誰にも理解されない男の気持ち
side.不木崎拓人
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俺は今、この世界に来て、最大のピンチを迎えていた。
城が本の表紙を頭にぶつけたり、机に頭をぶつけたりしてめちゃくちゃ怖い思いをしたが、そうではない。
――――こいつ、ブラジャー透けてやがる。
どこの夜職のお姉さんですか?と聞きたくなるくらいの花柄水色のブラが、リボンを中心に外へはちきれんばかりのエンボス加工を表現している。
エッチなんてもんじゃない。しかもなぜか教科書や小テストのプリントを胸元に引き寄せて見るため、必然的に俺の視線はおっぱいへ着地する。おそらく、図書室に良く来ると言っていたから、空調が効いていないの知っていて先に中に着ていたものを脱いだのだろう。だから、先に行ってと言ったのかこいつ…!(違います)
と言うか、いつもおっぱいを見ている俺から言わせれば、これは異常事態だ。いつもはただ張りと弾力があるおっぱいが、シルクのような質感で天に突き上げるかのごとくそびえたっているだけで、こんな内部構造が認識できるレベルの状態ではない。いつも見てるのだ、断言できる。
さらに言えば、この匂い。
これまたエロい匂いだ。前世で戦闘力50万くらいの綺麗なお姉さんとすれ違った匂いがする。なぜかハイヒールがコツコツなる音や腰を振りながらモデルウォークするお姉さんの幻聴幻視が起きる。
俺もそうだが、少し動いて城も汗をかいたからなのだろうか、すごく濃い匂いがする。
そんな危険な代物が先ほどから多彩な動きを見せるのだ。じっとしておきなさい、と注意したくなるほどブルンブルン動く。そこに城の美少女力MAXの顔面が加わると、いよいよまずい。
先ほどから、下半身がイライラする。
何ならもう半分は起床してしまっている。距離感も的確に保ってくれているため、心が苦しくなる現象での鎮静化は望めず、ムラムラパラメータは上限スレスレだ。エロい気持ちがただた上昇していき、妙な汗も出始めている。
咄嗟に上着を脱いで学ランで息子の存在感を消したが、今もなおその成長はとどまることを知らない。
以前デートの際来ていた谷間が見えている服はまだ我慢できた。そういう直接的な感じは我慢できる。だが、この学校の図書室というシチュエーション、さらにブラが透けているという日常から少し外れた非日常。これは駄目だ。そういうことをしたら駄目なんだよ…!
なぜか、赤い顔でこちらをジッと睨みつけているが、俺が睨みつけたいくらいだ。健全な男の子になんてことしやがるこいつ…。
「というか、本当に暑いねー」
そう言いながら城はパタパタと服を引っ張る。
瞬間、先ほどより強いムワッとした匂いが一気に広がる。
息子が一歩一歩大人の階段を昇る。
「そ、そうだな。今日はもう止めにするか?集中力続かないだろうし」
終わらせなければならない。危険すぎる。もしも、俺が勃っているのがバレたどうなる。
終わりだ。そう、終わりである。性欲に脳みそを溶かされた美少女どもに、酒池肉林を体現したような、それはもう濃厚なわからせコースへ案内されてしまう。
俺の心と体は精神崩壊し、廃人コースは免れない。正直ちょっぴりそうなってみたい、という願望はあるが、自分の命をベッドするほどの根性は俺にはない。
ただ、これはこれで拷問だ。体はエッチしたいと叫んでいて、何なら目の前の美少女もおそらくそうだとわかっている状態で、俺は仙人のような忍耐でこらえなければならないのだ。
神様、俺が何をしたって言うんですか…?普通こういう転生するやつって主人公が無双するもんじゃないんですか…?
