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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
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一生一緒に

side.不木崎(ふきざき)拓人たくと


――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は学校の校舎裏にいた。

 目の前には城が真っ赤な顔をして立っている。こちらを見れないのか、地面を眺めながら靴で土を弄っていた。

 西日がちょうど俺の方へ当たっている場所で、眩しいやら熱いやらで居心地はよくない。城はちょっと陰に入っていた。場所交換してくれないかな。


 というか何で俺校舎裏にいるんだっけ……。ああ、城に呼びだされたのだった。記憶が徐々に戻っていく。

 正確に言うなら、城に腕を強引に引っ張られてここまで連れてこられたんだった。こんな小さいなりのくせにまぁまぁ力が強くて驚いた。


「きゅ、急に呼び出してごめんね」


 城が地面と会話する。どこ見てんだ。

 だが、本当にそうだ、こんな告白しそうなシチュエーションに俺を引きこ……み……やがって……。あれ。


「ちょっと、大事な話があって」

顔を上げた城は強かな表情で俺を見据える。


 逆光が原因なのか、城の瞳は神秘的な光を発しているように見えた。

 先ほどまでの恥ずかしがっている赤い顔は一切なくなり、強い意志を感じる雰囲気を纏っている。


 告白されないか、これ。


 一気に頭に血が上る。一瞬の内に貧血のように立ち眩みが起こる。


 マズイ、不味い不味い不味い不味い。


 あれ、何でこんな状況に俺は転がったんだ?なぜだ?なぜ、黙って城に校舎裏まで連れていかれた?

 少し一緒に過ごして安心していたから?気を抜いていた?なぜなんだ?


 ドッと汗が噴き出す。


「私、もう我慢できないの。一生懸命頑張ったんだけど、ふっきー全然わかってくれないし」


 瞳から発せられる光は先ほどよりも異彩を放つ。吸い込まれそうだ。

城は妖しい雰囲気を一瞬崩して、にっこり、といつもの天真爛漫な表情になる。


「ふっきー。私と結婚してください」


 全ての音が止んだ。


 放課後の部活動生の喧騒や、遠くで鳴いているカラスの鳴き声が、全て静まり返る。

 心臓の音だけが俺の頭の中を支配する。最近穏やかになったはずの体質が急激に体を蝕む。

 胃からこみあげて来るものを必死に飲み込んで押さえつける。


「ご、ごめん無理。結婚までは考えられない」

俺は咄嗟に答えていた。


 そんな答え方をするつもりではなかったのに、体が、口が勝手に動く。

 女性を拒絶していた最初の頃のように、体が震える。


 城の顔が見られず、返事をしてからすぐに俯いた。じりじりと痛みを伴う西日が罰のように俺を照り付けてくる。

 1秒1秒が地獄のように長く感じた。音のない世界で、俺の心臓の音だけが響く。


 しばらくしても、城は何も言わなかった。傷ついてしまって、声も出ないのだろうか。

 もしかして、声も出さず泣いているのだろうか。悲壮の表情を浮かべて。

 怖くて顔を上げられない。


 いつもされていた告白とは全く違う。俺が断ると、大抵の女子は叫び、怨嗟の鳴き声を上げていた。

 前世で言う男泣き、ならぬ女泣きだ。

 そのはずなのに、全く音がしない。


 3分ほど経っただろうか。不安になり俺は思い切って顔を上げた。


「あ、やっとこっち見てくれたぁ」

城は笑っていた。


 笑って、ナイフを自分の首元に突き立てていた。思考が止まる。


「ふっきーが愛してくれない世界なんて、生きてても意味ないよね?ほら、池田華も同じこと言ってるし、恋って結局、最後まで辛くて苦しいものなんだよね。だったらさ、せめて大好きな人に見ていて欲しい。大好きな人の記憶に、私を刻んで欲しい。この世界でふっきーの隣にいれないなら、死んでふっきーの頭の中で一緒に生きられたほうが何倍もいいよね?」

「な、何言ってるんだ?」

「あれ?わかんないか。そんなんじゃ、現代文の点数また平均以下とっちゃうぞー!」


 光を放っている瞳が歪む。歪な笑みだった。


「それじゃ、私がいなくなってもきちんと女の子の気持ちを勉強すること!でも、私以外の女の子と仲良くしちゃめっ!だからね」


 夕日の光で、鈍色のナイフが金色に反射する。


「……短い間だったけど、すっごく幸せだったよふっきー。バイバイ」


 ナイフが城の首元で、スッと一線を描く。


「待て!ぐす―――」




 手を伸ばし、腰を上げる。

 体中から汗が噴き出していて、後ろで支えている手から、びっちょり濡れたシーツの感触だとわかった。


「ゆ、ゆめ……?」


 全力疾走したような疲労感に包まれていた。

 湿った両手で顔を覆う。


 夢で良かった、という安堵感と、恐怖が押し寄せてくる。

 最近俺がしていた危惧が夢として出てきたのだろう。にしてもリアルな夢だった。


 どうやら俺は精神的に追い込まれている。城と楽しい時間を過ごせば過ごすほど、恐怖が大きくなっていく。

 もしも、夢の出来事が現実で起きたらって、考えてしまう。


 何としてでも、この体質を治さなければならない。一刻も早く。

 このままでは、体質が治る前に、俺がおかしくなってしまいそうだ。

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