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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
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男の娘はおべっかに弱い

彼は同じ高校の2年の先輩である。

入学当初、やたらと声をかけられ、さらに言うならやたらとボディタッチが多く、思わず殴りそうになった人物でもある。今はしてこないが。


彼を一言で言うなら、俺が知りうる中で、最も男の子らしい男の子である。

女性を生理的に嫌悪しており、群れを好み陰口が好き。そうでもしないと病んでしまうくらいエロい目で見られているのだから多少同情はする。何せ、『男の子同士の』エッチな動画を、映像技術を駆使して彼のファンクラブがアイコラにした、という噂を聞いたこともあるくらいだ。


なので、彼がこの恋愛小説家である池田華展に足を運んでいるのはすこぶる納得できたし、女性に対して過剰反応していることも理解できた。


「先輩も池田華好きなんですね」


「あ、そうなんだよ。タクトくんもこういうジャンル読むんだね。嫌いかと思ったよ」


多分俺がこの世界の男らしくない言動が多い為そう思ったのだろう。

知り合い、ということもあり冬凪先輩もボルテージが少し下がっている。


「本は結構雑食ですよ。というか、お尻大丈夫です?結構痛そうでしたけど」


「ホントだよーすっごく痛かった!もう!タクトくん撫でてよー!」


そういってお尻を振る冬凪先輩。そして、警備員の鼻からブフォっと鼻血が出た。

こういうところがこの人の苦手なところだ。距離感が近いとか次元ではない。何で野郎の尻を撫でないかんのや!


