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バインド  作者: 雅
5/11


 右肩が熱い。


 常に火が灯り続け、肉を焼き続けている。

 右手の指の間接が、肘が、砕けそうに軋んでいる。



 青白い光が辺りに満ちている。



 あの男の剣が身を掠める。

 目の前の剣士を切り裂くか、自分が切り裂かれるか。

 押さえ難い笑いが込み上げてくるのが、自分でも判った。

 ここで切り裂かれて死ぬのなら、それは悪くない死に方だ。




 だが、期待していた死も、期待していた勝利も無かった。




 ふいに男の剣が砕け、その姿が掻き消える。

 狼狽すら覚えて一歩踏み込んだ先に、もう一つの青白い光が見えた。

 まだ生まれたばかりの、真新しい光。


 だが、そこから発される力の片鱗に、バインドは笑った。

 男の視線が向いたものは、あれだ。


 ただそれだけを目指して、歩く。

 こんなものの為に、あの男は戦いから気を逸らしたのか?

 くだらない。


 いや、早く育て。早く、早く。


 そして――



 俺と、闘え。





 冥く嘲る声が囁く。




 ――いいや。


 ――お前に既に、剣は無い。






 ひやりと冷たい感覚に、バインドは閉じていた眼を開けた。

 開けるよりも前に、そこに居る者が誰か判っていたが、感じる怒りは無かった。


 バインドの視線に押されるように、子供が後退る。

 バインドは自分の右肩に置かれた、水を含ませた布に眼を落とした。焼け付く痛みを布が冷やしている。


「――ふん。お前は俺の言葉を理解していないのか? それとも殺されたいって事か?」


 身体を起こし、載せられていた布を子供へ放る。それは身じろぎもしないままの顔にぴしゃりと当たった。

 冷淡な言葉にも、子供はただバインドの顔を見つめたままだ。


 よく見れば、最初五、六歳と思われたが、もう少し年齢は上だろうか。栄養の極端に不足した体付きのせいで幼く見えているのだろう。

 未だ一言も言葉を発していないという事は、口が利けないのか、それとも言葉を知らないのか。


「……チッ」


 バインドは舌打ちをすると、欝陶しそうに左手を払った。


「行け」


 そう言うと再び、視線すら向けずに横になった。







 子供は土の上に寝転がった男を見つめ、それから自分もその場に横たわった。

 そうすると男の背中が見える。


 出会ったときに笑ってくれた。

 いくらいっしょうけんめい考えてみても、自分に笑ってくれたあいてをほかに思い出すことができない。けれど男は、きのうも自分に笑ってくれた。


 さっきは首をつかまれてひどく痛かったけれど、きっとまた、あのキレイなビンを持ってくれば笑ってくれる。

 あのへやにはあれがいっぱいあって、きっとあのぶんだけ自分に笑ってくれるだろう。


 食べるものも、持ってきたらいいかな。


 子供は小さく笑みを浮かべ、身体を丸めて眠りに落ちた。





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