5
右肩が熱い。
常に火が灯り続け、肉を焼き続けている。
右手の指の間接が、肘が、砕けそうに軋んでいる。
青白い光が辺りに満ちている。
あの男の剣が身を掠める。
目の前の剣士を切り裂くか、自分が切り裂かれるか。
押さえ難い笑いが込み上げてくるのが、自分でも判った。
ここで切り裂かれて死ぬのなら、それは悪くない死に方だ。
だが、期待していた死も、期待していた勝利も無かった。
ふいに男の剣が砕け、その姿が掻き消える。
狼狽すら覚えて一歩踏み込んだ先に、もう一つの青白い光が見えた。
まだ生まれたばかりの、真新しい光。
だが、そこから発される力の片鱗に、バインドは笑った。
男の視線が向いたものは、あれだ。
ただそれだけを目指して、歩く。
こんなものの為に、あの男は戦いから気を逸らしたのか?
くだらない。
いや、早く育て。早く、早く。
そして――
俺と、闘え。
冥く嘲る声が囁く。
――いいや。
――お前に既に、剣は無い。
ひやりと冷たい感覚に、バインドは閉じていた眼を開けた。
開けるよりも前に、そこに居る者が誰か判っていたが、感じる怒りは無かった。
バインドの視線に押されるように、子供が後退る。
バインドは自分の右肩に置かれた、水を含ませた布に眼を落とした。焼け付く痛みを布が冷やしている。
「――ふん。お前は俺の言葉を理解していないのか? それとも殺されたいって事か?」
身体を起こし、載せられていた布を子供へ放る。それは身じろぎもしないままの顔にぴしゃりと当たった。
冷淡な言葉にも、子供はただバインドの顔を見つめたままだ。
よく見れば、最初五、六歳と思われたが、もう少し年齢は上だろうか。栄養の極端に不足した体付きのせいで幼く見えているのだろう。
未だ一言も言葉を発していないという事は、口が利けないのか、それとも言葉を知らないのか。
「……チッ」
バインドは舌打ちをすると、欝陶しそうに左手を払った。
「行け」
そう言うと再び、視線すら向けずに横になった。
子供は土の上に寝転がった男を見つめ、それから自分もその場に横たわった。
そうすると男の背中が見える。
出会ったときに笑ってくれた。
いくらいっしょうけんめい考えてみても、自分に笑ってくれたあいてをほかに思い出すことができない。けれど男は、きのうも自分に笑ってくれた。
さっきは首をつかまれてひどく痛かったけれど、きっとまた、あのキレイなビンを持ってくれば笑ってくれる。
あのへやにはあれがいっぱいあって、きっとあのぶんだけ自分に笑ってくれるだろう。
食べるものも、持ってきたらいいかな。
子供は小さく笑みを浮かべ、身体を丸めて眠りに落ちた。