「先輩は小柄でかわいらしいですからね。女性と間違われたんだと思いますよ」


冬凪先輩の台詞ガン無視して和解へ誘導する。

この人はわかりやすいおべっかに弱いタイプである。

可愛いという言葉に反応して、お尻をくねくねと動かし始める。おい、痛かったんじゃないのか。


「ま、まぁね。ボクカワイイから、タクトくんの言う通り、確かに女の子と間違えてもしょうがないかな~」


女の子からのおべっかは全く反応しないが、男からのおべっかにはクリティカルヒットする。


「警備員さん、事故だったみたいです。ごめんなさい」


俺の顔をちらちら見ながら、頭を下げる冬凪先輩。

以前似たようなことがあった時、謝らなかった先輩を怒ったことがある。

その失敗を踏まえてか、素直に頭を下げていた。


ポカンと鼻血を出していた警備員さんは、わかりましたっ、と言うとそのまま持ち場へ戻るかと見せかけてトイレへ向かっていった。まぁ、あの鼻血じゃ仕事できないよね。


女性が立ち上がり、冬凪先輩へ頭を下げる。


「私の不注意で、本当に、申し訳ございませんでした」


「うっ、ま、まぁいいよ。お互いパネルに夢中だったみたいだしね」


またも俺の顔をチラホラ見て受け答えをする。女性と話すこと自体すごく嫌そうだが、怒られるのはもっと嫌らしく、何ともない風を装っている。


「あの、貴方も助けてくださってありがとうございます。すごくかっこよかったです」


女性は俺にも頭を下げる。おっぱいも一緒にお辞儀をして偉いな、と思う。

最後に女性から何やら紙の切れ端を渡され、女性客は出て行った。なんだこれ。


まぁただ、こうして貴重な読書家が守られたのだからよかった。


「それ、かして」


冬凪先輩がそう言いながら俺の手元から紙を奪い取り、中身を見てため息をつく。


「はぁ、やっぱり。女なんて信用できない。せっかく助けてくれたタクトくんになんてことするんだ全く」


紙をビリビリに破いてコミ箱へ捨てる。何が書いてあったのだろうか。すごく気になる。


「そ、それでタクトくん。何かホラ、言うことはないかな?」


そわそわしながらこちらを見てくる。褒めて欲しそうな子供のようだが、多分そうなのだろう。

これで男なのだから、この世界の拗らせ方に恐怖を覚える。

髪の毛を耳にかける仕草がとても可愛いらしいが、それ女の子がやるやつですよ。


「可愛いだけでなく、カッコよかったですよ先輩。男の中の男です。気遣いできる先輩は尊敬できます」


「だよねーっ!いやー懐の深さみせちゃったかなー!たはっー!」


先輩は頭をかきながら嬉しそうに笑う。後ろからほわほわ光が出てるくらい、能天気な光景だ。

この人は悪い人ではないのだが、女性への偏見と拒絶が凄まじく、たまに拗らせてくる。

しかも、なぜか俺を女性から守ろうとしてくれ、俺が女子から告白を受けるときは勝手についてきて、襲われないように安全確保もしてくれる。そう、悪い人ではないのだ。


「そういえば、この後暇かな?一緒回ろうよ」


「あ、ごめんなさい。今日は連れがいるんです」


「え!?あの男子にガードが高いタクトくんに友達!?誰なのっ?」


「ああ、男じゃなくて、同じクラスの女子ですよ」


「は?」


地獄の底から出てくるような声であった。

快活で、いかにも無害です!みたいな雰囲気は消え失せ、シミ一つないおでこに太い血管が浮き出る。おお、男の子だな。


まぁ、言葉で言うより見せたほうが早いな。


「ほら、おーい、何してんの城。こっち来いよ。もう大丈夫だから」


遠くからコチラを伺っていた城がビクッと反応し、音もたてずこちらへ近づき、俺の耳元に手を当てる。吐息が耳にあたり、少しこそばゆい。


「何で今?いや、ぜんっぜん大丈夫じゃないよね?今から断罪始まるぞって時に何で呼んだの!?絶対今のタイミングじゃなかったよね!ほら、冬凪先輩こっちすっごく睨んでるし!」


「いやっ、城、息がっ…くッ、くすぐったいって」


「チキショーかわいいな!」


突然耳にきたぞわっとした感覚に身をよじらせていると、俺と城の間にずいっと冬凪先輩が入ってくる。小柄ながらも威圧感は凄まじく、すぐに城は一歩後ろへ下がる。


「え、近」


冬凪先輩はそれだけ言い、城をハイライトの失った目で睨む。城は蛇に睨まれた蛙のように固まり、白い肌は更に白くなっていく。

こんなちっこい男に何をビビっているのやら。


「ね、タクトくん。この子誰?」


「え、だからクラスメイトだって――」


「違うよ。なまえ」


「そっちですね、城春っていう子です。この子も読書好きで今日は一緒に来たんですよ」


そういうと、冬凪先輩はゴミでも見るような目で城を見る。ヒエッと小さく城は唸る。


「ああ、キミはそうやって優しいタクトくんに取り入るんだね」


何か勘違いしている冬凪先輩。スイッチが入ってらっしゃる。

城はもはや泣きそうである。こっちを子犬のような目で見ないで欲しい。可愛すぎて心臓に悪い。


「ちょっと、勘違いですよ。あんまり城をビビらせないでください」


「……まぁそうだね。さっき懐深いとこ見せちゃったし、ここはタクトくんを立てて下がるよ。だけど、城さん。タクトくんを泣かせるようなことがあったら絶対に許さないから」


そう言いながら一歩城に詰め寄る。城は再度一歩下がった。


「名前、覚えたからね。城さん」


そのまま、じゃあね、と感情の抜け落ちた顔で城に言うと、冬凪先輩も出口へ向かっていく。

残された城は思い出したかのように息を吸った。止めていたのか。


「し、死ぬかと思った…」


「大げさだって。あの人握力15kgしかないよ?」


「握力が低いから何!?あの人うちの学校の裏ボスなんだよ?」


「裏ボス…?」


「やっぱり知らない!生徒会長を裏で操って学校を支配しているって噂」


「何それ、噂でしょ。握力15kgしかないのに何ができるの?」


「その腕力主義はなんなの!」


どうやら城は冬凪先輩が苦手らしい。

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