表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
12/36

喫茶店にて

side.ぐすくはる

――――――――――――――――――――――――――――――――



ひと悶着あったが、大体のところは見て回ったため美術館を出ることにした。

ていうか私冬凪先輩に名前覚えられたよね…?学校大丈夫か…これ…。



出る前に不木崎は美術館にある物品コーナーで可愛らしい柄のしおりを購入していた。

母親のおみやげらしい。幸せ者だな、不木崎のお母さん。


私も買おうと色々見てみたが、これから水国先生の本も『4冊』買わないといけないのだ。

ちょっとお金に余裕がないため今回は見送った。






本屋へ行く前に一度休憩しようということになり、そのまま移動して、喫茶店へ向かう。

不木崎おすすめの店とのことだったが、見た目は少し寂れていて正直男の子が好みそうな外観ではない。

路地に入った先にある、小さな店。看板はかすれていて読みづらいが、『ロアナ』と書かれいてた。


しかし、店内に入ってダンディなマスターがグラスを磨いているのを見て納得した。

なるほど、ここは男の子の居心地が良さそう。

店内には男性客しかいない。10人ほどしか入らなさそうな店内に3名も男性が思い思いの時間を過ごしていた。


「拓人くんか、いらっしゃい。おや、デートかな」


白髪のおじ様がにっこり笑う。深い皺が老いではなく、経験を感じさせる、上品な歳の取り方をしている。まるで映画のワンシーンのようで様になっている。

常連なのか、中年の男性客もいて、カウンターから不木崎を見てヒューと口笛を鳴らした。


デート、そう、これはデートなのだ!

ほら、冷やかされて私を意識しろ……するのだ……。


「まぁ、デートですね」


「ふぁ!?」


何ともない風に言う不木崎を見て、心臓が跳ねる。

これ、私の方が翻弄されていないか。


「相変わらずだね。君を旦那に欲しいくらいだよ」


「そうそう、マスターその通り。俺も拓人くんと結婚してーなー」


マスターと中年が笑い合いながらコーヒーをすすっている。

確かに不木崎は女らしいところもあるが、男性人気も高いらしい。

先ほど会った冬凪先輩を思い出す。あの人まさかとは思うけど不木崎狙ってないよね。


「はは、嫁さんにどやされますよ」


「いや、大丈夫だよ。うちの嫁さんも拓人くんのファンだし」


おじ様同士でうんうん、と頷きあってる。


席につき、注文票を手渡される。


「おすすめはコーヒーだけど、苦いの大丈夫?」


「大丈夫。お任せするね」


「おっけー」


何気ない会話が心地いい。不木崎は自分の好きなものをおすすめするとき、すごく柔らかい顔をする。

今もウキウキしながらマスターへ注文している。


「よく来るんだ?」


注文を終えたのを見計らって、嬉しそうな顔をしている不木崎に尋ねる。


「ああ、色々あった時によくここに逃げ込んでた。マスターめっちゃいい人でさ」


「ふーん」


『色々あった時』というのが気になったが、あえて聞かなかった。

まだ話して3日目なのだ。踏み込んだ話はもう少し関係性ができてから。


「ここ本読むのにちょうど良さそう」


「あ、やっぱわかる?ここで本読んだらすげー贅沢な時間になるぞ」


笑顔の不木崎を見ながら、私は頭を高速回転させる。

この場が分水嶺だ。ここで、不木崎との繋がりを強固にしておかないと、この後は本を買ってお終い。

ゴールデンウィークの魔法は溶けてしまう。



さて、どうして彼との繋がりを保つか…。私は家で3つの作戦を練ってきた。


まず一つ目は勉強を教えてもらう、だが、これは駄目だ。私めっちゃ勉強ができるのだ。頭スゴイいい。

テストで90点以下を取った記憶がない。うちの学校成績張り出されると聞いたから、バレたら私の思惑も露呈してしまう。きっと『へぇー、俺と仲良くしたかったから、わざと勉強できないふりしちゃったんだー』とか言われちゃう。

あれ、意外と悪くないぞ。


二つ目は委員会。

確か先生がGW後に決めるとか言っていた。

不木崎と同じ委員会に所属して、接する時間を増やす!……一見完璧に見える作戦だが、実は欠点がある。

それは、不木崎が人気過ぎるということ。おそらく、不木崎が何かの委員会で手を上げると、クラス全体が一つの生物になったかの如く手を上げるに違いない。そうなると無理だ。無駄に筋肉の多い、クラス女子に私のような芋女が勝てる見込みがない。


となると、不木崎に相談して、不人気そうな委員会を私だけが先に立候補し、先生があと一人誰かいないかー、と言ったときに不木崎に手を挙げてもらうしかない。ただこれも私の思惑がバレるというかもはやバラしてしまっている。きっと『へぇー、俺と仲良くしたいから、一緒に委員会にはいりたいんだー』とか言われちゃう。

こっちもいいな…。


最後に、三つ目は今月の末にある職場体験。

ここで不木崎と同じところを希望するというもの。だが、ここでも欠点がある。

それは、不木崎の職場体験の場所をどこか入手しなければならないということ。職場体験の受け入れ先は、全部で300社以上。うちは結構な進学校ということもあり、受け入れ先は多い。この中から予測など不可能。つまるところ、不木崎から直接聞くしかないのだ。そうなると私の思惑はここでバレてしまう。きっと『へぇー、俺と一緒に職場で体験したいんだー』とか言われちゃう。

最高じゃないか!


これら3つの作戦をアタックして、一つでも成功に持っていければ今回のデートは大成功と言えよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