キックオフ
side.城春
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放課後になり、不木崎が図書室へ向かう。早速勉強を教えるためだ。
一緒に行くと変に目立つから、と私が先に行かせた。お互い手を振り見送る。なんかこういう感じすごくいい。
ちなみに、委員会決めは見事私の作戦勝ちだった。
不木崎が言った通り、とんとん拍子で決まっていき、決まった時のクラス女子の顔は夢に出てきそうなほど阿修羅と化していた。
それに、今日は冬凪先輩もちょっかいをかけにきたけど、何とか撃退できた。頑張ったぞ、私。
だが、イレギュラーで生徒会長の柳先輩が来た時、不木崎の雰囲気がいつもと違って何かすごくムカついた。
よくわからない。不木崎がおっぱいを見ているのは日常茶飯事なのに、なぜかあの時はムカついたのだ。
くそぅ、勉強を教えるときにあんなことやこんなことをさせてやる……!
ふふふ、とほくそ笑んでいると、私の周りをクラスの女子が囲っていた。
かごめかごめでもするのかな、という陣形だ。
「あ、この顔ギルティだわ」
「うん、死刑」
「抜け駆けさせるわけないよね?」
「私と拓人くんの子も……すごく怒ってる」
口々に怨嗟の声を上げている。一人お腹を撫でている女子はめちゃくちゃ怖い。
4人の女子が私を囲んでいる。他の女子は4人を邪魔しないように遠目から様子を伺っていた。
私を囲んでいるこの4人はクラスのカースト上位。つまり、ここにいる子たちを御すれば、私の身は安全というわけだ。
策はある。中学の時、学年2位だった私に隙はない…!
「あれぇ…いいのかなぁ?」
静かなクラスに私の声が嫌に響く。
私は余裕な表情で周りを見渡した後、スマホを取り出す。
怪訝そうな顔をした女子たちは、私が表示させた画像を認識し、順番に硬直していく。何か石化魔法の使い手になって気分で、ちょっと楽しい。
「Tシャツ姿のふっきーの写真。みんなにもおすそ分けする予定だったんだけど……友達じゃないみたいだし」
残念、と上目遣いで見てみると、満面の笑みで4人がこちらに握手を求めていた。
「ワタシタチトモダチ、ベストフレンド!友情!」
「無罪」
「ま、これまで含めて私たちのじゃれ合いだよね、『親友』」
「あ、また孕んだ」
最後のヤツにはあげたくないんだけど…。
まぁ、しっかりと盗撮させて頂いてるんだよなぁ。あんなエロい格好されて、記録に残さないわけないんだよなぁ、ふっきー。
色んな意味で脇が甘いんだよ…!性搾取されてしまえ…!
こうして、私はクラスのカーストを確保した。ついでにラインの友達がめちゃくちゃ増えた。
私のいないクラス女子のグループがあるとわかった時は、少々心にダメージを受けたが、今後はここで共有する方が手間が省けそうだ。
このクラス以外には不木崎の写真を渡さない、という条件で私はライングループに画像を送った。
股を押さえて蹲るヤツや、さりげなく机の角にこすりつけているやつなど、節操のない女たちを見て私はほくそ笑む。
この子たちはただ不木崎とヤりたいだけだ。エロい目で不木崎を見るのは別にいいし、逆にそこで満足してもらわないと困る。
これからも私は彼女達をなだめる『餌』を撒いて、本物の不木崎へ向かう眼を潰す。
心までは絶対に渡さない。私のものだ。
図書室に着くと、不木崎が勉強道具を広げていた。
室内には誰もいなく、本当に人気がない場所だな、と改めて思う。
私に気づいた不木崎は、笑顔になり私に手を振った。ちょっとだけ胸が苦しい。
「お待たせ、誰もいないね」
「貸し切りだな。てか図書委員もいないってヤバくない?これ、本借りるときどうすんだ」
「あぁ、うちの学校の図書室結構すごくて、帯にあるバーコードで貸し借り管理してるんだよ。んで、返すときはそこの返却口に返す」
「あの謎の機械バーコードリーダーなのか。あれ、じゃあ図書委員いらなくね?」
「ううん、返却口に溜まってる本を元に戻すのが図書委員の仕事だよ。ちょっとやってみる?」
「お、そうだな」
返却口には10冊ほど本が置いてある。
多分ゴールデンウィーク後だからいつもより多い。そういえば、あの大量に借りた本、私も返さないとな…。
不木崎と手分けして、本を元に戻す、作者別、ジャンル別に番号が割り振られているので、探すのは割と簡単だ。
えーっと、次は―――池田華。
表紙を見て体が固まる。不木崎からもらった栞と同じひまわりの絵が描かれている。自然に顔が熱くなるのがわかった。
私、ひまわり見ただけでこうなっちゃうの…?
心臓がバクバクと音を立てる。無音の図書室内で、不木崎にも聞こえるんじゃないかってくらい大きな音に聞こえる。
まだ駄目だ。こうなった私は弱い。何も言えないただの幼子になってしまう。
今日誓ったはずだ。不木崎に告白させると。私の人生をかけてやり遂げなくてはならない。
不木崎にとって居心地のいい私でなければならない。
本の表紙を額にコツンコツンと何度も当てて、首を振る。よし、大丈夫。
「城、俺の分はもうおわっ……何してんだ?」
「……本からの念を感じてた」
「本当に勉強教えるだけの学力あるんだよね?」
私も本を全て元に戻し、不木崎の横の席に勉強道具を広げる。
椅子を少し不木崎に近づけたのを一瞥されたが、特に何も言われない。
さて、始めよう。『あれ、よく見たらブラジャー透けて見えてね』作戦を……!
説明しよう。いつも私は下着の上にキャミソールを着用して、ブラが透けないように配慮する。これも男の子に気持ち悪がらない為である。ただでさえデカいのだから、ここら辺のエチケットは気を付けている。
そんな重りを今日は外した。正確にはついさっきトイレで脱いだ。
まだ不木崎は気づいていないようだが、気づいた時にはもう遅い!私の3か月のお小遣いを消費して買った、このバカ高いブラジャーの存在に目を奪われるのだ!
さらに、これだけじゃない。私は完璧を期する為、視覚以外にも仕掛けを施した。
――そう、嗅覚。
これまたいつ使うかもわからないまま購入したバカ高い香水をつけているのだ。朝は少し匂いがキツめだったが、今は体に馴染んで自分で嗅いでもエロい匂いがする。
あ、なんかムラムラする。
さぁて、ただでさえおっぱいを見ている不木崎に、このコンボは耐えられるかな…?
教科書や参考書は私の胸の近くに配置することで、目をそらすことは、そう、不可能!ただ教科書を見ているのに、あら不思議。私の胸と匂いを意識せざるを得ない。
もし、目をそらして、私のおっぱいからターゲットが外れても大丈夫。
勉強しに来てるのにどこ見てるの!集中して!と、どの口が言うのか、という台詞を吐き散らかしてやるわ!
おっぱいを机に乗っけたり、反対側の腕で動かしたりして翻弄してくれよう…!
視覚・嗅覚、この両方を奪われた不木崎は果たしてどうなるか…?
ぐふぐふ、と笑う私に不木崎は不気味そうに見ている。
さぁ、始めよう!不木崎に告白させるための作戦を!