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バインド  作者: 雅
3/11

 

 ふと、何かの気配を感じて目を開ける。

 いつの間にか寝ていたのだろう、既に陽は落ち、辺りは薄い闇に満ちていた。


 すぐそこの茂みに息を殺している気配がある事に気付き、バインドは軽く眉を顰めた。全く上手く隠しきれてはいないが、殺意や攻撃心がある訳でもない。


「誰だ」


 起き上がると、前方の茂みに声をかける。


「おい、出て来いよ」


 暫くの沈黙の後、がさり、と茂みが揺れて、小さな子供が姿を現した。


「ああ?」


 意外な姿に軽い驚きを覚え、眼を眇めると、子供はびくりと身を縮ませた。


「――昼間のガキじゃねぇか」


 子供は暫らく怯えるようにバインドを見つめていたが、やがてそろそろと近寄ってきた。少し離れた場所で立ち止まる。


「何の用だ?」


 そう聞いてから、バインドはふと可笑しくなって、薄い笑みを刷いた。


(こんなガキが、俺に何の用がある?)


 だがバインドが笑ったせいだろう、子供はどこかホッとしたような色を浮かべ、もうほんの僅かだけ近寄った。

 それから、手にしていた袋を差し出す。昨日と同じ汚い袋だ。その膨らみから、そこに壜が入っているのが見て取れる。


 バインドは黙ったまま、子供に視線を向けた。

 バインドが一向に受け取ろうとしないのを見て、子供は見るからに慌てだした。自分が持ってきたものは間違っていただろうかと問うかのように、袋とバインドを交互に見つめる。


 その様を暫らく眺めていたバインドの喉の奥から、低い笑いが洩れた。


「クク……ハハハ!」


 肩を震わせてひとしきり笑うと、バインドは子供に視線を戻した。


「昨日の事を覚えてたのかよ。そいつはありがてぇな」


 自分に救けられたと、そう思っているのか?

 だとしたらお目出度いガキだ。


「クッククク……」


 再び喉の奥で笑い、バインドは気紛れに子供に笑みを向けた。


「そこに置いていけよ」


 子供の汚れた顔の上に、ぱっと喜びが広がる。


「――」


 突かれたように黙り込んだバインドへ、壜を袋から出して押し付けるようにして渡すと、バインドが何を言う間もなく、あっと言う間に子供の姿は茂みの向うに消えた。


 バインドは暫らく壜を手にしたまま、黙って子供の去った方向を眺めていたが、やがて舌打ちしてそれを放り出した。






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