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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
24/36

リベンジマッチ

side.(ぐすく)はる


――――――――――――――――――――――――――――――――


 あれから数日が経ち、私は行動を移すことに決めた。


「めっちゃいい匂い」

「おはよう椿」


 パジャマ姿の妹が目をこすりながら、キッチンに入ってくる。

 まだ朝の6時。妹が起きるには30分以上早い。おそらく匂いにつられてやってきたのだろう。食いしん坊め。


「おはー。どったの?こんな朝早く」

「昼ごはん作ってるの。お弁当持っていこうと思って」


 そう答えながら卵焼きをひっくり返す。綺麗な黄金色の巻物になっていくこの瞬間は結構好きだ。

 とりあえず、うちの卵焼きは甘いから、甘口にしてるけど、大丈夫だろうか…。


「へー……あれ?」


 ちらり、と妹を見ると、2つある弁当箱を見ていた。


「もしかして私に?やば……めっちゃ嬉しいんだけどっ!」

「……違う」

「え?……じゃあお母さん?でもお母さん出張だよね?……ってことは、ああ、わかった。ふっ――」

「2つ食べるの!」

「きー」

「2つ食べるの!」


 妹は構わず最後まで言い切る。くそっ、こいつめちゃくちゃニヤニヤしてやがる…!

 そう、これは不木崎に作っている弁当だ。いつも私は購買かコンビニで買った菓子パン。不木崎も同じくそうだ。この間は不木崎にコテンパンにやられてしまったため、ここでリベンジマッチを仕掛けようと思っている。


 名付けて、『あれ、勉強もできて家事もできるってもう結婚しかないよね?』作戦!


 今はただ不木崎から勉強のできる天才文系美少女としか認識されていない。(されてません)

 そこからさらに、家事スキルまで見せてしまったらどうなるか?答えは簡単。

 私の美貌、学力、そして料理スキル。ふふふ、結婚してください!と泣きつく不木崎の姿が目に浮かぶ…!


 出張が多い母親に代わって、私と妹は家事がそれなりにできるようになった。

 しかも料理に関しては私の担当。毎日作っている料理スキルは妹からのお墨付きだ。


「いやぁ、そんなあかーい顔で言われてもねぇ」

「赤くない!」

「あー、やっぱり私も早くふっきーに会いたいなー、お姉ちゃんの落とし方教えて欲しい」

「だめ!」


 今日は不木崎にぎゃふん、と言わせてやるのだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 昼休み。決戦の時間である。

 一つ懸念点があるとすれば、休み時間のときから不木崎の元気がちょっとない。何かあったのだろうか。

 まぁ、このべらぼうに美味しいお弁当を食べればそんなの吹き飛ぶけどね!


「ねえ、ふっきー。ちょっといい?」

「…なんだ?」

何故か少し警戒している不木崎。


 最初の頃を少し思い出す。やはり機嫌が良くないのか。

 お昼ご飯を誘いたいが、協定を結んだとはいえ、流石にクラスでことを起こすのはまずい。嫉妬と怨嗟の炎で私は焼き殺されるだろう。

 何とかここから連れ出したいのだが…。


「お昼買いに行くよね?一緒にいこ」

「購買か?いいぞ」


 少し安心したような様子で椅子を引いて、不木崎が立ち上がる。よし、ここまではスムーズ。お弁当は不木崎に見えないように隠している。

 後は購買に行く前に引きずってでも人がいないところへ連れていくしかない。……校舎裏とかが良さそうか。


 不木崎と廊下を歩く。周りの嫉妬の視線はもう慣れたものだ。最近は妙な嫌がらせも受け始めているが、痛くも痒くもない。


 っと、ここで曲がったほうがいいな。


「あ、ふっきーこっち寄っていい?」

「え?購買こっちだろ」

「いいから、いいから」

そう言いながら、不木崎の手を引っ張る。


 あまり触れられるの好きじゃなさそうだが、今回だけ許して欲しい。


「お、おい!」


 うろたえる不木崎を無視して、ぐんぐんと進む。文系美少女と侮るなかれ。私の力は結構強い。

 少し歩くと、目的地の校舎裏に到着する。ちょうど日陰になっているし、予想通り誰もいない。完璧である。


「…校舎裏」

不木崎が青い顔で呟く。


 ああ、ここでの告白多いから思い出しちゃってるのか。場所ミスったかなー。


「今日は私への認識をアップデートさせます」

「な、なんだ?」

妙に怯えている不木崎。


 なんだ、告白されるとでも思ってるのか、自意識過剰め…。まぁ、好きだけど。大好きだけど。


「じゃーん!ふっきーにお弁当作ってきましたー!」

持っていた2つの弁当箱を後ろから取り出す。


 小さいピンク色が私ので、少し大きい水色の弁当箱は不木崎のだ。

 ビックマックの件でいっぱい食べるのはリサーチ済みよ…!


