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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
32/36

エロは愛を救う①

side.不木崎ふきざき拓人たくと

――――――――――――――――――――――――――――――――



「あ、あいつ……足、速すぎだろ……」


 雨の中、手に膝をついて息を整える。

 1年ちょっと引きこもりだった不木崎くんは女子にも劣る体力らしい。追いかけている人物が豆粒みたいになっていくのを見るのは、男としてのプライドがかなり傷ついた。もっと鍛えよう…。


 それにしても、あいつ全然話聞いてくれない…。

 覚悟して自分の体質を告白したのだが、閉じ切ったあいつの心には全く響かない。

 あれ…?これ次追いついたところで、何言ったらいいんだ…?何言ってもバッドエンド直行な気がする。


 これ以上のことってなると、もう『あのこと』を言うしかなくなる。

 いや、でもこれはマズイ。俺のアレが常時平常稼働していることをバラしてしまったら……最悪俺の不木崎君がその場で滅茶滅茶にされてしまう可能性もある。

 もうふっきー全然私に振り向いてくれないから、この際思い出づくり(物理)しちゃお、とかなっちゃいそう…。


 …これ詰みじゃないですか?


 俺がこのまま諦めて帰ってしまうと、城がヤバいことになりバッドエンド。

 かといって、俺がアレのことを告白したらその場で強制合体されて俺の精神がバッドエンド…。日頃俺のことを下心丸出しの少年みたいな目で見てくる城のことだ、襲わない、という可能性の方が低く思えてしまう。


 え?本当に何…?俺、前世でも結構慎ましく生きてきたんだけど?何ならたまーにだけど、親の付き合いで公園でボランティアとかして徳も少し積んでるはずなんですけど…?

 あ、足りない?あーなるほど!こん畜生が!


 スマホが振動する。雨音が強いせいか、ポケットから鳴る電子音は心許ない。

 雨でポケットからやや取りずらいスマホを苛立ちながら引っ張り出し、急いで通話ボタンを押す。


「城か!?」

開口一番、俺は叫んだ。


「わ!……びっくりした…!その通り城なんだけど、そうじゃなくて、お姉ちゃん…じゃなかった、城春の妹だよ!椿って言います!よろしくふっきー!」

「え、誰?」


 耳に届いたのは、やたら可愛らしい、聞いたことのない声だった。

 椿って言ったか…?あいつ妹居たのか。というか、何で俺のスマホに妹から着信が来る…?てか、妹にふっきー呼び感染してない?


「あ、今なんでこんな可愛い声の女の子から電話があったんだー!って思ったんでしょ?そうでしょ?」


 うん、城の妹だ。間違いない。きっちり城のDNAが刻まれている。妙に勘が鋭いとことか、ちょっとイラっとするところとかそっくりだ。

 なぜ城の妹から電話が来ているかはわからないが、今はそれどころではない。

 正直、ちょっぴり城成分を補給して癒されてしまったが、今は城(姉)の状況が良くない。こうしている間にもあいつは死に向かっているかもしれない。


 電話を切ろうとすると、


「……というかさ、お姉ちゃん、今なんか変なことしてない?」

「……え?」

「私お姉ちゃんのスマホとGPSアプリで繋がってるんだけど、今日職場体験でしょ?それなのに、とんでもないスピードで位置情報が動いてたから、また変なことしてるのかなって?しかもこの大雨だし」


 不幸中の幸いとはこのことを言うのだろう。まさに救いの手。

 GPSで繋がらなきゃいけない事態になっているのは城らしいが、また、って何したの?

 だが、今回に限っては違う。明らかに俺が悪い。


「いや、変なことしたのは俺の方だ。それで、城は今どこにいるんだ?」

「えぇー?私も城なんですけどぉ?……どっちの城ですかぁ?ちゃんと名前で言ってくれないと椿ちゃんわかんなぁい!」


 ……こいつ。本当に城に似ている…!


「……春はどこにいるんだ?」

「ちなみに私は椿ちゃんです!」

「いや、だから春は」

「ちなみに私は椿ちゃんです!」

「……教えてくださいっ……椿ちゃん……!」

「あ、これ、すっごいいい…」


 これやったことある…!やらされたこと…ある!姉妹揃ってなんで強要してくるんだ!そういうとこも一緒なんか!

 名前呼びが恥ずかしい、とかそういう話ではない。年下の女の子にいいようにされるという敗北感がこう…ムカつくのだ。


「むふふふ、しょうがないなぁ~。それじゃ、ふっきーが椿ちゃんとデートしてくれたらいいよ!」

「するから!椿ちゃんとデートするから!早く教えてくれ!」

「素直な男の子は大好きだよー!今度ラインするね!」


 名前呼びに加えてデートまで催促してきた。何という厚かましいやつだ。城でもここまで厚かましくはないぞ。

 しかし、こうしている間にも、城の思考ががヤバい方向へ進んでいるかもしれないのだ。

 今の姉の状況がわからないからなんだろうが、あまり年上を焦らすんじゃない…!


「はい、今ふっきーのラインに位置情報送ったよ!」

「助かる!」

「あー、ちょっと切るの待って!」


 電話を切ろうとすると、焦ったような声で城の妹は止める。

 また厚かましくお願いでもするのだろう。もう切りたいんだけど。


「何だ?まだ何かあるのか」

「お姉ちゃん多分いじけてどっか行ったんでしょ?昨日も結構キてたみたいだし…だから、椿ちゃんが魔法の言葉を教えてあげる!」

「魔法の言葉?」


「うん、それは――」


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