それぞれの決意
side.城春
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鞄を持ち、鏡で自分の姿をチェックする。
艶のあるプラチナブロンドの髪の毛は私の自慢だ。
私と妹は父親が違う。私は外国籍の父親のため明るい髪色だが、妹は日本人らしく綺麗な黒髪をしている。
人工授精をする際選択肢はあまりなく、ほぼランダムに選ばれるらしく、姉妹同じ父親という可能性は非常に低い。そのため、こうしてあまり似ていない姉妹が生まれる。妹は私の髪の毛を羨ましがるが、私からしたら対して手入れもしてないのにあの艶を維持できている妹の方が羨ましい。
「がんばれ、わたし」
小さく自分に言い聞かせて、もう一度ダメ押しでリップを塗る。
あの時からラインでのやりとりしかしていない。
急に帰ったことを不木崎は謝っていたが、それよりももっと謝って欲しいことがある。
私はもうドツボにはまってしまった。たった数日しか一緒に過ごしていないのに、不木崎なしの生活を考えられないくらいにどっぷりはまってしまっている。
「めっちゃ気合入ってるじゃん」
鏡ごしに妹が現れる。
ニヤニヤ、とパンをかじりながら私を見てくる。この間妹に泣き姿を見られてしまったからか、気恥ずかしさがまだ抜けない。
「入ってないし」
私の返事に、ふぅううううん、と含みたっぷり持たせて、背後を取られる。
「ほぉー、ほぉ、ほぉ、ほぉ、香水もつけてますねー、あれぇ?お姉ちゃんの学校禁止じゃなかったかね?ん?」
「うるさい」
つけたばかりだからか、匂いがまだ強く一瞬でバレてしまう。
もう少し時間がたてばいい感じになる。
「今日も、『いじわる』されに学校へ行くのかなー?」
いじわる、という言葉に心臓が跳ねる。こいつ、私が恥ずかしがっているとわかって…。
「もう行く」
あえて冷たく言い放ち、妹の肩にぶつかりながらその場を後にする。
あぁあん、とわざとらしく声を上げて、その場によろめく。その割にパンは加えたままで余裕があるのが腹立たしい。
玄関で靴を履いている私に、ひょっこり洗面所から顔を出してこちらへ手を振っていた。
「がんばってねー!」
……本当に、朝からうるさい妹だ。
玄関を出て、五月晴れの空を見る。雲一つない澄み切った空だ。
もう一度、誓おう。
『絶対に、ふっきーに告白させる』
side.不木崎拓人
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「あんまり、この間の話思いつめないでね」
母さんが朝食中に箸を置いて、心配そうな表情で言う。
あの件をきっかけに、母さんのおどおどした感じは大分抜けた。
未だ言いたいことを押さえている瞬間が見受けられるが、しゃべり方は普通になった。
「ああ、でも気を付ける」
茶碗にある白米の最後の一口を口の中に放り込んで頷く。
あれから色々考えたが、答えはやはり見つからなかった。
城がもし、辛く苦しい状態であれ、今の俺にできることはほぼない。
彼女を受け入れることはまだできないし、かと言って拒絶するようなこともできない。
ずいぶん中途半端なやつだ、と自分を評する。男の子最低じゃん、とか言ってる場合じゃないねこりゃ。
俺の体が治ったら、そのときは――どうしたいのだろう。わからない。
城に対して、恋愛感情があるのか、と問われれば、やはりない。前世でもそうだったが俺は恋愛をしたことがない。
城のことは人として好きだが、結婚して一生添い遂げたいか、となれば途端にわからなくなる。
何せ、一生を左右する問題だ。
結婚してみてお互いあんまり相性よくないから離婚しよっか、がこの世界では通用しない。
おそらく城は精一杯俺に合わせて、自分を押し殺して、無理をするだろう。
ちょうど、1か月前の母さんのように。
あんな姿は見たくない。
「拓人なら大丈夫」
茶碗を台所へ持っていくと、母さんがコチラを見つめていた。
慈愛に満ちた表情。あの人から生まれたと考えると、なんだか誇らしくなる。
「あったり前じゃん、なんたって母さんの、あの水国千冬の息子だからね」
「も、もうっ!」
少し頬を膨らせて、朝食を再開させる。耳が赤い。
「それじゃ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
玄関を出て、真っ青な空が眼前に広がる。
5月の程よい気候が心地いい。
城には申し訳ないが、まだ告白されるわけにはいかない。
準備が何もできていないのだ。それに、この世界の恋愛ももっと学んでいかないと。
だから、今は―――
『絶対に、城に告白させない』