なるべく全ての血流を指先に集めるイメージをしながら、ペン回しをして心を落ち着かせる。
空調が効いてないせいか、全く体が冷える気配がない。
「ダメダメ!まだ30分も経ってない!遊んでばっかじゃ成績上がらないよ!明日やろうは馬鹿やろうだよ!」
城が目の前で指を立ててメっと怒る。
その拍子に、城の右腕で右乳が沈んでいた。
お前が馬鹿やろうだよ…!さっきからおっぱいで粘土遊びしてるのはお前の方なんだよ…!というか、今は成績なんてどうでもいいんだよ…!こちとら未来、かかってんだよ…!
「あ」
そこで集中力が途切れ、ペンが落ちる。
下を見ると、ナニとお腹の間にペンが挟まっていた。
やば―――
「もう、ふっきーペンあそびなんて―――」
ガンっと、机に頭をぶつける。
こんな光景見られるわけにいかない。視線をごまかさなければ終わる。
「え、何ごと」
頭を上げ、俺は城に微笑む。
「じゃ、続きやろっか」
「怖いんだけど」
ペンは無事回収した。
「じゃ、じゃあ、気を取り直して再開するけど、女の子のことを学ぶ前に、まず私に男の子のこと教えて欲しい」
「え、なんで?」
「ほら、考え方の違いが私もわかってないと、教え方も難しいからさ」
「なるほど」
本気で俺に教えてくれるようだ。俺も応えねばせっかく勉強を教えてくれる城に悪い。
顔を見よう。せめて顔を見て下半身を落ち着かせよう。顔、顔……顔もかわいいなこいつ腹立つ。
「ま、まず、き、聞きたいのはふっきー……じゃなかった、男の子はどういった女の子が好きなの?」
顔を真っ赤にし、明後日の方向を見ながら、空中にしゃべりかける城。きょろきょろと、目だけは俺のを見たり見なかったりしていた。
……あれ?これ、告白されそうじゃない?
急に来た。これって定番のあれじゃないの?男の子(不木崎)のタイプを聞いて、今度は俺が女の子(城)のタイプを聞いて、あれ、私たちすごく相性いいよね、結婚(合体)しようか、とかいう流れではないのだろうか。正直わからない。
この世界の女子は想像の斜め上を行く思考回路のため、正解かどうかは不明だ。
ただ、これで告白されてしまったら、俺は断るだろう。
……そうしたら、最悪池田華と同じ結末。
俺は首を振って、考えを一度飛ばす。考えすぎだ、と頭では言っているが、この世界の不木崎くんの常識が危険だとも言っている。
こいつのことは好きなほうだが、結婚(合体)はやはりまだ無理。俺としてはこの体質を直して、この世界を存分に楽しむ未来も待っているのだ。
ただ、もし最悪の結果になってしまったら、俺はそれを耐えられない。大手を振って、この世界は二度と楽しめないだろう。下手したら引きこもりに戻る可能性だってある。俺の心はそんなに強くできていない。
やはりこの流れをどうにか回避しなければならない。
「そうだな、俺は普通の男じゃないっぽいから参考にならないかもだけど、やっぱり線が細くておしとやかな女性が好まれやすいな。やっぱり、男は性的弱者だからな。優しい人が好きなんだろうな、俺は違うけど」
見たか!俺は違うけど、一般的にはこうだよね、返し!
城も納得いかない、という顔をしているところから、正しかったと言えよう。
ふふふ、鈍感を演じるのもしんどい。
「ふ、ふっきーはどうなの?」
「俺?いやいや、今は勉強の話だろ。一般的な男の子の好み、んで女の子の好み、それが現代文を攻略する上で必要なんだろ?また脱線しちゃうぞ」
「ぐ、ぐぬぬ……まぁ、そうだね」
フハハハハ!そう簡単に告白させてたまるか!
俺の行いが100%悪いが、というか本当にごめんなさい案件だが、こう、お互いの命かかってるから…。
俺が振ったら城が死ぬかもしれなくて、俺が受け入れたら俺が死ぬ。何としてでもこのふわふわした状態をキープしなければならない。俺の体質が治るまでは…。
そこからも質問を何とか回避し、第一回の勉強会が終了した。