「…え?……弁当?」


 予想していたリアクションとは違うが、何故か安堵したようにお腹を押さえていた。


「えっと……迷惑だった?」

「いや、そんなことねえよ。ありがとうな。ここで食べるのか?」

「ま、まぁ、一緒に食べてあげてもいいけど?」

「ここに来て俺に一人で食べさせる気だったのか」


 少し大きめの石に腰掛け、弁当を手渡す。

 持った瞬間、不木崎はいい重量じゃん、と少し嬉しそうに微笑んだ。

 もう、私の勝ちでいいかもしれない。


 弁当箱のラインナップはこうだ。


 タコさんウインナーに自信作の卵焼き、小さいハンバーグとほうれん草のお浸し、きんぴらごぼう、そしてツナを混ぜたごはんと栄養面にも抜かりはない。

 それでいて、男の子の大好きなものを詰め込んでいて、不木崎の胃袋を掴むのも間違いないだろう。


 さ、さらには汁物として水筒にお味噌汁を入れてきた!

 ただし!ただし!カップは一つしかないから、仕方ない!仕方ないのだが…必然的に間接キスである!

 お味噌汁は水筒ひとつで二人分は十分に賄いきれる。つまり、仕方ないのだ…!


「うわ、120点じゃん」

弁当箱を開けた不木崎はおぉー、と表情を柔らかくする。


 先ほどの機嫌の悪い感じは吹き飛んだみたいだ。

 今の感想で、私の好感度が200億ポイント上がったのも教えてあげたい。自然と鼻の穴が開いてしまう。


「見た目だけじゃなくて味も見てよ」

「そうだな、じゃ、いただきます」


 手を合わせて、不木崎は私の自信作の卵焼きを口に入れた。それは紫蘇も間に挟まっていて、普通の卵焼きとは一味違う。

 一度租借して、不木崎はカッと目を見開かせた。やばい、おいしくなかった?やっぱり甘い卵焼きは駄目だった?


「――天才か?」


続けざまに、


「紫蘇巻いてる卵焼き初めて食べたけど、何これ…革命なんだけど。俺の卵焼きの常識が一気に塗り替えられたわ。美味すぎ」


 私の口角が勝手に上がっていく。ニヤけを押さえられない。

 大好きな人に褒めてもらうのはこんなに嬉しいのか。髪型を褒めてもらった時も嬉しかったが、こちらは朝早起きして作った努力が入ってる分、その比ではない。

 しばらく、不木崎が食べている姿を眺める。幸せすぎる。どのおかずにも美味い、と感想を添えてくれる。

 私は弁当箱を広げてもいないのに、お腹が温かい何かで満たされていく。


「あ、そうだ。ふっきー。お味噌汁もあるんだけど……」


 そう言って、水筒のカップを手渡すと、すぐに不木崎は飲む。


「おお、フルコースじゃん。沁みる……」

「え、えっと、そのカップひとつしかなくて…」

「あ、そうなの?悪い、先飲んじゃって。次、城飲んじゃってよ。俺もまた飲みたいし。結構量あるでしょ?その水筒」


 私が飲んだ後にリピートする、だと……!?

 なんだこいつ、ヤリチン検定1級みたいなムーブかましやがって…!全然気にしてないところもムカつく…!

 私は自分の味噌汁を注いで、少し湿っている飲み口を見る。


 か、間接キスとか小学生じゃあるまいし、き、気にしないよね!それに仕方ないの連鎖が生み出した不幸な事故みたいなもんだし?

 そう心の中で言い訳しつつ、私は不木崎が飲んだであろう場所に口をつける。


「味が…しない…!」


 全部不木崎の間接キスに持っていかれた。

 最近やけに血の巡りのいい耳が真っ赤になるのを感じる。


「え、めっちゃ美味いけどな、ちょっと頂戴」

そう言いながら不木崎は私の飲みかけを手に取る。


 ――あ、そこ私が口付けたとこ…。


「やっぱりめっちゃ美味しいじゃん。濃いのが好きなのか?俺はちょうどいいけど」


 首を傾げながら、ペロッと、唇を舐める薄ピンク色の舌が、私の心臓をおかしくさせる。


「……うるせー」

「え、なんで?」


 ムカつく!ムカつく!ムカつく!


 結局私は敗北感に包まれてしまったが、不木崎は残さず全部食べてくれた。

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