり!」
「あー思い出した。この感じ。城と話す感じだ」
母さん辺りにバレたらすごく騒ぎそうだし、向こうの親御さんにも申し開きがない…。更には他の女子から私も触って欲しい、とか言われたら俺死んじゃうんだよ?
「ふっきー体調大丈夫?」
「ん?…ああ、寝たら良くなったみたい。送ってもらって悪かったな」
「ううん。ごめんね、最後腕におっぱい当てちゃって。調子乗っちゃった」
「気にすんな、キツいけど嫌ではないし」
正直に言えるってかなり楽だ。さっきは自分の奇行に死にたくなったが、こう言える相手がいるのは心地よい。この世界に来てずっと片意地を張っていたからなおさらだ。
ただ、俺の返答に荒い息遣いで返すのは止めて欲しい。本当に興奮を隠さなくなってるな…こいつ。
「……明日は学校来れるの?」
「あ、ああ。行けるぞ」
「わかった。楽しみにしてる」
「楽しみって、これからも毎日会うだろ」
「うん、だからこれから毎日楽しみだよ?」
「……」
この恋する乙女は防御をかなぐり捨てて、全て攻撃に特化させるらしい。
今の台詞を面と向かって言われたら流石に恥ずかしいかもしれない。
「じゃ、また明日学校でね。ふっきー」
「おう」
通話が切れる。短い通話だった。おそらく、体調を崩した俺を気遣ってくれているのだろう。…本当に優しいやつだ。
さっきの黒歴史は俺の問題。この件で城にまた変な思いをさせないためにも、封印してしまおう。
……よし!忘れた!もう大丈夫!
切り替え!切り替え!俺まだ高校生だし、こんな青春もあるって!
コンコン、とノックの音が聞こえる。
控えめに母さんが入ってきた。先ほど俺が騒いでいたせいか、心配そうに眉毛をハの字にしている。申し訳ない…。
「えっと…拓人、大丈夫?……なんかすっごい、おっぱい、とか……触るとか……その……聞こえてきたんだけど?」
「それ!さっき!封印したの!掘り起こしちゃダメなやつなの!年頃なの!」
明日から、6月だ。
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ここまでお読みいただいてありがとうございます。
完結となりますが、カクヨムの方で続きは連載予定です。
なろうの方で読んでいただいている方には大変申し訳ございません。
ただいま、カクヨムの方で執筆をしており、なろうにはコピペで転載しているような形になってます。
たまに更新忘れてしまったりするので、一本化しようということで、こちら完結とさせて頂きました。(予約機能も使ってるのですが、カクヨム側で加筆修正もしてるのでちょいちょい違ってるところもあったりします…)
ご不便をおかけします…。




